近年、インターネットの掲示板などに、個人の誹謗中傷や風評を書き込んで逮捕されてしまう事件が増えています。
たとえば、2018年に某プロ野球選手が、匿名掲示板上で奥さんを誹謗中傷する投稿をしていたユーザーを訴えた事件が話題となりました。
他にも、数年に渡ってある女性有名人を中傷する投稿を続けていた複数の女性が、その有名人から同時に裁判を起こされる事態に発展し、世間を騒がせたこともあります。
このように、匿名掲示板上での個人に対する誹謗中傷や、風評の書き込みが原因で訴えられてしまう事件が後を絶ちません。
また、特定の会社や学校などに対して「○月○日に爆発物を仕掛ける」といった脅迫を掲示板に書き込んで逮捕される事件も、たびたび起こっているのが現状です。
こういったネット上の誹謗中傷や脅迫の被害者になってしまうリスクもありますが、逆に、自分や家族の何気ない書き込みが原因で逮捕されてしまう可能性もゼロではありません。
そうならないために、どういう書き込みが問題となる可能性があるのかを知っておき、そういった書き込みをしないことがもっとも重要となります。
ですが、注意していても思わぬところで相手を怒らせてしまい、結果として訴訟に至ってしまう可能性もありますから、そういう事態になったときの適切な対応を知っておくことも大事です。
そこで今回は、SNSや掲示板への書き込みで逮捕されるケースや、逮捕された場合どのような処分になるのかを解説するとともに、万が一、そういった事件に巻き込まれてしまった場合の適切な対応について説明します。
ネットの書き込みが原因で逮捕されるケース
すでに説明したように、最近はネット上の掲示板やSNSなどへの書き込みが原因で訴訟を起こされたり、逮捕されてしまう事件が増えています。
冒頭で紹介したのは、いずれも有名人が一般人の書き込みに対して訴訟を起こした例ですが、本来、有名人は世間の評判やイメージを恐れて、一般人を訴えるといった行為はなかなかできないものです。
それでも訴訟に踏み切ったのは、女性有名人の場合は、誹謗中傷の書き込みが数ヶ月~数年にわたるなど非常に悪質なものだったからですが、某プロ野球選手の場合は、掲示板のたった一言の書き込みが原因となってます。
世間には、それぐらいで訴えるのは非常識だという声もあるようですが、後で説明するように、たとえたった数行であっても、誹謗中傷をしたという事実は残ってしまうため、それが原因で訴えられて何らかの刑罰を受けてしまう可能性は十分あるわけです。
本来は訴訟を起こしにくい有名人でさえも、そういった対応をとる事件が増えているわけですから、ネットの掲示板の書き込みが原因で一般人が一般人を訴えるというケースは、表に出てこないだけでも相当数あることが考えられます。
書き込みが原因で訴訟や逮捕に至った例
事実、ここ数年だけでもネット上の書き込みが原因の事件がたくさん起こっており、逮捕者もかなりの数に上っています。
いくつか例をみてみましょう。
2016年11月、理学療法士の男が一時交際関係にあった女性に対して、嫌がらせの一環で匿名掲示板にその女性が特定できるような書き方で「不倫をしている」といった書き込みを行い、名誉毀損の容疑で逮捕
2015年、建設作業員の男が当時中学1年生の男子生徒が殺害された事件の犯人になりすまし、会社員の女性を名指しで待ち伏せするなどと殺人予告を書き込んだことで、威力業務妨害の容疑で逮捕
2013年、20代の女が匿名掲示板に某アイドルグループのチケットを売るという趣旨の嘘の書き込みを行い、それを信じた女子高校生から、2枚分のコンサートチケット代35,000円を現金書留で送らせるなどして、詐欺の容疑で逮捕
未成年者が逮捕されるケースもある
ネット上では、こういった嫌がらせや殺害予告・爆破予告、詐欺などの書き込みが原因で逮捕される事件が多く起こっており、時には以下のように、未成年者が逮捕される事件もたびたび起こっています。
2015年8月、北海道のJR車内で、障がいをもつ女性をスマートフォンで撮影し、その姿を「笑える」と侮辱した趣旨の記載とともにSNSに投稿した高校2年生の女子生徒が、女性の母親の被害届によって逮捕
2015年、東広島市で「下校中の女子小学生を無差別に強姦し殺す」といった趣旨の書き込みを匿名掲示板に繰り返し書き込んでいた当時16歳の男子高校生が、威力業務妨害容疑で逮捕
ネットでの「誹謗中傷」や「殺害予告」などの書き込みで問われる罪は?
このように、年齢や性別、職業などを問わず、様々な人が掲示板やSNSなどへの書き込みが原因で逮捕されています。
それでは、ネット上での誹謗中傷や爆破予告・殺害予告などの書き込みで問われる具体的な罪は何でしょうか?
該当する法律に照らしてみてみましょう。
誹謗中傷の場合
誹謗中傷とは、簡単にいえば相手を傷つける言葉や悪口を言うことを指しますが、これによって法律的に「名誉毀損罪」や「侮辱罪」が成立する場合があり、逮捕され刑罰を受ける可能性が出てきます。両者の違いは以下のようになります。
名誉毀損罪
名誉毀損とは、相手の社会的評価を下げる言動のことです。
たとえば「○○は不倫している」とか「××は性的な接待を受けている」といった書き込みなどがこれに該当します。
ポイントとしては、その発言や書き込みが不特定多数の人に見られる・聞かれる状況にあることで、その内容の真偽は問われません。
つまり、それが本当だろうと嘘だろうと、相手の社会的信用を傷つけるもので、ネットの掲示板やSNSのように、多くの人がその発言や書き込みを閲覧できる状態であれば、名誉毀損罪となる可能性があるということです。
名誉毀損罪で逮捕された場合、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」となる可能性があります。
侮辱罪
侮辱罪とは、その名の通り相手を侮辱することで成立し、たとえば「バカ」や「アホ」といった抽象的な表現で相手を傷つけた場合などが当てはまります。
こちらも、不特定多数がその発言や書き込みを見たり聞いたりできる状態であることが必要で、たとえば2人だけの状態で相手を罵ったとしても、そのまま侮辱罪となるわけではありません。
しかし、ネット上の書き込みは不特定多数が見られる状態ですから、侮辱罪で訴えられてしまう可能性があります。
侮辱罪で逮捕され有罪となった場合には、刑法231条により拘留または科料に処されます。
名誉毀損罪・侮辱罪のいずれも、警察や検察が逮捕して起訴するためには、被害者の告訴が必要となります。これを親告罪といい、被害者の訴えがあってはじめて、警察は捜査を開始できます。
そのため、不用意な書き込みで相手に告訴されてしまった場合でも、起訴されるまでに被害者側に謝罪するなどして訴えを取り下げてもらえれば、たとえ逮捕されても刑罰を受けずに済むケースも多いです。
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爆破予告・殺害予告などの場合
「○月○日に××を爆破する」といった爆破予告や「○○を殺してやる」といった殺害予告をネット掲示板やSNSで行った場合は、下記の容疑で逮捕される可能性が高いです。
威力業務妨害罪
威力業務妨害とは、デモや街宣活動、ネット上の書き込みなどによって、相手の業務を妨害する行為をいいます。
たとえば「店に爆弾を仕掛けた」という電話やメールが来た場合、その店の業務に大きな支障が出ることになりますから、威力業務妨害が成立します。
最近では、ツイッターなどで学生のアルバイトが悪ふざけで店の商品にいたずらをする行為などが問題になることがありますが、そういった行為も威力業務妨害となり、逮捕された場合は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」となる可能性があります。
ちなみに、ツイッターなどにデマの書き込みをして業務を妨害した場合は、偽計業務妨害罪となり、同様の刑罰が科されることになります。
脅迫罪
脅迫罪は、相手を脅して恐怖を与えることで成立します。
名指しで「○○を殺してやる」「××の家に火をつける」といった書き込みがこれに当てはまります。
名誉毀損や侮辱罪よりも成立しやすいのが特徴で、たとえば「お前を殺す」といった発言や書き込みを少しでもした時点ですぐに成立し、たとえ本人ではなくても、その親族に告知した場合にも脅迫罪となります。
脅迫罪が成立すると、刑法222条により「2年以下の懲役または30万円以下の罰金」が科されます。
詐欺の場合
掲示板やSNSに嘘の書き込みをして、それを閲覧した人から金品を騙し取るといった事件もたびたび起きており、上で紹介したコンサートチケットなどの事例があります。
これらは全て詐欺罪が適用されることになり、逮捕されて有罪となると、刑法246条により「10年以下の懲役刑」が科せられます。
詐欺罪は罰金刑がないのが特徴で、初犯で被害額が少ない場合などは執行猶予がつくケースが多いですが、再犯で被害額が大きい場合は、初犯でも懲役刑(実刑)となる可能性も十分あります。
なお、上で紹介した事例のように、未成年者が詐欺罪で逮捕される事件も多いのが現状です。
未成年の場合、成人が逮捕されるよりも刑罰が軽くなる傾向があるのは確かですが、それでも、その後の人生に大きな影響を与えてしまうのは間違いありません。
未成年者が逮捕された場合の流れや、家族がするべき適切な対応については、以下の記事を参考にしてください。 埼玉県川越署は2018年10月、銀行員のふりをして82歳の女性からキャッシュカードを騙し取ったとして、当時15歳の女子生徒を詐欺容疑で逮捕しました。 こういった未成年が逮捕される事件は川越市でも定期的 ... 続きを見る
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その他の犯罪で逮捕される場合
名誉毀損罪や侮辱罪、威力業務妨害罪といった犯罪以外にも、ネットの書き込みによって以下の罪で逮捕される事件も、実際に起こっています。
児童買春・児童ポルノ禁止法違反など
自分のブログに、いわゆる児童ポルノの動画が掲載されたWebサイトのURLを記載したとして、児童ポルノ禁止法違反などの容疑で20代の男が逮捕された例があります。
また、未成年の元交際相手の性的な画像を掲示板に掲載したり、相手の女性に対して「言うことを聞かなければ裸の画像をばら撒く」といった脅迫を行って逮捕された事件も起こっており、ネット上の書き込みが性犯罪につながるケースも少なくありません。
児童ポルノに関する事件や刑罰について詳しくは、以下の記事を参考にしてください。 2008年11月、川越警察署と県警少年捜査課は、パソコンのファイル共有ソフトを利用して児童ポルノをインターネットを通じて提供していたとして男3人を逮捕し、当該ポルノ映像を消去したと報告しました。 また ... 続きを見る
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麻薬取締法違反など
ネットの掲示板を通じて向精神薬(麻薬)を販売したとして、40代の男が逮捕されるなどの事件も起こっています。
掲示板やSNSが覚せい剤などの薬物取引に利用されるケースが増えており、大きな社会問題となっています。
覚せい剤や大麻などの薬物事件に関して、詳しくは以下の記事を参考にしてください。 厚生労働省によると、全国で覚せい剤の所持で検挙される人数は毎年1万5000件~1万7000件ほどもあり、埼玉県でも600件以上の覚せい剤取締送致件数があります。 これは全国平均を大きく上回る数で、日本 ... 続きを見る 2004年、当時18歳の少女達を自宅に住まわせて売春させていたとして、埼玉県川越市に住む飲食店経営者が逮捕され、大きな話題となりました。 ※出典:自宅で少女ら住まわせ管理売春 容疑の29歳男ら5人を逮 ... 続きを見る
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インターネット上の書き込みが「特定」されてしまう理由
このように、ネット上では日々さまざまな事件が起こっていて、たった一言の書き込みが事件に発展するケースもあります。
しかし、どんな事件であれ、書き込んだ人を特定できなければ、被害者が告訴したり、警察が逮捕したりすることはできないはずです。
ネット上の書き込みで個人が特定されてしまう理由は何でしょうか?
ネット上の掲示板やSNSで誹謗中傷されたり脅迫されたりした場合、被害者は弁護士などを通じて、その掲示板のコンテンツプロバイダに書き込みをした相手のIPアドレスなどの情報を提示してもらうことができます。
インターネットを利用する際には必ずプロバイダと契約しなければなりませんから、そこに問い合わせることで、相手の氏名や住所、電話番号などが判明するわけです。
プロバイダ側としても、本来はみだりに利用者の個人情報を開示したりはしませんが、こういった事件の場合は開示されるケースがあります。
そのため、たとえ匿名掲示板であっても、相手を誹謗中傷したり詐欺や脅迫などの書き込みを行った場合は、開示請求によって身元を特定され、告訴されたり警察に逮捕されたりする可能性があるわけです。
ネットの書き込みが原因で逮捕された場合の対応
こういった事件に巻き込まれたくなければ、特定の個人を傷つけたり、詐欺などの犯罪行為につながる書き込みをしないのが一番なのは当然ですが、相手の勘違いで訴えられたり、警察に通報されてしまう可能性もゼロではないでしょう。
それでは、ネット上の書き込みが原因で逮捕されてしまった場合には、どうすればよいのでしょうか?
すみやかに弁護士に相談するのがベスト
どんな事件で逮捕された場合もそうですが、重要なのは、すぐに弁護士に連絡して相談に乗ってもらうことです。
弁護士ならば、逮捕後の取り調べ期間中でも、自由に被疑者に面会して法的な視点からアドバイスを与えることができ、精神的に追い詰められた被疑者を勇気付けることができます。
特に逮捕後の72時間は、たとえ身内でも被疑者と面会できないことがほとんどで、家族としては心配で仕方がない状況が長く続くことになります。
しかし、そんな中でも、弁護士ならば職権で被疑者と会うことができますから、弁護士を通じて間接的に家族の支援をすることが可能になるのです。
他にも弁護士に相談するメリットはたくさんありますが、詳しくは以下の記事を参考にしてください。 ある日、突然警察から連絡が来て「貴方の息子さんが人を殴って怪我をさせてしまったので、こちらでお預かりしています」と言われたら、あなたはどうしますか? 親近者が傷害などの犯罪で警察に身柄を拘束されてしま ... 続きを見る
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また、逮捕された後の具体的なプロセスについては、以下の記事を参考にしてください。逮捕から起訴、刑事裁判に至るまでの流れを説明しています。
示談交渉によって告訴を取り下げてもらえる可能性もある
特にこういったネット上の書き込みが事件の発端となる場合は、被害者が感情的になって告訴に踏み切るパターンが多く、そのほとんどが、上で説明した侮辱罪や名誉毀損罪といった親告罪での告訴となります。
そのため、弁護士の協力のもと被害者側と示談を成立させることができれば、逮捕にまで至らずに済むことが多いですし、たとえ逮捕されたとしても、不起訴処分となって釈放となる可能性が高いといえます。
親告罪は被害者の告訴が前提となっていますから、いくら検察官が起訴するつもりだったとしても、被害者が告訴を取り下げてしまえば起訴することはできません。
したがって、ネット上の書き込みなどが原因で逮捕されたら、できる限り早く弁護士に相談し、示談交渉を含めた対策をとることがもっとも重要なのです。
ネットの書き込みが原因で逮捕されたら弁護士に相談しよう
掲示板やSNS上での書き込みが原因で逮捕された事例や、その際に下される処分、そして逮捕されてしまった場合の対応について解説しました。
インターネット上のトラブルは毎年増え続けており、何気ない書き込みやつぶやきが原因で訴えられたり、犯罪の疑いをかけられてしまうかもしれません。
万が一、それが原因で警察に逮捕されたり多額の損害賠償を請求されたりした場合、その影響は一生続いてしまう可能性があります。
そうならないためにも、ネット上での誹謗中傷などをしないことはもちろんですが、いざという時に頼れる弁護士事務所の連絡先を押えておくことをおすすめします。