新型コロナウイルス感染症の影響で、多くの人たちが結婚式や旅行などの予定を中止したようです。しかし、予約を取り消すとキャンセル料を請求されることがあります。
結婚式や海外旅行の場合はキャンセル料が高額になりがちなため、トラブルに発展した例も少なくないようです。全国の国民生活センターや消費生活センターなどにもキャンセル料をめぐる相談が急増しています。
他にも、ホテルや飛行機、各種イベント、宴会などさまざまな予約を取り消したためにキャンセル料を請求された方もいらっしゃることでしょう。
そこで今回は、
- コロナの影響で予約を取り消した場合でもキャンセル料を支払わなければならないのか
- 支払い請求を拒否するにはどうすればいいのか
を解説します。
心待ちにしていた予定の取り消しを余儀なくされたうえに、キャンセル料の支払いによって二重苦に陥らないよう、ぜひ参考にしていただければと思います。
キャンセル料の支払い義務はコロナが理由でも契約条項によるのが原則
コロナ騒動で外出自粛が要請されているさなかで、予約を取り消したからといってキャンセル料を請求されるのはおかしいと思う方も少なくないかもしれません。
しかし、何らかの予約をすれば、その時点で相手との契約が成立しています。
したがって、キャンセル料の支払いが必要かどうかを判断するには、契約条項を確認する必要があります。
キャンセル規定の有無を確認しよう
まずは、契約条項の中にキャンセル料に関する規定があるかどうかを確認しましょう。
予約の際に契約書を交わした場合はその契約書を、契約書を交わしていない場合はインターネットの予約(確認)画面やチケットなどに記載されている利用規約をチェックします。
契約条項や利用規約の中にキャンセル料に関する規定がある場合は、基本的にはその内容に従うことになります。
キャンセル規定がない場合はキャンセル料を支払う必要がないのかというと、そうはいきません。その場合は契約に関する一般法である民法の規定を確認する必要があります。
規定がある場合は「不可抗力」に該当するかが問題
キャンセル料に関する規定がある場合でも、新型コロナの影響でキャンセルした場合にどうするのかを定めている規定は、今のところほとんどないと思われます。
しかし、一般的には天災や火災、交通麻痺などの「不可抗力」に関する規定があるはずです。不可抗力によってお客がサービスを利用できなかった場合はキャンセル料の支払い義務は発生しないという規定です。
この規定がある場合、コロナの影響が不可抗力に該当すると判断されればキャンセル料の支払い義務はありません。
しかし、該当しないと判断されればキャンセル料の支払い義務があることになります。
キャンセル料の規定がない場合は民法の規定による
民法では、契約した当事者のどちらかが義務を果たさなかった場合のキャンセル料について、次のように規定しています。
(債務不履行による損害賠償)
第415条 1項
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。引用元:民法
※強調は引用者による
例えば、結婚式場の予約をキャンセルする場合は、お客が「債務者」であり、結婚式場が「債権者」となります。
お客が契約で定められた代金を支払って結婚式を挙行することが「債務の本旨に従った履行」です。
それをしないとき、またはできないときは、「債務者の責めに帰することができない事由によるもの」でない限り、結婚式場は損害賠償としてキャンセル料を請求できます。
ここでも、コロナの影響によるキャンセルが「債務者の責めに帰することができない事由によるもの」と判断されれば、キャンセル料の支払い義務は発生しないことになります。
コロナを理由にキャンセル料の支払いを拒否できる?
前項では、キャンセル料の支払い義務が発生するかどうかは契約条項によるということをご説明しました。
本項ではそれを前提として、コロナの影響でキャンセルした場合にキャンセル料の支払いを拒否できるかどうかを、具体的にみていきましょう。
不可抗力に該当するかどうかはケースバイケース
キャンセル規定がある場合、予約を取り消した理由が不可抗力に該当する場合はキャンセル料を支払う必要はありません。
しかし、コロナの影響によるキャンセルが不可抗力に該当するかどうかについては、ケースバイケースといわざるを得ません。
結婚式場のキャンセルを例にとると、多くの場合は遠方に住む親族や友人・知人などを招くことになるでしょう。
県をまたぐ移動の自粛が要請されている状況であれば、コロナの影響によるキャンセルが不可抗力に該当すると考えることもできます。
ただ、結婚式の開催地や招待客の居住地が特定警戒区域に含まれているかどうや、その地域の感染者数の推移などによっても判断は分かれるでしょう。
今後、キャンセル料をめぐる裁判が起こされ、多数の裁判例が集積されれば一定の基準が明らかとなるかもしれません。
現時点においていえることは、事情によっては不可抗力に該当し、キャンセル料の支払いを拒否できる場合もあるということです。
キャンセル料の減額が認められることもある
キャンセルの理由が「不可抗力」や「債務者の責めに帰することができない事由」に該当しないと判断される場合は、キャンセル料の支払い義務が発生します。
しかし、その場合でも支払うべきキャンセル料を減額できる可能性はあります。
キャンセル規定では、キャンセル料の金額や代金に対する割合があらかじめ定められているのが一般的です。
キャンセル料をあらかじめ定めることは、「損害賠償の予定」(民法第420条)に当たるものであり、法的に有効です。
しかし、事業者側は自由に金額を定めることが可能なわけではなく、平均的な損害額を超える部分の定めは無効となります(消費者契約法第9条1号)。
したがって、必ずしも請求されたキャンセル料を満額支払わなければならないわけではありません。
結婚式場のキャンセルであれば、半年以上前にキャンセルすれば通常は結婚式場に損害は発生しないと考えられます。
この場合、キャンセル料を支払うとしても実費程度が相当でしょう。
コロナの影響で結婚式を中止した場合にキャンセル料の支払いを拒否する方法
キャンセル料が法的に発生するかどうかはケースバイケースなので、事業者側とお客側で意見が異なる場合が多いと考えられます。
ここでは、お客側でキャンセル料は発生しないと判断したものの事業者側から請求された場合に、支払いを拒否する方法をご紹介します。
どのような予約を取り消したかによって方法は多少異なりますが、結婚式場のキャンセルを例としてご説明していきます。その他の予約の取り消しについては、次項でご説明します。
端的に拒否する
キャンセル料の支払いに納得できない場合、まずは拒否する意思を明確に表示することです。
民法上、金銭の支払いについては、支払いを求める側が請求する手続きを行わなければならないことになっています。
お客側で支払う必要がないと判断する場合は、結婚式場側が裁判手続きで請求してくるまで拒否しておけばよいということが一応はいえます。
しかし、結婚式のキャンセル料は高額になることが多いので、結婚式場側も請求を放棄するわけにはいかないでしょう。請求を無視していると裁判に進む可能性も十分にあります。
そのため、まずは拒否しつつも、今後の対応を弁護士に相談するのがおすすめです。
この段階では、無料相談を利用するなどしてキャンセル料の支払い義務の有無や、今後予想される展開などについてアドバイスを受けるとよいでしょう。
弁護士の無料相談については、こちらの記事で詳しく解説していますので参考になさってください。
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交渉する
通常は、結婚式場側から裁判をする前に何度も請求の連絡をしてきます。お客側としても、裁判で争うよりは話し合いで解決する方が望ましいでしょう。
そこで、キャンセル料の支払いについて交渉することになります。
なお、多くの結婚式場では、キャンセルの時期に応じて、概ね以下の水準でキャンセル料を定めています。
- 挙式日の150日~179日前:申込金(全額)+実費
- 90日~149日前:見積もり額の20%+実費
- 60日~89日前:見積もり額の39%+実費
- 30日~59日前:見積もり額の40%+実費
- 10日~29日前:見積もり額の45%+外注(司会など)解約料+実費
- 前日~9日前:見積もり額の45%+外注解約料+納品済みの物品代金
- 当日:見積もり額の100%
結婚式については挙式日の3か月~6か月前には会場を予約し、その後にさまざまな打ち合わせや準備を進めていくものです。
その間、結婚式場側には実費もかかりますし、キャンセルされると他のお客の予約を取れなかったことによる損害も発生します。
そのため、この程度のキャンセル料は平均的な損害額の範囲内であるといえるでしょう。
ただ、コロナの影響によるキャンセルの場合はお客の責任ともいいがたいので、交渉によって減額に応じてもらえる可能性もあります。
どうしてもキャンセル料を1円も支払いたくない場合は、キャンセル理由が不可抗力に該当することを説得的に説明することになります。
日程変更(延期)の場合はキャンセル料がかからない?
最近の結婚式業界の動きとして、11社55式場では、コロナを理由とする結婚式の日程変更(延期)には特別の配慮をすることを発表しています。
具体的には、2020年4月~5月に成約したお客を対象に次のいずれかの対応をするとのことです。
- 実費負担のみで日程変更(延期)に応じる
- キャンセル料を請求するが、延期後の挙式実施時の費用に全額充当する
このような取り組みは、今後多くの結婚式場に広まっていくことも考えられます。予約をキャンセルしてしまう前に、日程変更(延期)の相談を結婚式場にしてみるのもよいでしょう。
裁判で争う
キャンセル料の支払いについて結婚式場との交渉がまとまらない場合は、裁判で争うことになります。
結婚式場からの請求額は先ほどご紹介したキャンセル料程度になると考えられますが、場合によってはさらに高額の損害賠償を請求される可能性もあります。
その場合は、通常発生する損害額がどの程度なのかを立証して減額を主張しなければなりません。
また、損害賠償義務がないことを立証するには、契約どおりに結婚式を挙行した場合のリスクを具体的に主張し、キャンセルが不可抗力であったことを証明する必要があります。
これらの主張・立証には専門的な知識が必要なので、弁護士に依頼する必要があるでしょう。
ただ、弁護士費用がいくらかかるかにつていも気になるところでしょう。弁護士費用の問題についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
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【事例別】コロナの影響によるキャンセル料の考え方
以上が結婚式のキャンセル料を請求されたときの対処法です。しかし、他の契約に関するキャンセル料を請求されてお困りの方もいらっしゃることでしょう。
ここでは、トラブル例が多い各種契約に関するキャンセル料に関する考え方をご紹介します。
以下の事例についても、いずれも基本的には契約条項に従って判断することになりますが、事例別に異なる特徴もあるのでご説明します。
旅行のキャンセル料
渡航自粛が要請されている国への旅行については、そもそもツアーの決行自体が難しいでしょう。
この場合、不可抗力による予約取り消しとして、キャンセル料が免除される可能性が高いでしょう。
大手旅行会社のJTBでは、2020年6月30日出発分までのツアーで催行を中止したものについてはキャンセル料を請求しないことをホームページで公表しています。
他の旅行会社と契約した場合も対応を確認したうえで、納得できない場合は弁護士に相談してみましょう。
その他の国への旅行や国内旅行であっても、コロナの影響によって移動の交通手段や行程、宿泊施設におけるサービスなどが契約どおりにはならないことも考えられます。
その場合には、キャンセル料を請求されたとしても減額できる可能性が高いといえます。
ホテルのキャンセル料
ホテルの宿泊予約の取り消しについては、取り消しの時期に応じてキャンセル料が定められていることが一般的です。
先払いで宿泊予約をした場合は、キャンセル料が発生するとその金額が差し引かれて返金されます。
後払いの場合は、キャンセル料の支払いを請求されることになります。ただし、キャンセル料が少額であることが多いためか、あえて請求しないホテルが多いのが特徴です。
最近の動きとしては、コロナの影響によるキャンセルの場合はキャンセル料を収受しないか、先払い代金を返金しない代わりに優待クーポンを交付するホテルが増えています。
支払済みの予約代金からキャンセル料を差し引かれたり、キャンセル料の支払いを請求された場合は、キャンセルが不可抗力であったことを説明して減免の交渉をすることが必要です。
飛行機のキャンセル料
飛行機の搭乗予約については、ANA、JALをはじめとする多くの航空会社で予約の変更や取り消しに関する特別対応が行われています。
ほとんどの場合、一定の期間内であれば特に理由を問わず、手数料無料で変更や払い戻し(キャンセル)に応じているようです。
航空会社によって条件が異なる場合もあるので、まずは予約した航空会社のホームページなどで対応を確認してみましょう。
イベントのキャンセル料
コンサートやスポーツなどのイベントのチケットを購入したものの中止となった場合は、主催者から代金の払い戻しを受けることができるかどうかが問題となります。
多くの場合は、中止のときには払い戻しを受けることができるという規約に同意して購入しているはずです。この場合は当然、払い戻しを受けることができます。
もし、いかなる理由があっても払い戻しは行われないという規約があれば、消費者の利益を一方的に害するものとして無効(消費者契約法第10条)となる可能性が高いです。
他方で、払い戻しに関する規約がない場合は、やはり民法の規定で判断することになります。
民法第536条1項によれば、契約の当事者のどちらの責めにも帰することができない事由で債務が履行できなくなったときは、債務者は反対給付を受ける権利がないとされています。
コロナの影響によるイベント中止は、主催者にもチケットの購入者のどちらの責めに帰することができない事由といえるでしょう。
この場合、イベントを開催する義務を負っていた主催者(債務者)は、反対給付(チケット代金)を受ける権利を有さないことになります。
つまり、チケット購入者は代金の払い戻しを受けることができます。
ケースごとに個別の判断は必要ですが、コロナの影響でイベントが中止となった場合は、チケット代金の支払いを受けることができる可能性が高いといえます。
宴会のキャンセル料
コロナの影響で、懇親会や歓送迎会などの宴会の予約をキャンセルした方も多いことでしょう。
契約条項や利用規約があれば基本的にはそれに従うことになりますが、小規模の飲食店などではキャンセル料について定めた規定がないところも多いものです。
その場合は、やはり民法の原則に従ってキャンセルが「不可抗力」に該当するかどうかを判断することになります。
お客の立場としてはコロナの影響がある以上は「不可抗力」だと考えたいところですが、必ずしも不可抗力とはいえない場合も少なくないと思われます。
緊急事態宣言を受けて店舗の休業や外出自粛が要請されていたとしても、強制ではないため、キャンセルの時期によってはキャンセル料の支払い義務が発生する場合もあるでしょう。
しかし、その場合でもキャンセル料は「通常発生する損害額」に限られます。店側が仕入れた食材や飲み物を他のお客に提供できた場合は、さほどの損害が発生していないといえます。
コロナを理由とするキャンセル料の支払い拒否を弁護士に依頼するメリット
コロナの影響で何らかの予約を取り消した場合に、キャンセル料の支払い義務があるのか、あるとしても適正な金額がいくらなのかをご自分で判断することは難しいと思います。
そんなときは、弁護士に相談するのがおすすめです。弁護士によるサポートを受けることには、以下のメリットがあります。
不要なキャンセル料を支払わずに済む
事業者側からキャンセル料を請求されると、納得できなくても支払ってしまう方は少なくないでしょう。
特に、「支払わなければ法的手続きをとります」などといわれると、泣き寝入りしてしまう方も多いと思います。
しかし、弁護士に対応を依頼すれば、正当な法的根拠を述べて支払いを拒否し、支払済みの代金については返金を請求してもらえます。
そのため、不要なキャンセル料を支払わずに済む可能性が格段に高まります。
交渉や裁判を代行してもらえる
キャンセル料に関する事業者との交渉や裁判手続きには専門的な知識も必要なうえに手間を要し、多大な精神的負担もかかります。
弁護士は、依頼者の代理人としてこれらの手続きを本人に代わって行います。自分で直接対応する必要がなくなるので、手間と精神的負担が大幅に軽減されます。
キャンセルすべきかどうかを的確に判断できる
結婚式や海外旅行など、ある程度先の予約についてはキャンセルすべきかどうか悩ましいものです。
そんなときに弁護士にサポートを受けることができれば、いつまでにキャンセルすればよいかを的確に判断することができます。
もしキャンセル料を請求された場合でも、すぐに弁護士が対応します。
ただ、コロナを原因とするキャンセル料は新しい問題であり、まだ裁判例もありません。裁判をするとしても勝訴できるかどうかの見通しは持ちにくいため、できる限り交渉で解決するのが無難だということはいえます。
したがって、弁護士に依頼する場合は交渉に長けた弁護士を選びたいところです。
弁護士の選び方についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、ご参照ください。
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コロナ禍でキャンセル料を請求されたら弁護士に相談を
さまざまな予約をコロナの影響でキャンセルすると、事業者側に迷惑がかかるのも分かりますが、お客としても自己都合でキャンセルしているわけではありません。
楽しみにしていた予定をやむを得ずキャンセルしたのに、キャンセル料まで請求されたのでは納得できない場合も多いでしょう。
そんなときは、お気軽に弁護士に相談のうえで法的な落としどころを把握し、適切に対応することをおすすめします。
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