「フリーランス」とは何か、はっきりとした定義があるわけではありませんが、一般的に、会社や団体組織に所属せず、自由に契約して仕事をする人のことを言います。
最近、こうしたフリーランスが増えているというニュースを目にした方もいるのではないでしょうか。
大手アウトソーシング会社が発表したデータによると、2021年の日本のフリーランス人口は1,670万人と、2018年の1,151万人から大幅に増加して過去最高を記録しました。
コロナウイルスの流行によって雇用や社会情勢が変わったこともあり、
という方も増えました。
同時に、フリーランス人口が増えるに伴い、トラブルも増えているのが実情です。
そこで今回は、フリーランスはどういう契約なのか、よくあるトラブルと対処法を解説します。
トラブルを避けるために知っておくべきフリーランスの契約
「フリーランス契約」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。
しかし「フリーランス契約」という名前の契約はありません。
フリーランスで働く際は、次のいずれかを取ることが多いです。
業務委託契約
業務委託契約とは、会社が、業務を社外の個人や法人(会社)に委託する契約のことを言います。
一定の業務を行ったり、何かを作って完成させることの対価として報酬を払います。
業務委託契約は法律上の用語ではなく、広い概念です。
後述する請負契約に似た契約で、委任契約や準委任契約を業務委託契約ということもあります。
請負契約
請負契約は、当事者の一方(フリーランス側)が、特定の仕事(成果物)を完成させることを約束し、相手(クライアント側)が成果物に対して報酬を支払う契約です(民法632条)。
代表的なのが、大工が家を建てる契約です。
請負契約では、仕事を請け負ったフリーランスには仕事を完成させる義務が発生します。
そして、完成させた仕事に不具合やミスがあった場合は、契約不適合責任として、やり直しや損害賠償の責任を負うのが特徴です。
委任契約
委任契約とは、当事者の一方が法律行為をすることを相手に依頼し、相手がこれを承諾することで効果を生じる契約です(民法643条)。
たとえば、あなたの自宅に遊びに来る友人に、「途中でお茶を買ってきてほしい」と頼んだ場合、当事者の一方(あなた)が、相手(友人)に、お茶を買うという売買契約(法律行為)を依頼したことになり、相手がお茶を買うことを承諾すると、委任契約が成立します。
準委任契約
準委任契約とは、当事者の一方が法律行為以外の事務を相手に依頼し、相手がこれを承諾することで効果を生じる契約です。
「事務」と言っても、書類作成等だけでなく、コンサルティングや医師の医療行為など幅広い仕事を含みます。
委任契約と準委任契約の違いは、依頼する内容が法的効果を発生するかどうかという点です。
トラブルのもとになりやすい業務委託契約と雇用契約の違い
フリーランスでは、上記のような業務委託契約を結びます。
業務委託契約は、発注者(クライアント)と、受注者(フリーランス)が、原則として同等の立場で契約当事者となります。
これに対し、いわゆる会社勤めの場合、会社と労働者は「雇用契約」を結びます。
雇用契約は、労働者(従業員)が働くことで、使用者(会社側)がその報酬を与える契約をいいます。
労働者にあたると、労働基準法や労働契約法が適用され、会社には安全配慮義務や36協定に基づく残業時間の制限といった保護を受けます。
業務委託契約の場合でも、クライアントが使用者、フリーランス側が労働者のような立場に置かれがちです。
しかし、業務委託契約の当事者は「労働者」に当たらないため、雇用契約のような保護を受けることができません。
そのため、時として無茶な要求をされたり、低い報酬で大変な仕事を振られるといったトラブルが発生しやすいのです。
フリーランスで多い5つのトラブル
フリーランスで特に多いのが、次の5つのトラブルです。
①報酬の未払い
クライアントに依頼された業務を行ったのに報酬が支払われないトラブルは少なくありません。
うっかり支払いを忘れていたならまだしも、中には故意に報酬の支払いを拒んだり減額を要求してくるケースもあります。
フリーランスの仕事内容が請負契約の場合、契約書に記載された成果物を完成させて納品しないと報酬を請求する権利が発生せず、報酬をもらうことができません。
請負契約で多いのが、フリーランス側は指示通りに成果物を完成させたのに、クライアントが検品で不合格と難癖をつけて報酬を支払わないようなケースです。
委任契約の場合は、フリーランス側が業務を遂行すれば報酬を請求する権利が発生しますが、業務が遂行されていないとはぐらかされて報酬が未払いになることがあります。
更に悪質なクライアントになると、連絡が取れなくなってそのまま報酬を踏み倒される恐れもあります。
②急な契約解除やキャンセル
契約内容に沿って仕事を進めていたのに、急に契約の解除を申し入れられたり、キャンセルを告げられるトラブルも発生しています。
請負契約の場合は、原則として受託者(フリーランス側)からは途中で契約解除できません。
解除できるのは、クライアント企業が破産したなどの特殊なケースに限られます。委任契約の場合は、受託者から途中解約できますが、委託者(クライアント)が不利になるのに契約を解除する際は、損害賠償を請求される場合もあるので注意してください。
③契約内容に合わない扱いを受ける
業務委託契約を結んでフリーランスをしながらも、実際は雇用契約の従業員と同じような扱いを受けるケースがあります。
いわゆる「偽装請負」と言われるケースで、業務委託契約上の関係なのに、クライアントから指揮命令を受けて労働するようなケースがこれに当たります。
偽装請負では、正社員と同様に働いているのに、社会保険などの福利厚生や手当が受けられません。
また、万が一業務中の事故で負傷などした場合に、クライアント側に安全配慮義務違反に基づく損害賠償請求ができるかどうかといった問題にもつながりかねません。
④ハラスメントを受ける
フリーランスが受けるハラスメントとして、
- 急な仕様変更や納期の変更
- 減額の一方的な申し出
- 断ると仕事を回されなくなる
といった事例があります。
最近は、ネット上で依頼を受け、直接クライアントと対面しないタイプの契約も多いですが、現場に出向くような契約では、セクハラ、パワハラ等を受けるケースもあります。
契約の形態に関わらず、ハラスメントは許されません。
ハラスメントに遭った場合は、証拠を残し、弁護士に相談するなどの対応を取りましょう。
⑤損害賠償請求される
フリーランスのトラブルでは、損害賠償を請求されたり、訴えられるといったケースがあります。
具体的には、
- クライアントの情報を漏洩した、
- 納品した成果物に不備があった、
- 納品した成果物の瑕疵(不具合)のせいで損害が発生した、
- 成果物が著作権など他人の権利を侵害していた、
- 納期に遅れた
といった理由が考えられます。
フリーランス側の不注意で、情報漏洩や権利侵害、納期の遅れ等を招き、損害が発生した場合は、その責任は負わなければいけません。
しかし、クライアントから責任を一方的に押し付けられるような場合は、弁護士等に相談してください。
フリーランスのトラブルを避けるための対処方法
上記のようなトラブルを避けるためには、次のような対処方法をあらかじめ講じておくことが効果的です。
契約内容を書面化する
フリーランスをする際の業務委託契約は、口頭の合意でも成立します。
しかしそれだけでは、後から業務内容や納期、報酬の点で認識のずれが生じやすくなります。
現在、政府が制定に動いているとされる「フリーランス保護新法」では、契約条件を記載した書面の交付等が義務付けられる流れになっていますが、まだ具体化はしていません。
新法制定に関わらず、トラブルを避けるためには、契約内容は書面化し、双方が署名押印して保管しておきましょう。
具体的には、以下の内容を盛り込みます。
- 業務の内容
- 契約の期間(納期)
- 報酬(金額、発生時期、支払い方法、支払期限)
- 成果物の著作権の所在(クライアントか、フリーランスか)
- 秘密保持
- 契約解除の方法
- 責任の所在(検収後に発覚した不備に対応することなど)
- 法律抵触の有無
信頼できるエージェントを利用する
クライアントと直接やり取りせず、エージェントを介すると、信頼できる発注者を紹介してくれますし、万が一トラブルになっても間に入ってもらうことができます。
フリーランスの場合、個人間のやり取りになることも多いですが、トラブルが心配な方は、エージェントを利用するのも一つの方法です。
フリーランスのトラブル相談先
フリーランスの契約でトラブルにあった場合、次のような相談窓口があります。
万が一の場合は、気軽に相談してみましょう。
フリーランス・トラブル110番
フリーランス・トラブル110番は、厚生労働省などの各省庁と、第二東京弁護士会が協力して行っている相談窓口です。
電話・メール・対面・WEBといった方法で弁護士と相談し、状況に応じて、労働基準監督署や公正取引委員会など関係各所への報告、和解斡旋などの対応を行います。
弁護士に相談
フリーランス・トラブル110番も弁護士に相談できる窓口ですが、上記とは別に直接弁護士に相談する方法があります。
中でも、労働問題に強い弁護士であれば、契約内容が適切かといったリーガルチェックや、トラブルが発生した場合の対応まで相談し、任せることができます。
フリーランスのトラブルにあったら弁護士に相談を
今日、フリーランスは日本の社会の中で大きな割合を占めています。
その一方で、守られる法制度が整備されておらず、契約上同等の立場であるはずのフリーランス側が弱い立場に置かれがちな現状があります。
せっかく働いたのに正当な報酬が得られない、契約内容を反故にされる、ハラスメントを受けると言った事態は避けなければいけません。
会社の労働者であれば、法律や労組が守ってくれますが、フリーランスは孤独な立場で自らを守らなければならないケースも少なくありません。
トラブルを避けるための契約段階の不安の解消から、もしトラブルにあった場合の対応まで、弁護士であればいつでも味方になることができます。
フリーランスでのトラブルでお悩みの場合は、お気軽に弁護士にご相談ください。
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