ご家族やご親族が亡くなったら、一定のご遺族の方は遺産を相続することになります。
その際、多くの場合は相続人たちで「遺産分割協議」を行わなければなりません。
しかし、初めて遺産を相続する方は、遺産分割協議といってもどのようなものなのか、どうやって進めれば良いのかが分からずに戸惑ってしまうのではないでしょうか。
相続手続きに不安がある場合は、弁護士に依頼することで適切に遺産分割を進めることができます。
とはいえ、大切な故人の遺産を分割するにあたって、基本的なところは知っておいた方が良いでしょう。
そこで本記事では、遺産分割協議について知っておくべき基礎知識をご紹介した上で、どんなときに弁護士に相談すれば良いのかも解説していきます。
そもそも何をする?遺産分割協議の基礎知識
まずは、そもそも遺産分割協議とはどういうものなのかをご説明します。
基本的なところを知っておかなければ、せっかく遺産分割協議を行っても無効になってしまうおそれもあるので、ぜひお読みいただければと思います。
誰が、どの遺産を、どんな方法で取得するかを決める
遺産分割協議とは、その名のとおり遺産の分割について話し合う手続きです。
人が亡くなったときに誰が相続人になるかということと、相続人ごとにどれくらいの割合で相続するかについては民法で定められています。
しかし、現実には様々な事情がありますし、必ずしも民法に定められたとおりに相続しなければならないわけでもありません。
- 分割すべき遺産として、どのようなものがあるか
- 誰がどの遺産を相続するか
- どのような方法で遺産を分割するか
このように具体的な事柄を相続人全員で話し合って決めるのが、遺産分割協議という手続きです。
相続人全員で話し合う
遺産分割協議には、法定相続人の全員が参加する必要があります。
法定相続人とは、相続人になるべき人として民法に定められた人のことです。
民法では、配偶者のほか、子ども、両親、兄弟姉妹が相続人になるべき人として定められています。
ケースによっては孫や祖父母、甥・姪などが相続人となることもあります。
これらの法定相続人を1人でも欠いて行われた遺産分割協議は無効となるので、注意が必要です。
遺産分割協議に期限はない
遺産分割協議は故人の四十九日の法要が終わった後に始められることが多いですが、「期限」があるのかと気になる方もいらっしゃることでしょう。
しかし、遺産分割協議に法的な期限はありません。
相続が開始してから1年後や5年後、10年以上が経過してから遺産分割協議を行っても問題はありません。
ただし、相続税の申告・納税には相続開始後10ヶ月以内という期限があるので、それまでに遺産分割協議を終わらせた方がいいでしょう。
また、長期間遺産分割協議を行わないで放置していると、さらに相続人の誰かが亡くなる可能性もあります。
そうなると相続関係が複雑になってしまうので、できる限り早期に遺産分割協議をしておくことが望ましいといえます。
似てるようで違う!遺産分割協議と調停
遺産分割協議によく似た言葉に「遺産分割調停」というものもあります。
遺産分割調停とは、家庭裁判所に申し立てて遺産分割について話し合う手続きのことです。
遺産分割協議を行っても話し合いがまとまらず、トラブルに発展した場合に遺産分割調停を申し立てるのが一般的です。
しかし、遺産分割協議で話し合いがまとまらない場合でも、弁護士に依頼すれば遺産分割調停を申し立てなくても円満な遺産分割を期待することができます。
相続トラブルに発展しそうな場合は、お早めに弁護士に相談してみると良いでしょう。
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遺産分割協議が必要なのはどんなとき?
実は、遺産分割協議は全ての場合に必要というわけではありません。
以下のようなケースでは遺産分割協議は不要です。
- 相続人が1人のとき
- 遺言書で遺産分割の方法が指定されているとき
- 遺言書はないが、法定相続分どおりに相続するとき
法定相続分とは、民法で定められた相続割合のことです。
配偶者と子どもが相続人の場合は2分の1ずつ、配偶者と両親が相続人のときは配偶者が2/3で両親が1/3、というように相続人の立場に応じて相続割合が決められています。
ただし、相続人全員の合意があれば、法定相続分とは異なる割合で相続することができます。
遺言書がなく、法定相続分と異なる割合で相続したいときには遺産分割協議が必要です。
また、遺言書がある場合でも相続人全員の合意があれば、遺言書で指定された内容とは異なる方法で相続することができます。
この場合も、遺産分割協議が必要になります。
遺産分割協議をする前にやっておくべき準備とは?
遺産分割協議は早めに始めるのが望ましいですが、必要な準備を怠ると話し合いがスムーズに進まなかったり、せっかく行った遺産分割協議が無効になることもあります。
そこで、遺産分割協議を始める前に準備すべきことをご紹介します。
誰が相続人なのかを調べる
遺産分割協議は、法定相続人の全員が参加しなければ無効になります。
そこで、まずは法定相続人として誰がいるのかを調査しなければなりません。
調査する方法は、亡くなった方が生まれてから死亡するまでの全ての戸籍謄本類を取得することです。
法定相続人が判明したら、その人の戸籍謄本も取得します。
この方法で調査することによって、故人の隠し子や前妻との間に子どもがいたことが判明するケースは珍しくありません。
子どもや兄弟姉妹の中にも、実は故人と血のつながりがなかったことが判明することもあります。
したがって、法定相続人の調査は必ず行う必要があります。
故人が長生きされた場合や結婚・離婚を繰り返している場合、子どもや兄弟姉妹が多い場合などは取り寄せるべき戸籍謄本類が大量になりがちです。
葬儀が終わったら、早めに戸籍謄本類の収集に取りかかった方が良いでしょう。
相続関係を図にまとめる
法定相続人の調査が終わり、誰が相続人なのかが確定したら「相続関係図」を作成しましょう。
相続関係図とは、亡くなった方の相続関係を図式化して、誰が相続人なのかがひと目で分かるようにまとめたもののことです。
後々、故人の預金を引き出したり、不動産の名義を変更するなどの相続手続きの際には相続関係図が必要となります。
図を作成しておくことで、他の相続人にも故人の相続関係を明確に説明することができるメリットがあります。
したがって、遺産分割協議を始める前の段階で相続関係図を作成しておきましょう。
相続関係図の書き方に決まりはありませんが、法務局のホームページに掲載されている「法定相続情報一覧図」の記載例が参考になるでしょう。
全ての相続人に連絡して参加を呼びかける
相続人の中には遠方にいる方や、疎遠になっている方もいることでしょう。
調査して初めて知った相続人もいるかもしれません。
どのような場合でも、遺産分割協議を始めるときには全ての相続人に連絡をして参加してもらわなければなりません。
連絡先が分からない相続人がいる場合は、住民票を取り寄せて、そこに記載されている住所に手紙を送りましょう。
遺産分割協議はどのように進めればいい?
全ての相続人と連絡がとれたら、いよいよ遺産分割協議が始まります。
どのように話し合いを進めれば良いのかが気になる方が多いと思いますが、進め方に特別な決まりはありません。
葬儀やその後の法要で親族が集まった際に話し合うこともよくありますが、それも遺産分割協議のひとつです。
しかし、遺産分割協議の進め方は他にもいろいろあります。
一堂に会する必要はない
遺産分割協議といえば相続人が全員集まって行わなければならないイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。
まずは集まることが可能な相続人だけで集まって話し合い、都合が悪い相続人とは後日話し合うことでも遺産分割協議は成立します。
全員が集まることが可能な日程を確保しようと思っていると、話し合いがなかなか進まないことになりがちです。
とりあえず集まることが可能な相続人とだけでも速やかに話し合いを進めた方が良いでしょう。
電話や手紙、メールによる話し合いでも良い
また、話し合いの形式にも決まりはありません。
相続人同士が実際に会って話し合うだけでなく、電話や手紙、メールを利用して話し合う形式でもかまいません。
集まることが可能な相続人とは集まって話し合い、遠方にいる相続人や多忙な相続人には電話や手紙、メールなどで意思確認をするという進め方もできます。
全ての話し合いを電話などで行っても問題はありません。
ただし、相続人の全員が遺産分割の内容に納得して合意しなければ、遺産分割協議は有効に成立しません。
意思確認はしっかりと行う必要があります。
行方不明者や参加してくれない相続人がいるときはどうすればいい?
ただ、どうしても連絡がとれない相続人や遺産分割協議に参加してくれない相続人がいることで、話し合いが進められないことがあるでしょう。
連絡がとれない相続人がいるときは、家庭裁判所での調停や審判などの裁判手続きが必要になります。
行方不明の相続人がいるときは、その人のために「不在者財産管理人」を選任した上で遺産分割協議を行うことになります。
「話し合いはしたくない。遺産もいらない」という相続人がいる場合は、その人に家庭裁判所で相続放棄の手続をしてもらいます。
あるいは、「相続放棄書」を作成してもらうことでもかまいません。
これらの手続をとるにはある程度の専門的な知識が必要で、悩んでいると時間がどんどん経ってしまいます。
早めに弁護士に相談して手続きを進めた方が良いでしょう。
話し合いがまとまったら作成すべき遺産分割協議書とは?
話し合いによって相続人全員が一定の合意に至ったら、遺産分割協議書を作成しましょう。
ここでは、遺産分割協議書の作成方法などをご説明します。
相続人全員が遺産分割協議書に署名捺印する
遺産分割協議書とは、故人の遺産をどのように分割し、どの遺産を誰が取得するのかについて相続人全員が合意した内容を記載した書類のことです。
遺産分割協議書を作成したら、参加した全ての相続人が署名・捺印します。
捺印は役所に印鑑登録をした実印で行う必要があります。
原本を1通作成して相続人たちにはコピーを配布してもかまいませんが、その後の相続手続きで使用することもある重要な書類なので相続人の数だけ原本を作成するのが望ましいです。
遺産分割協議書が合意内容の証明書になる
話し合いで全ての相続人が遺産分割に合意したとしても、口約束だけですませると後日「言った・言わない」の問題で相続トラブルが起こるおそれがあります。
合意内容を証明するために、遺産分割協議書を残しておくことが必要です。
また、遺産である不動産の名義変更や預金の引き出し・解約など具体的な相続手続きを行う際にも遺産分割協議書が必要になります。
合意した後、時間が経ってから遺産分割協議書を作成しようとすると手間がかかりますし、いったん合意した内容に異議を唱える相続人が出てくるおそれもあります。
遺産分割協議で合意に達したら、すぐに遺産分割協議書を作成しておくことが大切です。
国税庁の遺産分割協議書のひな形が参考になる
遺産分割協議書には何を、どのように書けば良いのかが気になる方が多いと思いますが、書き方に決まりはありません。
ただし、遺産については内容を特定できるように、種類や数量、所在地などを明確に記載する必要があります。
特に不動産については、登記事項証明書の記載どおりに正確に記載しなければなりません。
様式については、国税庁のホームページに掲載されている記載例が参考になるでしょう。
この様式は縦書きで作成されていますが、横書きでもかまいません。
手書きでもパソコンで作成したものでも、どちらでも問題ありません。
ただし、署名は各相続人が自書することが必要です。
遺産分割協議書の作成・提出に必要な書類
遺産分割協議書には各相続人が実印で捺印するので、相続人全員の印鑑登録証明書を添付することが必要です。
その他、添付が必要なわけではありませんが、遺産分割協議書を作成する準備のために以下のような書類が必要になります。
- 被相続人(故人)の戸籍謄本類
- 各相続人の戸籍謄本、住民票
- 不動産の登記事項証明書
- 預貯金通帳
- 株式などの有価証券や保険などの証券類
- 自動車の車検証
その他にも、遺産の内容に応じて様々な証明書類が必要です。
また、次にご説明する預金の引き出しや解約など、具体的な相続手続きにおいて必要となる書類もあります。
預金の引き出し・解約には遺産分割協議書が必要
銀行など金融機関の口座名義人が亡くなると、その口座は凍結されてしまいます。
預金を相続するためには、遺産分割協議書のほか、おおむね以下の書類を金融機関に提出する必要があります。
- 故人の出生から死亡までの連続した全ての戸籍謄本類
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人全員の印鑑証明書
ただし、必要書類は金融機関によって異なる場合があります。
実際に相続手続きを行うときは、金融機関に確認しましょう。
遺産分割協議書が必要なその他の提出先
預金の相続手続きの他にも、遺産分割協議書を提出しなければならない場合があります。
主な提出先としては、以下のようなものが挙げられます。
- 不動産の名義変更 … 登記所(法務局)
- 有価証券の解約・名義変更 … 証券会社
- 保険の解約・名義変更 … 保険会社
- 自動車の名義変更 … 陸運(支)局
いずれの場合も、戸籍謄本類や印鑑証明書の添付を求められますし、他にも添付書類が必要な場合があります。
必要な添付書類については、それぞれの提出先に確認しましょう。
提出先が多い場合は、あらかじめ弁護士に相談しておおよそのアドバイスを受けることで、効率的に進めることができます。
遺産分割協議で困ったらすぐ弁護士に相談しよう
大切な方が亡くなったとき、ほとんどの方は相続手続きに慣れているわけではないので、遺産分割協議を進めようにも分からないことが多いでしょう。
悩んでいるうちに時間が経ってしまうと相続税の申告・納税期限が過ぎてしまい、延滞税などのペナルティを受けるおそれもあります。
また、話し合いがまとまらない場合、無理に話し合いを進めようとすればするほどお互いに感情的になってしまいがちです。
骨肉の争いに発展してしまうと、話し合いをまとめるのは非常に困難になります。
相続トラブルに発展したときは、弁護士に依頼することで解決が期待できます。
ただ、トラブルが深刻になる前に弁護士に依頼すれば、速やかに円満な遺産分割協議を実現することも可能です。
遺産分割協議に不安をお持ちなら、早めに弁護士に相談してみることがおすすめです。
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