相続・贈与

相続の遺産分割で成年後見人を立てる場合の手続きを解説

車椅子を押す人

成年後見人の制度は、認知症の方や知的障害などがある方の財産の管理に利用されることが主な目的とされています。

しかし、調査会社の調査によると、日本では2020年の認知症患者数が631万人いるのに対し、2021年の成年後見制度の利用者数は約23万人と、さほど普及が進んでいないといわれています()。

一方で、認知症になった方が相続人になると、遺産分割協議が進まなかったり、相続放棄ができずに莫大な借金を抱えることになるなど、大きなリスクを伴います。

高齢化社会が進む今日、今すぐニーズがなくても、成年後見人の制度を知り、利用を進めておくことは、ご自身やご家族の今後のライフプランを検討する上でも大きな指針になります。

とはいえ、成年後見人は誰がなれるのか、相続で何をしてくれるのか、どうやって選べばいいのかなど、疑問に思われる方も多いかと思います。

そこで今回は、相続の場面をメインに、成年後見人をつけるメリットや選任の手続きについてご説明します。

成年後見人になれる人とは

スーツを着た人「成年後見人」とは、認知症や知的障害・精神障害によって、判断能力が著しく低下した状態の人に代わって、法律行為や財産の管理をする人のことをいいます。

管理される側の人を「被成年後見人」といいます。

成年後見には、任意後見と法定後見の2つの制度があり、法定後見は更に3つの種類に分けられます。

任意後見

本人に判断能力があるうちに、自分の代理人となる任意後見人を選ぶ制度

法定後見

本人の判断能力が不十分な場合に、家庭裁判所が後見人を選ぶ制度

  • 後見人:判断能力がない相続人に代わり、すべての法律行為を代理して行う人
  • 保佐人:判断能力が著しく不十分な相続人に代わり、重要な法律行為を代理する人
  • 補助人:判断能力が不十分な相続に代わり、特定した法律行為だけを代理する人

成年後見人になるのに、特別な資格はいりません。

成年後見人を選ぶ際は、親族などが家庭裁判所に候補者をたてて申し立てをしますが、裁判所が、被後見人の保護のためにベストな人選ではないと判断すると、その候補者が選ばれないこともあります。

通常は、被後見人の親族か、弁護士や司法書士などの専門家がなるのが一般的です。

ただし、被後見人の財産を管理するという目的から、次の人は親族であっても成年後見人になることができません。

  • 未成年者
  • 破産者
  • 行方不明者
  • 家庭裁判所で解任された法定代理人、保佐人、補助人
  • 被後見人に対して訴訟をした人や、その配偶者および直系血族

相続手続で成年後見人をつける必要がある場合

悩む家族人(被相続人)が亡くなると相続が開始し、相続人が被相続人の財産や権利義務を承継します。

相続人の一人が、勝手に遺産を分割することはできず、遺産分割手続は相続人全員が行う必要があります。

判断能力を欠く相続人がいると、遺産分割協議を進めることができません。

だからといって、判断能力のない人を除外して進めた遺産分割協議の効力は無効です。

また、成年後見人ではない親族が、勝手に判断能力のない人の代理人になって遺産分割協議を進めることはできませんし、遺産分割協議書に署名した場合は無効になります。

さらに、ケースによっては私文書偽造罪(刑法159条)に当たる可能性もあります。

そこで、判断能力が欠けている相続人がいる場合は、正式に選ばれた成年後見人が遺産分割協議に参加し、話し合いを進めていくことが必要になります。

相続人が認知症の場合

認知症の方に多い相続トラブルと対策方法を解説」でもご説明していますが、認知症の診断を受けたからといって、必ずしも相続手続きに本人が参加できないわけではありません。

認知症の方の症状の程度によって、法律行為をしたときに、自分の権利や義務がどのように変わるかを理解できる能力(意思能力)があるかをベースに判断します。

具体的には、認知症の判断や症状を記載した医師の診断書やカルテ、「長谷川式認知症スケール検査」(認知症の疑いがある方に行う簡易検査)を参考に、今回の相続の関係性や、遺産の内容などを理解できるかについて、会話等から判断されることになります。

その結果、判断能力が乏しいと判断された場合は、自身が遺産分割協議に参加しても自ら利益を守ることができないので、成年後見人をつけて手続きを行う必要があります。

相続人が障害者の場合

成年後見制度は、「精神上の障害」によって、判断能力が十分でない方に対して、家庭裁判所がその人の権利を守るための後見人を選任し、法律的にサポートする制度です。

そのため、「精神上の障害」がある方は、認知症に限らず、知的障害、精神障害がある方も対象になります。

一方で、精神上の障害はないけれど、身体上の障害がある方の場合は、たとえ銀行に行けず財産管理ができないといった事情があっても、成年後見制度の対象にはなりません。

相続人に知的障害・精神障害があり、判断能力が不十分な場合は、上記の認知症の場合と同様、成年後見人が相続手続きを行うことになります。

成年後見人をつけた遺産分割協議手続きの効果

口論をする手元被相続人の遺産を、相続人が話し合って分け合う手続きを遺産分割協議手続きといいます。

相続人の中に、認知症や知的障害・精神障害のために判断能力が不十分な方の人の代わりに成年後見人がつくことで、通常と同様に手続きを進めることができます。

成年後見人は、被成年後見人のために行動するので、単に遺産分割協議に参加するだけでなく、被成年後見人が不利益を被らないように意見をだすなどして、本人の財産を確保するように努めてくれます。

残念なことですが、相続人に認知症等で判断能力が不十分な方がいる場合、他の相続人が勝手に財産を使ったり、隠ぺいしたり、第三者に譲り渡してしまうこともあります。

成年後見人をつけることで、このような事態を防ぎ、遺産自体を保全することも可能になります。

親族が成年後見人の場合の注意点

親族が成年後見人になった場合、成年後見人も被成年後見人も相続人であるケースでは、利益が相反する恐れがあります。

成年後見人は、被後見人の財産管理を引き受け、利益を追及する行動をする必要があり、その財産を減少させる行為はできません。

一方で、成年後見人も自分の利益を追及する権利があります。

しかし遺産分割協議では、被後見人の利益を追求すると自身の利益が損なわれる等の事態が生じる場合があります。

こうした事態を「利益相反」といいます。

利益相反で特別代理人がいる場合

上記のように、親族が成年後見人の場合、相続の場面で利益相反が生じる可能性があります。

そこで、親族が成年後見人に選任された場合は、成年後見人とは別に「成年後見監督人」を選任するか、「特別代理人」を選任する手続きをする必要があります。

成年後見監督人、または特別代理人が選任されると、彼らが被後見人のために利益を追求してくれるので、成年後見人である人は、自分自身の利益を追求することができます。

相続手続きを成年後見人なしでしたい場合

成年後見人を選ぶと、被後見人が亡くなるまで後見人がつくのが原則です。

被後見人の財産管理、法律行為の追認など、複雑な手続きが長期間続くため、その負担をさけるために成年後見人はつけたくないという声があるのも事実です。

成年後見人をつけずに相続手続きを進めるには、相続人間で、法律で決められた法定相続分で遺産を分けるか、被後見人に生前に適切な遺言書を作成してもらう方法が考えられます。

とはいえ、被相続人が事前に遺言を作成するかどうかは本人の意思によります。

成年後見人なしで相続手続きを進めたい場合は、被相続人を含めて、関係者の判断能力が十分なうちに、弁護士などの専門家を交えて、相談をしておくことをお勧めします。

相続に備えて成年後見人を選ぶ手続

裁判所イメージ成年後見人(法定後見)を選任する手続きは、被後見人の住所地を管轄する裁判所に申し立てをして行います。

具体的には、次の4つのステップで行います。

家庭裁判所への成年後見の申し立て

被後見人の住所地の家庭裁判所に、後見開始の審判の申立てを行います。

申し立ては、本人、配偶者、四親等以内の親族、検察官などが行えます。

申し立てに際しては、

  • 申立書
  • 申立事情説明書
  • 本人の財産目録と資料
  • 後見人候補者事情説明書
  • 親族関係図
  • 親族の同意書
  • 戸籍謄本と住民票
  • 本人に成年後見の登記がない証明書
  • 診断書

を提出します。

家庭裁判所からの事情聴取

状況の確認や調査のために、家庭裁判所に、本人、申立人、成年後見人候補者が呼ばれ調査官が事情を聴きます。

本人が入院中の場合などは裁判所の担当者が病院に出向くこともあります。

このとき、本人の精神鑑定が行われる場合もあります。

家庭裁判所の審判

家庭裁判所は、事情聴取の後に成年後見の審判を行います。

成年後見人候補者から後見人が選ばれることが多いですが、本人の保護の観点から、裁判所がそれ以外の弁護士などの専門家を選ぶこともあります。

成年後見の登記

成年後見人が決まると、裁判所から審判所謄本が届き、法務局で成年後見の旨が自動的に登記されます。

成年後見人の相続を弁護士に相談するメリット

今回は、成年後見人と相続の関係についてご説明しました。

相続は誰しもに訪れるものですが、認知症、障害がある場合など、成年後見人が必要になるケースは少なくありません。

親族がなる場合が多いですが、そもそも弁護士がなることで、相続の利益相反を避けられるメリットもあります。

成年後見人の相続でお悩みの方は、まずはお気軽に法律の専門家である弁護士に、選任の方法や後見人の候補などについて、相談されてみてはいかがでしょうか。

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