窃盗や暴行などで逮捕された場合、そのほとんどが警察の取調べの後、検察に身柄を送致されて起訴・不起訴が決まることになります。
そして起訴されると裁判となり、そこで有罪となると刑務所での服役を含めた相応の刑罰が科されるのは刑事事件の常識といえるでしょう。
ただし、殺人のような重大な犯罪でなければ、その多くが刑務所に行く代わりに執行猶予がつくことになります。
執行猶予がつけば一定期間は刑罰が執行されず、その期間何事もなければ服役を免れることができます。
このあたりは多くの人が知っていると思いますが、それでは執行猶予中に再び犯罪行為をしてしまうと、どうなるのでしょうか?
執行猶予という言葉の意味は知っていても、その期間の犯罪については意外に知らない人も多いはずです。
そこで今回は、執行猶予中の再犯の扱いや、実刑となる可能性について解説します。
執行猶予中の再犯の扱いと刑期
まず、執行猶予中の再犯の扱いについて知るために、そもそも「再犯」とは法的にどういうものを指すのか押えておきましょう。
実は、一般的な意味での再犯と法的な再犯とでは定義が違っており、前者が単純に「犯罪行為を繰り返すこと」なのに対して、後者は刑法56条に定められており、少し複雑な意味合いになっています。
懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期懲役に処するときは、再犯とする。
つまり法的にいう「再犯」とは、懲役が終わった日や、懲役の執行免除のあった日の翌日から5年以内に、さらなる犯罪行為によって懲役に処せられたことをいいます。
要は、刑務所から出所した日の翌日、あるいは執行猶予を受けた日の翌日から5年以内に犯罪行為を繰り返すことを再犯というわけです。
なお、懲役刑(実刑)を免れて執行猶予になった場合、その期間が満了すれば言い渡された刑も無効になるので、その後5年以内に犯罪行為で逮捕されたとしても再犯とはなりません。
再犯の場合、刑罰は重くなるか?
再犯の場合、確実にそうなるとはいえないものの、科される刑罰は重くなる可能性が非常に高くなります。
たとえば、刑法25条には、執行猶予がつくための要件として以下を満たしている必要があるとされており、これらに加えて、裁判官が執行猶予にすべき情状(事情)があると判断した場合に、執行猶予となる可能性があるとしています。
- 裁判で言い渡された刑罰が3年以下の懲役・禁錮、あるいは50万円以下の罰金であること
- 以前に禁錮以上の刑罰に処せられたことがないか、処せられたことがあっても、その執行が終わった日またはその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑を処せられていない場合
しかし、再犯の場合は刑務所から出所した日から5年以内、あるいは執行猶予中に犯罪を繰り返したことになりますから、裁判では執行猶予がつかず懲役刑(実刑)となるため、必然的に刑罰が重くなるわけです。
さらに刑法57条には「再犯の刑罰は、その罪に関して定めた懲役の長期の2倍以下にする」という規定もあるため、刑務所での服役期間も長くなるケースがほとんどです。
ただ、これは2倍の期間も刑務所に入らなければならないというわけではなく、あくまでも刑罰が重くなるといっているに過ぎません。
執行猶予中の再犯はどうなる?
もし執行猶予中に犯罪を繰り返してしまった場合、逮捕・起訴されて刑事裁判を受ける本人はもちろん、その家族が気になるのは「刑務所での服役(実刑)を覚悟しなければならないか?」ということでしょう。
結論をいえば、執行猶予期間中に懲役刑に相当する犯罪で逮捕された場合、その時点で執行猶予が取り消され、実刑になってしまう可能性は非常に高くなります。
さらに新たな犯罪行為で実刑判決を受けた場合、もともと執行猶予となっていた判決についても取り消されてしまうので、その分の懲役期間も加算されてしまいます。
たとえば、当初は懲役2年執行猶予4年の判決を受けていた人が、その期間中に別の犯罪行為で懲役3年の実刑判決を受けてしまった場合、合計で5年(2年+3年)もの間、刑務所で服役しなければならなくなります。
ただし、再度の執行猶予をもらえる可能性がゼロというわけではありません。
執行猶予中に逮捕されて刑事裁判となった場合でも、その判決が「一年以下の懲役又は禁錮」の言い渡しであり、特に情状酌量の余地があると裁判官が判断した場合、そしてその時点で保護観察が付いていない場合に、再度の執行猶予となる可能性もあります(刑法25条2項)。
※保護観察:本来、保護観察と呼ばれるものは4種類あるが、この場合は定期的に保護監察官や保護司との面談を行うことを条件に執行猶予にされたものをいう。通称「4号観察」。
なお、再度の執行猶予の場合には必ず保護観察がつくことになります。そのため、その後さらに犯罪を繰り返してしまった場合、それ以上は執行猶予がつくことはありません。
犯罪別:執行猶予中の再犯の刑罰について
それでは、特に再犯率が高いといわれる犯罪別に、執行猶予中の再犯の刑罰と実刑の可能性について解説していきます。
万引き(窃盗)で逮捕された場合
様々な犯罪のなかで、万引きは特に再犯率が高いといわれており、人によっては窃盗癖と呼ばれるように、病的に万引きを繰り返してしまうケースもあります。
他の重い犯罪に比べると、万引き(窃盗)は初犯で実刑判決が下される可能性は高くありません。よほど悪質なものでない限りは不起訴になったり、略式起訴で罰金刑になることが多いでしょう。
※略式起訴:通常の起訴手続きを簡略化したもので、100万円以下の罰金や科料に相当する事件で適用される。公開の裁判は開かれず、裁判所がすぐに罰金や科料の金額を決めてしまうことで迅速に事件を解決するのが特徴。
ですが再犯の場合は、刑法235条に規定されているように「10年以下の懲役」に処される可能性が出てきます。
当然、事件の内容などによって科される刑罰には開きがありますが、特に再犯の裁判において執行猶予なしの実刑が言い渡された場合、前回分の執行猶予も取り消されることになるので、その分の期間も合わせて刑務所に入らなければならなくなります。
ただし、店の被害額が小さかったり、被害者側との示談が成立しているといった事情がある場合には、再度の執行猶予となる可能性もあります。
なお、示談については以下の記事で詳しく説明していますので、こちらも参考にしてください。
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覚醒剤や大麻の所持で逮捕された場合
再犯率の高い犯罪としては、覚醒剤や大麻などのドラッグの所持も挙げられます。依存性の高い薬物は再犯のリスクも高く、特に覚醒剤の所持で何度も逮捕されている人は決して少なくありません。
覚醒剤取締法では、覚醒剤の所持や使用は「10年以下の懲役」と定められており(41条)、初犯の場合は執行猶予がつくことが多いですが、再犯の場合は、ほぼ実刑判決が下されることになります。
ただし、2014年に覚醒剤取締法違反の罪に問われた兵庫県内の男性に対しては、神戸地裁が更正に向けた薬物依存治療の成果などを評価して、再度執行猶予つきの判決を言い渡しています。
出典:産経ニュース
したがって、再犯の場合でも絶対に実刑になるとは限らないわけですが、この男性のように高い確率で更正できると裁判官に認めてもらえない限りは、再犯では実刑判決となってしまう可能性が高いといえるでしょう。
覚醒剤や大麻などの薬物事件については、以下の記事で詳しく説明していますので、ぜひ参考にしてください。
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無免許運転の場合
道路交通法違反に関しても再犯率の高い罪といえます。特に悪質なのが無免許での運転ですが、執行猶予中に無免許運転を繰り返して逮捕された場合はどうなるのでしょうか?
まず無免許運転で逮捕された場合、刑罰として「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科されるのに加え(道路交通法117条の2の2)、重い行政処分が下されることになります。
ですが、初犯の場合はいきなり実刑判決が下る可能性はそれほど高くありません。
ただし、執行猶予中の再犯の場合、法律上は再度の執行猶予となる可能性はあるものの、実刑判決が下される可能性は非常に高くなります。
そのため、少しでも執行猶予となる可能性を高められるように、逮捕されたら早急に弁護士に連絡して相談に乗ってもらうことをおすすめします。以下の記事で弁護士に連絡するメリットを説明していますので、ぜひ参考にしてください。
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執行猶予中の再犯と保釈について
執行猶予中の再犯で逮捕された場合、保釈が認められるかどうかも知っておきたいところでしょう。
保釈とは、起訴後に刑事裁判の判決が出るまで身柄を解放してもらえる措置のことをいい、保釈金を納付することで被告人は自宅に戻ることができるようになります。
決められた住所に居住しなければならないなど、保釈中に守らなければならない事柄はいくつかありますが、保釈許可をもらえれば家族に会うこともできるので、精神的にとても楽になることは間違いありません。
初犯の場合は、たとえ実刑を免れない事件であったとしても保釈が認められることもありますが、再犯の場合、本来は執行猶予がつくような事件でも認められない可能性があります。
しかし、近年は保釈が認められるケースが増えているようで、たとえば覚醒剤所持の再犯で逮捕された事件では、薬物依存症の治療を行う施設を居住地として、しっかりと治療を行うことを条件に保釈が認められたケースがあります。
さらに、信頼できる身元引受人がいる場合は、再犯の場合でも自宅への保釈が認められるケースも増えつつあるようです。
いずれにしても、多くの人は保釈手続きに必要な書類や書き方などはわかりませんから、自分でやろうとせずに、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
なお、保釈請求について詳しくは以下の記事で説明していますので、こちらを参考にしてください。
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しかし、そんな状態でも再び執行猶予がもらえる可能性はゼロではありませんし、保釈が認められるケースもあります。
苦しい立場に置かれることは間違いありませんが、逮捕されたらすぐに弁護士に連絡して相談に乗ってもらいましょう。
弁護士ならば、被疑者から話を聞いたうえで、どうすれば少しでも立場を有利にできるかを考え、的確なアドバイスをしてくれます。
初回の相談に限り無料で話を聞いてくれる弁護士事務所も多いですから、迷っているならば、まず相談してみることをおすすめします。
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