親が亡くなるなどして相続が開始すると、相続人がすべきことはたくさんあります。
死亡から7日以内、14日以内、3か月以内等それぞれ決められた期間内にすべきことが多いです。
2024年4月1日から不動産登記法が改正され、相続登記は相続の開始と不動産の所有権の取得を知ってから3年以内に行わなければいけなくなりました。
3年というと猶予があるように思えますが、それまでに遺言の有無や相続人は誰か、相続財産に何があるかなどを調査し、書類も用意しなければいけないので大変です。
また、上記の法改正により、面倒だからと相続登記をせずに放置していると罰則を受けることになります。
そこで今回は、いざという時に困らないように相続登記を行う際の手続きの流れをご説明します。加えて、司法書士に依頼した場合の費用の目安もご紹介します。
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相続登記の3つのケース
相続登記とは、亡くなった被相続人から相続した不動産の名義を、相続人に変更する手続きのことです。
相続登記の方法には、遺産の分け方によって「遺言書がある場合」「法定相続する場合」「遺産分割協議を行う場合」の3つのケースがあります。
遺言書がある場合の相続登記
亡くなった被相続人が遺言書を残していた場合、遺言書の内容に沿って相続を進め、相続登記を行います。
遺言書には、次の3つの種類があります。
- 自筆証書遺言
被相続人が手書きで作成した遺言書 - 公正証書遺言
公証役場で、2人以上の証人の前で公証人に作成してもらう遺言書 - 秘密証書遺言
自分で作成した遺言書を、公証役場で公証人と2人以上の証人に秘密証書遺言だと確認をしてもらう遺言書
自筆証書遺言と秘密証書遺言を開封する際は、相続人が立ち会って家庭裁判所で検認をしなければならず、勝手に開封すると罰金が科せられる恐れがあります。
遺言書が見つかった場合は、勝手に相続や相続登記を進めず、まずは弁護士にご相談ください。
法定相続人で法定相続する場合
遺言書がなく、法律の決まり通りに相続を進める場合、法定相続人の優先順位と相続分は次のように決められています。
相続順位
第1順位の相続人は亡くなった人の子どもで、子どもが先に亡くなっているときは、その直系卑属(子や孫)が相続人になります。
第1順位の相続人がいない場合は、第2順位の相続人として直系尊属(父母や祖父母)が相続人となります。
第1順位も第2順位も相続人がいない場合は、亡くなった人の兄弟姉妹が第3順位の相続人となります。
法定相続分
配偶者と子どもが相続人の場合、配偶者が1/2、子どもが1/2です。
子どもがおらず、配偶者と亡くなった人の直系尊属で相続するときは、配偶者2/3、直系尊属1/3の割合で分けます。
子どもも直系尊属もおらず、配偶者と亡くなった人の兄弟姉妹が相続人になる場合は、配偶者3/4、兄弟姉妹1/4となります。
遺産に不動産が含まれる場合、価格に換価して分けるのが通常です。
遺産分割協議で分ける場合
遺産分割協議とは、相続人の話し合いによって相続財産の分け方を決めることをいいます。
遺産の中の不動産を1人の相続人に相続させる、など、自由に分け方を決められる一方、相続人全員が参加して合意しなければいけないので、揉めやすいのも特徴です。
合意に達したら内容を遺産分割協議書に記して全員が署名押印し、相続登記もその内容に沿って進めます。
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相続登記の手続の5ステップ
相続登記は「不動産の調査」「相続人の確定」「必要書類の収集」「登記申請書の作成」「登記申請」という5つの段階で進めます。それぞれ順番にご説明します。
相続不動産を調査する
亡くなった被相続人が不動産を所有している場合、不動産の権利関係を調べます。
土地と建物は分けて登記されているので、それぞれの所有者を確認しましょう。
一つの敷地でも登記簿上何筆かに分けられていることもありますし、建物が配偶者と共有名義になっているケースもあります。
相続の対象になるのは亡くなった人の持ち分だけなので、正しい状態を把握することが大切です。
調査の方法は、毎年送付される固定資産納税通知書を参考に、まずは被相続人がどのような不動産を持っているのかを確認します。
次に不動産の謄本を取得して詳細を確認しましょう。不動産の謄本は法務局で取得することができ、オンラインも利用できます。
相続人を確定する
相続の手続きをする際は、相続人全員が関与する必要があります。
相続が発生すると、思わぬところから相続人が現れることもあるので、戸籍謄本などで確認し、確定させていくことになります。
戸籍謄本は役場で取得しますが、遠方の場合は郵送等でも戸籍謄本を取得することができます。
複雑な場合、専門家が行っても2週間程度かかるケースもあるので、ご自分で調査する場合はそれ以上の余裕をもっておきましょう。
相続人が確定したら、遺産の分け方を決めます。
遺言書があれば遺言書の内容が優先されますが、遺言書がない場合は遺産分割協議で遺産の分け方を話し合います。
遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。
話し合いの結果合意した内容は遺産分割協議書にまとめ、相続人全員が署名し押印します。
相続登記は、不動産を引き継ぐ人が必要な書類を収集し、手続きを進めることになります。
書類を集める
相続登記に必要な書類は、対象となる不動産の固定資産評価証明書、戸籍関係の書類、相続人に関する書類などです。
上記でご説明した相続登記のケースによっても必要書類が異なりますが、特に重要な書類は次のようなものです。
- 登記事項証明書
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本
- 被相続人の住民票の除票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 遺産分割協議書および相続人全員の印鑑証明書
- 相続関係説明図
- 固定資産評価証明書
- 相続登記申請書
法務局の「法定相続情報証明制度」を利用すれば、法定相続情報一覧図の写しが入手できるので、上記の相続関係説明図の作成時にも利用することができます。
相続に伴う金融機関での手続きにも利用できるので、取得しておくことをお勧めします。
戸籍謄本を遡って取得するのには時間と手間がかかることもあるので、弁護士などの専門家に相談しながら、早めに対応しておくとよいでしょう。
必要書類の詳細については、以下の記事も併せてご参照ください。
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登記申請書を作成する
相続登記は、上記の書類にも含まれる登記申請書を法務局に提出して行います。
登記申請書は法務局のホームページでダウンロードすることができます。記載例を参考に必要事項を記入してください。
法務局に申請
上記までを順番に進めたら、法務局に相続登記を申請します。
相続登記は、不動産の所在地を管轄する法務局で行わなければいけません。
申請の方法は、
- 法務局の窓口
- 郵送
- オンライン
と3種類ありますが、郵送による申請はミスがあった場合の訂正に時間を要すること、オンラインの申請は事前に電子証明書の取得等が必要になることから、自分で相続登記を申請する際は法務局の窓口に出向く方が多いようです。
他の方法が難しく遠方で出向くのも困難という場合は、弁護士や司法書士への依頼を検討するとよいでしょう。
なお、登記を申請するには、登録免許税を支払う必要があります。
登録免許税の額は不動産の評価額によって異なりますが、3,000万円の不動産を相続登記する際の費用は概ね15万円程度です。
法務局の別の窓口でその分の収入印紙を購入し、登記申請書に貼り付けて提出します。
法務局で書類の審査を経て相続登記が完了するには、およそ7~10日程度かかります。
登記が完了したら登記識別情報の通知や登記完了証が発行されるので、大切に保管してください。
相続手続きの流れに迷ったら
相続手続きの流れに迷ったら、弁護士や司法書士等、専門家に依頼するのも一つです。
相続では、登記手続きの専門家である司法書士をイメージされる方も多いかと思います。司法書士に依頼できることや費用の目安をご説明します。
司法書士に依頼した場合の手続きの流れ
司法書士は、登記の専門家ですが、遺産相続についてトラブルがあった場合に対応する権限はありません。
そのため、亡くなった被相続人が遺言書を残していない場合は、相続人間で遺産分割協議を行い、遺産の不動産を誰が取得するか決めた上で依頼する必要があります。
司法書士に依頼する場合は、主に以下の書類を用意しておく必要があります。
- 被相続人の戸籍謄本(出生からの除籍や改正原戸籍などは司法書士に取得を依頼できるケースが多いです)
- 登記済権利証
- 固定資産税の納付通知書
- 本人確認資料(運転免許証など)
- 遺産分割協議書(印鑑証明書)
- 相続人の資料(戸籍謄本、住民票など)
- 委任状(司法書士に手続きを依頼するためのもの)
上記の資料を揃えたら、司法書士が登記申請書を作成し、管轄する法務局に提出して登記手続きを代行してくれます。
司法書士に依頼した場合の費用の目安
司法書士に登記を依頼した場合、上記でご説明した登録免許税や、資料の取得にかかる実費の他、司法書士に手数料を払う必要があります。
一般的な相続登記では概ね10万円程度というのが相場ですが、相続から時間が経過し権利関係が複雑化していたり、相続人が多いような場合は、数十万円~と高額になる場合もあります。
相談の際に、見積もりを依頼するとよいでしょう。
相続登記の流れやトラブルで困ったら弁護士に相談を
上記のように、司法書士は登記手続きのプロとして、登記申請手続きを代行してくれ、被相続人の出生以降の改製原戸籍の取り寄せなどを行ってくれます。
その点で、非常に力強い味方になると言えるでしょう。
一方で、相続に関する法律トラブルには関与できないのが原則です。
相続を含む民事事件のトラブルで訴訟になった場合、140万円までの簡易裁判所で扱う事件であれば司法書士でも対応できますが、不動産が絡む相続で140万円以下になる可能性はまずありません。
あまり知られていませんが、弁護士も相続登記手続きに対応することが可能です。
弁護士も、戸籍などの資料の取り寄せや相続人の調査を行うことができます。
また、弁護士であれば金額に関わらず相続問題に対応し、相続人同士の紛争の調整は勿論、万が一訴訟に発展した場合でも対応することが可能です。
相続手続きをするのに相続人同士で争いがある、相続人を探せない、など相続手続きでお悩みの方は、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
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