マタハラは「マタニティ・ハラスメント」の略で、妊娠・出産・育児に関する精神的、肉体的な嫌がらせのことです。
特に働く女性に対する上司や同僚からの嫌がらせは法律で禁じられています。
マタハラはセクハラ・パワハラとともに3大ハラスメントといわれていますが、まだまだ知らない人も多いのが現状です。
マタハラの現状
妊産婦の辛さは男性だけではなく経験のない女性にもわかりにくいものです。
軽い気持ちで言った一言が、悪気はなくても傷つけているかもしれません。
出産経験のある女性でも自身の経験をもとに「自分は大丈夫だった。あなたも大丈夫なはず」という思い込みがあります。
まず、どのような言動がマタハラになるのかをみていきましょう。
マタハラの具体例
2014年の日本労働組合総連合会(JTUC)調査によると、マタハラを経験したと回答した女性は25.6%にのぼりました。
マタハラの例は多数あり、判決もでています。
心無い発言・いじめ
- 妊娠・出産・育児を理由に上司・同僚から心無い言葉を投げつけられ、いじめられた。
- 「女は家庭に」などと価値観を押し付けられた。
- 産休・育休を取りにくい職場の風土がある。
- 妊娠前に「妊娠するなら時期を選んでほしい」と言われた。
職務上の不当な取扱
- 内定後妊娠がわかり内定を取り消された。
- 妊娠・出産・育児を理由に解雇・左遷、雇用形態を変更された。
- 妊娠・出産・育児を理由に減給、配置転換された。
- 残業を無理強いされた。
※産休・育休について不当な扱いを受けた場合はこちらの記事もあわせてご覧ください。
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法律が定めるマタハラ
厚生労働省が定める「ハラスメントの類型と種類」によると、マタハラは2種類に分けられます。
妊娠・出産・育児の状態への嫌がらせ
たとえば、「妊婦は休みがちだから、責任ある仕事は任せられない」などと言われる、退職をほのめかされるなどです。
妊娠・出産・育児のための制度利用への嫌がらせ
たとえば、産休、育休をとると「あなたの仕事までやらされている」と嫌味を言われる、「休みをとるなら、辞めてもらう」と言われるなどです。
マタハラは不法行為
職場でのマタハラは法律が禁止している不法行為です。
女性が働きながら妊娠や出産、育児を行う権利は、労働基準法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法によって守られています。
不法行為を行った者(事業主、労働者)は損害賠償責任を負います。
男女雇用機会均等法、育児・介護休業法は2016年(平成28年)に改正され、マタハラ防止処置は事業主の義務となりました。
また、改正前は事業主がマタハラを行って労働者に害を与えることを禁止していましたが、改正後は上司・同僚がマタハラを行うことのないように防止処置もすることになりました。
法律の例
法律の一例をあげると、民法、男女雇用機会均等法では以下のように規定しています。
民法 第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
男女雇用機会均等法
第9条 事業主は、女性労働者が婚姻し、妊娠し、又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。第11条 ~前略~女性労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
マタハラの原因
マタハラがどうしておこるのか、原因は主に以下の5つが考えられます。
男性の理解不足
妊娠・出産期はつわりや貧血に悩まされ、精神的にも不安定になりがちです。
しかし、その状態への理解不足から不当な発言をしてしまう男性が後を断ちません。
もちろん、理解不足は男性だけではありません。
女性同士の不和
職場にはさまざまな女性がいます。仕事に専念したい人、いずれ自分も結婚・出産をしたいと思っている人、妊娠中や産後の負担が少なかった人。
すると、妊娠・出産のために休んだり周りに負担をかけていることを不満に思ったり、嫉妬したりする場合があります。
仕事に支障をきたすこと
産休・育休により周囲の仕事量が増え不満が蓄積され、嫌味発言がでやすくなります。
特に中小企業など人数の少ない職場では人手不足になりやすく、特定の従業員に負担が集中すると職場の雰囲気が重くなってしまいます。
「男が外で働き、女は家庭に」という思い込み
日本では古くから「女性は家庭を守るもの」という概念が浸透していました。
今でも特に中高年の男性には内心そのように思っている人が多いかもしれません。
職場で「子どもができたのなら、家庭に入れば?」といわれたり、就職面接で「子どもを産んでも働きますか?」と質問されたりするのもそのためです。
本人の認識不足
妊産婦本人にも認識不足の面がある場合もあります。
マタハラについての認識不足以外にも、「多少体調が悪くても休めば迷惑がかかる」、「休むのはよくない」という間違った認識があります。
産休・育休は法律で認められた権利なので、周囲への配慮は必要ですが、自信を持って制度を利用しましょう。
マタハラの対処法
2014年の日本労働組合総連合会(JTUC)調査によると、「我慢して、人には相談しなかった」という人が45.7%もいることがわかりました。
泣き寝入りしてしまうと、そのときは何とかなっても、あとで悪化することもあります。
再発防止のためにも誰かに相談してみるのがおすすめです。
相談窓口を利用する
これってマタハラ?そう思ったら、社内の相談窓口や相談できる人に話してみましょう。
社内に噂となって広まるような不安がある場合は、公営・民営の相談窓口を利用するのもおすすめです。
相談するときは、「いつ・だれが・どこで・何回・どういうことを」など具体的な証拠を記録しておくと、話しやすくなります。
マタハラに該当するかどうかわからない場合でも、柔軟に対応してもらえるはずです。
妊娠・出産期は精神的にも不安定になりがちなので、一人で悩むより、相談してみましょう。
マタハラを相談できる窓口例
弁護士に相談する
被害が大きい場合は弁護士に相談するのも有効です。
弁護士が介入することによって、会社は本気で対応せざるを得ないので早期解決を見込めます。
事業主が実施すること
事業主にはマタハラ防止処置が、法律で義務付けられまたは推奨されています。
社内で相談しやすい環境をつくる
相談窓口を設置し個々の相談を受けられるようにします。
さらに、再発防止、制度を利用しやすい環境を整えることが要求されます。
また、プライバシー保護の配慮も必要です。
マタハラが発生してしまったら
すみやかに事実を確認し、被害者への配慮処置、マタハラの言動を行った者の処置、再発防止の処置を行います。
従業員にマタハラを周知させる
マタハラについての事業主の方針を明確に示します。
さらに、妊娠・出産・育児がどういうものなのか、社内でどのようなマタハラ事例がおこっているのか、マタハラ行為者に対してどのような処置をするのか、などを周知させる必要があります。
何故マタハラは重大問題なのか
最後に、意外と認識されていないマタハラの重大性についてまとめておきます。
命に係わる問題である
妊娠は胎児を育む大切な期間であり、マタハラによる肉体的・精神的な負担は流産・早産の原因になります。
ひいては女性の命が危険にさらされることもあります。
企業の存続にかかわる問題である
少子高齢化によって働き手不足は深刻化してきており、企業にとって女性は欠かせない労働力になります。
さらに、嫌がらせにより業務に支障が出る可能性や、マタハラが告発されてSNSで炎上するリスクもあるため、マタハラを軽視する企業の生き残りは難しくなるという考え方もあります。
基本的な人権が侵害される問題である
マタハラは個人の尊厳や選択の自由を奪うものです。
働きながら出産・子育てする女性の権利は、法律によって明確に守られています。
以上のことからも、マタハラ被害は、決して妊婦がガマンすればいいという問題ではありません。
身近な人や公的な相談窓口、労働問題に詳しい弁護士などに相談し、円満な出産・育児ができるよう味方になってもらいましょう。
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