昼休み中の事故は労災にならないと思っている人は多いのではないでしょうか。
しかし、これは間違いです。昼休み中の事故で病気や怪我をした場合でも、状況によっては労災の対象になる場合があります。
労災と認められて労災保険の対象になると、治療費などが給付され、怪我のために働けなくても休業補償を受けて約6割をカバーしてもらうことができます。
それだけに、昼休み中の事故ではどのようなケースが労災の対象になり、どのような場合は当てはまらないかを知っておくことが重要です。
今回は、昼休み中の事故で労災にあたる具体的なケースについて解説します。
休憩中の事故は労災になる?労災に認定される2つの条件
労災は、「業務災害(仕事によって怪我をした場合)」と「通勤災害(通勤途中に怪我をした場合)」に分けられます。
そうだとすると、昼休みは労災にあたらないようにも思えますが、休憩中の事故でも労災に認定される場合があります。
休憩中の事故が業務災害として労災にあたるかどうかを判断するのは、会社ではなく労働基準監督署です。労災に認定されるためには、次の2つの条件を両方とも満たす必要があります。
業務遂行性
業務遂行性とは、労働契約に基づいて、労働者が事業主(社長など)の支配下・管理下にある状態をいいます。
労働者が事業主の支配下・管理下にあり、事業主が指揮監督できる状況にある場合には、休憩中でも、原則として業務遂行性が認められます。
業務起因性
業務起因性とは、業務が原因で怪我をした状態をいいます。より厳密には、労働者が怪我をしたことが、事業主の支配下・管理下にあることで生じた危険性が現実化したといえる場合に、業務起因性が認められます。
例えば、昼休み中に、職場の屋上でバレーボールをしていて怪我をした場合は、職場の事故なので業務遂行性は認められる可能性が高いです。
しかし、業務とは関係ない私的な行動によって怪我が生じているので、原則として業務起因性は認められません。
昼休み中の怪我が労災にあたるかどうかの判断基準
昼休み中の事故で怪我をした場合、上記のように業務遂行性と業務起因性が認められることが条件になります。
この2つの条件に当てはまるかどうかを検討する際に、次の具体例が参考になります。
業務起因性と業務遂行性を判断する4つの具体例
昼休み中の事故で怪我をした場合に、業務災害として「業務遂行性」「業務起因性」が認められるかどうか、次の4つの場合が検討の基準になります。
事業場の施設や、施設管理の欠陥が原因で怪我をした場合
職場の階段の手すりが壊れており、昼休み中に階段を下りる際に転倒したケースなど
業務に必要な行為や、業務を遂行する際の合理的な行為で怪我をした場合
昼休み中にゴミ出しに出向いた際に事故に遭ったケースなど
生理的に必要な行為が原因で怪我をした場合
昼休み中に、排尿のためにお手洗いに行く途中で、廊下で転倒して怪我をしたケースなど
業務に付随する行為によって怪我をした場合
昼休み中に、同僚の作業の手伝いをしている際に怪我をしたケースなど
どんな業種でも労災は発生する可能性がある
上記のように、職場の施設や管理の欠陥、業務に関連する行為が原因となって生じた怪我では、業務災害と認められやすいです。
つまり、昼休み中に、社員食堂の床が濡れていて転んで怪我をした場合でも労災になる可能性があります。
それだけに、労災は、建設現場や製造業など、高所の作業や刃物を使うなど特定の業種に限らず、どのような職場でも発生する可能性があります。
昼休み中の事故や怪我が労災に認定された具体例
実際に、昼休み中のどのような事故が労災にあたるか、厚生労働省のサイトではいくつか具体例が挙げられています(厚生労働省|職場のあんぜんサイト「労働災害事例」)。
ここで紹介されている事例に加え、一般的に発生しがちな具体例をご紹介します。
社員食堂に移動中に階段で怪我をしたケース
昼休みにランチをとるため社員食堂へ向かう途中、労働者が階段から転倒して骨折したケースです。
この場合、会社の施設内で生じた事故であり、階段は会社の社内設備にあたるため、労災に認定されました。
本件に限らず、階段の手すりに不具合があったり、濡れて滑りやすかったなど、設備の不具合が原因で事故が発生した場合は、休憩中でもほぼ労災にあたると考えられます。
道路わきで休憩していたところ事故に巻き込まれたケース
道路の清掃作業員が、昼休み中に、道路わきの柵にもたれて休憩していたところ、走行中の車の事故に巻き込まれて、作業員が骨折の怪我を負ったケースです。
作業員が仕事をする道路わきで休憩した行為は業務との関連性が高いこと、交通事故にあう危険性のある場所で休憩せざるを得なかったことが事故の原因といえるため、労災に認定されました。
作業開始前に温まっていた際に火傷をしたケース
屋外での作業開始前に、ドラム缶に薪をくべて温まっていた際、作業員が火力を強めようと作業場の石油をかけ、同人のズボンに引火して火傷したケースです。
本件では、作業場の施設に含まれる暖房装置が事故の原因となっているため、業務との関連性が強いとされて、労災に認定されました。
他方で、労働者は、作業開始前は休憩時間と同じく自由に行動することができます。そこで、作業開始前に発生した事故で労働者が怪我をした場合、職場の施設や管理の不具合が原因ではない限り、原則として労災にあたりません。
足場を移動中に転落して怪我をしたケース
事故当日、上司の指示により一人で高所の足場で作業を行っていた作業員が、昼休み中も足場で休憩を取り、足場を移動しようとした際に転落した事故です。
本件では、工事が終了し、作業用の足場を解体する途中で、前日に墜落防止用の網が撤去されていました。
作業員が、高所の作業現場で業務に従事し、現場で休憩していたこと、そこから転落したことなどから、業務遂行性・業務起因性があるとして労災に認定されました。
休憩していた車が海に転落したケース
海に近い事業所で、タンクローリーで油を運ぶ作業を担当していた労働者が、昼休み中にタンクローリー内の後部座席で休憩していたところ、突然タンクローリーが動き出して車ごと海に転落したケースです。
このタンクローリーにはサイドブレーキがかかっておらず、歯止めを置くなどの事故防止策も取られていませんでした。
事故防止のための教育や車の管理体制が不十分だったことから、業務遂行性・業務起因性があるとして労災に認定されました。
昼休み中の事故が労災にあたらない具体例
昼休みを社内で過ごしている場合、会社の管理下にあるといえますが、仕事をしている状況ではありません。
そのため、昼休み中に発生した事故は、労災と認められないのが原則です。
具体的には、次のようなケースでは労災に当たらないとされています。
昼休み中にコンビニにランチを買いに行ったケース
昼休み中に、コンビニにランチを買いに外出するケースは多いのではないでしょうか。休憩時間中は、労働者が自由に過ごすことができるため、休憩中の行為は基本的に私的行為にあたります。
そのため、コンビニに行く途中で車に接触したり、自転車に轢かれるなどして怪我をした場合、私的行為として原則として労災にあたりません。
昼休み中に自宅に戻って昼食をとったケース
昼休み中に、自宅に戻って食事をする方もいるかもしれません。そのような場合、行き帰りの途中で事故に遭った場合も、私的行為として業務災害にはあたりません。
通勤と同じルートですが、自由に過ごす休憩時間中の行為であること、業務に関係ないこと、会社の施設の不備も無関係であることから、通勤災害にもあたりません。
昼休み中に運動をしていたケース
休憩時間中、会社の屋上で同僚とキャッチボールやバレーボールに興じ、腕を痛めたようなケースです。このような行為は当然業務外の行為にあたるため、例え会社の施設内でボール遊びをしていた場合でも、労災は認められない可能性が高いです。
一方、会社の屋上でボール遊び中に、会社の屋上看板が落ちてきて怪我をしたような場合は、会社の施設に起因する事故として、例外的に労災が認められる場合があります。
昼休み中の事故は労災にならないと言われたら?知っておくべき対応方法
よく、「会社側が労災と認めてくれない」「労災だと思うのに会社が手続してくれない」という声を耳にします。
しかし、休憩中の事故が労災にあたるかどうかを判断をするのは、労働基準監督署であり、会社ではありません。
確かに、労災を申請する際には、手続き上会社側が記入する箇所もありますが、労災をあきらめる必要はありません。
以下の2つの方法を参考にしてください。
自分で労災手続きを行う
労災を申請するための書類の作成は、基本的に事業主(会社)が行います。しかし、会社が勝手に労災にあたらないと判断したり、管理体制の不備を問われることを恐れて協力してくれない場合もあります。
このような場合、労基署(労働基準監督署)に、会社側が記入に協力的でないと伝えると空欄でも受理してくれるので、自分やご家族が労災申請の手続きを行うことができます。
具体的には、労働基準監督署やそのサイトから申請書をダウンロードして、必要書類を揃えて管轄の労働基準監督署に提出します。
諦めずに、労基署の窓口に伝えてみましょう。
労災の申請を弁護士に相談する
会社が労災を隠蔽したり、手続きを行わないことは、いわゆる「労災隠し」にあたり違法です。このような場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
労働基準監督署に相談して、もし会社に話が伝わったら今後の関係に困るという方も、弁護士には守秘義務があるので安心です。
また、ご自身の事故が労災にあたるかどうか不安な場合も、弁護士であれば、過去の裁判例や実例をもとにアドバイスや判断をすることができます。
さらに、依頼すれば、書類の作成や証拠の収集など労災申請に関する手続きから、休業補償、障害補償など、労災保険金の受給手続きについても、幅広いサポートを受けることができます。
労災以外に会社に損害賠償を請求できる?安全配慮義務のケース
会社で起きた事故で怪我をした場合、労災だけではなく、会社の安全配慮義務が問題になる場合があります。
会社の安全配慮義務とは?
安全配慮義務とは、労働契約法で定められた、会社が労働者に安全に働いてもらう環境を提供する義務のことを言います。
同法には「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」と規定されています(第5条)。
これは、会社は労働者に働いてもらうことで自社の利益を上げているため、快適な職場環境を整えて、労働者の安全と健康の確保に配慮することを求めたものです。
安全配慮義務違反で労災以外に損害賠償を請求できるケース
昼休み中に階段から落ちたような事故でも労災が認定されるのは、会社が安全配慮義務を負い、職場の施設やその管理について整備して安全に利用できるようにしておかなければならないからです。
そこで、会社の設備や管理体制の不備で事故が発生し怪我を負った場合などは、会社側に安全配慮義務違反が認められる場合があります。
会社の安全配慮義務違反が認められると、労災とは別に会社に損害賠償を請求することが可能になるため、労災保険でカバーできない損害や慰謝料を請求できる場合があります。
労災事故で会社の安全配慮義務違反を問えるかどうか、弁護士にお気軽にご相談ください。
昼休み中の事故で怪我をした労災の相談は弁護士へ
昼休み中の事故で負った怪我が労災認定されるかどうかは、業務遂行性・業務起因性をもとに判断されます。
しかし、昼休みの過ごし方や、会社の床が濡れていた、社員食堂のドアに指を挟んだなどどこまで設備の不備を問えるか、悩む方も多いと思います。また、会社が労災申請に協力的でなく、諦めざるを得ないと思っている人も多いのではないでしょうか。
このような場合は、まず労働問題に強い弁護士にお気軽にご相談ください。弁護士であれば、労災に該当するケースの判断や、申請手続き、補償給付の対応など、労災に関する法的なお悩みのすべてを相談し、任せることができます。
労災で怪我をすると、日々の生活だけでも大変なものです。一人で抱えず、ぜひ弁護士にご相談ください。
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