罪を犯したことが捜査機関に発覚すると、ほとんどの人は逮捕されるのではないかと不安になることでしょう。
しかし、有罪であることが明らかな場合でも、逮捕されない場合は多々あります。
逮捕されないまま捜査や刑事裁判の手続が進められる事件のことを「在宅事件」といいます。
在宅事件だからといっても無罪放免というわけではなく、法律に従って刑事手続が進められるので、適切に対処しなければなりません。
この記事では、
- 罪を犯したのに逮捕されないのはどのような場合か
- 在宅事件の刑事手続はどのように進むのか
- 刑罰を避けるためにはどうすればいいのか
といった点を中心に解説していきます。
罪を犯したのに逮捕されず、警察から「後日連絡する」と言われて不安になっている方はぜひ参考にしてみてください。
罪が発覚して逮捕されるか逮捕されないかの判断基準
警察や検察といった捜査機関に罪が発覚しても、必ずしも逮捕されるわけではありません。
実は逮捕せずに捜査を進めるのが法律の原則であり、逮捕されるのは特に逮捕する必要性が認められる場合だけです。
実際の件数としても、逮捕されない在宅事件の方が圧倒的に多いのです。
では、逮捕されるかどうかはどのような基準で判断されるのかをみていきましょう。
逮捕する必要性が高いケースとは
通常、以下のような事情があるケースでは逮捕する必要性が高いと判断されます。
- 事件が重大である
- 被疑者が犯行を否認している
- 被疑者の身元が不明である(住居不定・無職など)
- 被害者の処罰感情が強い
逆にいえば、これらとは反対の事情があるケースでは逮捕される可能性が低いということができます。
つまり、比較的軽微な事件で、被疑者が罪を認めており、反省して再犯のおそれがなく、逃亡や証拠隠滅のおそれもなく、被害者が被疑者を許しているような場合が逮捕されない典型的なケースです。
被疑者が入院中は逮捕されない?
逮捕する必要性が認められる場合でも、被疑者の健康上の理由など特別な事情がある場合は逮捕が見送られることもあります。
犯行によって被疑者自身も負傷して入院した場合、警察は被疑者の回復を待って事情を聴いた上で逮捕に踏み切るのが通常です。
被疑者を逮捕すると、捜査機関はその後短期間のうちに捜査を完了しなければならないという時間的な制約があります。
被疑者が入院中は逮捕しないのは、逮捕後の持ち時間を有効に使うための捜査機関の戦略であり、逮捕されないケースとは意味が違います。
上級国民は逮捕されない?
同じような罪でも一般人なら逮捕されるのに、社会的な地位の高い人は逮捕されないのではないかと気になる方も多いことでしょう。
もしかしたら、社会的な地位が高いために逮捕されないこともあるのかもしれませんが、推測の域を超えず、何とも言えません。
しかし、社会的な地位が高い人は身元がしっかりしていることから逃亡や証拠隠滅のおそれが低いと判断され、そのために逮捕されないケースはあると考えられます。
近年では、池袋の路上で自動車を暴走させ、2名の歩行者を死亡させたものの、運転者が逮捕されなかったという事件がありました。
この事件では、運転していた男性が旧通産省工業技術院の元院長であったことから、上級国民だから逮捕されなかったのではないかと話題になりました。
ただ、運転者は身元がしっかりしていて逃亡や証拠隠滅のおそれが乏しい上に、年齢や健康上の理由から逮捕・勾留することによって健康に重大な影響が及びかねないことも考慮されたはずです。
つまり、運転者が社会的に地位の高い人でなかったとしても、逮捕されなかった可能性が高いケースだとも考えられるのです。
逮捕されない事件の刑事手続の流れ
罪を犯しても逮捕されない事件の刑事手続は、逮捕される場合とどのように違うのでしょうか。その流れをみていきましょう。
基本的な流れは同じ
逮捕される場合もされない場合も、刑事手続の基本的な流れは同じです。
つまり、まずは警察で取り調べなどの捜査が行われ、その後検察官に送致されます。
送致を受けた検察官は、さらに取り調べなどの捜査を行った上で、起訴するかどうかを決めます。
起訴された場合は刑事裁判を受け、有罪か無罪の判決が言い渡されます。有罪の場合は刑罰が言い渡されます。
さらに詳しい内容を知りたい場合は、こちらの記事をご参照ください。
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逮捕されるかどうかで手続き上異なるのは、自分で出頭する必要があるかどうかという点だけです。
逮捕されない場合は、取り調べや引き当たり捜査などに呼び出された場合は、指定された日時・場所へ自分で出頭する必要があります。
刑事裁判でも、後半が指定された日時・場所に自分で出頭しなければなりません。
刑罰が軽いとは限らない
「逮捕されなければ有罪になっても刑罰は軽いだろう」と考える方がいるかもしれませんが、この考え方は禁物です。
たしかに、逮捕されないのは比較的軽微な犯罪の場合が多いので、逮捕される場合よりも刑罰が軽い傾向にあるのは事実です。
しかし、逮捕されるかどうかと刑罰の軽重に論理的な関係はありません。
逮捕されなくても実刑判決が言い渡されるケースは多くありますし、逮捕されても執行猶予付き判決や警察限りの微罪処分で終わるケースも少なくないのです。
前述の池袋の暴走事故でも、運転者に実刑判決が下される可能性は十分にあります。
したがって、逮捕されずに在宅で刑事手続が進んでいる場合でも、油断することなく適切な対処を考える必要があります。
逮捕されない場合の呼び出しへの対処法
在宅事件の場合は、捜査のために警察や検察から呼び出しを受けることになります。
現在逮捕されていなくても、呼び出しに応じて出頭すれば逮捕されるのではないか、呼び出しはいつ来るのかといったことが気になる方も多いことでしょう。
ここでは、呼び出しに関して注意すべきことをご説明します。
呼び出しを無視すると逮捕される可能性が高まる
多くの場合、警察や検察から呼び出しが来る目的は任意での取り調べや実況見分などの引き当たり捜査をするためです。
任意捜査なので法律上は拒否することが可能ですが、無視すると逃亡や証拠隠滅のおそれがあると判断されて逮捕される可能性が高まります。
したがって、呼び出しが来たら素直に出頭すべきです。
ただし、素直に出頭しても取り調べの後で逮捕される場合もあります。
できる限り、呼び出しを受けた時点で弁護士に相談して対応についてアドバイスを受けておいた方がいいでしょう。
在宅捜査で呼び出しが来るまでの期間は予測できない
警察から「後日連絡する」と言われても、なかなか呼び出しが来ない場合も少なくありません。
警察の捜査は終わっても、検察からの呼び出しがなかなか来ない場合もあります。
その理由は、被疑者を逮捕・勾留した事件(身柄事件)の捜査で警察や検察が忙しいため、在宅事件の捜査は後回しになってしまうことにあります。
身柄事件では短期間で捜査を遂げて起訴するかどうかを決めなければならないという時間的制約があるため、在宅事件よりも身柄事件の処理を優先せざるを得ないのです。
事案によっては、在宅の被疑者を呼び出す前に他の証拠を集めるために内偵捜査を進めている場合もあります。
その場合は呼び出しまでに長期間がかかることもよくあります。
多くの場合は罪が発覚してから1~3か月の間に呼び出しが来ますが、半年や1年以上が経過した後に呼び出しが来ることもあります。
不安な状態が続きますが、その間に弁護士に相談するなどして対応を考えておきましょう。
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在宅捜査での呼び出し回数は3~5回のケースが多い
通常、在宅捜査での呼び出しは1回だけでなく何度か来ます。
在宅事件は比較的軽微な犯罪で、捜査内容も複雑でない場合が多いので、それほど頻繁に呼び出されることは多くありません。
相場としては、警察からの呼び出しが2~3回、検察からの呼び出しが1~2回で合計3~5回といったところです。
逮捕を避けるためには、呼び出しには確実に応じる姿勢を見せておくことです。
指定された日時では都合が悪い場合はある程度変更に応じてもらえますが、自分の都合ばかり主張すると逮捕されてしまうおそれもあります。
捜査が終了するまでは、できる限り日程を調整して、呼び出しにすぐに応じられるようにしておきましょう。
逮捕されない事件で刑罰を避けるための対処法
在宅事件でも捜査終了後は、法律に従って刑罰が科されるのが原則です。
とはいえ、できることなら刑罰は避けたいと誰もが思うことでしょう。
ここでは、在宅事件で起訴される確率や、刑罰を避けるためにはどうすればいいのかをご説明します。
在宅事件の起訴率
起訴とは、被疑者を刑事裁判にかけるために検察官が裁判所に訴えることをいいます。
刑事裁判になると有罪率が99%以上なので、刑罰を避けるためには起訴を避ける必要があります。
検察庁の最新のデータによると、身柄事件と在宅事件を合わせた全体の起訴率は平成25年で27.4%です。
検察庁が受理した事件でも70%以上は起訴されていません。
このほかにも、警察が被疑者を検察に送致せず、厳重注意などの微罪処分で捜査を終了する事件もあります。
したがって、捜査機関に犯罪が発覚しても起訴されない事件はたくさんあることが分かります。
身柄事件と在宅事件に分けた起訴率のデータは不明ですが、在宅事件は比較的軽微な事件が多いため、起訴されないケースは相当数あるはずです。
起訴されないケースの特徴
警察の微罪処分や検察の不起訴処分で終わる可能性が高いケースには、以下のような特徴があります。
- 犯罪の内容が軽微である
- 突発的な犯行などで、再犯のおそれがないこと
- 被害者の特定が不可能、または被害者が許している
- 犯行の経緯や被疑者の反省などの情状からみて刑罰の必要性がない
- 有罪を立証する証拠が不十分
犯罪の内容や犯行に至る経緯などは今から左右することはできませんが、今後の対処によって左右できる事項も少なくありません。
そこで、微罪処分や不起訴処分を獲得して刑罰を避けるための対処法をみていきましょう。
被害者と示談する
刑事処分が決められるときには、被害者がどのような被害を受けたのかや、被害者がどの程度処罰を望んでいるかが重視されます。
そのため、被害者と示談することによって許しを得て、示談金の支払いにより被害を回復すれば起訴を回避できる可能性が高まります。
示談についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
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反省の態度を示す
どんな事件でも、罪を犯したのが事実であれば素直に認めて反省の態度を示すことが重要です。
深く反省していることが捜査官に伝われば、再犯のおそれも低いと判断されて起訴を回避できる可能性が高くなります。
誠実に供述することで、犯行の経緯に同情してもらえる場合もあります。
呼び出しに素直に応じて捜査に協力することも、反省の態度を示すことになります。
証拠不十分による不起訴を狙って捜査を避けたいと考える方もいるかもしれませんが、捜査に協力しなければ逮捕される可能性が高まるので注意が必要です。
更生する環境を整える
軽微な事件の場合は特に、再犯のおそれがあるかどうかが処分を決めるに際に重視されます。
再犯のおそれがないことを信用してもらうためには、更生する環境を整えることが重要です。
具体的には、仕事をしていないなら職探しをして仕事を決めたり、生活態度を改めることなどが考えられます。
他にも、生活を監視してくれる家族と同居したり、悪い交友関係を断って人間関係を改善することなども有効です。
逮捕されない事件で弁護士に依頼するメリット
在宅事件の場合は弁護士に依頼するメリットを感じない方もいらっしゃるかと思いますが、早めに適切な対応をとることで刑罰を回避できる可能性が高まります。
逮捕されない事件で弁護士に依頼することには、次のようなメリットがあります。
- 呼び出し捜査への適切な対処法が分かる
- 逮捕されるかどうかの見通しも踏まえて対応のアドバイスが得られる
- 被害者との示談を代行してもらえる
- 微罪処分や不起訴処分を獲得するための対処をサポートしてもらえる
ただ、いったん捜査の対象になってしまった以上は、刑罰を回避するためには高度な専門知識が必要になります。
そのため、弁護士に依頼する際は刑事事件に強い弁護士を選ぶことが重要です。
刑事事件に強い弁護士の探し方はこちらの記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
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逮捕されない場合も早めに弁護士に相談しよう
罪を犯した以上、逮捕されていなくても刑罰を受ける可能性は十分にありますし、場合によっては逮捕される可能性もあります。
逮捕されたり刑罰を受けたりすると、仕事や学業に支障をきたして取り返しのつかないことになるおそれもあります。
今後の処分が不安な方も、楽観的に考えている方も、早めに弁護士に相談して適切に対処することをおすすめします。
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