人が集まるところでは「いじめ」の被害が後を絶ちません。
学校だけではなく自治会、趣味の集まりなど大人の間でもいじめはあります。
特に学校でのいじめは、成長過程にある青少年の心に深い傷を残し、後遺症で一生働けなくなったり、最悪自殺にいたることもあります。
いじめから子どもを守るためには、加害者が反省するように学校に指導してもらうなどが考えられます。
しかし、次のような場合は訴訟をおこしたほうが効果的です。
- 学校側がまったく対応してくれない
- 加害者がいじめを認めない
- すでに重大な被害が出てしまった
ここでは、いじめ裁判について解説し、最後に代表的ないじめ事件の判決についても載せておきますので参考にしてください。
いじめの裁判は2種類 刑事裁判と民事裁判
まず、裁判所に訴える方法としては2種類あります。
加害者の刑事責任を追及する刑事裁判と、加害者や保護責任者に対して損害賠償(慰謝料)を請求する民事裁判です。
刑事裁判
いじめがエスカレートして犯罪行為におよんでいるときは、刑事責任を問うことができます。
この場合、起訴するのは検察官ですが、被害者側ができることは犯罪行為を捜査機関(警察・検察)に告訴することです。
告訴とは、犯罪があったという事実を申告して犯人の処罰を求めることです。通常は学校所在地の警察署に告訴状を提出します。
ただ、学校でのいじめの場合、加害者は未成年で14歳未満であることもあります。
日本の刑法では14歳未満の者の行為は罰しないとしているので、処罰できません。
14歳以上20歳未満であれば刑事責任を追及できますが、少年法に守られているので、余程重大な犯罪でもないかぎり保護観察程度で終わります。
刑事裁判で罪をつぐなわせるのは難しいと言わざるを得ません。
民事裁判
では、損害賠償を請求する民事裁判ではどうでしょうか。
こちらも、2つの理由により勝訴自体が難しく、高額の賠償金を勝ち取るのはほとんど無理です。
- 加害者本人には賠償金を支払う能力がない
- 立証責任は被害者側にある
加害者本人には支払い能力がありませんので、加害者の親(保護者)が監督責任を怠った、学校や教師、自治体がいじめ防止処置を怠ったとして、親や学校、自治体に要求することになります。
立証責任が被害者側にあるというのは、いじめがあったという事実やいじめと被害との間に因果関係があるということを証明するのは被害者側の責任だということです。
証拠を提示して争うわけですが、加害者側がすなおに認めるはずはありません。
すなおに認めるのなら訴訟になる前に解決しています。
まして被害者が自殺してしまった事件では、被害者本人が証言できませんから、立証するのはもっと難しくなります。
とはいえ、ようやく最高裁において「いじめと自殺の因果関係」(下記の「大津いじめ自殺事件」)を認めた判決が出ており、今後のいじめ訴訟に影響をあたえることは間違いありません。
民事裁判でいじめの損害賠償を請求するには
民事裁判で損害賠償を請求するには、実際にどうしたらいいのでしょうか。
事前に知っておかなくてはならない情報も含めて以下で説明します。
また、裁判となると本格手に法律のプロの支援が必要になりますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
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費用はどのくらい?
弁護士費用や訴訟の手続き費用、証人喚問の時の日当、鑑定・検証費用など、裁判に直接かかる費用の他、通信費、交通費などさまざまな出費があります。
弁護士費用
弁護士費用は着手金と成功報酬金に分けることが多いようです。
一般的に、請求額が300万円以下の場合は、着手金は請求額の8%、報酬金は16%程度といわれています。
たとえば、損害賠償金を300万円請求する場合、着手金は24万円になります。
勝訴し300万円の請求が認められれば、報酬金は48万円になります。
着手金と報酬金を合わせて72万円です。
損害賠償金が支払われれば差額の228万円を受け取ることになります。
裁判所に納める費用
請求金額によって変わりますが5~10万円程度でしょう。
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証拠をそろえる
いじめの事実を証明する証拠を集めなくてはなりません。
クラスメートなど第三者の目撃証言も証拠になります。
怪我をしたときは医師の診断書、写真、汚れた衣服の写真なども証拠です。
SNSでいじめられた場合はやり取りの画面画像を保存しておきましょう。
精神的な被害の因果関係を証明するには、被害者の証言が重要です。
当時の日記なども証拠になります。
相手側に内容証明郵便を送る
内容証明郵便でいじめの被害を受けていること、証拠もあることを相手方に知らせます。
内容証明郵便だと日付、内容を郵便局が証明してくれるので、以下のメリットがあります。
- 「知らなかった」という言い逃れができない
- 時効を遅らせることができる
- 本気であることを示せる
弁護士から送付してもらうと、さらに相手方にプレッシャーをあたえることができるでしょう。
損害賠償請求権の時効
損害賠償を請求できる権利は次の2つがわかったときから5年たつと消滅します。
- いじめによる被害
- 加害者が誰か
以前は3年だったのですが2020年の民法改正により5年になりました。
5年以内であれば過去のいじめに対しても損害賠償を請求できるということです。
弁護士に依頼するメリット
弁護士は原告代理人として、各種書類の作成や法廷での主張・立証活動を行いますが、それ以外にも以下のようなメリットがあります。
- 加害者、学校、教育委員会、自治体など多くの相手に対し適切な措置ができる
- 慎重に行動する必要があるときなど弁護士のアドバイスが役に立つ
- 証拠収集のアドバイスをもらえる
代表的ないじめ事件の判例
では、実際にあったいじめ事件の判例をみてみましょう。
日本で初めていじめが社会問題として大きくクローズアップされたのは1990年代でした。
それ以降の画期的な判例を2件挙げておきます。
- 大津市いじめ自殺事件
- 葬式ごっこ事件
いじめ自殺で初の最高裁判断「大津市いじめ自殺事件」
2011年、滋賀県大津市の中学2年男子生徒がいじめを苦に自殺した事件です。
同年9月、トイレで殴る蹴るの暴行を複数回、同級生から口を粘着テープでふさぎ、手足をしばるなどの暴行を受けました。
トイレでの暴行はクラスの半数の生徒が見ていたといいます。
さらに、加害者は自宅にもおしかけ金品を盗んでいます。
被害者男子生徒は翌10月自宅マンションから飛び降り自殺をとげました。
被害者の自殺後も加害者は被害者の写真にあなをあけたり落書きしたりしていたといわれています。
大津地裁の判決は大津市に2800万円+支払い済みの1300万円、同級生2人に3758万円の支払いを命じるものでした。
大阪高裁では、一審の判決を変更し、被害者側の家庭環境にも過失があったとして同級生2人の賠償額は400万円を相当としました。
2021年、最高裁は上告棄却。400万円の支払いを命じた大阪高裁の判決が確定しました。
しかし、いじめと自殺との因果関係を認めた、初の最高裁判断となりました。
大津事件後の2013年、文部科学省は「いじめ防止対策推進法」を制定し、いじめの定義、学校側の対処義務を法定しました。
教師4名が加担した「葬式ごっこ事件」
1986年、東京都中野区の中学校でおこったいじめ事件です。
被害者生徒は「このままじゃ生きジゴクになっちゃうよ」と書いた遺書をのこし、公衆トイレで首つり自殺しました。
使い走りから始まり、日常的に暴行を受けるようになりました。それが葬式ごっこにまでエスカレート。
担任ら4人の教師が参加、寄せ書きを添えていたことが明らかになっています。
葬式ごっこがきっかけで学校を休むようになり、とうとう自殺にいたりました。
教師らは生徒に口止めし、いじめを知っていながら教育委員会へ報告していませんでした。
自殺後の聞き取り捜査では、自殺した生徒に原因があるかの発言をしていたようです。
日本ではじめて、いじめ自殺事件が大々的に報じられた事件です。
1994年、東京高等裁判所は「葬式ごっこ」をいじめと認めました。
「普通の人なら苦痛に感じるはず、それが止められなかった学校にも責任がある。ただし、いじめと自殺との因果は不明である」という内容を述べ、被告らに1,150万円の賠償命令を下しました。
いじめ裁判のまとめ
いじめ事件は立証するのが難しく、裁判でも原告の要求は認められにくいのが現状です。
特に、被害者本人が自殺を遂げている場合は、本人の証言をえられないので立証が難しくなります。
それでも、近年「いじめ防止対策推進法」が制定され、学校側の対処義務が明文化されました。
また、自殺といじめの因果関係を認めた最高裁の判断も出ています。
いじめから子どもを守り、いじめの事実を公にする方法として、訴訟に持ち込むのは意味のあることだと言えます。
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