身内の方が亡くなって相続手続きを始めたところ、被相続人に負債があることが判明したら、ほとんどの方は慌ててしまうことでしょう。
負債も相続してしまうのか、負債を相続しないですむ方法はあるのか、手続きはいつまでに、どのようにすればいいのかなど、不安と疑問で頭がいっぱいになってしまうことと思います。
そこで本記事では、被相続人に負債があった場合でも、相続人が多額の返済義務から免れる対処法を解説します。
負債の相続から免れるためには、早めの対処がカギになります。
まずは落ち着いて本記事をお読みいただいた上で、早急に対処されることをおすすめします。
負債も相続する?相続人が知っておくべき4つのこと
そもそも亡くなった方の負債は相続人に相続されるのでしょうか。
相続人が複数人いる場合はどうなるのでしょうか。
まずは負債の相続について、相続人が知っておくべき基本をご紹介します。
放っておくと借金も相続してしまう
相続とは、亡くなった方(被相続人)が有していた全ての財産が配偶者や子どもなど一定の親族に引き継がれるものです。
預貯金や不動産などのプラスの財産はもちろんですが、マイナスの財産でも財産的な評価が可能なものは相続の対象になります。
したがって、被相続人に借金などの負債があった場合は、それを回避する手続をとらない限り相続してしまうことになります。
被相続人が負っていた連帯保証債務も相続する
相続してしまう負債には、被相続人が直接の支払い義務を負っていた借金などばかりでなく、誰かの借金を連帯保証していた債務も含まれます。
連帯保証とは、直接借金などをして支払い義務を負う人(主債務者)と対等の立場で負債の支払い義務の負担を約束することです。
つまり、債権者からいきなり返済を請求されたときでも「まずは主債務者に請求してください」ということはできず、ただちに返済しなければならないのが連帯保証債務です。
通常は債権者も主債務者が返済できなくなったときに初めて連帯保証人に請求するものですが、連帯保証債務を相続した場合は債権者からの請求を拒むことはできません。
負債の相続する割合は法定相続分による
相続人が1人のみの場合は、被相続人が負っていた全ての負債を相続してしまいます。
複数人の相続人がいる場合には、法定相続分に従って分割して相続することになります。
プラスの財産が法定相続分にしたがって分割されるのと同様、マイナスの財産も分割して相続されるのです。
例えば、夫が1,000万円の負債を残して亡くなり、相続人として妻と長男、次男がいたとします。
この場合、法定相続分は妻が1/2、長男と次男が1/4ずつです。
したがって、亡き夫の負債は妻が500万円、長男と次男が250万円ずつ相続することになります。
ただし、プラスの財産は遺産分割協議によって相続割合を変更することが可能であるのに対して、負債の相続割合を変更することはできないことに注意が必要です。
遺産分割協議で負債の相続割合を決めても、債権者は法定相続分どおりに各相続人に支払いを請求することができます。
したがって、仮に妻が1,000万円の負債の全部を負担することに決めたとしても、長男と次男は債権者から請求されればそれぞれ250万円までは請求に応じなければなりません。
相続財産があっても借金と相殺されるわけではない
負債がある被相続人でも、多くの場合はその一方で何らかのプラスの財産も有しているものです。
相続人としては、プラスの財産とマイナスの財産とが相殺されて、残った財産のみを相続するのではないかと考えるかもしれませんが、この考え方は誤りです。
プラスの財産とマイナスの財産は自動的に相殺されるものではありません。
相続人としては、プラスの財産を処分してその代金で負債を支払うか、プラスの財産をもって負債と相殺するよう債権者と個別に交渉する必要があります。
知らずに負債を相続しないためにまずやるべきこと
何も手続をしなければ被相続人の負債を相続してしまうことはお分かりいただけたかと思いますが、負債の相続を回避できる手続きもあります。
その前提として、相続人がやっておくべき大切なことがあります。
後ほどご説明しますが、負債の相続を回避する手続きには期限があります。
そのため、相続人としては早急に以下の対処を進める必要があります。
負債がないか?相続財産の調査はしっかりと
被相続人が亡くなったら、まずはどのような遺産があるのかしっかりと調査しなければなりません。
相続財産の調査はどのようなケースでも行うべきですが、負債がないかどうかは特に速やかに調べることが必要です。
被相続人の自宅内を調べて、預貯金通帳や契約書類などで金融機関の利用が判明したら、その金融機関に問い合わせて利用内容を確認しましょう。
負債に関する資料は、隠して保管されている傾向があります。
自宅内をくまなく探すことは当然として、銀行の貸金庫などに重要な書類が保管されていることもあるので、入念に調査してください。
兄弟を相続するときは借金がないか疑う
両親や配偶者などを相続するときは、相続人が生活状況を把握していて、財産の状況もある程度は推測できる場合が多いでしょう。
しかし、兄弟を相続する場合は、被相続人の生活状況をあまり把握しておらず、財産状況は全く分からないという場合が多いのではないでしょうか。
また、そもそも兄弟姉妹を相続するケースは少ないのですが、それだけに、知らないうちに相続していたという場合もあります。
兄弟姉妹が亡くなったときは、知らずのうちに負債を相続してしまうことがあり得るので、借金がないかと疑う姿勢で速やかに調査を行いましょう。
被相続人の会社の負債と個人の負債は区別する
亡くなった方が会社を経営していた場合、その会社の負債を相続人が引き継がなければならないのかが気になる方も多いことでしょう。
しかし、会社の負債は「法人」という経営者個人とは別人格が負っているものなので、相続されることはありません。
ただし、会社として借金をするときには経営者が連帯保証をすることが多いですし、会社の借金とは別に経営者個人の名義で借金をしていることもあります。
したがって、会社の負債だけではなく、被相続人の個人名義での負債や連帯保証債務がないかどうかをしっかりと調査しましょう。
なお、会社を相続人が引き継ぐ場合は当然、会社の負債を支払っていく必要があります。しかし、これは相続とは別の問題です。
負債の相続を回避する「相続放棄」のやり方と注意点
相続財産を調査して被相続人に負債があることが判明しとき、負債の相続を回避する方法として「相続放棄」という手続きがあります。
ここでは、相続放棄のやり方や注意点をご説明します。
相続放棄をするとプラスの財産も負債も相続しない
相続放棄とは、亡くなった方が有していた財産に関する相続権の一切を放棄することです。
プラスもマイナスも含めて全ての財産を相続しなくなることに注意が必要です。
したがって、被相続人が所有していた自宅に相続人が住んでいる場合に相続放棄をすると、自宅も手放さなければなりません。
マイナスの財産だけを放棄してプラスの財産だけを相続したいと思うのも無理はありませんが、残念ながらそのような便利な制度はありません。
自分でできる!相続放棄のやり方
相続放棄のやり方は、難しくありません。自分でも行うことができます。
手続きは、被相続人の最後の住所地の家庭裁判所で「相続放棄の申述」をするだけです。
相続放棄の申述をするには、「相続放棄申述書」に戸籍謄本類を添付して家庭裁判所へ提出します。
ケースによって必要となる戸籍謄本類の範囲が異なるので、提出する際は事前に裁判所のホームページまたは申述先の家庭裁判所で確認しましょう。
「相続放棄申述書」の書式もこのページからダウンロードすることができます。
相続放棄は3ヶ月以内に手続きしなければならない
相続放棄の申述は、相続が開始したことを知ってから3ヶ月以内にしなければなりません。
何も手続をしないまま3ヶ月が経過すると、被相続人の財産の全てを相続してしまうので注意が必要です。
この3ヶ月の間に相続財産を調査して相続放棄するかどうかを判断し、相続放棄する場合は必要書類を準備しなければなりません。
戸籍謄本類の収集には1~2ヶ月の期間を要するのが通常なので、早めに対処することが重要です。
相続放棄をすると他の相続人へ相続権が移る
1人の相続人が相続放棄をすると、その人の相続権は他の相続人に移ります。
例えば、亡き夫に1,000万円の負債があり、相続人として妻と長男、次男がいるケースで妻が相続放棄をすると、妻の相続権は長男と次男に1/2ずつの割合で移ります。
したがって、妻は被相続人の負債から免れるものの、長男と次男は500万円ずつの返済義務を相続することになります。
相続放棄したことを他の相続人に通知する義務はありませんが、相続人間のトラブルを避けるためには、相続放棄することを早めに知らせた方が良いでしょう。
撤回不可!相続放棄は慎重に
いったん相続放棄が認められると、後で気が変わって相続したいと思っても、相続放棄を撤回することはできません。
被相続人の負債から免れるために相続放棄をしたものの、後から莫大なプラスの遺産が見つかったとしても、もう相続することはできなくなります。
したがって、相続財産の調査はくれぐれもしっかりと行った上で、相続放棄するかどうかを判断しなければなりません
負債を相続する範囲を限定できる「限定承認」のやり方と注意点
相続放棄をすれば被相続人の負債から免れることができるものの、プラスの財産も相続できないというデメリットがあります。
ただ、民法ではプラスの財産を相続しつつ、負債の相続は部分的に限定する「限定承認」という手続きが認められています。
ここでは、限定承認のやり方と注意点をご説明します。
限定承認をするとプラスの財産の範囲内でのみ債務を相続する
限定承認とは、被相続人が有していたプラスの財産を相続する範囲内でのみ負債などのマイナスの財産を相続するという制度です。
被相続人に負債があるものの、自宅など手放したくないプラスの財産もある場合に便利なのが限定承認の手続きです。
また、相続財産の調査を行ったところ、プラスの財産の方が多いものの、なお判明しない負債があるかもしれないという不安がある場合にも限定承認が有効です。
自分でやるのは難しい?限定承認のやり方
限定承認の手続きも被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に申述するのですが、相続放棄の場合よりも複雑な手続きが必要になります。
相続放棄の場合は各相続人が単独で行うことができますが、限定承認は相続人の全員が共同で行わなければなりません。
また、限定承認の申述をするときは、相続放棄の場合よりも遺産目録を詳細かつ正確に作成することが必要です。
多くの方にとって、この2点を自分で行うことはハードルが高いといえるでしょう。
実際には限定承認が行われることはあまりない
相続放棄の場合と同様、限定承認の手続きも相続開始があったことを知ってから3ヶ月以内に行う必要があります。
短期間に相続財産の調査を行い、戸籍謄本類を収集するだけでも大変ですが、限定承認の場合はさらに詳細な遺産目録を作り、相続人全員が合意して一緒に手続をしなければなりません。
限定承認は相続人が損することがない便利な制度ですが、手続き面での負担が大きいためか、実際に行われることはあまりありません。
どうしても限定承認の手続をしたい場合は、早期の対処と的確な判断が必要になります。
そのためには、まず弁護士に相談した方が良いでしょう。
負債を相続してしまっても諦めない!単純承認したときにできること
ここまでにご説明した「相続放棄」か「限定承認」のいずれかの手続をとらない限りは、被相続人が抱えていた負債はそのまま相続人に引き継がれることになります。
ただ、負債を相続してしまった場合でもまだ、返済義務を免れるためにできることはあります。
その前に、知らずのうちに負債を相続してしまう場合もあるので、注意すべきケースをご紹介します。
要注意!負債を相続してしまうのはこんなケース
被相続人に負債があることを知った上で、それを上回るプラスの財産があるために相続した場合は特に問題ないでしょう。
しかし、次のような場合には思わぬ負債を相続してしまうことになります。
- 負債があることを知らずに何の手続もとらなかった場合
- 負債はないと思って遺産分割をしたが、後から借金が判明した場合
- 相続財産に手を付けた場合
以上の3つのケースは、いずれの場合も被相続人の全ての財産を相続したものとみなされます。
被相続人の財産を全て相続することを「単純承認」といいます。
相続財産に手を付けた場合というのは、被相続人が有していた現金や預貯金を消費したり、不動産を売却するなどして処分した場合です。
プラスの財産だけでなく、マイナスの財産を処分したときも単純承認したものとみなされます。
債権者からの請求に応じて負債の一部を支払ったり、債務を承認したりすれば、その時点で全ての負債を相続したことになってしまうので注意が必要です。
被相続人の借金を知らなかった場合は相続放棄できることも
被相続人に負債があることを知らず、何も手続をしないまま3ヶ月以上が経過した場合でも、まだ相続放棄ができる可能性があります。
相続放棄が認められるのは相続の開始を知ってから3ヶ月以内に手続をした場合ですが、後から負債が判明したときは、そのときから3ヶ月以内は相続放棄が認められると考えられるからです。
ただし、この場合の相続放棄の手続きでは、家庭裁判所で詳細な調査が行われます。
事情によっては、相続放棄が認められない場合もあります。
相続放棄が認められないと、負債を相続することが確定してしまいます。
被相続人が亡くなってから3ヶ月以内であれば自分で手続をしても相続放棄が認められる場合がほとんどですが、3ヶ月以上が経過した後に手続きをする場合は弁護士に依頼した方が良いでしょう。
相続した借金の消滅時効を主張できることも
負債を相続することが確定した後でも、その負債の消滅時効を主張できる可能性が残っています。
借金などの負債には消滅時効があります。
個人からの負債の時効期間は10年ですが、貸金業者や金融機関など事業者からの負債の時効期間は5年です。
多額の負債を抱えている人の場合、亡くなった時点で時効期間のうち何年かが既に経過していることも多いものです。
さらに、被相続人が亡くなった後も、債権者が相続人に請求するまでに長期間を要することがよくあります。
相続してしまった負債が消滅時効にかかっていることは珍しくないので、よく確認した上で、時効期間が経過している場合は消滅時効を主張しましょう。
負債の相続から逃れられないときは債務整理も検討しよう
相続を単純承認してしまい、消滅時効も成立していない場合は、残念ながら負債の返済義務から免れることはできません。
相続人同士で協力して返済していくのが基本になりますが、必要に応じて債務整理で負債の減免を図ることも大切です。
債務整理をすると、一定の期間はローンやクレジットカードを利用できなくなるというデメリットはありますが、相続した負債のために生活に支障をきたすことは避けるべきです。
債務整理をすべきかどうかについては、弁護士に相談してアドバイスを受けると良いでしょう。
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被相続人に負債があるときは弁護士に相談を
被相続人に負債があるときに相続放棄や限定承認をするためには「3ヶ月」という期限があります。
この期限までに相続財産の調査や必要書類の収集をすませた上で、家庭裁判所で手続きを行わなければ「単純承認」として負債を相続してしまいます。
したがって、負債から逃れるためには早めの対処がカギとなります。
とはいえ、相続手続きに慣れている方でもない限り、調査や書類の収集のポイントが分からず、悩んでいるうちに時間が経ってしまうことになりがちです。
被相続人の負債が判明したときは、すぐに弁護士に相談されることをおすすめします。
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