踏切を渡ろうとしたら、車が止まってしまった、靴が溝にはまってしまったなど、怖い思いをしたことがある方はいませんか?
車が突然踏切で動かなくなると、焦って判断ができなくなりがちです。
実際に、2023年3月には、踏切内で立ち往生した車が列車と衝突し、運転していた女性が右足を切断する大けがを負う事故も発生しています。
踏切事故は、ご自身の生命·身体の安全にも関わるリスクがありますが、事故を起こした原因によっては、犯罪に該当して罰金の対象になったり、損害賠償責任が発生したりする可能性もあります。
そこで今回は、踏切での立ち往生事故はなぜ発生するのか、罰金や損害賠償の対象になるのはどのようなケースかについて解説します。
踏切の立ち往生はなぜ起きるのか?
踏切事故が起きる原因はさまざまです。
国土交通省の発表によると、鉄道事故は平成29年以降毎年600件台で推移し、令和元年の件数は615件でした。
そのうち、踏切で発生した事故は211件と全体の3割超にのぼります。
踏切事故の死傷者数は216人、死者数は84人と、重大事故に繋がりやすい特徴があります。
踏切事故が起きる4つの原因
踏切事故が起きる原因は、国土交通省の統計によると次のようになっています。
- 直前の横断(列車が近づいているのに横断しようと線路に入ったケース):108件
- 落輪、エンスト、停滞(運転ミスや故障、渋滞で踏切から脱出できないケース):65件
- 側面衝撃、限界支障(踏切に接近しすぎて列車に接触や衝突したケース):28件
- その他:10件
また、踏切事故を起こした人は、60歳以上の方が過半数を占めています。
事故が起きやすい踏切の特徴
上記のような事故の原因に加え、踏切の形状も、事故の発生しやすさに影響します。
具体的には、幅が狭い、勾配がきつい踏切で事故が発生しやすいと言われています。
特に冬場は、踏切前で停止·発進が繰り返されることによって積もった雪が固まってアイスバーン状態になり、スリップを起こした車が踏切内で立ち往生して事故に繋がりやすいです。
また、踏切事故は、ローカル線などの遮断機等がないような踏切で発生するイメージがあるかもしれませんが、実際は、遮断機や警報機のある「第1種踏切」で事故の大半が発生しています。
少し古いデータにはなりますが、上記のような状況を受け、2007年に国土交通省は全国で58箇所の「改良すべき踏切」を指定しました。
当時、最多だった京王電鉄(25か所)は、立体交差化が進み、安全性の向上が図られています。
(参考:鉄道局.”鉄軌道輸送の安全に関わる情報(令和元年度)の公表について 2.1鉄軌道の安全に関わる情報”.令和2年12月.国土交通省)
踏切事故が犯罪にあたり罰金になるケース
踏切事故の発生原因は、上記でご説明したように様々です。
鉄道会社が安全点検を怠り、遮断機の作動にミスが生じて事故が発生したような場合を除き、何らかの原因が自動車の運転手や歩行者側にあるケースでは、行為の状況によって犯罪が成立する場合があります。
鉄道営業法違反のケース
鉄道営業法は、鉄道会社と鉄道の利用者に対して、安全な鉄道運行の確保のために設けられた法律です。
同法37条では、「停車場そのほか鉄道地内にみだりに入りたる者は10円以下の科料に処す」と規定されており、遮断機が降りている踏切に進入することもこれに含まれます。
鉄道営業法は明治33年に制定されたため、現在とは貨幣価値が異なります。
10円以下の科料とされているものは、罰金等臨時措置法により1万円未満の科料(罰金)となります。
往来危険罪に該当するケース
鉄道営業法は、単に踏切など鉄道に入ることで成立する犯罪ですが、これによって列車の運行に危険を生じさせたり、転覆·破壊させたりした場合は、往来危険罪(刑法125条)、過失往来危険罪(同129条)に該当する場合があります。
往来危険罪は、わざと(故意に)列車の運行を危険にさせた場合に成立します。
わざと車を線路内で立ち往生させる、置き石をするなどの行為も該当します。
この場合、罰金はなく、2年以上の有期懲役刑に処せられ、執行猶予がつかない限り刑務所に入るしかありません。
過失往来危険罪は、踏切で前の車がつかえて渋滞で立ち往生した結果、列車の運行に危険を生じさせるなどした場合に成立し、30万円以下の罰金が定められています。
威力業務妨害罪に該当するケース
踏切で立ち往生した結果、列車を止めたり駅員の仕事を邪魔したりするなど、鉄道会社の業務を妨害した場合は、威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する場合があります。
威力業務妨害罪は、会社や学校に爆破予告や殺害予告などを送り付け仕事をできなくさせるのが典型的です。
しかし、駅員の制止を振り切って線路に立入り、立ち往生して列車の運行を止めさせたような場合は、威力業務妨害罪に当たると判断される可能性も否定できません。
この場合は、3年以下の懲役または50万円以下の罰金が規定されています。
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踏切事故で賠償金が発生するケース
上記のように、踏切の立ち往生が犯罪に該当しない場合でも、踏切事故を起こしたり列車の運行に支障を生じさせたりした場合は、損害賠償を請求される可能性があります。
賠償金を請求される法律上の仕組み
損害賠償について、法律では、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う 」(民法709条)と定められています。
つまり、踏切事故で賠償金が発生するのは、故意(わざと)または過失(うっかり)で、鉄道会社や利用客に損害を与えたケースです。
立ち往生は避けられないと思うかもしれませんが、具体的には、次のような場合に損害賠償責任が発生すると考えられます。
踏切の立ち往生で賠償金が生じるケース
冒頭でご説明しましたが、踏切で立ち往生が発生する原因には次のようなものがありました。
- 遮断機が降りる直前や、降りている間の無理な進入
- 車の整備不足によるエンスト
- 運転ミスによる脱輪
これらは、「無理な進入という判断ミス」「整備不足というミス」「運転ミス」というミス、つまり過失によって生じています。
そのため、これらの行動によって踏切事故が生じて、列車が破損したり、乗客がケガをしたり、列車の運行が滞って鉄道会社が代替輸送の対応をしなければならないなどの損害が生じた場合は、立ち往生した人は損害賠償責任を負い、鉄道会社から賠償金を請求される可能性があるのです。
もし、自殺やいたずら目的で踏切内に自動車を停車させるなどした場合は「故意」にあたるため、上記のような損害が発生した場合は当然賠償責任を負います。
踏切事故で生じる賠償額の実例は
踏切事故で生じる賠償額は、事故の程度、鉄道会社が被った損害の程度で大きく変わります。
例えば、大型車両が立ち往生して列車事故になり、列車が転覆するなどした場合は、乗客の生命·身体にも影響する大きな損害が発生するので、賠償金は莫大になります。
損害保険会社が公表している過去の事例では、大型トラックの踏切事故で、合計約1億1,000万円の損害賠償が発生したケースがあります。
この事故では、大型トラックが、踏切前で停車していた普通自動車に気づいて急ブレーキを踏んだものの間に合わず、踏切内に進入して列車と衝突しました。
裁判所は、電車の廃車や修理費用、復旧に要した人件費、代替輸送料等として、上記の1億円を超える金額を損害として認めました。
一方、田舎の利用客が少ない路線の線路で立ち往生したものの、すぐに解消して列車にさしたる遅れもなかった場合は、損害額は少なく済むと言えるでしょう。
踏切事故で賠償金が生じても全額請求されるとは限らない
実際には、踏切の立ち往生で列車を止める等したときでも、鉄道会社が損害のすべてを賠償金として請求することは少ないと言われています。
理由が明らかにされているわけではありませんが、自動車のエンストや急な体調不良による立ち往生による踏切事故に、過失があるとまではいえないと鉄道会社が判断した場合や、重大な事故に至らず運行に支障が生じたにとどまり、余分な人件費等の損害が生じなかった場合などが考えられます。
また、踏切の警報機が鳴らない、遮断機が故障したなどの理由により踏切で立ち往生したケースなど、鉄道会社側に過失があるときは、そもそも運転手等に過失がなく損害賠償責任がないこともあります。
また、過失があったとしても、過失相殺により賠償額を減らせる場合もあります。
しかし、鉄道会社が過失なしとして賠償金を免除したり減額してくれる場合や、過失割合が生じる場合でも、立ち往生して踏切事故を起こしたのであれば、賠償責任を負うのが原則です。
このような場合は自己判断せず、早急に弁護士に相談することをお勧めします。
踏切で立ち往生した場合の対処法
上記のように、踏切で立ち往生した場合は、刑法上の犯罪に該当したり、民法上の損害賠償責任を負ったり、大きな影響を生じます。
また重大事故につながった場合は、列車の利用者の命を奪いかねません。
そこで、踏切で立ち往生をしないため、また立ち往生した場合には、重大事故を避けるために、次のように対処しましょう。
- 列車はすぐに停車できないため、踏切前では必ず一時停止をして、目と耳で列車が接近していないことを確認する。
- 警報機が鳴っている間や、遮断機が下り始めた場合は絶対に踏切に進入しない·踏切を超えた先に自車のスペースがない場合は、絶対に踏切に進入しない
- 踏切内で立ち往生したときは、すぐに車から降りて、踏切近くの「非常停止ボタン」を押すか車の「発煙筒」を使って列車に存在を知らせる。
- 両方ない場合は、洋服を振って知らせる
- 踏切内で立ち往生し、遮断機が下りた場合は、自動車を低速で前進させて遮断機を押して脱出する
(参照:運転安全委員会.”踏切事故はひとごとではありません”)
踏切の立ち往生事故になったら弁護士に相談を
エンストや脱輪など、踏切の立ち往生事故はいつ起きるか分かりません。
また、実際に起きてしまったら、程度によっては莫大な損害賠償責任が発生する恐れがあります。
ご自身はもちろん、ご家族が踏切の立ち往生事故を起こした場合、どのような犯罪に該当するのか、前科はつくのか、賠償金はいくらになるのか、不安な方は多いと思います。
ただし、状況によっては、立ち往生が生じた原因を主張して情状を求めたり、鉄道会社との過失相殺を主張できる場合もあります。
しかし、これらの主張は、過去の裁判例や交通事故のデータに基づいて適切に行わなければ、かえって反省の情がないなどと捉えられ、事態を悪化させかねません。
弁護士であれば、踏切の立ち往生事故など、さまざまな過去の事例や裁判例に当たり、状況を分析して、今回のケースに最も適したアプローチを提案することができます。
踏切の立ち往生事故でお悩みの場合は、どうぞお気軽に弁護士にご相談ください。
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