埼玉県は、昨年(2018年)6月、同県が提供するサービスが不正アクセスの被害を受けたことを公表しました。(※1)
報告によると、運営している「有限会社ひでのやエコライフ研究所」の所有するサーバーが不正アクセスによって、サイト登録者2,291名の情報が流出した可能性があるとして注意を呼びかけました。
また、埼玉県警は2014年、不正に入手した男性のプロバイダー認証IDとパスワードを中継サーバーに設定し、別の顧客がサーバーに不正にアクセスできる状態にしたとして34歳の男を逮捕しています。(※2)
昨今、全国的にこういった不正アクセスによる事件が注目を集めており、埼玉県もその例外ではありません。インターネットは世界中からアクセスができるため、海外からの不正アクセス事件も多く、当然、川越市でも事件に巻き込まれる可能性は十分あります。
特に悪意をもった者が第三者を巻き込む形で事件を起こす可能性があり、いつの間にか自分のパソコンが不正アクセスの踏み台になっている事もあります。
結果的にそれが原因で全く身に覚えがないにもかかわらず逮捕されてしまうリスクもあるのです。
もし、知らないうちに不正アクセスに巻き込まれて逮捕されてしまったら…。日常的にパソコンやインターネットを使用している人ならば、全く無関係とは言い切ることはできません。
こういった事件に巻き込まれないためにも、まず不正アクセスとは何か、どういう手口があるのかを理解するとともに、万が一、逮捕されてしまった場合の適切な対応について知っておきましょう。
なお、本記事では不正なIDやパスワードの取得による不正アクセスだけではなく、いわゆる不正アクセス禁止法に定められた違法行為であるサイバー攻撃全般について説明し、その罰則と実際に逮捕される(されない)ケースについて解説します。
不正アクセスとは何か?対策は?
不正アクセス
不正アクセスによって、サーバー内の情報を盗み出されてしまったり、サーバーがダウンしてシステムが停止してしまうなどの被害がもたらされます。上述の埼玉県が提供しているサイトのサーバーも、不正アクセスによって登録者の個人情報が大量に流出してしまった可能性があります。
不正アクセスの主な手段としては、下記のようなものが挙げられます。
悪意のあるハッカーがターゲットに決めたサーバシステムへ侵入
正規のアクセス権者のIDとパスワードを利用し、本人になりすましてログイン
電子メールなどで巧みに相手を誘導し、クレジットカードの情報などを盗み出す
ウィルス感染したメールを送り付ける
特に最近では、大手企業や行政組織のみならず、中小企業なども被害に遭うケースが増えており、思わぬところで被害者になってしまうばかりではなく、自分のパソコンがウイルスに感染してしまったことが原因で、周囲に大きな迷惑をかけてしまう可能性もありますから注意が必要です。
不正アクセスへの対策
こういった不正アクセスの被害者とならないためには、まずIDやパスワードを他者が推測しづらいものに変更するといった個人レベルでの基本的な対策から、二段階認証やワンタイムパスワードなどのシステムを導入する方法が考えられます。
また、サーバーの状態や各種アプリケーションを常に最新の状態に維持し、攻撃されづらい環境にしておくことも重要です。
意外なことに、こういった基本的な対策を疎かにしてしまう企業は少なくないため、そこを突かれて不正アクセス被害に遭ってしまうケースは多いのです。事実、国内で起こったサイバー攻撃の90%以上が、基本的なソフトウェアのアップデートやID・パスワードの管理不足によって引き起こされるといわれています。
そのため、まずは基本的なセキュリティ意識をもつことが重要となります。
「踏み台」にされてしまい逮捕される可能性も
また、特に気をつけなければならないのが、自分のコンピューターシステムがウイルスなどに感染することで他のシステムへの攻撃の「踏み台」にされてしまうことです。
攻撃者はターゲットのシステムをウイルスに感染させ、それによっていつでも遠隔操作でそのシステムに対して自由に命令できるようにします。
その結果、そのシステムは完全に乗っ取られた状態になり、システム内のデータの破壊や盗難はもちろん、さらにそこから第三者のシステムを攻撃されてしまう可能性があります。
もしそうなった場合、たんに被害者としてだけではなく、他者のシステムに大きな被害をもたらした加害者の立場として意図せず逮捕されてしまうケースもゼロではありません。
捜査の結果、最終的に被害者であることがわかっても、一時的に容疑をかけられて逮捕されてしまえば、大なり小なり社会的なダメージを受けてしまうでしょう。
そうならないためにも、もし自分のパソコンがウイルスに感染しているかもしれないと感じたら、すぐにインターネットへの接続を止め、ウイルス駆除ソフトなどを使うか、専門の業者に相談するようにしましょう。
不正アクセスの量刑はどのぐらい?逮捕される場合は?
自分で不正アクセスを行ってしまった場合の刑罰は以下の通りです。
不正アクセス禁止法
同法における不正アクセスとは、既に説明したように、本来ならばアクセス権限をもたない者がサーバーや情報システムの内部に不正に侵入する行為のことであり、その多くは悪意のあるハッカーが企業のコンピューターシステムに侵入して情報を盗み出すといったケースです。
また、システムへの侵入だけでなく、他者のパスワードをその人の許可や正当な理由なく取得することも禁じられており、これに違反した場合は
『1年以下の懲役または50万円以下の罰金』
となります。
さらに他人のパスワードを正当な理由がなく他者に提供したり、保管しておくことも禁止されており、どちらも違反すると同じ罰則が科されます。たとえば、不正に入手した友人のSNSのパスワードなどを他人に教えたり、保管しておくだけでも罰せられるということです。
また、フィッシング詐欺などに代表される「なりすまし」によって、他者にパスワードなどを入力させる行為も禁止されており、違反すると同じく
『1年以下の懲役または50万円以下の罰金』
となります。
他者のスマホに勝手にログインすると逮捕される可能性がある
このように、不正アクセスは他人のIDやパスワードを不正に取得し、それを保管したり第三者に提供するなどした場合に成立します。
不正アクセスというと、どうしても企業などのサーバーに侵入して顧客情報を盗み出す、といった大掛かりな事件のイメージが強いのが実態といえるでしょう。
しかし、たんに他人のパソコンやスマホに勝手にログインしたり、そのパスワードを第三者に教えるなどした場合も、個人レベルでの不正アクセスとみなされて逮捕される可能性がありますから注意が必要です。
たとえば、友人や夫(妻)のパソコンやスマホを使う場合であっても、勝手にIDとパスワードを入力してログインした場合は不正アクセスで違法となりますから気をつけましょう。
不正アクセスにならない場合
ただし、最近は他者のLINEなどを盗み見して訴えられるといった事件がたびたび起こっているため、人によっては「他人のスマホの画面を見ただけで不正アクセスになる」といった極端な解釈をしていることもあります。
ですが、実際には他者のスマホの画面を覗き見しただけでは不正アクセスとはなりません。
こういった場合に不正アクセスとなりうるのは、あくまでも「他人の端末のパスワードを解除し、勝手にログインして情報を盗み見る」などした場合で、パスワードの設定がない場合にスマホの画面を覗き見するといった程度では、不正アクセス禁止法違反とはなりません。
たとえば端末に表示されているLINEやメールの内容は、既にダウンロードされている情報となりますから、それを閲覧する行為はネットワークを通じた情報取得とはみなされないからです。
ただし、データ通信がリアルタイムで行われている場合、そこから端末の所有者の許可なく新たにダウンロードされた情報を閲覧する行為は、不正アクセスとみなされる可能性があるので注意しましょう。
また、こういったケースでよくあるのが、パートナーの浮気調査の目的で携帯やスマホを盗み見して問題となる場合ですが、たんに携帯を勝手に見ただけでは不正アクセス禁止法違反となることはまずありません。
しかし、プライバシー権の侵害として損害賠償請求を受ける可能性がありますので、その点は覚えておきましょう。
不正アクセスで逮捕されるとどうなるか?
ここまで不正アクセス禁止法について説明してきましたが、もし不正アクセス禁止法違反で逮捕されてしまった場合、どうなるのでしょうか?
不正アクセス禁止法違反の場合も、他の事件と同じで逮捕されるとまず警察による取調べを受けることになります。
警察による取調べ期間は刑事訴訟法で48時間と決められており、その後、警察の判断によって検察に送致されるか釈放されるかが決まります。
そして取調べの結果、明らかに犯罪の事実がなかったり、軽い犯罪だった場合はすぐ釈放されるケースもありますが、さらに詳しい取調べが必要と判断された場合は、検察官のもとに身柄が送られることになります。
取調べの結果、勾留される可能性が高い
検察に身柄が送られると、その後は検察官による24時間の取調べが行われ、さらに勾留されるかどうかが決まります。
「勾留」とは、長期間の取調べのために被疑者を留置所に拘束することをいい、まず検察官が裁判所に対して請求を行い、裁判所はその被疑者を勾留する必要があるかどうかを判断します。
そして、それが認められると原則で10日間、延長を含めると最長で20日間、留置所で生活しなければならなくなります。
勾留そのものは刑罰ではなく、もし身柄を解放した場合にそのまま逃亡をはかったり、犯罪に関する証拠隠滅を防止するためのものであり、あくまでも取調べをスムーズに行うためのものです。
しかし、被疑者にとってみれば、逮捕後の警察と検察による合計72時間(3日間)の取調べに加え、さらに最長で20日間の勾留ともなれば、社会的なダメージは決して小さくはないでしょう。
さらに取調べの結果、起訴された場合は刑事裁判が終わるまで身体的拘束を受けることになってしまいます。
刑事裁判は平均で2ヶ月以上もの長い時間がかかるため、元の生活に戻るまでに相当な期間が必要になるため、仕事や家庭に多大な影響を与えてしまうことになります。
そうならないためにも、逮捕されたらすぐ弁護士に来てもらい、できるだけ被疑者の不利にならないように弁護をしてもらう必要があります。
逮捕から勾留の流れについては、以下の記事でも詳しく説明していますので、ぜひこちらもご覧ください。
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在宅捜査となるケースも多い
ただし、不正アクセスの疑いで逮捕された場合は、身柄を拘束されることなく在宅捜査になるケースも十分考えられます。
在宅捜査は他の犯罪に比べて罪が軽いと判断された場合や、被疑者に逃亡や証拠隠滅の可能性が薄いと判断された場合に行われる措置で、被疑者は身体的な拘束を受けることなく自宅で生活を続けることができます。つまり、在宅のまま捜査が続けられるということです。
不正アクセス禁止法違反の場合も、大企業や行政組織が絡んだ重大な事件の場合はともかくとして、個人の端末に不正アクセスしたというような事件で、被疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがないという場合は在宅捜査になる可能性も高いでしょう。
身柄を拘束されて行われる捜査に比べると社会的なダメージは大きくはないと思われますが、在宅事件の場合は捜査期間に定めがないため、捜査が長期化してしまう可能性があります。
そのため、被疑者は長い間不安な状態に置かれることになりますし、普通に生活できるからといって、必ず罪が軽くなるという保証はありません。
不正アクセスの被害によっては莫大な損害賠償請求がされる可能性もありますから、弁護士とよく相談して、被害者との示談などの適切な対応をとる必要があります。
逮捕された場合の最適な対応は?
それでは、もし不正アクセスで逮捕されてしまった場合の最適な対応は何でしょうか?
既に何度か言及しているように、早急に弁護士に相談するのがその後の状況を不利にしないための最善の対応となります。
逮捕後の取調べ期間中は、たとえ被疑者の家族であっても面会ができません。
ですが、弁護士だけは、取り調べ期間中でも自由に被疑者と面会して相談を受けることができるようになっています。
そこで孤独な状態で過ごしている被疑者を勇気付けるとともに、取調べ中の適切な対応に関しても助言ができます。
特に不正アクセス事件の場合、真犯人によるパソコンの乗っ取りなども考えられるため、素直に罪を認めてしまうと、身に覚えのない罪によって起訴されてしまい、そのまま刑事裁判で有罪となってしまう可能性もあります。
本来、不正アクセス禁止法は意図的に行った者を罰する規定なので、過失の場合や未遂の場合は処罰対象とはなりません。
しかし過失や未遂の場合でも、警察や検察の誘導によって意図的に行ったかのような自白を引き出されてしまう可能性もありますから、安易に罪を認めてしまうことなく、無実を証明するためにも早急に弁護士に相談しましょう。
弁護士に依頼する具体的なメリットについては、以下の記事でも詳しく説明していますので、ぜひこちらもご覧ください。
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不正アクセスは企業や行政組織だけではなく、個人レベルでも発生する可能性のある事件です。知らないうちに他人に自分のSNSのアカウントでログインされていた場合なども、立派な不正アクセス案件となります。
自分が被害者の立場になった場合は、早急に警察に連絡して対応してもらう必要がありますが、万が一、自分が加害者の立場になってしまった場合、すぐに弁護士に連絡して対応してもらいましょう。対応が早ければ、それだけ不利にならずに済みます。
特に川越市にお住まいの方や、川越で逮捕されてしまった場合などは、取調べが行われる川越警察署に来てくれる弁護士に相談に乗ってもらうことをおすすめします。
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引用、参考サイト一覧
※1:埼玉県(「埼玉(WEB)版家庭のエコ診断」サイトへの不正アクセスについて)
※2:産経ニュース(不正アクセス摘発 埼玉県警など容疑で男2人逮捕)