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私人逮捕もやりすぎは違法になる!実際の事件をもとに解説

2024年1月22日

違法な私人逮捕イメージ

昨今、「私人逮捕系YouTuber」「正義系YouTuber」と呼ばれる人たちが、一般人を私人逮捕する様子を動画に撮影してネットに投稿するケースが増えています。
また私人逮捕の様子を投稿したYouTuberが、逆に違法な私人逮捕だとして逮捕されるケースも少なからず発生しています。

私人逮捕自体は、法律でも認められた逮捕の類型です。
目の前で起きている犯罪を食い止め、犯人を逃がさないようにし、被害者の救済にもつながる措置です。
しかし私人逮捕ができる要件を逸脱したり、やりすぎると違法の評価を受けてしまいます。

私人逮捕はどこまで許されるのか、何をしたら違法な私人逮捕になるのか、もし自分が当事者になった場合を考えて不安になる方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、私人逮捕が違法になるのはどのような場合か、分かりやすく解説します。

どこまで許される?私人逮捕が認められる判断基準

私人逮捕の基準イメージ

私人逮捕が認められるのは、現行犯逮捕(準現行犯逮捕)の場合に限られます。

私人逮捕が許されるのは、現行犯逮捕の要件を満たす場合に限られます。

現行犯逮捕の要件を満たしているか

現行犯人は、現在罪を犯しているか、犯行直後の人のことです。

現行犯逮捕をする場合は、「逮捕する対象が犯人だと明らか」「逮捕が犯行と時間的・場所的に接着している」「逮捕の必要性がある」ことが必要です。
加えて軽微な犯罪の場合は、「住所不定」「逃亡の恐れがある」ことも必要になります。

犯行が目の前で行われていれば、被害者ではない目撃者も現行犯人を私人逮捕できます。
また現行犯人を逮捕しようとして犯人が逃げ出した場合、犯人を追いかけて犯行現場から離れた場所で逮捕することも許されます。

私人逮捕が成立する要件に関して、詳細をこちらの記事で解説しています。

私人逮捕イメージ
私人逮捕が認められる要件は?合法か違法かを分ける要件を解説

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私人逮捕の態様が必要で相当な程度か

警察官であっても一般の私人であっても、現行犯逮捕する際に社会通念上必要かつ相当な範囲の実力行使は許されています。
その範囲内であれば、その実力行使が本来は犯罪に当たる行為であったとしても、正当な行為(刑法35条)として罰せられないとされています。

たとえば痴漢の現行犯人の腕をつかんだり、万引きの現行犯人に声をかけたところ逃走したため抱き着いて止めようとする行為などは、必要かつ相当な実力行使として認められる可能性が高いです。
相手が暴れて転倒し捻挫や打撲のケガを負った場合、形式的には私人逮捕した人に暴行罪・傷害罪が成立する可能性がありますが、正当な行為であれば罰せられません

やりすぎた違法な私人逮捕で成立する犯罪とは

やりすぎな私人逮捕イメージ

現行犯逮捕の要件を満たしていない場合や、逮捕の際に必要以上に実力行使をするなどすると、違法な私人逮捕となる場合があります。

この場合、私人逮捕自体が犯罪になったり、損害賠償を請求されたりする可能性があります。

現行犯逮捕の要件を満たさない私人逮捕の場合

上記でご説明した現行犯逮捕の要件を満たさない私人逮捕をした場合、不当に人を逮捕・監禁したとして「逮捕監禁罪(刑法220条)」に該当する可能性があります。

たとえば、盗撮を目撃して、盗撮犯人を家までつけて行って自宅で私人逮捕するようなケースです。
逮捕罪に該当すると3年以上7年以下の懲役刑が科せられる恐れがあります。

罰金刑が想定されていない重い類型の犯罪ですが、不当な逮捕の際に相手にけがを負わせるなどすると、「逮捕致死傷罪(同221条)」が成立し、更に罪が重くなります。

取り押さえなど必要以上の実力行使をした場合

現行犯逮捕の要件を満たしていたとしても、逮捕の際に必要で相当な程度を超えて実力行使をしたような場合は「暴行罪(同208条)」が成立する可能性があります。
暴行を加えた結果、相手がけがをした場合は「傷害罪(同204条)」が成立します。

暴行罪に当たる場合の罰則は、2年以下の懲役刑若しくは30万円以下の罰金または拘留若しくは科料です。
拘留は、懲役刑と同様刑事施設に入れられる刑罰ですが、1日以上30日未満と期間が短く、また労働は課せられません。
科料は罰金刑と同じ財産刑の一つで、1千円以上1万円未満と安価な刑罰です。

拘留・科料の罰則は軽いですが、前科はつくので安易に考えるのは禁物です。
傷害罪に該当した場合の刑罰は、15年以下の懲役または50万円以下の罰金と、各段に重たくなります。

すぐに犯人を警察官に引き渡さなかった場合

私人逮捕したら、犯人をすぐに検察官や警察官に引き渡さなければいけません(刑事訴訟法214条)。

私人逮捕後の手続きに関しては、こちらの記事で解説しています。

私人逮捕イメージ
私人逮捕が認められる要件は?合法か違法かを分ける要件を解説

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逮捕したからと言って自分で取り調べや捜査することは認められていませんし、一般人の判断で犯人を釈放することもできません。

もし犯人を引き渡さず長時間拘束したら、「逮捕監禁罪(刑法220条)」が成立する恐れがあります。
また私人逮捕した犯人を勝手に釈放すると、「犯人隠避罪(同103条)」に問われる可能性があり、この場合の刑罰は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

私人逮捕の際に警察の捜査を邪魔をした場合

現行犯人を私人逮捕しようとした行為が、居合わせた警察官の逮捕行為を偶然妨害する結果になっても、問題になる可能性は低いといえます。

しかし、私人逮捕の現場を撮影するなど、逮捕に必要のない行為をして警察の捜査を妨害したような場合は、「公務執行妨害罪(同95条)」に問われるおそれがあります。
公務執行妨害に当たる場合の法定刑は3年以下の懲役または禁錮または50万円以下の罰金です。

私人逮捕の様子を拡散した場合

私人逮捕する様子を動画や写真に撮影するなどして投稿した場合、仮に私人逮捕が適法だった場合でも、名誉棄損罪(同230条)に当たる可能性があります。

名誉棄損は、公然と事実等を指摘して人の社会的評価を低下させた場合に成立し、「事実」は真実であるかウソであるかを問いません。
そのため誤認逮捕の場合はもちろん、本当に犯人であった場合でも成立する可能性があるのです。

名誉棄損罪に該当した場合の刑罰は、3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金です。

誤認逮捕した場合

現行犯逮捕は犯人を取り違える可能性が低いからこそ、裁判官の令状がなくても一般人でも逮捕できる、極めて例外的な措置です。

しかしそれでも誤認逮捕をしてしまった場合、逮捕監禁罪などの犯罪が成立しなくても、民事上の損害賠償を請求される可能性があります(民法709条)。

YouTuberが違法な私人逮捕等で逮捕された実際の事件

YouTuberの私人逮捕イメージ

一般人を私人逮捕する様子を動画に撮影してネットに投稿する「私人逮捕系YouTuber」「正義系YouTuber」を名乗る人たちが増えています。

私人逮捕の様子を撮影・投稿し、広告収入を得ることが、直ちに私人逮捕の公益性を否定したり、違法の評価につながるわけではありません。
しかし、再生回数を稼ぎたいがために、違法な私人逮捕を行うなどして、逆に逮捕されるYouTuberもいます。
ここでは、その実例をご紹介します。

YouTubeにアップして名誉を棄損した事例

2023年、「煉獄コロアキ」を名乗るYouTuber10代の女性を撮影しながら、「パパ活をしているだろう」「俺にお金を返せ」などと告げる動画を投稿しました。
また動画内では、女性をチケットの転売をしたと表現していましたが、女性は友人と待ち合わせをしていただけで全く無関係でした。

本件のYouTuberは、女性に対する名誉棄損の容疑で逮捕されています。
このように、実際にパパ活をしているかどうかに関わらず、「パパ活をしているだろう」という事実を述べながら、YouTubeという不特定多数の人が閲覧するサイトに投稿するような行為は、「公然と事実を摘示して人の名誉を棄損した」と言え、名誉棄損に該当します。

犯罪をそそのかしてYouTubeにアップした事例

同じく2023年、「ガッツch」を運営していた私人逮捕系YouTuberを名乗る男性が、ネットで知り合った男性に覚せい剤を持って新宿駅に来るようそそのかし、覚せい剤取締法違反の容疑で逮捕されました。

このYouTuberは女装して一緒に覚せい剤を使う相手を募集し、男性に覚せい剤を購入させて持参させました。
逮捕後、新聞の取材に対し、炎上狙いや再生回数を稼いで広告収入を得たいと話しており、本件覚せい剤取締法違反の事件も、YouTubeで注目を集めて広告収入を得る目的だったとみられています。

私人逮捕した人を脅した事例

2024年、私人逮捕系YouTuberを名乗る男性らが盗撮をしていた男性に、「盗撮容疑で警察に行くのがイヤなら慰謝料を払え」などと現金を脅し取ろうとし、盗撮した男性を交番につきだそうとしたところ自分たちも恐喝未遂の容疑で逮捕されました。

私人逮捕自体は適法であっても、それをきっかけに別の罪を犯すことは許されません。
本件のYouTuberらは、約1年にわたり盗撮犯を逮捕する動画を投稿して収入を得ていたことから、余罪が捜査されています。

違法な私人逮捕に当たるか心配な場合は弁護士に相談を

上記でご説明したように、私人逮捕がどこまで許されるかは、状況によってかなり変わります。

昨今逮捕されている私人逮捕系YouTuberのように、やり過ぎたり、再生回数を稼ぐために違法な行為をしていなくても、とっさの行動や知らずにしてしまった逮捕時の行動が問題になる可能性もあります。
特に「社会通念上必要かつ相当な限度」で許される実力行使の点については、どの程度なら許されるのか、判断に悩む方もいるのではないでしょうか。

そのような場合は、まずは弁護士にご相談ください。
弁護士であれば、逮捕の際の状況や正当性を、捜査機関や裁判官に伝えるなどして、依頼者の権利を守るための活動ができます。

私人逮捕系YouTuber等がむやみに動画を投稿するなどしたために、本来適法で社会公益に資する私人逮捕に厳しい目が向けられることもあります。
特に、私人逮捕の様子を投稿する行為に対しては、収益化を目的としているとして、私人逮捕の行為に賛否が集まり、犯罪を助長しているのではないかという声も上がっています。

正義感から私人逮捕をしたのに、逆に罪に問われるような事態は避けたいものです。
私人逮捕の違法性でお悩みの場合は、お気軽に弁護士に相談されることをお勧めします。

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