フリーランスや一人親方は、会社に雇用される労働者とは異なる立場で働くため、これまで労働安全衛生法による保護や義務の対象になりにくい面がありました。
しかし、令和7年5月に公布された改正労働安全衛生法により、労働者と同じ場所で働く個人事業者等も、保護の対象や義務の主体として位置付けられることになりました。
本記事では、フリーランスや一人親方に労働安全衛生法がどのように関係するのか、改正後に変わるポイントや、メリット・デメリットについて解説します。
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フリーランスにも労働安全衛生法は適用される?
フリーランスや一人親方は、会社に雇用される労働者ではありません。
しかし、令和7年5月に公布された「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」により、個人事業者等に関する安全衛生対策が段階的に強化されています。
労働安全衛生法は労働者の保護が目的の法律
労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保するための法律です。
一方で、フリーランスや一人親方といった個人事業者は、企業と雇用契約を結ぶ労働者ではありません。
同じ現場で働いていても、法律上の保護や安全衛生対策の対象から外れやすい面がありました。
しかし、建設現場や製造現場などでは、企業に雇用される労働者と、業務委託で働く個人事業者等が同じ場所で作業することもあります。
雇用形態にかかわらず事故や健康障害のリスクがあるため、個人事業者等も含めた安全衛生対策が求められるようになったのです。
改正により個人事業者等も安全衛生対策の対象に
今回の改正では、労働者と同じ場所で働く個人事業者等についても、安全衛生対策の対象として位置付けられました。
たとえば、令和8年4月1日からは、建設業や製造業などの元方事業者が行う災害防止のための指導や連絡調整の対象が、労働者だけでなく、個人事業者等を含む同じ場所で働く作業従事者に広がっています(※1)。
今回の改正は、個人事業者等を労働者として扱うわけではなく、同じ現場で働く人の安全と健康を守るため、安全衛生対策の枠組みに含めるものといえます。
一人親方など同じ現場で働く人も対象に
改正で想定されている個人事業者等には、フリーランスや一人親方のほか、中小事業者の代表者や役員も含まれます。
特に建設業や製造業のように、複数の事業者や作業者が同じ場所で働く現場では、改正の影響を受けやすいでしょう。
たとえば、建設現場で元請企業の労働者と一人親方が同じ場所で作業する場合、災害防止のための指導や連絡調整の対象に、一人親方も含まれることになります。
一人親方として働く人は、自分の働き方や作業現場が改正の対象になるかを確認しておくことが大切です。
発注企業や元請事業者も、雇用契約がないから関係ないと考えるのではなく、同じ場所で働く個人事業者等を含めた安全衛生管理を心がけましょう。
労働安全衛生法改正で個人事業者は何が変わる?
今回の改正によって、フリーランスや一人親方などの個人事業者等にはどのような変化があるのでしょうか。
主なポイントを確認していきましょう。
労働安全衛生法違反を申告できるようになる
令和8年4月から、個人事業者等が就業する場所や請け負った作業について、労働安全衛生関係法令に違反する事実がある場合、労働基準監督署へ申告できる制度も始まりました。
作業従事者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。
-労働安全衛生法第97条1項(※2)
たとえば、
- 危険な作業場所で必要な安全措置が取られていない
- 危険有害作業に関する説明が不十分である
といった場合に、個人事業者等も行政へ相談しやすくなります。
雇用されていない立場だから声を上げにくいと感じていた人にとっては、安全を守るための選択肢が増えたといえるでしょう。
取引停止などの不利益取扱いが禁止される
個人事業者等が労働基準監督署等へ申告したことを理由に、注文者や機械等貸与者などが契約解除や取引停止などの不利益な取扱いをすることは禁止されています。
申告制度だけがあっても、申告したことで仕事を失うおそれがあれば、実際には利用しにくくなってしまうためです。
注文者、機械等貸与者その他第一項の作業従事者に係る事業を行う者の契約の相手方は、同項の申告をしたことを理由として、当該事業を行う者に対し、取引の停止その他の不利益な取扱いをしてはならない。
-労働安全衛生法第97条3項(※2)
個人事業者側が不利益な取扱いが疑われる場合も、経緯や連絡内容を記録し、必要に応じて弁護士への相談も視野に入れましょう。
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労働安全衛生法改正によるメリット・デメリット
今回の改正は、フリーランスや一人親方にとって、安全面の保護が広がるメリットがあります。
ただし、メリットだけでなく、対応負担が生じ得る点も理解しなければなりません。
メリット:安全に働ける環境が整いやすくなる
今回の改正の大きなメリットは、フリーランスや一人親方も含めて、安全に働ける環境が整いやすくなる点です。
これまでは、同じ現場で作業していても、雇用されている労働者と個人事業者とで、安全衛生対策の扱いに差が出ることがありました。
改正後は、個人事業者等も安全衛生対策の対象に含まれる場面が増えます。
危険な作業場所で必要な注意喚起や連絡調整を受けられるようになり、事故や健康被害を防ぎやすくなるでしょう。
デメリット:個人事業者側にも対応負担が増える
一方で、フリーランス側にも一定の対応負担が増える可能性があります。
たとえば、以下のような負担が想定されます。
- 現場で定められた安全衛生上の指示を確認する
- 保護具の着用ルールを守る
- 危険な作業では必要な教育を受ける など
また、作業内容によっては、機械や設備の安全確認、点検、作業手順の把握などが必要になるケースもあるでしょう。
これまで自己判断で進めていた作業も、発注企業や元請事業者の安全衛生ルールに沿った対応が求められる可能性があるため、事前確認が欠かせません。
ただし、こうした対応は単なる負担ではなく、自分自身を事故や健康被害から守るためのものでもあります。
フリーランスとして継続的に仕事を受けるためにも、改正内容を理解し、現場ごとのルールを確認しておくことが大切です。
労働安全衛生法の改正対応に不安がある場合は弁護士に相談を
改正労働安全衛生法により、フリーランスや一人親方などの個人事業者等も、安全衛生対策の対象として位置付けられる場面が広がっています。
今回の改正は、個人事業者にとって安全に働ける環境が整いやすくなるメリットがある一方、現場のルール確認や安全衛生教育への対応など、一定の負担が生じる点にも注意が必要です。
特に、建設業や製造業など危険を伴う作業に関わる場合は、自分の業務がどのような対応を求められるのかを早めに確認しておきましょう。
もし、安全衛生上の指示や契約内容、申告を理由とする不利益取扱いなどで判断に迷う場合は、自分だけで対応を進めず、労務問題に詳しい弁護士へ相談することも検討しましょう。

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