共同親権では、離婚後も父母の双方が子どもに関わることになりますが、実際には何でも2人で決めなければならないわけではありません。
改正後も、日常のことは一方で決められる場面があり、急を要する場合には一方のみで対応できるケースもあります。
ただし、転居や進学、重大な医療、海外渡航のように子どもの生活や将来に大きく関わることは、父母の意見が対立しやすい場面です。
本記事では、共同親権で特に揉めやすいシーンを個別に取り上げ、それぞれどのような対立が起きやすいのかをわかりやすく解説します。
共同親権で揉めやすいのはなぜ?
共同親権で迷いやすいのは、何を必ず2人で決めるのか、何は一方で決められるのかが直感ではわかりにくいためです。
法務省は、父母双方が親権者である場合について、「親権は、父母が共同して行います」とした上で、「監護教育に関する日常の行為をするとき」や「こどもの利益のため急迫の事情があるとき」は、親権の単独行使ができると説明しています。
重要事項は父母双方で決めるのが原則
共同親権では、以下のような重要事項は父母双方で決めるのが原則です。
- 子どもの転居
- 進路に影響する進学先の決定
- 心身に重大な影響を与える医療行為の決定
- 財産の管理など
こうした、子どもの生活や将来に大きく関わる事項は、一方だけで決めると後から争いになりやすく、共同親権における揉めやすい典型例です。
日常のことは一方で決められる
共同親権だからといって、日々の暮らしの中の判断まで毎回2人の同意が必要になるわけではありません。
具体的には、以下のような項目は一方で決められるとしています。
- 食事や服装の決定
- 短期間の観光目的での旅行
- 心身に重大な影響を与えない医療行為の決定
- 通常のワクチンの接種
- 習い事など
緊急時は一方で決められる
急迫の事情があるときは、日常の行為に当たらない内容でも、一方の親が単独で親権を行うことができます。
法務省は急迫の事情について、「父母の協議や家庭裁判所の手続を経ていては親権の行使が間に合わず、こどもの利益を害するおそれがある場合」としています。
つまり、平時の重要事項と緊急時とで考え方が異なるため、この違いを正しく理解していないことが、誤解や対立を生じさせてしまう主な理由です。
転居で揉めやすいケース

共同親権で特に争いになりやすいのが転居です。
引っ越しは生活上のことだから一方で決められると勝手に進めると、後から大きな対立になりやすいため注意しましょう。
近距離の引っ越し
近距離の引っ越しであっても、共同親権では軽く考えるべきではありません。
学校が変わらない場合でも、通学環境や生活圏、親子交流の実施方法に影響することがあるためです。
共同親権では、転居が子どもの生活やもう一方の親との関わり方にどう影響するのかを踏まえて、事前に話し合っておく必要があります。
遠方への転居
遠方への転居は、近距離の引っ越しよりもさらに揉めやすい場面です。
転校の要否、親子交流の頻度、送迎や交通費の負担など、生活全体に関わる問題が生じるためです。
もっとも、例外はあります。
DVや虐待からの避難のために子どもを転居させる必要がある場合が該当します。
このような場合には、日常の行為に当たらない内容でも、一方の親が単独で親権を行うことが可能です。
転居先を相手に伝えない
共同親権では、転居の決定だけでなく、転居先を相手に伝えない対応も問題になりやすいです。
父母には、子どもの利益のため互いに人格を尊重し協力する義務があるとされています。
●改正民法第817条の12
~父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
(引用:民法等の一部を改正する法律|法務省)
そのため、父母の一方が、特段の理由なく他方に無断で子どもを転居させる行為は、この義務に違反する場合があるため注意しましょう。
学校で揉めやすいケース

共同親権では、学校に関することが日常の連絡事項なのか、それとも父母双方で決めるべき重要事項なのかがわかりにくく、対立の火種になりがちです。
進学先の選択
進学先の選択は、共同親権で特に揉めやすいケースです。
公立か私立か、大学進学を前提とする学校か、就職を見据える進路かといった違いは、将来に大きく影響します。
父母の教育方針や費用負担の考え方が違うと、どの学校を選ぶかで対立しやすくなるでしょう。
共同親権では、このような重要事項は父母双方で決めるのが原則です。
一度決めると変更が難しいため、共同親権では早い段階から情報共有をしておくことが大切です。
転校や学区変更
転校や学区変更も共同親権では揉めやすいテーマです。
転校や学区変更は、学校生活だけでなく、通学距離、友人関係、親子交流のしやすさにも影響します。
特に、遠方への転居に伴う転校では、別居親が親子交流の機会が減ると感じて反対することがあります。
学校を変えること自体が子どもの生活基盤に直結するため、共同親権では事前の協議が不十分だと対立が大きくなりやすいです。
学校との連絡や手続き
学校との連絡や各種手続きでは、共同親権だから何でも父母双方の同意が必要だと誤解されやすいです。
しかし、共同親権の規定では、子に関する各種の行政手続の申請書等に父母双方の署名・押印を必須とする趣旨ではないとしています。
そのため、学校からの配布物への署名や通常の連絡まで、常に両親の同意確認が必要になるわけではありません。
学校とのやり取りそのものよりも、何を届け出るのか、その内容が重要事項に当たるかどうかで揉めやすさが変わると考えると、わかりやすいでしょう。
医療で揉めやすいケース

医療は、共同親権で特に線引きが難しい分野です。
子どもに重大な影響を与える医療行為は、日常の行為には当たらないとしています。
よって、同じ医療でも、通常の受診と重大な治療とで扱いが変わるため、そこで認識のずれが生じやすいでしょう。
日常的な受診
日常的な受診については、一方の親が判断できる場面が多いです。
日常の行為に当たる例として、心身に重大な影響を与えない医療行為や通常のワクチン接種が挙げられています。
もっとも、親によっては治療方針やワクチン接種への考え方が異なることもあります。
法的には一方で進められる場面であっても、後から不信感が残らないよう、受診内容や結果を共有しておくことがトラブル防止のために大切です。
手術など重大な医療
手術など、子どもの心身に重大な影響を与える医療行為は、共同親権では父母双方で判断するのが原則です。
入院を伴う手術や、将来に影響する治療方針などが該当します。
特に揉めやすいのは、治療の必要性そのものよりも、どの治療法を選ぶか、どこまで副作用や後遺症の可能性を受け入れるかといった点です。
医師の説明をどちらがどう受け取るかで意見が割れることもあり、共同親権では重要事項として話し合いが求められます。
緊急搬送や救命処置
緊急搬送や救命処置のように時間的余裕がない場面では、一方の親が単独で親権を行使できます。
例えば、子どもに緊急の医療を受けさせる必要があるシーンが該当するでしょう。
共同親権だから救急搬送のたびに両親の同意がそろうまで何もできない、というわけではありません。
むしろ、命や健康を守るために急いで判断すべき場面では単独で対応できることを理解しておかないと、かえって現場で混乱するため注意しましょう。
パスポートで揉めやすいケース

パスポートは単なる申請手続きに見えますが、共同親権では意見がぶつかりやすいシーンです。
海外旅行や留学、長期滞在は、子どもの生活や教育環境にも関わるため、父母の考え方の違いが表れやすいため注意しましょう。
申請時に必要な同意
未成年の子どもがパスポートを申請する場合、外務省は、申請書裏面の法定代理人署名欄に親権者である父母またはそのいずれか一方の署名が必要だと案内しています。
共同親権で揉めやすいのは、書類の書き方そのものよりも、もう一方の親が協力しない場合です。
法務省においても、未成年者のパスポート申請では親権者の同意が必要になると案内しているため、共同親権では事前の話し合いを行いましょう。
海外旅行は意見が割れやすい
共同親権では、短期間の観光目的での旅行は、日常の行為に当たる例とされています。
しかし、海外旅行は、必要性や安全性、時期などについて父母の考えがずれていると、パスポート申請の段階で対立が起こりやすくなります。
特に、元配偶者が旅行に消極的な場合や、渡航自体に不安を感じている場合は、話が進みにくくなるでしょう。
こうした行き違いを防ぐには、旅行先や期間、渡航目的を事前に共有しておくことが大切です。
留学や長期滞在を伴う場合
留学や長期滞在を伴う場合は、短期の海外旅行よりもさらに揉めやすくなります。
居住地や教育方針に大きく関わるため、共同親権の下では重要事項として扱われるでしょう。
共同親権では、このような場面で一方だけの判断で進めようとすると、転居や進学と同じように大きな争いに発展するおそれがあるため注意が必要です。
共同親権で揉めたらどうする?

共同親権では、子どもの生活に大きく関わることほど、父母の考え方の違いが表れやすくなります。
だからといって、すぐに一方の意見を押し通すのではなく、まずは子どもの利益を軸に話し合うことが大切です。
まずは子どもの利益を基準に話し合う
揉めたときは、相手を言い負かすことではなく、その判断が子どもの生活や将来にとって本当に必要かを基準に話し合うことが大切です。
例えば、転居なら通学や親子交流への影響、進学なら子どもの希望や費用負担、医療なら緊急性や治療の必要性など、論点を整理して話し合うだけでも対立が深まりにくくなるでしょう。
家庭裁判所の手続きを利用する
話し合いでまとまらない場合は、家庭裁判所の手続を利用することができます。
裁判所は、父母双方が親権者である場合に、共同して親権を行うべき特定の事項について協議が調わないときは、当該事項に限って単独で親権を行使できる者を定める親権行使者の指定調停・審判を申し立てることができるとしています。
弁護士に相談する
共同親権では、どこまでが日常のことなのか、どこからが重要事項なのかの判断を難しいと感じる方も多いです。
加えて、感情的な対立が強くなってしまうと、父母双方で冷静な話し合いをするのが難しくなるケースもあるでしょう。
このような場面では早めに弁護士へ相談し、今の争点が話し合いで解決できるのか、家庭裁判所の手続きを使うべきなのかを確認してもらうことも有効です。
共同親権で迷いやすい場面こそ早めの話し合いが大切
共同親権では、転居や進学、医療、パスポートのように、子どもの生活や将来に関わることほど父母の意見が分かれやすくなります。
大切なのは、何が重要事項に当たるのかを整理し、子どもの利益を軸に早めに話し合うことです。
とはいえ、一度でもこじれてしまうと、子どもの生活に悪影響を与えるおそれがあります。
不安や対立が大きくなる前に弁護士へ相談し、今の状況で何を優先すべきか、どの手続きが適切かを知ることも大切です。
争いが大きくなる前に第三者のアドバイスを得ることは、結果的に子どもの負担を減らすことにつながるでしょう。

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