昨年11月、埼玉県で警察官から職務質問を受けた男が逃走し、逃げる途中に女性に刃物を突きつけたとして取り押さえられ、公務執行妨害で逮捕されるという事件が起こりました。(※1)
埼玉県では、こういった警察官をはじめとした公務員への公務執行妨害で逮捕される事件が毎年一定数発生しており、そのたびにニュースになっています。
川越市でも過去何度かこういった事件が発生しているため、何かのきっかけで警察官に対して危害を加えてしまい、逮捕されてしまうかもしれません。
普通に生活していればまずそういった事態にはなりませんが、過失によって公務執行妨害とみなされてしまう可能性はゼロではないでしょう。
万が一に備えて、逮捕された後のプロセスや適切な対応について知っておくことは有効です。
そこで本記事では、特に川越で公務執行妨害で逮捕されてしまったケースを念頭に置いて、逮捕後の具体的なプロセスと対応について解説します。
公務執行妨害とはどういう犯罪か?
まず、そもそも公務執行妨害とはどういった犯罪なのでしょう?
公務執行妨害
警察官に限らず、公務員全ての職務活動がその対象となります。
一般的には警察官に対する行為だと思われていますが、役所の職員や教員・消防署員・自衛隊員などの全公務員が対象となります。
また、公務員に対して自分に都合がよい処分をさせたり、逆に都合の悪い処分をさせないために暴行や脅迫などを加えた場合は「職務強要罪」となり、公務執行妨害と同様の刑罰が課せられます。
どこから公務執行妨害となるのか?職務質問など具体的な事例
具体的にどういう行為が公務執行妨害にあたるかといえば、職務執行中の公務員に対して暴行を加えたり、脅迫を行ったりした場合に適用されます。
よくある事例としては、警察官の職務質問に対して殴るなどの行為によって妨害した場合に逮捕されてしまうケースです。
テレビのドキュメンタリー番組などで、警察官に暴行を加えた若者が逮捕されるシーンがありますが、あれが典型的な公務執行妨害のケースといえるでしょう。
川越でも、犯罪の証拠を隠滅しようとしていた男が、職務質問をしてきた警察官に殴る蹴るの暴行を加えたとして公務執行妨害で逮捕される、といった事件が実際に起こっています。
しかし、こういった明らかな「暴行」や「脅迫」がなければ公務執行妨害とはみなされず、たとえば、道を塞いで進行を妨害するといった程度ではただちに適用される可能性は低いです。
警察官などの公務員の職務遂行を邪魔した時点ですぐに公務執行妨害となるのではないかと思われがちですが、暴行行為や脅迫行為がなければ成立しません。
たとえば、警察官に現行犯逮捕されそうになった容疑者が、抵抗して暴力的な行為に出れば公務執行妨害が成立することになりますが、職務質問されて逃げ出そうとしただけでは暴力行為や脅迫行為があったとは認められないため、公務執行妨害とはなりません。
ですが、パトカーや救急車などの緊急車両の通行を妨害した場合などは、たとえ公務執行妨害とはならなくても、道路交通法における進行妨害として逮捕される可能性は十分あります。
間接暴行とは何か?暴言なども含まれる?
ただし、公務員に直接暴行や脅迫を行わなくても、行為によっては「間接暴行」とみなされて公務執行妨害が成立するケースもあります。
たとえば、役所の職員に対して大声で暴言を吐き、怖がらせることで自分の要求を押し通そうとした者が逮捕された事例や、棒を振り回すなどの危険行為が職務の妨害とみなされたケースなどがあります。(※2)
特に公務員に対して怒鳴ったり机を蹴飛ばすといった行為は、直接的な暴力ではないものの、相手に心理的な影響を与えるという意味での暴行に該当するとして逮捕されるケースは少なくありません。
加害者側は特に暴力と思わなくても、衣服を引っ張ったり、肩を押すなどの行為でも公務執行妨害に該当する可能性が高いですから注意が必要です。
また、少々珍しいケースではありますが、警察官が押収した犯罪の証拠を奪って破壊した行為が公務執行妨害とみなされたケースもあります。
このように、直接的な暴行や脅迫がなかったとしても、過度な妨害行為によって公務執行妨害が成立してしまう可能性があることは覚えておきましょう。
職務外の公務員に暴行や暴言、脅迫などをした場合は?
公務執行妨害が成立するためには、その公務員が職務の遂行中である必要があります。
つまり、職務外の公務員に対して暴行や脅迫などを行っても、その人個人に対する暴行罪などが成立するのみで、公務執行妨害とはならないということです。
たとえば、職務質問をしてきた警察官に対して暴行を加えれば公務執行妨害となりますが、休暇中の警察官に対して同じ行為をしても、その警察官個人に対する暴行罪や傷害罪となり、公務執行妨害ではないということです。
一般的な暴行罪・傷害罪についての流れは以下の記事で詳しく解説していますので、こちらも参考にしてください。
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業務妨害による被害者は誰か?
公務執行妨害がその他の犯罪と異なるのは、その被害者が公務員本人ではなく「国」であるという点です。
これは法律に公務執行妨害を定めることによって保護しているのが、公務員自身ではなく、その公務員が遂行している仕事(公務)そのものだからです。
つまり、国にとって重要な公務を妨害されることによる国民全体の損害を防ぐために設けられているのが公務執行妨害であり、公務員にその仕事を命じている国が被害者ということになるのです。
そして注意しておくべきなのが、公務執行妨害と同時に、暴行や脅迫などによって怪我をさせられたり、心理的に悪影響を与えられた公務員個人に対する犯罪も同時に成立するため、ひとつの行為で複数の犯罪が成立してしまう可能性が高いということです。
たとえば、役所の職員の対応に腹を立てて殴ってしまった場合、公務執行妨害と同時に暴行罪あるいは傷害罪が成立します。
公務執行妨害の方は国が被害者として扱われますが、それとは別に傷害罪や暴行罪などの一般的な犯罪も成立し、こちらの被害者は公務員個人となります。
公務執行妨害の刑罰は?時効はあるのか?
公務執行妨害の刑罰は以下の通りです。
公務執行妨害の刑罰
人によって50万円以下の罰金で済む場合もあれば、懲役3年以下の実刑判決が下される可能性もあるなど、他の犯罪に比べても量刑の幅が広いのが特徴です。
これは公務が多種多様であり、それが妨害される状況や被害についても様々なパターンが想定されるからです。
さらに公務執行妨害となる行為は、同時に暴行罪や傷害罪、あるいは脅迫罪などの罪に問われる可能性が高いため、どの罪の刑罰を適用するのかが問題となります。
これに関しては、それぞれの量刑を比較し、より重い方の罰則を適用すると決められています。
たとえば、役所の職員を殴って怪我をさせてしまった場合、傷害罪の量刑は刑法204条によって『15年以下の懲役又は50万円以下の罰金』となっており、公務執行妨害の量刑より重くなっていますから、傷害罪の刑罰が適用されることになります。
ちなみに、公務執行妨害の公訴時効は3年となっており、要件となっている暴行や脅迫と同じ期間となっています。
公務執行妨害で逮捕された後の流れ
実際に公務執行妨害で逮捕されてしまった場合、どうなるのでしょうか?
基本的に逮捕後の流れは他の刑事事件と同様で、まず警察署に連行されて取調べを受けることになります。
他の記事でも説明していますが、逮捕後の警察による取調べには時間制限があり、刑事訴訟法によって48時間までと定められています。
その後は検察庁に被疑者の身柄を送致するかどうかが決められ、送致されると、そこからさらに24時間の検察官による取り調べが行われ、その後は勾留の必要が検討されることになります。
勾留とは被疑者の逃亡や犯罪の証拠隠滅を防ぐため、刑事施設に身柄を拘束しながら捜査を続ける措置で、検察官は送致後24時間以内に被疑者を勾留するか起訴(不起訴)の判断をしなければいけません。
勾留が裁判所に認められると、原則10日間、さらに延長が認められれば最大で20日間身柄を拘束されることになります。
このあたりの流れは以下の記事で詳しく説明していますので、こちらも参考にしてください。
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早期釈放は可能か?無罪になる可能性は?
勾留が決定されると、長期にわたる身体的拘束を受けることになってしまいますが、公務執行妨害の場合、計画的犯罪というよりはその時の突発的な感情によって事件を起こしてしまうケースがほとんどです。
そのため、公務員を死亡させてしまったり、重大な怪我を負わせてしまったというような深刻な事件でなければ、比較的早い段階で釈放されることは少なくありません。
当然、その場合も、しっかりと反省して逃亡や証拠隠滅のおそれがないことを検察官に認めてもらう必要があります。
しかし、起訴されると刑事裁判を受けることになり、裁判が終わるまで身柄を拘束され続けることになってしまいます。
保釈請求が認められれば自宅に戻ることができますが、日本の刑事裁判のほとんどは有罪判決となりますから、前科がついてしまう可能性が高いです。
また、たとえ略式起訴になった場合でも、身柄はその時点で解放されることになりますが、起訴されたことに変わりはないため、有罪になる可能性があります。
逆に、公務員に対する暴行や脅迫の事実が認められなかったり、証拠不十分だった場合は不起訴になったり、たとえ起訴されてしまった場合でも刑事裁判で無罪となる可能性は十分あります。
公務執行妨害で逮捕された場合の適切な対応は?
それでは、公務執行妨害で逮捕された場合の適切な対応は何でしょうか?
それは、すぐに弁護士に連絡して相談に乗ってもらうことです。
これは他の刑事事件と全く同じで、早めの対応こそが重要となります。
逮捕されてから勾留されるまでの間は、たとえ家族でさえも被疑者本人と面会ができず、事件の状況やその後の対策など相談に乗ってあげることができません。
ですが、弁護士ならばいつでも被疑者と接見が可能で、その時点で最適な振る舞いや対策についてアドバイスができます。
逮捕された本人は慣れない環境に精神が疲弊してしまい、警察官や検察官の誘導によって不利な証言をさせられる可能性も考えられます。
しかし弁護士ならば、そのあたりを配慮して具体的な対策を助言できるのに加え、検察官や裁判官に逃亡の可能性や身元の安全性について説明し、早期釈放の可能性を高められます。
被疑者の家族としては、一刻も早く事件の状況と被疑者本人の現状について知りたいでしょう。
被疑者にとっても、留置所での生活や取調べでの精神的ストレスを緩和したいと思うはずです。
不安な被疑者の精神状態を安定させるとともに、早期の釈放や不起訴を勝ち取るためにも、逮捕されてしまったらすぐに弁護士に連絡して来てもらうようにしましょう。
公務執行妨害で逮捕されたら早急に弁護士に連絡を!
公務執行妨害の概要と逮捕後のプロセスについて解説してきました。
どんな犯罪でもそうですが、できるだけ早く法律のプロである弁護士に連絡し、必要な対策をアドバイスしてもらうことが肝要です。
特に公務執行妨害は被害者が国になるため示談交渉ができず、公務員個人もその職責から示談に応じることがほとんどないといわれており、初犯でも罪状によっては懲役刑となってしまう可能性もゼロではありません。
そんななかで、少しでも不利にならないように対応するには、経験豊富な弁護士に相談するのが最も確実な方法であり、実際、早めの対策によって早期釈放や不起訴を勝ち取ったケースも少なくありません。
特に川越で逮捕された場合は、取調べの行われる川越警察署に来てくれる弁護士事務所の連絡先を知っておくことをおすすめします。
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引用、参考サイト一覧
※1:Yahooニュース(職務質問受け逃走、女性に包丁突き付ける 容疑の男逮捕 捜査員、拳銃構え取り押さえる/県警)
※2:最高裁判所ホームページ(最高裁判所判例集)