山での遭難事故のニュースを見るたびに、
「救助にはどれくらいお金がかかるのか」
「費用は本人が払うのか」
と不安になる方も多いでしょう。
結論から言うと、警察や消防などによる公的救助は、原則として個人に直接請求されないことが一般的です。
一方で、状況によっては自己負担が発生するケースもあり、特に民間ヘリや民間救助隊の利用では高額化しやすい点に注意が必要です。
そこで本記事では、登山とスキーなどにおける救助費用の考え方と、保険や事前準備で備える際のポイントについて解説します。
遭難の救助費用は誰が払う?
遭難の救助費用は、「救助を担う主体がどこか」で考える必要があります。
なぜなら、警察や消防などの公的救助で完結するのか、民間ヘリといった外部サービスの利用が入るのかによって自己負担の有無が変わるためです。
公的救助は原則「個人には請求されない」

警察や消防が行う捜索や救助は、公的機関の活動の一環として実施されるため、一般的には遭難者本人に対して救助費用が直接請求されない扱いが原則です。
たとえば…
長野県では消防防災ヘリによる山岳救助は市町村消防の救急や救助の延長として実施しており、現状では救助費用を個人に負担してもらっていないと説明しています。
ただし例外もあることに注意

「無料で済んだ」という結果は、裏を返せば税金などで賄われているということでもあります。
請求が来ない前提で安心し切るのではなく、例外まで把握しておくことが重要です。
たとえば…
救助のための手数料が発生する自治体もあり、その手数料は救助を受けた本人(個人)に請求される場合があります。
代表例としては、埼玉県内の一部山岳地域では防災ヘリが救助のために飛行した時間に応じて手数料が発生するとし、現在は5分ごとに8,000円と案内されています。
登山とスキーによる救助費用の違い
次に、遭難が起きやすい登山とスキーを例に見てみましょう。
登山は警察や消防など公的救助が中心になりやすい一方、スキーはスキー場の管理や施設運営が関わるため、実費負担が問題になりやすいので注意が必要です。
登山では県警・消防の救助は原則公費

前述のとおり、登山での捜索や救助は、警察や消防などが担う公的救助として行われることが多く、費用は公費で賄われる運用が一般的です。
ただし、救助後の搬送や治療にかかる費用は医療費として自己負担になるため、「救助が公費でも出費がゼロとは限らない」点は押さえておきましょう。
スキーでは施設の実費を請求されることがある

スキーでは、スキー場の管理区域やルールが関わるため、費用が発生しやすい傾向があります。
スキー場によっては、パトロールの出動や雪上車両などの稼働に要した実費を、要救助者や依頼者に請求すると定めている場合もあるため確認が必要です。
注意ポイント
特に、管理区域外に出てしまったケースや立入禁止に近い場所での救助は、捜索範囲が広がりやすく、長時間化して費用が膨らむことがあります。
ゲレンデを利用する際は、施設の規約や注意書きも含めて事前に確認しておきましょう。
民間ヘリ・民間救助隊に捜索依頼をすると高額化しやすい
ここでは、民間ヘリ・民間救助隊に捜索を依頼した場合に、費用がどの程度になり得るのか、そして高額化しやすい主な要因は何かを解説します。
公的救助がすぐに動けない場合や、捜索が長引くおそれがある場合には、民間ヘリや民間救助隊に依頼することがあります。
この場合、費用は「時間」と「人手」に比例しやすく、想定していたより高額になりやすい点に注意が必要です。
民間依頼になりやすい状況とは

民間依頼になりやすいのは、次のような事情が重なるときです。
- 天候や視界不良などで公的ヘリが飛べない、または出動に時間がかかる
- 遭難地点が特定できず、広い範囲の捜索が必要
- 夜間対応が必要、または早期発見のため迅速な手配を優先したい
- 負傷の程度が重く、搬送の緊急性が高い
費用が高額化する要因

高額化しやすい要因は「飛行時間」と「日数、人数」に集約されます。
なお、以下でご紹介する料金は事業者や条件によっても変わるため、あくまで目安として捉えてください。
民間ヘリは飛行時間に応じて加算されやすい
民間ヘリは「1時間で40〜50万円程度」と紹介されることがあり、捜索や救助の条件次第でさらに増えるとされています。
捜索が長引くと時間と出動回数が増えやすい
短時間で救助できれば費用を抑えられても、捜索が長引くと飛行回数や飛行時間が伸び、総額が膨らみます。
民間救助隊は「隊員数」と「日数」で積み上がる
民間救助隊の料金は、隊員1名あたりの活動費が1日5万円程度、案件ごとの経費も5万円程度とされ、ここに交通費や宿泊費などの実費、管理費、消費税が加わるのが一般的です。
機材や追加対応で実費が増えることも

ドローンや救助犬、装備の消耗や破損などで追加費用が生じる場合もあります。
以上を踏まえると、民間ヘリが1時間出動した場合、フライトだけで40〜50万円、状況によっては救助隊員の費用も含め、1日あたり50〜100万円になることもあるでしょう。
捜索が長引けば、総額が数百万円規模になることもあります。
遭難費用で困らないために備えるべきこと
遭難時の費用負担は、救助が公的機関だけで済むのか、民間の捜索や搬送が必要になるかで大きく変わります。
いざというときに慌てないためには、保険で備えておくことに加え、遭難を起こさない・長期化させないための準備や知識が必要です。
山岳保険・レジャー保険で「捜索救助費用」が対象か確認する
山岳保険は、遭難時の捜索や救助にかかる費用を補償対象にしている商品があります。
まずは、加入中の保険で「捜索救助費用」がカバーされるかを確認しましょう。
具体的なチェックポイントは次のとおりです。
- 補償対象に「捜索」と「救助」が含まれているか
- ヘリや地上捜索など、想定する手段が対象になっているか
- 補償上限額が十分か
- 冬山登山やスキー場の管理外エリアなどが対象外になっていないか
- 緊急時の連絡先と手順を本人と家族が共有できているか
冬山・スキーを楽しむための基本事項を理解する

冬山登山やスキーは、天候や雪の状態で難易度が大きく変わります。
安全に楽しむためには、特別な技術以前に「楽しむための基本事項」を押さえることが大切です。
結果として遭難そのものを防ぎ、救助が必要になった場合も捜索の長期化を避けやすくなるでしょう。
たとえば、出発前に最新の天気と雪の状況を確認し、少しでも不安があるときは行き先やルートを変える、時間をずらすなど柔軟な判断を心がけてください。
冬は視界不良や気温低下が起きやすく、判断が遅れるほど引き返しにくくなります。
また、装備と体力配分も基本です。
寒さ対策や予備の防寒具、連絡手段の確保など、当たり前の準備が安全さを左右します。
無理をしない計画と基本の徹底がなによりも大切です。
遭難費用は保険と事前準備で備えて登山・スキーを楽しもう
遭難救助は公的救助であれば原則として個人に直接請求されないことが多い一方で、民間依頼は「時間」と「人手」に比例して費用が膨らみやすいです。
いざというときに備えて、山岳保険やレジャー保険で捜索救助費用が対象かを確認しておくことが大切です。
もし遭難後に費用請求が来た場合や、保険でカバーできる範囲が不明な場合、施設側や民間事業者とのやり取りに不安がある場合は、弁護士への相談も視野に入れましょう。
弁護士からのアドバイスがあれば、適切な対応方針を立てられるので安心できます。
