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従業員の履歴書にウソ発覚!経歴詐称で企業ができる対応を解説

2023年10月3日

履歴書・虫眼鏡・ペン・ノート・スマホの写真です。

数年前、海外のMBA等を取得した高学歴のタレントとして有名だった男性が、じつは学位も修士号も取得していなかった経歴詐称が発覚し、表舞台から消えたニュースが話題になりました。

芸能界に限らず、皆さんの企業でも、従業員が履歴書にウソを書いていた、年齢詐称があったというケースはあり得ます。

また実際に、従業員の経歴詐称が発覚して対応に苦慮している方もいるのではないでしょうか。

しかし、安易に解雇してしまうと、企業側が損害賠償などのペナルティを受ける場合があります。

そこで今回は、従業員が履歴書にウソを書いて経歴詐称をしていた場合に、企業側が取りうる対応や予防策について解説します。

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経歴詐称で解雇できる場合

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経歴詐称はどこから懲戒解雇できる?

就業規則がある企業では、経歴詐称は「懲戒解雇」の理由として定められていることが多いです。

懲戒解雇とは、企業の規律に違反した従業員に対する制裁である「懲戒処分」の一つで、最も重いものです。

そのため、就業規則の規定や適正な手続きといった条件のほかに、経歴詐称が懲戒解雇という重い処分に見合ったものである必要があります。

そのため、全ての経歴詐称が懲戒解雇の理由になるわけではありません

懲戒解雇できる経歴詐称のレベルとして、過去の裁判では「重大な経歴の詐称」があることが必要とされています。

具体的には、「経歴詐称が事前に発覚していたら、企業はその従業員を雇わなかったと認められる場合」、または「雇ったとしても同じ条件で雇用契約を結ばなかったと言えるような場合」に、懲戒解雇ができるとされています。

経歴詐称で懲戒解雇できる3つの理由

履歴書に記載される年齢や学歴などの経歴は、企業が従業員を雇用するかどうかの判断の基準になります。

経歴詐称した従業員を解雇できる理由について説明していきましょう。

企業側の判断を誤らせる

従業員が経歴詐称をすると、企業は従業員の労働力を正確に評価することができません。

企業に見合わない者を採用してしまうことで、従業員を適正に配置できないなど、企業としての判断を誤らせる恐れがあります。

企業側と従業員の信頼関係が崩れる

企業と従業員の雇用関係は、お互いの信頼関係に基づいています。

経歴詐称は、この信頼関係を破壊するものと評価できるので、懲戒解雇の理由となりえます。

企業の規律が侵害される

日本企業では、学歴や保有資格によって賃金や職能手当が異なるなど、経歴が労働条件の基準となることもあります。

そのため、経歴詐称によって規律が侵害される可能性も考えなければいけません。

経歴詐称した従業員を懲戒解雇する条件

解雇通知書の写真です。上述したように、懲戒解雇は最も重い処分なので、経歴詐称した従業員を懲戒解雇する際には、次の4つの条件を満たす必要があります。

就業規則に懲戒処分の規定がある

企業が従業員に対して懲戒処分を行うためには、懲戒の理由と懲戒の種類を就業規則に定め、どんな場合にどんな処分がされるのかを従業員に周知しておかなければいけません。

そのため、経歴詐称で懲戒解雇する場合は、経歴詐称をすることが懲戒解雇の理由になることが就業規則に規定されている必要があります。

懲戒処分に合理的な理由がある

日本では、労働契約法という法律で、懲戒する理由にあたる事実に関して、客観的に合理的な理由があることが証拠によって認められなければならないとされています(同法15条)。

つまり、従業員が経歴詐称をしたことを理由に懲戒解雇する場合は、履歴書の記載がウソであることが、客観的な証拠によって認められなければいけない、ということになります。

懲戒処分が社会的に見て相当である

問題となった従業員の行動と、懲戒処分の重さのバランスがとれていることが必要です。

小さな問題で懲戒解雇するなど処分が重すぎる場合は、懲戒処分は無効になります(同法15条)。

上述のように、経歴詐称もすべての場合で懲戒処分が許されるわけではなく、重大な経歴詐称の場合に懲戒解雇ができるというのは、このためです。

懲戒処分が適正な手続きで行われること

懲戒処分をする際は、処分を受ける従業員に弁明の機会を与えるなど、きちんと手続きを行うことが必要とされています。

手続きを取らずにいきなり解雇すると、たとえ経歴詐称の内容が重大であっても、懲戒解雇は無効となります。

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経歴詐称の種類と実例を紹介

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学歴詐称

高卒なのに大卒と履歴書に書いた場合、またはその逆の場合など、最終学歴の詐称は重大な経歴詐称にあたります。

企業としては、従業員の能力について評価を誤り、本来採用しなかったはずの人を雇用したり、本来の学歴とは異なる報酬基準の給与を支払うなど、労務面にも大きな影響を与えるからです。

ただし、企業側が採用時に学歴不問としていた場合は、学歴詐称があっても懲戒解雇が認められない場合があります。

過去の裁判例では、

  • 実際より高い最終学歴を詐称していたことが懲戒事由に該当するとして懲戒解雇を妥当とした判決(神戸製鋼所事件/大阪高判S37.5.14)
  • 企業側が面接時に学歴を尋ねず、業務にも支障もなかった従業員を、経歴詐称を理由に懲戒解雇はできないとした判決(西日本アルミニウム工業事件/福岡高判S55.1.17)

があります。

中途採用者の職歴詐称

就職先の業務が未経験なのに経験があると偽ったような場合、企業としては同種業務の経験を重視して雇用するのが通常なので、重要な経歴詐称にあたります。ただし、企業側が「未経験者歓迎」としていたような場合だと、懲戒解雇は無効とされる可能性が高いです。

過去の裁判例では、

  • プログラミングの経験や能力がない従業員が、能力があると履歴書に記載して採用されたケースで、経歴詐称を理由とした懲戒解雇を有効としたもの(グラバス事件/東京地判H16.12.27)
  • 過去に短期間風俗店で勤務していた職歴を隠してパチンコ店のアルバイトをしていたケースで、経歴詐称を理由に懲戒解雇することは重すぎるとして処分を無効とした判決(パチンコバイト解雇事件/岐阜地判H25.2.14)

があります。

前科前歴

前科・前歴と言った犯罪歴は、本人の同意を得ずに情報を得ることはプライバシー権の侵害として禁止されています。

そのため、職歴や学歴の詐称とは異なる判断が求められ、裁判の判断も分かれがちです。

具体的には、

  • 名誉棄損で服役をしていた前科を隠し、その間海外で働いていたと詐称していた従業員に対する懲戒解雇を有効と判断したもの(メッセ事件/東京地判H22.11.10)
  • 18年前に窃盗で服役していた前科を隠して自動車学校で採用された従業員を、経歴詐称を理由に懲戒解雇することは著しく過酷だとして、懲戒解雇を無効としたもの(豊橋総合自動車学校事件/名古屋地判S56.7.10)

があります。

年齢詐称

従業員の募集や採用で、年齢制限を設けることは原則禁止とされています。しかし、ドライバーの募集など例外として年齢制限がある場合などに、年齢詐称をすることが考えられます。ただ、実務上、保険手続等で実年齢が明らかになるため、事例としては多くありません。

過去の裁判例では、

  • マッサージ店に勤務する従業員を勤怠不良による懲戒解雇したところ、その後年齢詐称が判明したため年齢詐称も懲戒解雇の理由に加えた裁判で、企業が認識していなかった事情は後から懲戒解雇の理由にならないと判断したもの(山口観光事件H8.9.26)

があります。

年齢詐称の場合は法律の規定に要注意

男性が六法全書を開いている写真です。2007年に改正雇用対策法が施行され、募集・採用時に年齢制限を設けることは原則としてできなくなりました。

そのため、従業員が年齢を詐称した場合、企業がペナルティを下すとしても対応方法に注意が必要です。

募集・採用で年齢制限をしてはいけない理由

上記のように年齢制限が禁止された理由は、高齢者やアルバイト等の労働者が就職の機会を得られない状況を改善するために法改正が行われた背景があります。

企業が、募集要項等に年齢制限を記載しても直ちに罰則を受けることはありませんが、行政指導等の対象となる可能性があるので注意が必要です。

例外的に年齢制限が認められる6つの場合

求人で年齢制限は原則認められませんが、以下の6つの場合には雇用対策法施行規則によって例外的に認められています。

定年年齢を上限として募集する場合

定年制の企業で、期間の定めのない正従業員を募集する場合は、定年年齢を上限とする年齢制限が認められます。

法律で年齢制限がある場合

危険有害業務や警備業務など、法律で特定の年齢の就労が制限されている場合は、年齢制限が認められます。

長期勤続によるキャリア形成を図る場合

雇用情勢の悪化に伴い、働き方の窓口を広げるための例外事由で、対象者の職業経験を不問とすることや、新卒者以外でも、新卒者同様に育成するなどの条件のもと、「概ね35歳未満」といった形で年齢制限をすることが認められます。

技術やノウハウ面から特定の職種・年齢層を募集する場合

技術やノウハウを継承しやすくするため、30~49歳の中で、特定の5~10歳幅の年齢層を対象に、その年齢層の人数割合が他の年齢層の「1/2以下」の場合に、年齢制限をして募集できるとされています。

芸術・芸能の分野で特定の年齢層を募集する場合

子役の募集など、俳優やモデルの採用で表現上の都合から必要な場合に、年齢制限をすることが認められます。

高齢者や特定の年齢層を雇用する場合

高齢者や氷河期世代など、特定の年齢層の雇用を促進する施策の対象となる人を採用する場合には、年齢制限が認められます。

従業員が年齢詐称をした場合の注意点

上記のように、採用時に年齢制限が認められないため、従業員が年齢詐称をした場合に、そもそも「重大な経歴違反」と言えるかどうか、慎重に判断する必要があります。

具体的には、特定の年齢層を募集したことが上記の例外事由に該当するか、年齢を基準に仕事や給料の設定がされていたか、年齢を証明する書類に不備はあったか、といった事情をもとに検討しましょう。

また、年齢詐称の程度と、懲戒解雇といった処分の重さのバランスがとれているかも注意すべきです。

場合によっては、懲戒解雇は重過ぎるので、減俸や一定期間の出勤停止など、より軽い処分でなければ、処分自体が無効と判断される場合もあります。

履歴書のウソが罪になる場合も!経歴詐称の防止策

ビジネスウーマンが悩んでいる写真です。経歴詐称を防止するためには、採用段階の審査を厳密に行うことが重要です。

企業としては、学歴、職歴、資格や、それに応じた給与体系などの募集条件を明確化しておくこと、違反して経歴を詐称した従業員に対処するための懲戒規定をおいた就業規則を整備することが必要になります。

また、年齢詐称を防ぐためには、契約時に住民票や年金関係の書類を求めることも有効です。

年齢詐称をするために公的書類を偽造していた場合は、公文書偽造罪などの犯罪が成立する場合があります。

企業が被る不利益を最小限にとどめるためにも、経歴を裏付ける書類の提出を厳密に決めておきましょう。

経歴詐称でお困りなら弁護士に相談を

男性弁護士が目の前に六法全書を広げて座っている写真です。上記でお話してきたように、経歴詐称の形態は様々です。

特に年齢詐称の場合は、法律上年齢制限が許される場合が限られることから、年齢詐称が実際にあったとしても、解雇などの対処方法を取れるかどうかは慎重に検討しなくてはいけません。

また、職歴詐称は中途採用で問題になりがちですが、学歴詐称や年齢詐称ではアルバイトも問題になります。

特に飲食店では、低年齢者を雇用すると法に違反するケースもあるため、年齢の確認は十分に行う必要があります。

企業の規律や、業務レベルを維持するためにも、経歴詐称には厳正な対応が必要です。

一方で、懲戒処分が認められない裁判例が多いことからも、企業の対応は十分に検討して行う必要があります。

弁護士であれば、経歴詐称に見合った懲戒処分の検討と必要な手続き、実行に至るサポートまで、幅広く対応することが可能です。

従業員の経歴詐称でお困りの方は、労働問題に強い弁護士にお気軽にご相談ください。

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