日ごろから当たり前のように利用する機会があるモバイルバッテリーですが、実は発火事故が様々な場所で起きているのをご存知でしょうか。
発火した場所が持ち家か賃貸か、自宅か外出先か、あるいは製品に欠陥があったのか使い方に問題があったのかによって、「誰が」「どこまで」責任を負うのかだけでなく、保険でカバーできる範囲も変わってきます。
そこで本記事では、自宅でモバイルバッテリーが発火した場合に使える火災保険・家財保険や個人賠償責任保険の仕組み、ホテルや宿泊先で火災が起きたときの賠償関係などについてわかりやすく解説します。
自宅でモバイルバッテリーが発火したときの保険・賠償の基本

自宅でモバイルバッテリーが原因の火災が起きた場合、どこがどの程度燃えたのかによって、火災保険・家財保険・個人賠償責任保険の使い分けが変わってきます。
ここでは、持ち家の場合にどのような保険が使えるのかを整理した上で、賃貸住宅との違いや、隣家への延焼など第三者に被害が及んだケースについて解説します。
持ち家の場合に使える火災保険・家財保険の範囲
持ち家に住んでいて、自宅でモバイルバッテリーが発火した場合、多くは「火災事故」として火災保険の対象になります。
火災保険は、基本的に建物そのものの損害をカバーする保険で、壁・天井・床・キッチン設備など、住宅の一部として固定されているものが対象です。
たとえば、
- 発火によって焦げた壁紙
- 割れた窓ガラス
- 天井のすすによる汚れ
などは、火災保険で補償される可能性があります。
一方、ソファやカーテン、テレビ、パソコン、衣類といった「持ち運べる物」は、通常「家財」として区別されます。
これらは、火災保険とは別に家財保険(家財補償)に加入しているかどうかによって、補償の有無が変わります。
家財保険に入っていれば、モバイルバッテリーの火災によって焼けたり、煙や消火活動の水で使えなくなったりした家財について、契約範囲内で保険金が支払われるのが一般的です。
なお、賃貸住宅に住んでいる場合は、建物そのものは大家さんや管理会社側の火災保険で、借主の家財は借主側の家財保険でカバーするといった違いがあります。
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隣家への延焼など第三者への被害と個人賠償責任保険
モバイルバッテリーの発火による火災は、隣家や共用部分にまで延焼し、他人の建物や家財に被害が及ぶおそれがあります。
このような「第三者に対する損害」については、火災保険・家財保険ではなく、個人賠償責任保険の出番です。
個人賠償責任保険は、日常生活の中で起こした事故によって他人の身体や物に損害を与え、法律上の賠償責任を負ったときに、その賠償金を補償する保険です。
とはいえ、火災に関しては、「失火責任法」という法律があり、うっかり火災を起こしてしまっただけで、すべての損害を自己負担しなければならないわけではありません。
●明治三十二年法律第四十号(失火ノ責任ニ関スル法律)
民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス
(引用:失火ノ責任ニ関スル法律e-Gov 法令検索)
古い法律なので読みにくいですが、ざっくり説明すると「普通の不注意による火事なら、原則として民法709条(不法行為による損害賠償)は使わない。ただし、ひどい不注意(重大な過失)があった場合は、通常どおり損害賠償責任を負うことがある」という内容です。
たとえば、モバイルバッテリーに明らかな異常が出ていたのに放置していた、禁止されている危険な使い方を続けていたなど、「重大な過失」が認められるようなケースでは、損害賠償責任を負う可能性が高まります。
そのような場合に、個人賠償責任保険に加入していれば、保険会社が示談交渉や賠償金の支払いをサポートしてくれるため、日ごろからご自身の保険の加入状況と補償額を確認しておくと安心です。
ホテルなど宿泊先で発火した場合に生じる責任とは

モバイルバッテリーがホテルや旅館、民泊などの客室で発火してしまうと、高額な修理費を請求されると不安になるところですが、実際にはホテル側の火災保険、宿泊客の賠償責任・保険を確認することになります。
客室や備品を焼損したとき誰が負担するのか
客室や備品が燃えてしまった場合、まずホテル側は自社の建物・備品について火災保険に加入していることが多く、その保険から修理費などが支払われるのが一般的です。
つまり、「燃えたからといって、必ず宿泊客が全額負担しなければならない」というわけではありません。
もっとも、宿泊客に上述したような「重大な過失」があったと判断されると、ホテルやその保険会社から損害賠償を求められる可能性があります。
ホテル側の保険と宿泊客の損害賠償責任の関係
ホテルは通常、建物や備品を守る火災保険に加え、宿泊客や第三者への損害賠償をカバーする保険(施設賠償責任保険など)にも加入しています。
通常はこれらの保険から補償が行われ、その上で、宿泊客の重大な過失がはっきりしている場合に限って、ホテル側や保険会社が宿泊客に対して求償(立て替えた分の請求)を検討する、という流れになるのが一般的なイメージです。
宿泊客としては、「請求されたら必ず払わないといけない」と即断するのではなく、事故の経緯や自分の過失の程度、製品の状態などを整理しつつ、自分が加入している保険会社や必要に応じて弁護士への相談も視野に入れましょう。
クレジットカード付帯保険でカバーできるケース
高額な賠償請求が心配な方にとって頼りになるのが、クレジットカードに付帯している保険です。
カードによっては、「日常生活の賠償責任」や「個人賠償責任」を補償する特約が付いており、ホテルなどでの事故による賠償金をカバーできることがあります。
ただし、どのような事故が対象になるか、補償額の上限はいくらか、カードで宿泊代を支払っていることが条件かどうかなどは、カード会社や保険商品の種類によって大きく異なります。
いざというときに慌てないよう、普段からお持ちのカードの会員規約や保険の案内を確認し、「賠償責任」「個人賠償」などの項目の有無と内容を把握しておきましょう。
製品の欠陥?使い方の問題?メーカー責任と利用者責任の違い

モバイルバッテリーが発火したとき、「そもそも製品が危なかったのか」「自分の使い方に問題があったのか」によっても、誰にどこまで責任を問えるかが変わってきます。
製品自体に欠陥があった場合のメーカーの責任
モバイルバッテリーそのものに欠陥があり、通常どおりの使い方をしていたのに発火したような場合には、製造物責任法(PL法)などに基づいて、メーカーが損害賠償責任を負う可能性があります。
たとえば、
- 内部構造に問題があった
- 設計上どうしても過度な発熱が起こりやすい
- 注意喚起が不十分だった
などのケースが考えられます。
もっとも、「欠陥かどうか」は専門的な技術調査を要することが多く、利用者側とメーカー側で主張が食い違うことも少なくありません。
事故が起きたときは、加入している保険会社に相談しつつ、必要に応じてメーカー側、弁護士にも相談し、「製品の問題なのか、使い方の問題なのか」を専門家と整理していくのが現実的な対応になるでしょう。
モバイルバッテリー発火を防ぐためのチェックとリコール情報の確認方法
そもそもモバイルバッテリーの発火事故を防ぐためには、「危険なサインを見逃さないこと」と「リコール情報をこまめに確認すること」が大切です。
まず、モバイルバッテリーのチェックポイントとしては以下のとおりです。
- 外装が膨らんでいないか
- ひび割れ、変形、へこみなど目立つ傷がないか
- 充電中に異常な熱さを感じないか
- 焦げたようなニオイや薬品のニオイがしないか
- 接続部分がぐらついていないか
- 直射日光の当たる場所で保管していないか
あわせて、リコール情報の確認も習慣にしておくと安心です。
モバイルバッテリーの中には、販売後に「発火・発煙の事故が複数報告された」として、メーカーが自主回収(リコール)を行っている製品もあります。
型番やロット番号が一致していれば、無償交換や返金の対象になることもありますので、手元のモバイルバッテリーのブランド名や型番を控えておき、メーカーの公式サイトや公的なリコール情報サイトで検索してみるとよいでしょう。
モバイルバッテリーのリスクと補償の仕組みを理解して備えよう
モバイルバッテリーは一度発火すると、自宅の建物や家財の損害にとどまらず、隣家への延焼やホテルなど宿泊先での高額な損害につながるおそれもあります。
その際、「自分の火災保険・家財保険でどこまでカバーできるのか」「第三者への損害は個人賠償責任保険やクレジットカード付帯保険で対応できるのか」といった補償契約の内容・仕組みを理解しているかどうかで、取れる選択肢は大きく変わります。
実際に火災が起きてしまった場合や、ホテルから修理費を請求された場合、メーカー・販売店とのやり取りが必要になった場合などには、自分だけで判断せず、早い段階で弁護士に相談することも検討しましょう。
弁護士に相談することで、加入している保険会社への連絡とあわせて、法的な責任の有無や請求額の妥当性など、不必要に不利な条件で賠償に応じてしまうリスクを減らすことができます。
