など、亡くなった被相続人の遺言の内容に納得できない方もいるのではないでしょうか。
最低限の遺産の取り分もなかった場合、遺留分を請求することができます。
しかし、この遺留分を請求する「遺留分侵害額請求権」の行使には、時効があります。
そして、この時効には複数のパターンがあるので注意が必要です。
そこで今回は、遺留分侵害額請求権の時効と、時効を複雑にさせる要因でもある時効の進行を止める方法について解説します。
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遺留分侵害額請求権の行使とは
不公平な内容の遺言書などで、法定相続人が本来受け取ることができる最低限の遺産を受け取れない場合があります。
その相続人は、多くもらった相手に対して「遺留分侵害額請求権」を行使して、侵害された取り分を取り戻すことができます。
遺留分侵害額請求権を行使できる条件
日本では、民法という法律で、亡くなった人の配偶者や子どもなどが、最低限もらえる遺産の相続分が定められています。
なお、亡くなった人のことを「被相続人」といい、法律上、被相続人の財産を相続できる人のことを「法定相続人」といいます。遺言書があれば、法定相続人以外でも相続することができます。
そして、法定相続人が最低限もらえる遺産のことを「遺留分」といいます。
遺言の内容が不公平で、「遺留分」に当たる遺産すらもらえなかった相続人は、最低限分の遺産を相続できるように「遺留分侵害額請求」をすることができます。
遺留分侵害額請求をできる人、つまり遺留分権利者は、民法で、兄弟姉妹以外の次の法定相続人と定められています。
- 配偶者
:夫か妻が死亡した場合 - 直系卑属
:子ども、孫、ひ孫など、被相続人の直接の子孫 - 直系尊属
:父母、祖父母、曾祖父母など、被相続人の直接の先祖(ただし、子どもと子どもの代襲相続人がいない場合のみ)
つまり、遺留分侵害額請求権を行使する条件として、
- 遺留分権利者であること
- 遺言によって遺留分を侵害されていること
意思表示するには内容証明を送付する
遺留分侵害額請求権を行使する意思表示は口頭でもすることができます。
しかし、後日のトラブルを防ぐためには、権利を行使したことを証拠化しておくことが必要です。
そのために有効な方法が、「配達証明付きの内容証明郵便」で通知することです。
配達証明とは
相手がいつ受け取ったかを郵便局が証明する仕組みをいいます。
意思表示は相手方に到達した時に効力を生じるので(民法97条1項)、相手に届いたことを証明できることは大きな意味があります。
内容証明郵便とは
誰が、誰に、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が証明してくれる仕組みの郵便のことを言います。
通常の料金に手数料を追加して払い、同じ内容を3部用意して郵便局に持ち込めば手続してくれます。
しかし、送る内容に間違いがあっては元も子もないので、事前に弁護士のリーガルチェックを受けることをお勧めします。
内容証明に書くべき内容
配達証明付き内容証明郵便を送る際は、以下の内容を記載し、遺留分を侵害している相手に遺留分侵害額請求権を行使すると分かるように伝えてください。
- 被相続人の情報
- 遺留分を侵害している相手方である相続人の情報
- 遺留分を侵害している遺贈、贈与、遺言を特定した内容
- 遺留分侵害額請求を行うこと
- 遺留分侵害額請求をする日時
- 遺留分権者(本人)の名前
なお、特定の書式はないので、手描きでもワードでもよく、タイトルも、通知書・請求書等、特に決まりはありません。
遺留分侵害額請求権に関する3つの時効と起算点の違い
権利は、長い期間行使しなければ、時効によって消滅します。
遺留分侵害額請求権にも時効があり、権利を守るためには、必ず時効前に請求する必要があります。
具体的には、内容証明郵便によって遺留分侵害額請求をする意思表示をしなければいけません。
ただし、遺留分侵害額請求権の時効は、いつからスタートするか(起算点)によって、権利が消滅するまでの期間が変わります。
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①遺留分の侵害を「知った時」から1年
遺留分侵害額請求権は、「相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」から1年で時効にかかり消滅します(民法1048条)。
この場合の起算点である「相続の開始(中略)を知った時」とは、
- 被相続人が亡くなり相続が発生したと知ったこと
- 自分が相続人だと知ったこと
の両方を指します。
「遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時」とは、たとえば、遺言書に「遺産のすべてを、(他の兄弟姉妹の)A子に遺贈する」などと書かれていて、自分の遺留分を侵害する贈与や遺贈があったことを知った時などを指します。
このように、
- 被相続人が亡くなったこと
- 自分が相続人だと知ったこと
- 自分の遺留分を侵害する贈与や遺贈があったこと
という3点を知った時が起算点となり、時効が進行します。
遺留分侵害額請求は、遺留分権利者が「遺留分侵害額請求をする」という意思表示をすれば効果が生じるので、上記の3点を知った時から1年以内に意思表示をすることで、時効で権利が消滅することを防げます。
②相続開始から10年
たとえば、両親と疎遠で遠方で生活しているなど、親が亡くなり相続が発生したことを知らなかったというケースもあるかもしれません。
しかし、被相続人が亡くなり、相続が発生したことを知らなかったとしても、相続開始から10年が経つと、遺留分侵害額請求権は消滅します。
この場合の起算点は、相続開始があった時、つまり被相続人が亡くなった時です。
相続開始から10年という時効(除斥期間)は、個人の事情に関わらず、法律関係を早期に確定させるための期間なので、進行を止めることは原則としてできません。
相続開始から10年が経過する前に、遺留分侵害額請求をするようにしてください。
③金銭支払請求権の時効は5年
遺留分侵害額請求権を行使すると、「金銭支払請求権」が発生します。金銭支払い請求権は、遺留分侵害額を金銭で支払うように請求する権利で、遺留分侵害額請求権とは別のものです。
この金銭支払請求権は、遺留分侵害額請求をした時を起算点として、原則5年で時効にかかり、消滅します(民法166条1項1号)。
つまり、遺留分侵害額請求の意思表示をしても、その後5年間何もしなければ、遺留分の侵害分を請求できなくなってしまうのです。
時効のパターンまとめ
法改正による条文の変更に注意
昨今、民法の法改正が続き、相続に関するルールも変更になりました。遺留分侵害額請求も関わる点がありますので、ご紹介します。
遺留分侵害額請求をした時期により時効が変わる
2020年4月の民法改正によって、消滅時効のルールが変更されました。これにより、金銭支払請求権▲の時効期間も変更されています。
2020年4月1日以降に遺留分侵害額請求を行った場合、上記のように消滅時効は5年です。
一方、遺留分侵害額請求を行使した時期が2020年3月31日以前だった場合、消滅時効は10年です。
5年の違いは大きいので、いつ請求したか定かでない人は、記録などから明確に思い出すようにしておきましょう。
相続開始の時期により遺留分の精算方法が変わる
法改正により、侵害された遺留分の精算方法も変更されています。
2019年7月1日以降に相続開始したケースでは、侵害された遺留分の精算は、金銭で行うのが原則です。
一方、2019年6月30日より前に相続開始したケースでは、侵害された遺留分は、現物返還で取り戻すのが原則とされていました。
遺留分の精算の名前が変わる
上記のように、従前の遺留分の精算方法は、原則現物返還だったこともあり、「遺留分減殺請求」と呼ばれていました。
しかし、改正によって金銭による精算となったことから「遺留分侵害額請求」と、名前も変更されました。
本やネットで「遺留分減殺請求」という名前を見ることがあるかもしれませんが、「遺留分侵害額請求」と同じ内容を指します。
ただし、その場合、時効や精算方法の情報が改正前の古いまま記載されている可能性もあるので、法改正後の新しい情報を参考にしてください。
過去の相続や遺留分侵害額請求で、遺留分の精算や時効が不明な方は、できるだけ早く弁護士にご相談ください。
3つの時効別・時効中断の効果的な方法
時効によって遺留分侵害額請求権が消滅することを防ぐため、時効を中断させるという方法もあります。
時効が中断すると、そこまでの期間はリセットされ、新たに時効期間をスタートさせることができます。
ここでは、上記でご説明した3つの時効について、時効の進行を中断させる方法をご説明します。
①遺留分侵害額請求権の時効を中断させる方法
相続が開始したこと、自分が相続人であると知ったこと、遺留分が侵害されていることを知ってから1年以内に、遺留分を侵害する贈与や遺贈を受けた人全員に、遺留分を請求する意思表示を行います。
意思表示の方法は何でもよく、口頭で伝えても構いません。
しかし、口頭で伝えたり、LINEやメール、手紙で伝えたのでは、後々言った言わない、届いていないなどのトラブルになりかねません。
そこで、意思表示は、先にご説明した内容証明郵便の方法▲で行うことをお勧めします。
②遺留分侵害額請求権の10年の時効(除斥期間)を中断させる方法
上記でもご説明したように、10年の除斥期間は、自動的に進行し、原則として中断させることはできません。
そのため、遺留分侵害額請求は相続開始から10年以内に行うのが原則です。
相続が開始してから10年経過後でも、特段の事情があったとして除斥期間が適用されなかった事例もありますが、極めて例外的で稀なケースです(仙台高判H27年9月16日※民法改正前)。
必ず相続開始から10年以内に請求するようにしましょう。
③金銭支払請求権の時効を中断させる方法
遺留分侵害額請求権を行使するという意思表示をした後、金銭の支払いを求める裁判を起こすことで、金銭支払請求権の時効を中断させることができます。
具体的には、以下でご説明する内容証明郵便を出して支払いを請求したり、それでも相手が払わない場合は、裁判所に訴えることを検討します。
または、遺留分を侵害している相手方に、侵害した遺留分相当の金銭を支払う義務があることを承認させることでも時効は中断します(同147条)。
具体的には、侵害した遺留分の全額でなくとも、一部でも相手が支払ってくれれば債務を承認したことになり、時効は中断します。
遺留分侵害額請求権の時効中断で気を付けるべき2つのポイント
遺留分侵害額請求をする際は、以下の2つの点に注意してください。
遺言の無効を争う場合も時効は進行する
不公平な遺言が見つかった場合に、遺言そのものが無効だと争う場合があります。
メモ
たとえば、亡父の「遺産のすべてを、(他の兄弟姉妹の)A子に遺贈する」という遺言書があったけれど、父が長年認知症を患い、遺言書を作る能力(遺言能力)がなかったようなケースです。
この場合、遺留分を侵害された相続人(本人)は、遺言無効確認訴訟を起こすことが考えられます。
本人としては、そもそも遺言が無効なのだから遺留分は問題ではないと考えがちですが、遺言無効訴訟中も時効は進行する可能性が高いです。
もし、遺言無効確認訴訟で敗訴になった場合に、遺留分侵害額請求権が時効消滅している可能性もあるので注意してください。
消滅時効の起算点が争いになりやすい
遺留分侵害額請求権は、相続開始があったこと、自分が相続人だと知ったこと、遺留分が侵害されていることを知った時から1年の消滅時効にかかります。
この時効がスタートするタイミングを「起算点」といいます。
遺留分侵害額請求権の消滅時効の起算点、つまり「知った時」がいつかを証明することは難しく、争いになりやすいのが実情です。
弁護士を呼んで遺言を開封したというような、明確なタイミングが明らかになるケースばかりとは限りません。
そのため、被相続人が亡くなってから、できるだけ1年以内に遺留分の請求をすることをお勧めします。
遺留分侵害額請求権が時効消滅しそうで心配な場合は弁護士に相談を
離れて暮らす親が亡くなったけれど疎遠にしていて知らなかった、遺言書に別の兄弟に有利な内容が書かれていてショックを受けたという方もいるかと思います。
しかし、ショックを受けて遺言をそのままにしていると、本来ご自分が受け取る権利のある遺留分も、消滅時効にかかって受け取れなくなってしまう恐れがあります。
遺留分侵害額請求は、相続開始や遺留分侵害の事実を知ったときからのタイムリミット、相続開始そのものからのタイムリミット、請求してすぐに相手が応じてくれない場合のタイムリミットと、さまざまな時間的制限があります。
また、法改正によって、相続開始や当初の遺留分侵害額請求の時期によっても、時効や遺留分の精算方法が異なります。
どうしたらいいか分からない、そもそも時効がいつ来るかわからない場合は、まずは弁護士に相談してください。
また、遺留分侵害額請求はご自身で行うことも可能ですが、家族間で行うのが通常なので、感情的になりがちです。
弁護士であれば、遺言や遺贈の内容はもちろん、遺留分侵害額請求の方法や時期、時効にかからない対応まで任せることができますし、依頼すれば、代理人として代わりに交渉や請求もしてもらえるので、ご家族と直接お金をめぐるやり取りをしなくても済むメリットもあります。
遺留分侵害額請求で時効が心配な方は、遺産・相続に強い弁護士にまずはお気軽にご相談ください。
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