アパートやマンションを借りるとき、保証人になってくれる人がいなくて困った経験はありませんか。
逆に、保証人になってほしいと頼まれて悩んだ経験はどうでしょう。
賃貸借契約の保証人になった場合、借主が家賃を滞納したりすると借主に代わって支払わなくてはならなず、大変な債務を負うことになるかもしれない立場です。
保証人について起こりえる代表的なトラブルとしては、次の3つが挙げられます。
- 保証人になってくれる人がみつからない
- 借主の債務を払い続けなくてはならない
- 保証人は辞めたくても辞められない
このようなトラブルを回避するため、賃貸借契約にまつわる保証人について詳しく知っておきましょう。
-
賃貸住宅でありがちなトラブルとオススメの相談先
アパート・マンションまたは一戸建ての賃貸物件では、思わぬトラブルに巻き込まれてしまったことはありませんか。 できればそのようなトラブルは避けたいところですが、もし起こってしまったなら、なるべくスムーズ ...
続きを見る
なぜ賃貸住宅の契約では保証人が必要なのか
もし、借主に不測の事態が起こって家賃を滞納してしまったら、大家さんは契約を解除し、新しい借り手を探すしかありません。
でも、はじめから保証人を付けておいて、借主が家賃を滞納したときは保証人に払ってもらうことにしておけば安心なのです。
保証人とはそのための制度です。
保証人の条件と審査
保証人は大家さんが安心して契約を結べるように設けられた制度なので、どのような人が保証人になれるのかは大家さんが決めます。
よくある条件としては「安定した収入がある2親等内の親族」です。2親等といえば、祖父母や孫も含まれますが、現実的には親・兄弟・子に頼むことになります。
親に安定した収入があるときは親に頼むことが多いでしょうし、もし、親が現役引退しているようなら兄弟、または収入のある子に頼むことになります。
また、配偶者など同居の親族は保証人になれません。なぜなら、生活をともにしている場合「財布も一緒」ということが多いからです。
保証人の条件を満たしていても、大家さんの審査に必ず通るとは限りません。
遠隔地に住んでいて急ぎのときに間に合わない、安定した収入があるが家賃の金額に見合う収入とはいえない、などさまざまな状況を審査するからです。
賃貸物件での保証人の責任範囲
保証人には「保証人」と「連帯保証人」の2種類があります。
連帯保証人のことも略して保証人と言ったりしますのでややこしいですが、2つの違いをみてみましょう。
保証人と連帯保証人の違い
保証人と連帯保証人の大きな違いは、「先に借主に請求してほしい」といえるかどうかです。
保証人は家賃を請求されても、先に借主に請求するように要請したり、借主の財産から支払うよう要請できます。
しかし、連帯保証人は借主と同等の責任を負うので、支払を拒否することができません。
たとえ借主に支払能力があっても、請求されたら支払わなくてはならないのです。
つまり、保証人よりも連帯保証人のほうがはるかに責任が重いといえます。だから、多くの物件では保証人ではなく連帯保証人を立てるように要求されるのです。
契約の際は保証人なのか連帯保証人なのかを必ず確認しましょう。
連帯保証人の責任の範囲
保証人は、借主が家賃を滞納したときに借主のかわりに家賃を支払わなくてはなりません。
連帯保証人はその他にも借主が物件を傷つけたけれど弁償できない場合は、代わりに弁償したり、損害賠償金なども支払う必要があります。
たとえば、借主が家賃滞納で契約を解除されたのに解除後も居座り続けた場合、その期間の損害賠償義務が発生します。その場合、家賃の2倍もの損害賠償を請求されることもあります。
このように、連帯保証人の責任範囲は保証人よりも広くなっています。
注意ポイント
連帯保証人が支払う責任があるもの
- 家賃の滞納分
- 原状回復費用
- その他の損害賠償
連帯保証人は勝手に解約できない
上に述べたように、連帯保証人の責任は重く、範囲も広いものです。
しかも、一度連帯保証人になってしまうと自分の意思では解約できません。賃借人と賃貸人の両方の同意が必要になります。
また、連帯保証人が亡くなった場合、相続人が連帯保証人の立場を引き継ぐことになります。相続人が連帯保証人になることを拒否するには、相続を放棄するか限定承認するしか方法がありません。
限定承認とは
相続財産の範囲内で債務を支払う限定的な相続で、負債のほうが多くても相続財産以上に支払う必要はなくなります。
ただし、相続人が全員そろって申請する必要があります。また、自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所に申請しなくてはなりません。
相続を放棄すると連帯保証人としての責任は免れますが、他の財産を引き継ぐことができなくなります。
このように見てみると、いかに連帯保証人の責任が重大かわかると思います。
気軽に連帯保証人を引き受けたけれど、一生他人の債務を支払い続けることになるかもしれませんし、相続人にまで迷惑が及ぶのです。
これでは連帯保証人の負担が大きすぎるので、2020年の民法改正で連帯保証の極度額を契約書に明記することが義務付けられました。
それでは、この連帯保証の極度額について詳しく説明しましょう。
保証極度額についての民法改正
2020年の民法改正以前は、連帯保証人は借主が滞納しているかぎりずっと家賃を支払わなくてはなりませんでした。
それでは連帯保証人の責任が重すぎるので、極度額を契約に盛り込まなくてはならなくなりました。違反すると契約自体が無効になるという厳しいルールです。
たとえば、家賃12万円で連帯保証の極度額を150万円に設定したとしましょう。連帯保証人は借主が滞納した約1年分の家賃を支払う責任を負いますが、それ以上に滞納していても支払う必要はありません。
極度額を設定することによって、連帯保証人の負担を軽くすることができ、借主は連帯保証人を依頼しやすくなります。そうすると、賃貸住宅を借りる人の増加にもつながります。
ただし、民法改正による効果は2020年3月31日までに締結された契約には適用されませんので、注意が必要です。
保証人なしでも賃貸住宅に住む方法
保証人になってもらえるような身内がいない場合に、賃貸住宅を借りるにはどうしたらよいでしょうか。
それは、家賃保証を事業としている会社に保証人になってもらうことです。詳しく見ていきましょう。
家賃債務保証会社を利用する
家賃債務保証会社とは、借主が保証料を支払うことによって連帯保証人の役割を果たしてくれる会社です。支払能力の審査に通れば保証を受けられます。
保証料は概ね家賃の0.5ヶ月分~1ヶ月分程度で、賃貸借契約の初期費用を支払うタイミングで支払います。以降は1年ごとの更新で年1~2万円程度というのが多いようです。
連帯保証人を立てなくても賃貸住宅を借りられるのですから、借主にとってはありがたい仕組みです。しかし、家賃債務保証会社のなかには、強硬な取り立てをする悪質な会社もあり、注意しなくてはなりません。
なるべく誠実な会社を選びたいものですが、家賃債務保証会社を選ぶのは借主ではなく、大家さん、または管理会社です。家賃の滞納で最も被害を受けるのは大家さんだからです。
家賃債務保証会社に関するトラブルが増えてきたのをふまえて、2017年、国土交通省によって家賃債務保証会社の任意登録制度が設けられました。
一定の基準を満たした会社のみ国土交通大臣より登録を認めてもらえます。その会社を信頼できるかどうかの一つの指標となるのではないでしょうか。
「保証人」を理解してトラブルを回避しよう
2020年の民法改正によって、極度額の設定が義務付けられ、連帯保証人の負担は軽くなり、依頼しやすくなりました。
それでも連帯保証人がみつからない場合には家賃債務保証会社を利用できる物件を選ぶという方法があります。一定額の保証料を支払うことで保証をしてもらえます。
保証債務や悪質な家賃債務会社でお困りの場合は、弁護士にご相談ください。専門の弁護士が依頼人の立場に立って、親身になってご相談をお受けします。