2023年9月、介護施設の利用者2名が、施設の送迎車に轢かれて亡くなる事件が発生しました。
送迎車の運転手は事故当時75歳でしたが、履歴書や運転免許証のコピーなど雇用関係の書類に、実年齢より7歳若い生年月日が記載されていたことが判明し問題になっています。
皆さんの中にも、「推しの芸能人が年齢詐称をしていて裏切られた」「交際相手に年齢をサバ読みして伝えているがバレるのが心配」という方もいるのではないでしょうか。
年齢詐称の中には、「ちょっとサバを読んだ」という程度のものもあれば、上記の事件のように雇用時の判断に影響を及ぼすもの、犯罪になるものもあります。
今回は年齢詐称が違法・罪になるのはどういう場合か、具体的なケースをもとに解説します。
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年齢詐称したら成立する犯罪
年齢詐称をした場合に成立する犯罪として、詐欺罪や文書偽造罪があります。
それぞれ、どういう場合に成立するのかみていきましょう。
詐欺罪
詐欺罪(刑法246条第1項)は、相手にウソをついただけでは成立しません。
相手がウソをついた場合でも、「財物の交付」つまり、お金を渡す等の行為がなければ詐欺にはあたらないのが法律上の決まりです。
具体的には、
- ウソをついて騙す行為
- 相手が騙されて事実と異なる内容を信じること
- 相手が騙されたまま財産を渡すこと
- 財産が相手に渡ること
という4つが全て揃い、それぞれの間に因果関係(原因と結果の関係)が必要とされています。
年齢詐称が詐欺になる例としては、70歳以上の人はシニア割引がある等の場合に、本当は68歳なのに72歳と年齢詐称をして、優遇料金でサービスの提供を受けたようなケースを考えてみましょう。
この場合、本来支払わなければいけない料金を免れているので、「財産上不法の利益を得た」として、詐欺の一種である詐欺利得罪に該当するおそれがあります(刑法246条2項)。
詐欺罪に該当すると、10年以下の懲役刑が定められており、被害額が小さくても、余罪があるなど悪質な場合は、逮捕されたり起訴され刑事裁判を受ける可能性もあります。
文書偽造罪
文書偽造罪には、偽造する文書の種類によって、成立する犯罪が異なります。
たとえば、次のようなものが典型的です。
- 有印私文書偽造罪(刑法159条):他人を装って、一般人が作成した請求書や契約書などの文書を偽造する犯罪
- 公文書偽造罪(刑法155条):国や地方公共団体などの役所や、公務員が作成すべき書面(保険証、パスポート、土地台帳の図面など)を偽造する犯罪
過去の事例では、ある男性が、年齢制限のある婚活イベントに参加する際、運転免許証の生年月日や有効期限などを偽造してスタッフに提示し、年齢詐称をして、有印公文書偽造などの容疑で逮捕された事件があります。
罪になる場合もある!年齢詐称でよくあるケース
上記のような犯罪に該当する場合を含め、年齢詐称でよくあるケースをご紹介します。
未成年者が成人と偽って飲酒
未成年者が飲酒することは、「未成年者飲酒禁止法」で禁止されています。
未成年者が、成人だと年齢詐称して酒を購入した場合、一見「成人だと騙されて酒という財産を交付した」ので、詐欺罪が成立しそうにも思えます。
しかし、実際は代金を得ていることや、精神的に未成熟な未成年に詐欺罪が成立する範囲が拡大するおそれから、詐欺罪は成立しないと考えられています。
また、上記の法律では「飲酒を禁止する」とは書かれていますが、実際に未成年が飲酒をしても罰則は定められていません。
反対に、未成年者に酒を販売する店側には、年齢確認を求めるなど厳しい規制が課せられています。
未成年と知って販売した場合はもちろん、「もしかしたら未成年者が飲酒するかもしれない」と思って販売した場合でも、50万円以下の罰金が科される場合があります。
さらに、本人が未成年者の場合に、親権者や親権者に代わる監督者が、飲酒を知りつつ止めなかった場合の罰則は、1,000円以上1万円未満の科料です。
親の同意なく契約をする
未成年者が契約や売買などの法律行為をする場合、両親など法定代理人の同意が必要とされ(民法5条1項)、もし未成年者が法定代理人の同意なく法律行為をした場合は、その法律行為を取り消すことができます(同条2項)。
そのため、未成年者と取引をする相手は、取り消されるリスクを避けるために、未成年者とは取引しない、親の同意がいるなどの条件を設けている場合が大半です。
しかし、未成年者が年齢詐称して契約した場合、未成年者は詐欺罪に当たる場合があります。
また、未成年であると黙っていただけでなく、積極的にウソをついて年齢詐称をしたような場合は、実際は未成年でも、法律行為を取り消すことはできません(同法2条)。
そのため、未成年者は売買代金を支払うなど、契約の当事者として責任を負うことになります。
親が罪に問われることはありませんが、未成年者の資力不足を親がカバーして支払うのが通常です。
履歴書に虚偽の年齢を書いて応募する
年齢詐称した履歴書を会社が信じたとしても、実際には、騙す行為があったとは考えにくいとされています。
たとえば、40歳までしか応募できない仕事で、実際は45歳なのに38歳と履歴書にウソを書いて応募し、会社側がそれを信じて雇用した場合などです。
実際に、年齢詐称に気付かず雇用して、会社が従業員にお給料を払っていた場合でも、給与は労働の対価として支払われるので、労務の提供があった以上は詐欺罪に問われる可能性は低いと言えます。
ただし、応募時に、住民票や免許証の生年月日を偽造していたような場合は、有印公文書偽造罪に当たります。
また、年齢詐称が会社にバレた場合、詐称を理由に解雇される場合も多いです。
R指定などの年齢制限をかいくぐる
未成年者が年齢を偽ってR指定の映画を見たり、「18歳未満お断り」と書かれた風俗店に行ったり、「18歳以上」というサイトでアカウントを取得するといったケースは少なくありません。
映画のR指定などは、映画倫理委員会が自主的に設けた規制ですが、風俗店などが18歳未満の者の入店をさせないことは「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」(風営法)上の規制です。
いずれの場合でも、年齢制限をかいくぐった利用者が罰則を受けたり、罪に問われることはありません。
また、「18歳以上」と書かれたカーソルをクリックしないと次に進めないようなサイトでも、厳格な年齢確認を行っていないのが実情で、利用者が年齢詐称をしていても運営側が気付くのは稀です。
また、アカウントを取得しても、何か財産上の利益を得るというケースは想定しにくいため、詐欺罪などの犯罪が成立する可能性は低いです。
マッチングアプリで年齢詐称する場合
マッチングアプリで年齢詐称をすると、アプリの規約違反に該当する可能性はありますが、年齢詐称自体が詐欺罪などの犯罪に該当するわけではありません。
加えて、自分のプロフィール写真として、芸能人などの写真を使うなどすることが「写真詐欺」と言われることもありますが、良く見せようとした、盛ったなどの意味の日常用語としての詐欺にとどまり、法律上の詐欺に該当するわけではありません。
ただし、年齢詐称をするために身分証を偽造したりすると、有印公文書偽造罪等に該当する恐れがあります。
また、マッチングアプリでは、逆に騙されて詐欺商材を買わされたり、投資詐欺に巻き込まれるケースも多いので注意しましょう。
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芸能人の年齢詐称は罪になる?
芸能人が、実年齢より若い年齢を公表する年齢詐称をするケースは頻繁に見受けられます。
ネットでは「詐欺だ」「騙された」という声がよく上がりますが、芸能人の年齢詐称で、法律上の問題が発生するケースはほぼありません。
たとえファンがショックを受けたとしても、芸能人が騙す行為をしたとは評価しにくく、実害もないと言えるため、詐欺などの犯罪は成立しません。
「若いのに頑張っているから、お金をかけてファンクラブに入ってコンサートにも行った」というファンもいるかもしれませんが、一般的に、芸能人は、容姿、歌唱力、人柄など多くの要素から構成されており、年齢だけを理由に応援するとは想定しにくいといえます。
そこで、ファンクラブに入ったり、誕生日にプレゼントを贈るなどして財物を渡したとしても、年齢だけが理由とは言えないため、詐欺罪は成立しないと考えられます。
年齢詐称が罪になるか心配な場合は弁護士に相談を
年齢詐称は、詐欺罪に当たる場合や、詐称するために書面を偽造した場合には文書偽造罪にも問われる可能性がある行為です。
若々しく見せたい、年齢割引があるなら少しでもお得に使いたい等の欲求だけでなく、「どうしてもこの仕事につきたいが年齢がオーバーしている」等、生活がかかって年齢詐称をしてしまうという方もいるかもしれません。
しかし、犯罪になる年齢詐称をして、逮捕されたり罰金を科されて前科がついたのではサバ読みでは済まず、今後の人生にも大きな影響を及ぼします。
年齢のサバ読みが、詐欺や文書偽造に該当する年齢詐称にあたるのか、心配な方は弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、どのような行為が犯罪に当たるかを判断し、今後の対応のアドバイスをすることが可能です。
年齢詐称がご心配な方は、刑事事件に強い弁護士にできるだけ早くご相談ください。
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