刑事事件の知識 犯罪別

取り調べで自白を強要されたら?えん罪を避けるための対処法とは

2020年2月25日

デスクのライトスタンド

無実でも逮捕されると、取り調べで自白を強要されることがあります。

日本の刑事裁判の有罪率は99%以上ですが、1%近くは無罪となっています。
件数にして毎年100件以上の無罪判決が言い渡されています。

有罪判決が確定しても再審で無罪となるケースがたびたび報道されることからすると、有罪判決の中には一定の割合でえん罪事件があると考えられます。

えん罪が発生する最も大きな原因は、取り調べにおける自白の強要にあると言われています。

そこでこの記事では、なぜ取り調べで自白を強要されることがあるのか自白してしまうとどうなるのかをご説明し、自白を強要されたときの対処法もご紹介します。

警察から呼び出されて取り調べを受ける予定の方や、ご家族が逮捕されてしまった方はぜひ参考にしてください。

対処法から先に読む

取り調べで自白を強要されるのはなぜか

警察官の後ろ姿取り調べとは、被疑者から事件に関する事情を聴くことをいいます。

事情を聴く手続なのですから、被疑者が話す内容に従って忠実に供述調書を作成するのが本来の取り調べのあり方です。

それなのに、なぜ取り調べで自白を強要されることがあるのか、まずはその原因をみておきましょう。

有罪を立証する証拠を獲得するため

捜査機関には、ある罪を犯した疑いがある人として被疑者を特定した以上、その人が有罪であることを立証する証拠を集める義務があります。

自白も有罪を立証する証拠の一種なので、捜査機関としては早期に被疑者の自白を獲得したいのです。

被疑者を逮捕したのに十分な証拠を集められないと、起訴しないまま釈放しなければなりません。

そうなると、誤認逮捕したものとして警察が世間から批判を浴びるおそれがあります。

そのため、逮捕した場合は特に、捜査機関は何としても証拠を獲得しようとして自白を強要することがあります。

刑事事件の証拠の中で自白は有力

自白は被疑者がみずから何をしたのかを語るものであるため、証拠として価値が高いものとされています。

本人の自白のみで被疑者を有罪にすることはできません(日本国憲法第38条3項)が、自白があれば他の証拠は少量でも足りることになります。

本来なら自白がなくても有罪を立証できる程度に他の証拠を集めるのが捜査の原則ではありますが、捜査機関の人手には限界があります。

被疑者を逮捕・勾留した場合は最大23時間以内に証拠を確保しなければならないという時間的な制約もあります。

また、客観的な証拠が乏しい事件もあります。
特に被疑者本人がその罪を犯したという犯人性を立証する証拠を確保することが難しい場合も少なくありません。

そんなとき、本人の自白があれば有罪の立証に大きく役立つので、捜査機関は自白をさせたがるのです。

警察の取り調べは怖い?

警察は疑うことが仕事でもあります。
罪を犯していても嘘をついて否認する被疑者も一定数はいるので、優しい取り調べをしていては犯罪の検挙や抑止という警察の職務を果たせないのも事実です。

いったん疑われると否認してもストレートには信じてもらえないのは、ある意味で仕方のないことでもあります。

否認しても信じてもらえず、自白を強要されたときの対処法は後で詳しくご説明します。

否認していると警察の取り調べが怖いことは否定できませんが、自白すると多くの場合は警察の態度も優しくなります。

取り調べで不本意な自白をするとどうなるのか

手で口を押える人強引な取り調べを受けると精神的にも疲労困憊してしまい、取調官に言われるまま自白して刑事裁判で本当のことを言おうと考えてしまう人が少なくありません。

しかし、この考え方は非常に危険です。

取り調べで不本意な自白をするとどうなるのかをみていきましょう。

有罪になる可能性が格段に高くなる

被疑者を有罪とするためには、捜査機関は疑いようがない程度に有罪を立証する証拠を集めなければなりません。

自白以外の証拠だけで有罪を立証するのは捜査機関にとって大変なものです。

しかし、自白があると他の一応の証拠と併せることで有罪の立証が容易になります。

自白しなければ無罪を獲得できる事案でも、自白することで有罪になる可能性が格段に高くなってしまいます。

いったん自白すると覆すのは難しい

自白すると、被疑者自らが進んで犯行内容を語ったかのようなストーリー形式で供述証書が作成されます。
その供述調書は刑事裁判で証拠となります。

供述調書に本人のサインと指印がある以上、そこに記載された内容は真実であると強く推認されます。

刑事裁判で供述調書の内容が虚偽であることを主張するなら、なぜ取り調べで虚偽の供述をしたのかを証明しなければなりません。

しかし、取り調べは密室で行われるため、強引な取り調べを受けたことを証明するのは非常に難しいのです。

日本の刑事裁判の有罪率が99%以上であることがそれを物語っています。
いったん自白すると、自白内容を覆せる確率は1%もないのです。

量刑は軽くなる傾向にある

自白とは、自己の犯罪事実の全部または主要部分を肯定する供述です。
簡単にいうと、罪を認めることです。

有罪を前提とすれば、素直に罪を認めて犯行の詳細を説明して捜査に協力することは反省の態度の現れでもあります。
したがって、刑罰は軽くなる傾向にあります。

自白しないと、無罪を獲得できればいいですが、有罪になると「反省の態度なし」ということになります。
この場合、自白した場合よりも刑罰が重くなってしまう傾向にあります。

そのため、比較的軽微な犯罪であり、執行猶予や罰金刑で早期の釈放が見込める場合は、不本意でも自白して軽い刑罰を求めるケースが少なくないのが現実です。

取調官が被疑者に対して「認めればすぐ帰れる」と言うことがありますが、この言葉は一面では真実ともいえます。

ただし、無実なのに自白することはえん罪の発生に直結します。
自白することが本当に得策なのかどうかは慎重に検討すべきです。

こんな取り調べは違法!自白を迫られたら要注意

机を叩く人被疑者を逮捕・勾留した場合でも、取り調べでは本人が任意に供述できる状況でなければなりません。

任意に供述できないような取り調べは全て違法となります。

供述の任意性を侵害する程度が高いケースとして、以下のようなものがあります。

暴力や暴言を伴う取り調べ

被疑者を殴ったり蹴ったり胸ぐらをつかんだりするといった、あからさまな暴力は過去にはありましたが、最近ではほぼなくなっています。

しかし、以下のような行為(有形力の行使)も暴行に該当します。

  • 取調官が机を叩く
  • 椅子や机を蹴る
  • ペンなどの物を投げたりする

これらの行為は最近でも行われることがあるようです。

また、

  • 取調官が声を荒げて怒鳴る
  • 「一生出られないようにしてやる」などと脅迫する
  • 侮辱する

などといった暴言もたびたび報告されています。

これらのような暴力や暴言を伴う取り調べは、被疑者の自由意思を直接的に制圧して取調官の意に沿う供述を得ようとするものであり、違法性の程度が高い取り調べです。

長時間にわたる取り調べ

かつては、否認する被疑者に対しては連日、早朝から深夜にまでわたって取り調べが続けられることがよくありました。

被疑者にとっては取り調べを受けることは精神的負担が大きいので、長時間にわたる取り調べは供述の任意性を侵害する違法なものです。

現在では、取り調べは原則として午前5時から午後10までの間で1日8時間以内と定められています。

この時間制限に違反した取り調べは違法となります。

警察官や検察官が嘘を交える取り調べ

取調官が被疑者に対して「認めれば執行猶予ですぐに出られる」「認めなければ一生出られない」などと言うことがあります。

しかし、刑罰を決めるのは取調官ではなく、裁判所です。

これらの取調官の言葉は、自白を得るための方便です。

その他にも、「共犯者が自白したからお前が否認しても無駄だ」「早く罪を認めて反省してほしいと家族が言っていた」などと取調官が言うことがありますが、虚偽の可能性があります。

取調官の嘘を信じて自白しても任意の自白とは認められないので、違法な取り調べとなります。

取り調べで自白を強要されたときの対処法

手を出して拒否する人取り調べが違法なものだったとしても、いったん自白すると有罪にされてしまう可能性が格段に高くなります。

自白を強要されたら、次のような対処によって否認を貫くことが重要です。

黙秘権を行使する

否認をしていても取調官が聞き入れずに自白を強要してくる場合は、黙秘権を行使して何も話さないのが得策です。

既に話した内容で供述調書が作成されても、記載内容が事実と異なる場合は署名押印はしないことです。

供述調書に署名押印をすると記載内容が真実であることをみずから証明することになるので、安易に署名押印してはいけません。

黙秘権と供述調書への署名押印について、詳しくはこちらの記事で解説していますのでご参照ください。

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弁護士を呼ぶ

逮捕・勾留された被疑者には、いつでも弁護士を呼ぶ権利があります。

自白を強要されたらすぐに弁護士を呼んで、どうすればいいのかについてアドバイスを受けましょう。

黙秘権を行使して黙っているのも実際には辛いことが多いので、「弁護士が来るまで話さない」と対応するのも有効です。

違法な取り調べを受けたら都道府県の公安委員会に苦情を申し出る制度もありますが、現実には自分で苦情申出の手続をとるのは簡単ではないでしょう。

しかし、弁護士に実情を話して捜査機関に抗議してもらうだけで、多くの場合は違法な取り調べがおさまります。

違法な取り調べで警察を訴える

取調官が取り調べで暴力や暴言、その他先ほどご紹介した違法な行為をすると、特別公務員暴行陵虐罪脅迫罪侮辱罪などに該当することがあります。

それらの違法行為があった場合は警察官を刑事事件で訴えることができますし、民事でも慰謝料を請求することができます。

ただし、まずは違法な取り調べで自白をさせられないようにすることが先決です。
訴えるとしても弁護士に相談することが必要でしょう。

取り調べで困ったときは、弁護士を呼んで相談することを第一に考えましょう。
逮捕・勾留されたときに弁護士を呼ぶメリットはこちらの記事でも詳しく解説しています。

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強引な取り調べで自白してしまったときの対処法

落ち込んでいる人自白をしないように気をつけていても、取調官は様々な手段で自白させようとしてくるため、つい自白してしまうケースも少なくありません。

ただ、不本意な自白をしてしまっても、まだ諦めてはいけません。

任意でない自白には証拠能力なし

被疑者が任意でしたものでない自白には、証拠能力が認められません(日本国憲法第38条2項、刑事訴訟法第319条1項)。

証拠能力が認められないというのは、刑事裁判で証拠として使えないということです。
したがって、不本意な自白は有罪の証拠とはならないのです。

とはいっても、自白が任意ではないことを証明することが困難なため、いったんしてしまった自白を覆すことは難しく、刑事裁判の有罪率が99%以上となっているのです。

そこで、不本意な自白をしてしまった場合、現実的には以下のような対処が必要になります。

再度否認する

いったん自白してしまっても、納得できなければ次の取り調べのときには再び否認すべきです。
そうすることで自白の信用性が低下するため、自白した供述調書の証拠価値が下がります。

供述は一貫しているほど、信用性が高まります。
いったん自白した後に自白を続けていると、その内容の信用性がどんどん高まってしまうのです。

そうなると、刑事裁判で自白を覆すことがますます難しくなってしまいます。

取り調べ状況を記録する

取調室という密室の中で行われたことを刑事裁判で証明するためには、取り調べ状況を記録しておくことが重要です。

弁護士に依頼すると、「被疑者ノート」を差し入れられることがあります。
被疑者ノートとは、取り調べ状況を記録するために作られた日記形式のノートのことです。

ノート内には取り調べを受けた日時や取調官の氏名、聞かれたこと、答えたこと、取調官の態度などを記入する欄が設けられています。

各欄に毎日記入することで、取り調べ状況を逐一記録できるようになっています。

被疑者ノートがない場合は大学ノートなどを買い求めて、日々の取り調べ状況をできる限り具体的に記録しておきましょう。

刑事事件に詳しい弁護士に依頼する

取り調べで自白してしまうと、捜査機関は刑事裁判に向けて手続を進めていきます。

再度否認をしたとしても、起訴するのを取りやめてもらえることはまずありません。

不起訴処分で釈放してもらうためには、刑事事件に詳しい弁護士に依頼して捜査機関と交渉してもらわなければなりません。

また、刑事裁判にかけられると、自白が任意でないことを証明しなければなりません。

場合によっては犯罪事実を否定する真実を証明しなければならないケースも少なくありません。

無罪を獲得するためには非常に高度な訴訟技術が必要であり、国選弁護人では経験不足であることも多いものです。

したがって、後悔しないためには刑事事件の経験豊富な弁護士に依頼することが大切です。

刑事事件に強い弁護士の選び方は、こちらの記事で詳しく解説していますのでご参照ください。

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取り調べで自白を強要されたらすぐに弁護士を呼ぼう

逮捕されてから勾留されるまでの最大3日間は、家族との面会も認められずに孤独な状態で自白を強要するような取り調べが行われることもあります。

勾留後は原則として面会が認められますが、否認していると接見禁止が付けられて孤独な状態が続くこともあります。

当初の取り調べでは否認していても、自白の強要が続くうちに根負けして自白してしまう人が少なくありません。

しかし、いったん自白してしまうとえん罪となってしまう可能性が非常に高いことは、この記事でご説明してきたとおりです。

えん罪を避けるためには、早急に弁護士を呼んでアドバイスを受けるとともに、不起訴処分を獲得するために捜査機関に働きかけてもらうことが重要です。

もし取り調べで自白を強要されたら、早めに弁護士に連絡して接見に来てもらうことをおすすめします。

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