電車でトラブルに巻き込まれたことがある人や、トラブルを避けるために日々気を付けている人は多いのではないでしょうか。
日本民営鉄道協会が、駅と電車内の迷惑行為に関して、3,305人を対象に行ったアンケートでは、上位から
- 詰めない、足を伸ばす等の座席の座り方(34.3%)
- 騒々しい会話やはしゃぎまわり(33.9%)
- 扉付近で妨げる等の乗降時のマナー(27.0%)
等が上がりました。
電車内のトラブルは、こうしたふとした迷惑行為から発生することもあり、誰もが加害者・被害者両方の立場になる可能性があります。
また、上記のマナーの問題ではありませんが、電車内で多い性犯罪でも、被害者の立場ではショックでどう対応すればいいか分からなかったり、加害者側も突然逮捕されパニックになって事態を悪化させる人もいます。
そこで今回は、電車トラブルについて、代表的な事例を紹介しつつ、加害者・被害者それぞれの対処方法を解説します。
ケンカや痴漢、置き引きも!電車で多いトラブル事例8選
電車のトラブルは様々です。
ここでは、代表的な8の事例について、ケース別にご紹介します。
暴行
暴行とは、
叩く、殴る、髪を引っ張る、液体をかける等、相手に対してアクションを起こすこと
をいい、法律では次のように規定されています(刑法208条)。
暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。
電車のトラブルでは、乗降時に肩が当たるなどしたことがきっかけで相手の胸ぐらを掴む、唾を吐く、酔って駅員を突き飛ばす等の行為が多いです。
なお、
- 懲役とは、
→刑務所に収監されて労役をしなければならない刑罰 - 拘留とは、
→1日以上30日未満の期間、刑事施設に入れられる刑罰 - 科料とは、
→1,000円以上1万円未満の金銭を納めなければならない刑罰
です。
1万円以上の金銭を納める刑罰が罰金刑になります。
傷害
暴行を加えた結果、相手がケガをした場合、傷害罪が成立します(同204条)。
人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
相手を突き飛ばすという暴行の意図(故意)はあったが、ケガをさせるつもりはなかった場合でも、相手がケガをすれば傷害罪が成立します。
車や駅は段差や階段、柱などが多いこともあり、軽く突き飛ばしたつもりが相手が骨折するなど、重大な傷害事件に発展することも少なくありません。
盗撮
盗撮罪という犯罪はありません。
盗撮は、各都道府県の迷惑行為防止条例(都道府県によって名称が異なります)に規定され、主に公の場所や公共の乗り物での盗撮が禁止されています。
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であつて、次に掲げるものをしてはならない。
2 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物ー東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
盗撮をすると、東京都の場合、
6月以下の懲役又は50万円以下の罰金
が規定されています。
電車では、向かいに座る女性の盗撮、駅のエスカレーターでの盗撮が多いです。
スマホを用いた盗撮が多いですが、中には鞄や穴が開いたサンダルの先に小型カメラを仕込んで盗撮する人もいます。
痴漢
痴漢も同じく、痴漢罪があるわけではなく、都道府県の迷惑行為防止条例で禁止されています。
東京都の場合、盗撮と同じ条例5条▲で、次のように定められています。
公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
ー東京都公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例
上記のように、条例違反の痴漢は、原則として服の上から触る行為が対象になります。
後述するように、下着の中に手を入れて触るような場合は、強制わいせつ罪に該当し、刑罰が各段に重くなります。
強制わいせつ
強制わいせつ罪は、刑法に定められた犯罪で、「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為」をする場合に成立します(刑法176条) 。
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。
−刑法176条
痴漢行為の中でも、下着の中に手を入れて直接触ったり、胸をわしづかみにするような場合は、もはや被害者が抵抗できないような状態と言えるため、強制わいせつ罪が成立するのです。
準強制わいせつ
準強制わいせつ罪(同178条)は、相手が意識がないなど、抵抗できない状態なのを利用して、強制わいせつに当たる行為をした場合に成立します。
電車のトラブルでは、泥酔状態の女性の体を触ったり、熟睡している女性にキスをするといったケースが多いです。
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。
−刑法178条
強制わいせつ罪も、準強制わいせつ罪も、6月以上10年以下の懲役刑が定められています。
窃盗
窃盗は、他人のお金や物を盗む犯罪です。
万引きやスリも窃盗の一類型です。窃盗罪については、刑法235条で次のように規定されています。
他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
−刑法235条
電車で多いのは、満員電車で背後のリュックから財布を盗まれる、パンツのポケットから財布が落ちたのに気付かず下車してすぐに盗まれるようなケースで、いずれも窃盗に該当します。
遺失物横領
窃盗は、他人の支配下にある物を盗む犯罪です。
これに対して、他人の支配下にない物を持ち帰った場合に成立するのが遺失物横領罪(刑法254条)、いわゆる置き引きです。占有離脱物横領罪と言われることもあります。
失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料に処する。
−刑法254条
電車のトラブルでいうと、網棚に置き忘れてあったり、駅構内のベンチに置いたままになっていた、誰のものか分からない鞄を持ちかえったケースが典型的です。
窃盗と遺失物横領の分かれ目はケースによって微妙に異なります。
有罪になった場合の刑罰は大きく異なるので、もし該当する行為をしてしまった場合は、早急に弁護士にご相談ください。
電車トラブルの加害者事例!犯罪をしてしまった場合の対処法
上記でご説明したトラブルの加害者側になってしまった場合、警察沙汰になる可能性もあります。
その場を免れたからと安心していたり、喧嘩になって相手が悪いと放置していると、ある日突然警察が逮捕しに来たり、前科が避けられないタイミングまで事態が進行していることもあります。
警察に通報・被害届を出される手続きの流れ
電車のトラブルで警察が関与する際には、現行犯逮捕される場合と被害届を出される場合の2つのケースがあります。
現行犯逮捕され通報されるケース
電車のトラブルで多いのが痴漢です。
故意で痴漢していた場合に限らず、満員電車で手が当たっていただけの場合でも、相手や周りの人から、「この人は痴漢です」などと言われて確保され、現行犯逮捕されることがあります。
現行犯逮捕は、一般人でもできることが法律で定められています(刑事訴訟法213条)。
ただし、一般人が現行犯逮捕した場合は、すぐに警察官に引き渡さなければいけないことになっています。
そのため、電車内のトラブルで現行犯逮捕された場合は、まず駅員に引き渡されて駅員室などに連行され、警察を呼ばれるのが通常の流れです。
任意同行を求められるケース
現行犯逮捕とまでいかなくても、触った、触っていないのトラブルになり、駆けつけた駅員によって駅員室に連れていかれ、警察を呼ばれることもあります。
この場合は逮捕はされていませんが、駆けつけた警察官に任意同行として警察署に同行することを求められ、取調べを受けることが多いです。
後から被害届を出されるケース
痴漢や窃盗、遺失物横領に限らず、何らかの犯罪をしてその場では逮捕されなくても、後から被害届が出されるケースがあります。
被害届が受理されると、捜査が開始します。
捜査では、防犯カメラの画像分析、交通系ICカードの利用履歴などが水面下で調べられ、ある日突然警察が自宅に来て逮捕されるというケースも少なくありません。
この場合、警察は裁判所が出した逮捕状を持って正式に逮捕しに来ることが多いですが、任意同行を求められる場合と異なり、逮捕を拒否することはできないので注意が必要です。
駅員や警察に囲まれても無視してよいか
電車で犯罪を疑われ、駅員室に連れていかれたり、警察を呼ばれたりすると、その場を離れてよいか、悩まれる方は多いと思います。
出勤前に身に覚えのない容疑をかけられて足止めされると、怒り心頭になる方も少なくありません。
一般人が現行犯逮捕したといっても、実際に犯罪行為があったか明らかにできないことも多いので、警察官は警察署への任意同行を求めるのが通常です。
任意同行は、あくまで警察が一般人に協力を求めるものなので、無視して断って構いません。
その場を離れる場合は、相手を押しのけるなどすると暴行罪や公務執行妨害罪が成立することもあるので、後日必ず出向く時間を約束するなどして、穏やかに立ち去りましょう。
とはいえ、何人もの警官が取り囲むなどして、その場を離れにくいこともあります。
そのような場合は、弁護士に連絡するか、万が一逮捕された場合に備えて、家族に連絡し、逮捕された場合は後述する初回接見▼を依頼するよう伝言しておくことをお勧めします。
電車のトラブルで前科を付けたくない・穏便に解決したい場合の対処法
電車のトラブルで加害者側になってしまった場合、留置場に長期間入ったり、前科がつくことを避けるためには、できるだけ早く適切な対処を取ることが重要です。
弁護士の法律相談を利用する
電車のトラブルに巻き込まれたら、まずは刑事事件に強い弁護士に相談しましょう。
- まだ犯罪がバレていない場合
- ケンカ相手や痴漢をしてしまった相手から慰謝料を請求されている場合
- 電車のトラブルで警察から呼び出しを受けた場合
- 警察署で取調べを受けた後釈放された場合
- 検察庁から連絡が来た場合
どの段階でも弁護士に相談することはできますが、早ければ早いほどできる対応の選択肢は多いです。
一旦警察が関与すると、逮捕されていない場合や、釈放された場合でも水面下で捜査は進んでいます。
相手との示談、反省の情を示すための贖罪寄付など、弁護士でなければできない対応は非常に多いです。1日も早く、弁護士にご相談ください。
逮捕されたら初回接見を依頼する
逮捕されると、逮捕後72時間は家族も面会することはできません。
そして、逮捕の翌日か翌々日に検察庁に送られ、身体拘束を続けるかどうかが検討され、裁判官もこれを認めると、引き続き10日間の留置場生活(「勾留」といいます)が続くことになります。
勾留中は、原則家族や一般人も面会できますが、接見の時間は限られており、接見禁止という処分がつくと面会できません。
弁護士であれば、逮捕後でも、接見禁止がついても、いつでも制限なく面会することができます。これを「接見」といいます。
逮捕後は、できるだけ早く弁護士に接見を依頼し(最初の接見のことを特に「初回接見」といいます)、取り調べのアドバイスを受けることが、今後のために非常に重要です。
電車トラブルの被害者事例!犯罪被害にあったらすべきこと
電車のトラブルの中でも、痴漢や盗撮の性犯罪の場合、現行犯逮捕が基本となり、後日の逮捕は難しいとされています。
そのため、電車トラブルで被害者側になった場合は、次のような対応を意識してください。
電車で被害にあったら現場でやるべきこと
上記のように、特に電車で性犯罪にあった場合は、現行犯逮捕ができないと、よほど監視カメラに鮮明な画像があるなどの事情がない限り、後日通常逮捕するのは難しいと言われています。
電車内で性犯罪にあった場合
もし電車内で痴漢や盗撮などの性犯罪の被害にあった場合は、周りの人に協力を求めるなどして、加害者と思われる人を駅員に引き渡すようにしてみてください。
その際、事前に加害者がお手洗いに行って手を洗うなどすると、掌に残った被害者の衣服の繊維が流れて鑑定をしても証拠が取れないこともあります。
被害にあって加害者が特定できた場合は、早急に駅員を呼ぶか、110番通報しましょう。
電車や駅で窃盗や置き引きにあった場合
窃盗や遺失物横領などのケースでは、日時や場所が分かれば、防犯カメラやIC履歴から、加害者が見つかるケースがあります。
物がなくなったことに気づいたら、路線の担当窓口に届け出れば、見つかった場合に連絡をくれます。
駅の窓口と警察への通報と、両方しておくと安心です。
乗客のケンカに巻き込まれた場合
ケンカの場合、ケガの治療費の請求等に備えて、相手の連絡先を聞いておくことをお勧めします。
その場でやり取りができない状況の場合、被害者側も弁護士に相談し、弁護士を立てれば、代理人として慰謝料や治療費の請求など、全て弁護士に任せることもできます。
相手が逃げてわからない場合は、被害届を提出すれば、操作によって防犯カメラ等から相手が特定できることも少なくありません。
後日でも間に合う犯罪被害の対処法
電車でトラブルにあい、その場では怖くて何もできないことも多いと思います。
上記で、電車のトラブルは即対応することが大切と説明しましたが、後日になってもあきらめる必要はありません。
警察に相談できるときになったら、被害届の提出を検討してみてください。
一人で警察に行くのが怖い、行ってはみたが受理されなかったという場合は、弁護士に相談してみましょう。
専門家が同行することで、被害届が受理されやすくなったり、犯罪の概要を警察に伝えやすくなります。
また、加害者は、同じ路線で犯罪を繰り返していることもあるので、鉄道警察のおとり捜査によって逮捕されたり、別件で逮捕されるケースも実際にあります。
電車のトラブルでは、加害者・被害者どちらも弁護士相談が重要
今回は、電車でよくあるトラブルについて、加害者側・被害者側の両方の立場からご説明しました。
加害者側になった場合はもちろん、被害者側になった場合でも弁護士に相談することは大切です。
加害者になった場合は、被害者との示談や、警察や検察・裁判所との交渉は弁護士しかすることができません。
被害者になった場合、怖さや早く忘れたいという気持ちから、誰にも話したくないという方もいるかもしれません。
しかし、弁護士に相談することで、ご自身の悔しさや怒り、恐怖を加害者側に伝え、反省を促すことも可能になります。
電車のトラブルは、誰もが加害者・被害者双方になる可能性があります。
もし、電車のトラブルに巻き込まれたら、どちらの立場でもまずは弁護士に相談することをお勧めします。
弁護士は、両方の立場を同時に対応することはできませんが(利益相反として禁止されています)、法律の専門家として、どちらの立場でも相談に対応できます。
電車のトラブルでお悩みの場合は、どうぞお気軽に弁護士にご相談ください。
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