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私人逮捕が認められる要件は?合法か違法かを分ける要件を解説

2024年1月22日

私人逮捕イメージ

2023年、YouTuberが私人逮捕の様子をネットにアップして話題になりました。
皆さんの中にも、電車で痴漢をした人が被害者と思しき人に捕まえられたり、コンビニ等で万引きをした人が店員に捕まえられるといった、私人逮捕の現場に遭遇した経験がある人はいませんか?

私人逮捕は稀なことではなく、皆さんも当事者になる可能性があります。

しかし私人逮捕をして逆に訴えられる恐れはないのかなど、心配な方もいるのではないでしょうか。
実際、私人逮捕が法律的に許される要件は厳しく定められており、正義感にかられてむやみに私人逮捕をすると、違法な行為として逆に逮捕されたり、損害賠償の責任を負うことにもなりかねません。

そこで今回は、私人逮捕とは何か、私人逮捕が法律的に成立するのはどのような場合かについて、分かりやすくご説明します。

私人逮捕とはなにか

私人逮捕イメージ

私人逮捕」とは、国や都道府県などの捜査機関に属さない一般人が逮捕することを言います。「常人逮捕」と言われることもあります。

逮捕は「逮捕状」を示して行うのが原則です。
逮捕状は、検察官と、一定の階級以上(一般的な事件では警部以上)の階級にある警察官が裁判官に請求し、裁判官が逮捕の理由や必要性をチェックして、逮捕状を出しても差し支えないと判断した場合に発布します。

これは戦時下に横暴な捜査によって、一般人の権利が侵害された歴史などに由来しています。
逮捕などの重大な処分(強制捜査・強制処分)は、裁判官が発付する令状に基づいて行われなければならないとして、行き過ぎた捜査を防ごうとしているからです(憲法33条、令状主義)。

このように一般人は被害者でも目撃者でも、逮捕も逮捕状の請求もできないのが原則です。
ただし上記の令状主義を定めた憲法33条には「現行犯として逮捕される場合を除いては」と規定されており、現行犯逮捕には逮捕状が不要です。

そのため令状主義の例外として、現行犯逮捕の場合は、私人も逮捕することが許されます

逮捕の3つの種類と私人逮捕

上記のように逮捕は令状を示すのが原則で、現行犯逮捕は例外です。

ここで、逮捕の3つの種類と私人逮捕の関係についてご説明します。

通常逮捕

通常逮捕とは、上記でご説明した逮捕状を示して逮捕する原則的な方法です。

犯罪の疑いがある場合に、検察官や一定階級以上の警察官が裁判官に逮捕状を請求し、裁判官が逮捕状を発布すると、この逮捕状を被疑者(容疑をかけられている人)に示して逮捕します。

逮捕状があれば誰でも通常逮捕ができるわけではなく、逮捕できるのは、検察官・検察事務官・司法警察職員(警察官)のみです。
なお逮捕状の請求は警部以上の警察官しかできませんが、逮捕は階級が警部より下の警部補・巡査部長・巡査もすることができます。

一般人が逮捕状があることを知ったからと言って、私人逮捕をすることはできません。

緊急逮捕

緊急逮捕とは、一定の重大犯罪について、逮捕状を請求する時間的な余裕がない場合に例外的に認められる逮捕です。
逮捕した後、すぐに裁判官に逮捕状を請求し、逮捕状が発付されたら被疑者に示さなければいけません。

緊急逮捕ができるのは検察官・検察事務官・司法警察職員(警察官)で、通常逮捕の場合と同じです。
一般人が私人逮捕をすることはできません。

現行犯逮捕

現行犯逮捕は、今まさに罪を犯している人、または犯罪後間がない人を、逮捕状なく逮捕できるものです。

現行犯逮捕ができるのは、検察官・検察事務官・司法警察職員(警察官)に加え、私人(一般人)も含まれます。つまり、私人逮捕ができるのは、現行犯逮捕の場合のみです。

上記のように憲法で現行犯の場合は逮捕状なく逮捕できることが認められており、刑事訴訟法という捜査や裁判の手続きを定めた法律でも「現行犯人は、何人でも逮捕状なくしてこれを逮捕することができる」と規定されています(213条)。

これは、現行犯の場合は被疑者が罪を犯したことが明らかなので、人違いや勘違いで逮捕するリスクが低く、不当な人権侵害をする恐れが少ないからです。

なお上記の「犯罪後間がない人」のことを、法律上は準現行犯」と言います。厳密には現行犯と区別していますが(同法2122項)、準現行犯も現行犯として扱い、私人逮捕の対象になります。詳しくは次の項目でご説明します。

私人逮捕が法律上認められる2つの要件

現行犯イメージ

上記のように、私人逮捕ができるのは現行犯逮捕・準現行犯逮捕の場合のみです。

しかし、現行犯ならどのような場合でも私人逮捕が認められるわけではありません。

法律上、私人が現行犯逮捕をして許されるのは次の要件を満たす必要があります。

現行犯逮捕・準現行犯逮捕の要件

私人逮捕が認められるのは、現行犯逮捕と準現行犯逮捕の場合です。
それぞれ以下を満たさなければいけません。

現行犯逮捕で注意すべき点

現行犯逮捕は、今まさに犯行の最中か、または犯行直後の人を逮捕することです(刑事訴訟法2121項)。
この現行犯逮捕が法律的に認められるためには、次の3つの要件を全て満たす必要があります。

  • 逮捕される人が犯人であることが明白なこと

  • 犯罪と逮捕とが時間的・場所的に接着していること

  • 逮捕の必要性があること

これらの要件を満たすためには、逮捕者の目前で犯行が行われているか、犯行直後の段階だと逮捕者に明らかな状況で、逮捕する場所が犯行現場から密接な場所でなければいけません。

準現行犯逮捕で注意すべき点

準現行犯は、次の4つの内の1つに該当し、犯行後間もないことが明らかな者を逮捕することです(同法2122項)。
現行犯と比べ、犯行直後でなくても良い点で時間的に緩和されています。

  • 犯人として追われているとき

  • 犯罪で手に入れた物や、明らかに犯行に使ったと思われる凶器などを持っているとき

  • 身体や服に罪を犯したと思われる明らかな痕跡があるとき

  • 何をしているのか等と問われて逃走しようとするとき

準現行犯も、現行犯の場合と同様、犯行後間もないと明らかに認められ、逮捕の必要性があることが必要です。

軽微な事件の現行犯逮捕の要件

軽微な犯罪の場合、刑事訴訟法で現行犯逮捕の要件が特別に定められています(217条)。

30万円以下の罰金・拘留・科料にあたる罪の事件で現行犯逮捕が認められるのは、「犯人の住居もしくは氏名が明らかではない」場合か、「犯人が逃亡するおそれがある」場合のみです。

具体的には、侮辱罪や過失傷害罪、信号無視などの道路交通法違反、立小便などの軽犯罪法違反の場合です。
たとえば、公園で立小便をしている人を目撃したからと言って、その人が住所が明らかで逃亡する恐れもなければ、現行犯として私人逮捕をすることはできません。

私人逮捕した場合の手続きの流れ

逮捕の種類イメージ

現行犯を私人逮捕したあとの手続きは法律で定められています。

すぐに警察官に引き渡す

現行犯人・準現行犯人を私人逮捕した場合、直ちに検察官または警察官に引き渡さなければなりません(刑事訴訟法214条)。
私人逮捕は、一般人に捜査することを許すものではないからです。
そのため、私人逮捕をした人が、犯人が持っている物を差し押さえたり、取り調べをすることは認められません

直ちに引き渡さなければ、違法な私人逮捕となるので注意が必要です。

警察官の聴取に協力する

被疑者(犯人)の引渡しを受けた警察官は、私人逮捕した人の氏名や住居、逮捕の状況を聴きとらなければならず、必要があれば犯人と一緒に警察署に行くことを求めることができるとされています(同法2152項)。

なお、犯人の引渡しを受けた警察官も、自ら逮捕したわけではないので、逮捕現場での捜索や差押えをすることはできません。

私人逮捕が認められない場合

これまで、私人逮捕ができる要件やケースについてご説明してきました。

しかし自分では適法な私人逮捕と思っていても、実は私人逮捕が認められず、違法の評価を受ける場合もあります。
特に以下のようなケースで注意が必要です。

現行犯以外のケース

現行犯逮捕・準現行犯逮捕の要件を満たさない私人逮捕は違法です。

具体的には以下のような場合です。

  • 犯行と犯人の関係性が明らかでない場合

  • 犯行と現行犯逮捕の時間・場所に接着性がない場合

  • 逮捕の必要性がない場合

たとえば、被疑者の犯行を目撃した数時間後に、犯行現場から数百メートル離れた場所で逮捕した場合は違法な現行犯逮捕になります。
ただし犯行中に逮捕をすれば問題ないので、逮捕しようとして犯人の追跡を続けていたような場合は、犯行から数時間後でも現行犯逮捕として問題ないと言えるでしょう。

逮捕の際に必要以上の実力行使をしたケース

私人逮捕をする際、必要最小限度の実力行使は許されます

しかし必要以上に暴行を加えるなど、社会通念上必要で相当な程度を超える実力行使をした場合は違法となる可能性があります。
社会通念上必要で相当な行為と認められるかどうかは、逮捕をする人や犯人の行動など具体的状況を考慮して判断されます。

例えば、痴漢を現行犯逮捕した際に、犯人の腕をつかむなどの行動は、社会通念上必要で相当な行為として問題になる可能性は低いです。
また犯人が抵抗してもみ合いになり、犯人が転んでケガをしたような場合も、逮捕の状況や、体格の良い犯人が抵抗するはずみでケガをしたなどの事情を考慮して、違法性はないと判断される可能性もあります。

しかし逮捕の際に犯人が抵抗しないのに抑え込んだり、殴るなどの暴行を加えた場合は、実力行使に違法性があると考えられます。
この場合、私人逮捕をした側が傷害罪に問われたり、損害賠償を請求される恐れがあります。

犯人をすぐに警察官などに引き渡さないケース

上記でご説明したように、私人逮捕をしたらすぐに犯人を検察官や警察官に引き渡さなければいけません。

すぐに引き渡さず、長時間拘束したり、自ら事情聴取を試みるなどすると、逮捕・監禁罪などが成立する可能性があります。

私人逮捕が許される要件に不安がある場合は弁護士に相談を

現行犯の場面には、いつ何時、誰もが遭遇する可能性があります。

特に被害者が困っている状況だと、正義感やとっさの判断から、私人逮捕をすることもあり得るでしょう。
私人逮捕は、憲法や刑事訴訟法で認められた正当な逮捕ですが、状況ややり方を誤ると、かえって違法の判断を受け犯罪に問われたり、損害賠償の責任を負いかねません。

私人逮捕をしてトラブルに発展した場合や、ご家族が私人逮捕の当事者になり対応にお悩みの場合は、まずは弁護士にご相談ください。

弁護士であれば、当時の状況から私人逮捕が適法で許されるものかを判断することができます。
もしかりに違法の恐れがある場合でも、私人逮捕をした状況や心情を捜査機関や裁判官に伝えるなどの情状弁護活動によって、トラブルを最小限に抑えることが期待できます。

私人逮捕でご不明なことがある方、実際に遭遇してお悩みの方は、できるだけ早く弁護士にご相談されることをお勧めします。

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