著作権は、侵害される側・侵害する側、どちらにもなりえます。
クリエイティブ系の仕事をしているフリーランスや個人事業主の方にとっても、自分の作品が盗用された、知らない間にうっかり他人の著作権を侵害していたなど、著作権侵害は身近に発生しうるトラブルです。
著作権が侵害されると、自身の作品の価値が下がりますし、侵害した場合は多額の損害賠償を請求されるなど、大きな問題にも発展しかねません。
そこで、今回は、著作権に関する注意点と、著作権譲渡をした場合のメリット・デメリットについて解説します。
著作権とは何か?
著作権は、著作物に関する著作者の権利のことで、著作権法という法律で定められています。
著作権は、
- 著作物の経済的な利益を保護する狭義の著作権
- 著作物を作った人の人格的利益を保護する著作者人格権
に分けることができます。
財産的な権利を守る狭義の著作権
狭義の著作権は、作り手が創作した著作物を作り手が独占して利用でき、勝手に他人に使わせない権利のことで、通常著作権というと、狭義の著作権のことを指します。
著作権には、複製、アレンジ、上演、放送や展示する権利などが含まれます。
原則として作り手(著作者)が著作権者となり、著作物ができると自動的に著作権が発生します。
著作物とは、
思想又は感情を創作的に表現したものであって、文学・学術・美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法2条1項)
で、文章や絵画、イラスト、写真、映像などが含まれます。
反対に、事実の伝達にとどまる商品の利用説明や、単なるアイデア、ありふれた表現などは著作物とはなりません。
人格的な利益を守る著作者人格権
著作権に似た権利に、「著作者人格権」があります。
著作者人格権とは、著作者の名誉や作品への思い入れを守る権利のことを言い、以下の4つを含みます。
- 著作者が未公開の作品を公開する時期や方法を決める公表権(著作権法18条)
- 著作者が作品に名前を表示するかや表示する名前を決める氏名表示権(同法19条)
- 作品を無断でアレンジされない同一性保持権(同法20条)
- 著作者の名誉または声望を害する方法で作品を利用することを禁止する名誉声望保持権(同法113条11項)
著作権が、著作物の財産的な価値を保護する権利なのに対し、著作者人格権は、著作者の感情面を保護するという点で異なります。
また、著作権は著作者の死後70年続きますが、著作者人格権は著作者が死亡するまでしか保護されません。
著作権を侵害した・侵害された場合に生じる3つの責任
著作物を自由に使える場合を除き、著作権者の許可なく著作権のある著作物を使用した場合、著作権侵害となります。
また、著作者の許可なく著作物のタイトルや内容を変えたり、匿名希望の著作者の本名を勝手に公開するなどした場合は著作者人格権侵害にあたります。
著作権や著作者人格権を侵害した場合、次の3つの責任のどれか、または全てを負う可能性があります。
刑事上の責任・著作権侵害で有罪になる
著作権が侵害され、被害者である著作権者が告訴した場合、刑事上の責任を負う可能性があります(著作権法109条)。
著作権を侵害した場合、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金、著作者人格権を侵害した場合は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金などが定めれれています。
法人などが著作権等を侵害した場合は、3億円以下の罰金とされています(著作者人格権を除く)。
著作権法違反は親告罪と言って、被害者の告訴がなければ起訴されない犯罪類型です。
もしうっかり他人の著作権等を侵害するなどしてトラブルになった場合は、弁護士に直ちに相談し、示談をして告訴を取り下げてもらうなどの対応をとりましょう。
民事上の責任・多額の損害賠償を請求される
著作権や著作者人格権を侵害すると、民事上の責任を負います。
具体的には次のような責任を追及される可能性があります。
損害賠償を請求される
故意(わざと)または過失(不注意で)他人の著作権を侵害し、著作権者に損害を与えた場合は、損害賠償を請求されることがあります(民法709条)。
損害賠償額は、著作物の内容や状況によっては高額になることもあります。
請求された賠償額を払えない場合は、給与や財産を差し押さえられることになります。
昨今、漫画やアニメの海賊版サイトによる著作権侵害が問題になっています。
現行法では著作権者の販売能力を超える金額は損害額に含まれないため、損害賠償額が低額になりがちです。
そこで、海賊版の被害を防ぐために、損害額の増額を可能にする審議が進められています。
差止請求される
著作物がネットなどで公開されて著作権が侵害されているようなケースでは、行為の差止めを請求される場合があります(著作権法112条)。
裁判所から、公開をやめるよう命令を出してもらいますが、実効性を高めるために、公開が続く間は1日何円の支払い義務が生じるとして、間接的に公開停止を強制する方法が取られる場合もあります(間接強制)。
謝罪広告を掲載する
著作者人格権を侵害した場合、著作権者の名誉・声望を回復する措置が認められる場合があります(著作権法第115条)。
具体的には、謝罪広告の掲載や、サイトに謝罪文を掲載する等の対応が考えられます。
社会的責任・報道などで知られてしまうこともある
著作権を侵害すると、新聞やニュースで報道されることがあります。
また最近は、インターネットで著作権侵害が炎上するケースもあります。
最近では、紅白出場歌手のキービジュアルを手掛けるなどした有名イラストレーターが、別の写真家の作品を盗用したのではないかと話題になりました。
一度、盗用・盗作や著作権侵害の報道がされてマイナスイメージがつくと、会社間の取引や信用にダメージが生じ、個人事業主やフリーランスでも、今後の仕事に大きな支障が生じます。
著作権侵害が問題になる場合とは
著作権の侵害と、オマージュや単に影響を受けただけの作品の線引きはどこにあるのか、疑問な方もいるかと思います。
著作権侵害が問題になる条件と具体例は次のようなものです。
著作権侵害が成立する5つの条件
著作権侵害が問題になるのは、次の5つの条件を満たした場合です。
①著作物を侵害したこと
侵害の対象が著作物であることが必要です。
小説、脚本、レポート、講演、楽曲や歌詞、舞踊、絵画、美術工芸品、建物、図形や地図、設計図、映画、写真、プログラムやコンピューターで検索が可能なデータベースの著作物も含まれます。
②著作権の存在
著作物には、著作権があることが必要です。
著作権は、著作物ができたと同時に発生するので、手続きや申請は不要です。
ただし、日本の著作権法が適用されること、著作権は原則として創作者の死後70年で消滅することに注意が必要です(著作権法51条~54条)。
③依拠性があること
依拠性とは、既存の著作物を参考に作られたことをいいます。
作り手が既存の著作物を知らず、たまたま一致したケースでは、著作権の侵害には当たりません。
④類似性があること
類似性とは、既存の著作物と似ていることを言いますが、単純に似ていれば著作権侵害に当たるわけではありません。
表現をする上で、本質的な特徴が似ているかどうかが判断基準になり、一般的なありふれた表現方法で似ているだけの場合は、著作権の侵害には当たりません。
⑤権限がないこと
著作権者から著作物利用の許可を得ず上記の4つの条件に当たる行為をすると著作権侵害に当たります。
反対に、著作権者から了承を得ている場合は、侵害に当たりません。
著作権侵害が問題になる具体的なケース
著作権の侵害が問題になるか分かりにくいケースとして、ポートフォリオとパロディが考えられます。
ポートフォリオへの作成掲載は著作権侵害に当たるか
クリエイターやデザイナーは、自身の作品をポートフォリオに掲載する人は多いのではないでしょうか。
この際、自分の作品であっても、誰に著作権があるのかに注意が必要です。
通常、デザイン作成等を受注すると、依頼主と作成者の間で秘密保持契約(NDA)を締結し、秘密事項を外部に漏洩しないことを合意します。
また、契約書の中には、著作物の権利は依頼主に帰属するという一文が設けられることも少なくありません。
これらからすれば、ポートフォリオに作品を掲載し、転職の際などに他社に成果として見せることは、著作権に違反するようにも思えます。
しかし実務上は、個人目的であれば著作権の侵害に当たらず、問題ないとされています。
とはいえ、無制限に見せるのにはリスクがあります。
発注者名や、著作物の制作当時に所属していた会社名を記載するなどして、著作権は依頼した発注者側にあることを認識した対応を取ることをお勧めします。
パロディ作品は著作権侵害に当たるか
他人の著作物に手を加え、パロディ作品を作成した場合、パロディ作品から他人の著作物の本質的な特徴を感じることができる場合は、著作権の侵害に当たります(参考:「パロディ・モンタージュ事件」昭和55年3月28日最高裁判決)。
抽象的な表現ではありますが、類似性の判断同様、元の著作物の本質的な特徴が新たな作品にも見られる場合は、類似性があるとして、著作権の侵害と認められる可能性が高まります。
著作権譲渡をした場合のメリット・デメリット
著作権は、原則として著作物を創作した著作権者が持ちます。
しかし、著作権は著作権者の判断で自由に譲渡することができます(著作権法60条1項)。
ただし、著作者人格権については、創作者の名誉や人格を保護するという一身専属権なので譲渡や放棄はできません。
著作権の譲渡とは
著作権は、
- 複製権
- 演奏権
- 上映権
- 二次的著作物の利用権
など、目的に応じて様々です。
これらの細分化された権利を支分権といいます。
著作権は、支分権を全て譲渡することもできますし、支分権の一部だけを譲渡することもできます。
著作権が譲渡される場面は、新製品のプロモーション用のロゴやイラストの制作を、外部のデザイナーに依頼するケースなどです。
発注者が受注者と著作権の譲渡契約を結ぶことで、発注者はデザイナーが作ったロゴやイラストを自由に使えるようになるのです。
反対に、著作権を譲渡すると、創作したデザイナーであっても著作権を失うので、発注者の許可なく無断使用したり、手を加えて他の作品に利用したり、自身のSNSでアップするなどすると著作権侵害として違法な行為に当たります。
著作権の譲渡のメリット・デメリット
著作権譲渡契約は、ビジネスの実務の場ではよく締結されます。
著作権譲渡の特徴は、著作権が作成者から発注者に移ることにあります。
この点、著作権が作成者に残り、発注者は作成者の承諾を得て作品を利用する「利用許諾」のケースと異なります。
著作権譲渡契約を結ぶメリットは、発注者が著作権を有するため、発注者側からすれば、より自由にスピーディに著作物を利用できる点です。
受注者側としては、契約段階で、著作権譲渡を含めた金額を交渉し、利用許諾方式よりも高い報酬を得やすいメリットがあります。
一方、著作権譲渡のデメリットとしては、受注者側は、自身が作った作品でも原則著作物を利用できない点があります。
利用したい場合は、著作権者となった発注者の許諾を得る必要があります。
著作権を譲り受ける発注者側のデメリットとしては、著作権を譲り受けても、著作者人格権は譲渡できず作品を作った受注者にあるので、勝手にタイトルや内容に手を加えると著作者人格権の侵害として訴えられる可能性があることです。
契約書に、「譲渡後は著作者人格権を行使しない」と明記することも多いですが、一方的な権利の行使になると、契約自体無効となる恐れもあるので注意が必要です。
また、著作権は全部または一部を譲渡することができますが、翻訳権・翻案権(著作権法27条)と二次的著作物の利用権(同法28条)は、契約書で「著作権すべてを譲渡する」と記載しても譲渡できないので注意しましょう。
著作権の侵害で迷った場合は弁護士に相談を
著作権は、何かを制作する仕事をしている人には避けて通れない問題です。
自身の作品が盗用され著作権を侵害されることもあれば、自身が気付かないうちに他人の著作権を侵害していることもあります。
著作権を侵害すると、損害賠償額が高額になることもあり、特に個人事業主やフリーランスの方には大きな負担となることも考えられます。
このようなリスクを避けるためには、著作権で迷った時には弁護士に相談をすることをお勧めします。
弁護士であれば、契約書のリーガルチェックをして、著作権の所在について不当な内容でないか、損害賠償の条件はどうなっているかなどを事前に確認したり、著作権侵害の有無を確認してもらうことができます。
また、もしご自身の著作権が侵害された場合は、損害賠償を請求するなどの対応を取ってもらうことも可能です。
著作権の判断は難しいことも多いです。
委縮せずに、創作活動に取り組むようにするためにも、著作権で迷われた場合には、お気軽に弁護士にご相談ください。
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