2017年に東名高速道路で煽り運転(あおり運転)の末に家族4人が死傷した事件(以下、東名あおり運転事故)をきっかけに、煽り運転は広く知られるようになりました。
この、東名あおり運転事故の運転手の男性の罪が争われた裁判で、2022年に行われた差し戻し審では危険運転致死傷罪が認められ、男性に懲役18年の刑罰が言い渡されました。
このように、ニュースで目にするのは明らかな煽り運転のケースですが、日常生活の中で、意図せず煽り運転を疑われることもあり得ます。
例えば、
- いつの間にか車間距離が縮まっていた
- 前方の車が遅いので追い抜こうとした
- 車線変更をするのに相手の車に寄ってしまった
など、自覚がないのに煽り運転と思われてしまうケースです。
このようなケースでは、相手のドライバーに車のナンバーを控えられ、警察に通報されて、後日警察から呼び出しを受ける、といった流れになることも少なくありません。
煽り運転に身に覚えがないとはいえ、突然警察から連絡が来たら焦ってしまい、パニックになってしまうことも多いでしょう。
そこで今回は、
- 煽り運転とはそもそもどういう行為をいうのか
- 煽り運転の罰則はどのくらいになるのか
- 煽り運転で通報された場合にどう対応したらいいのか
など、煽り運転の容疑をかけられた場合に知っておくべき知識と対応方法をご説明します。
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煽り運転に当たる行為と刑罰とは
煽り運転について、煽り運転罪といった犯罪があるわけではありません。
煽り運転とは、ほかの車に対して、道路上で危険な運転や必要のない行為をするなどして、交通の危険を生じさせる行為のことを言います。
危険な運転の行為に応じて、以下のような犯罪が成立する可能性があります。
煽り運転で成立する妨害運転罪と罰則
従来、危険な運転によって交通事故が発生し、ケガなどの結果が生じない限り、煽り運転とマナー違反の区別が曖昧でした。
しかし、前述の東名あおり運転事故を受けて、道路交通法の一部が改正され、煽り運転そのものを規制する「妨害運転罪」が新設され、厳罰化が進みました。
- 通行妨害の目的で交通に危険を及ぼす恐れのある方法により、一定の違反をした場合
:3年以下の懲役または50万円以下の罰金 - 上記の行為に加え、高速での停車など著しい危険を生じさせた場合
:5年以下の懲役または100万円以下の罰金
煽り運転に当たる道路交通法違反の10の行為と罰則
上記の「妨害運転罪」が成立するには、通行妨害の「目的」と、交通の危険を生じさせる恐れがある「方法」という条件を満たす必要があります。
ただし、この要件を満たさなくても、「道路交通法」に違反する行為があれば、煽り運転と評価される場合があります。
道路交通法に違反する行為の中でも、特に危険性の高い行為として、警察庁は次の10の行為を煽り運転としています。
1.通行区分違反(道路交通法第17条)
逆走したり、直線レーンで右折するなどの行為をいいますが、中でも、急に対向車線に飛び出すなどすると煽り運転に当たります。
この場合の罰則は3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金です。
2.急ブレーキ違反(道路交通法第24条)
危険防止のためにやむなく急ブレーキをかける場合を除き、急ブレーキは禁止されています。ほかの車を追い抜いて前方で急ブレーキをかけるなどすると、煽り運転に該当します。
急ブレーキ違反の罰則は3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金です。
3.車間距離不保持(道路交通法第26条)
煽り運転でよくみられるのが、車間距離を詰める行為です。道路交通法では、車の急停止に備え十分な車間距離を保つことが求められています。
車間距離不保持の罰則は、高速道路の場合は3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金、その他の道路では5万円以下の罰金です。
4.道路変更禁止違反(道路交通法第26条の2 第2項)
急な割込みや進路変更の繰り返しは、煽り運転に該当します。道路交通法では、周囲の車に影響を与えるような進路変更は禁止されています。
この場合の罰則は5万円以下の罰金です。
5.追い越し違反(道路交通法第28条)
左右から無理な追い越し運転を繰り返すと、煽り運転に該当します。道路交通法では、追い越し時には右側を通行することが義務付けられています。
追い越し違反の罰則は3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金です。
6.減光等違反(道路交通法第52条第2項)
他の車の後ろについてハイビームの照射やパッシングを続ける等の行為は煽り運転に該当します。道路交通法では、他の車両の運転を妨げる場合は、ライトを消したり暗くするなどの対応が求められています。
罰則は5万円以下の罰金です。
7.警音器使用制限違反(道路交通法第54条)
道路交通法では、不必要に警音器(クラクション)を鳴らすことが禁止されています。他の車両に対して、煽り目的でクラクションを鳴らす行為は規制の対象になります。
この場合も、5万円以下の罰金が定められています。
8.最低速度違反(道路交通法第75条の4)
高速道路では最低速度に満たない速度での走行が禁止されています(標識の定めがない場合の最低速度は時速50キロ)。高速道路で、わざとノロノロ運転を行うと、煽り運転にあたる場合があります。
最低速度違反の罰則は5万円以下の罰金です。
9.高速自動車国道等駐車違反(道路交通法第75条の8)
高速道路上では、原則として停車や駐車が禁止されています。東名高速道事件でもありましたが、自車を停車して他の車を停車させるような行為は煽り運転に当たります。
この場合の罰則は3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金です。
10.安全運転義務違反(道路交通法第70条)
無理な幅寄せ、蛇行運転などは、煽り運転に該当する場合があります。
道路交通法では、運転者に確実なハンドルやブレーキなどの操作をしてほかの車や人に危害を加えないような方法とスピードで運転することが義務付けられています。
違反すると3ヵ月以下の懲役または5万円以下の罰金が定められています。
危険運転致死傷罪が成立する場合と罰則
煽り運転だけでも罰則が適用されますが、さらに煽り運転行為によって人を死傷させてしまうと、危険運転致死傷罪(自動車運転死傷行為処罰法第2条)に当たる場合があります。
人を負傷させた場合は15年以下の懲役、死亡させた場合は1年以上20年以下の懲役が規定されています。
殺人罪が成立する場合と罰則
煽り運転で人を死亡させ、さらに運転の態様等から殺意が認められる場合、殺人罪が認定される場合があります。
実際に、2018年に、車がバイクに追突してバイクを運転していた男性が死亡した事故では、ドラレコ(ドライブレコーダー)に記録されていた、車の運転手が執拗に煽り運転を繰り返す様子や、追突直後に「はい、終わり」などとつぶやいた対応から殺人罪が適用されました。
殺人罪の刑罰は死刑または無期もしくは5年以上の懲役刑です。
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煽り運転で通報・逮捕されるケース
上記のように、煽り運転に該当する行為は様々です。
ご自身がそのつもりがなくても、相手の車が煽られたと思い、通報して逮捕される可能性も否定できません。
煽り運転で逮捕されるケースには、
- 現行犯逮捕される場合
- 後日逮捕される場合
の2つがあります。
現行犯で逮捕されなくても、後日突然警察から呼び出しを受けることもあるので注意が必要です。
現行犯逮捕される場合
現行犯逮捕とは、犯罪が目の前で行われている場合や、犯罪を行い終わったことが明白な場合に、逮捕状なくできる逮捕のことを言います。
煽り運転の現行犯逮捕のケースでは、煽り運転を受けた被害者側が、運転中や停車後に通報し、高速道路交通警察隊等が駆けつけて逮捕に至ることが多いです。
また、通報した被害者が警察の指示を受けてサービスエリアやパーキングエリアに避難し、臨場した警察によって逮捕されることもあります。
現行犯以外でナンバープレートから後日逮捕される場合
煽り運転の場合、現行犯逮捕以外でも後日逮捕される場合があります。
多いのは、煽り運転を受けた側の運転手が車のナンバープレートを控えておき、後日警察に被害届を提出するケースです。
被害届が受理されると捜査が開始します。
ドラレコがない場合でも、オービス(速度違反取締装置)やサービスエリアなどに設置されているカメラ画像などから煽り運転に当たると認められると、警察から呼び出しを受けたり、場合によっては朝自宅に警察が来て、任意同行として警察署に出向いて事情聴取を求められる場合があります。
ドラレコ画像から煽り運転が発覚する場合
昨今、ドラレコを搭載している車が増えています。
煽り運転で通報される場合、通常はドラレコも証拠として提出されます。
行為の日時、態様が記録されたドラレコ画像は煽り運転の強力な証拠になるため、後日警察から呼び出しを受けたり、場合によってはすでに容疑が明らかであるとして逮捕状が請求され、通常逮捕に至る可能性も否定できません。
後日警察から煽り運転について電話が来た場合の対応方法
煽り運転をした場合、警察から連絡が来るケースとしては、「逮捕状を取って通常逮捕しにくる場合」と「任意で事情聴取をする場合」の2つのケースがあります。
警察が逮捕状を持ってきた場合と流れとは
上記のように、ドラレコ画像などから煽り運転が認められ、逮捕の条件が揃うと、警察が逮捕状をもってくる場合があります。
これを「通常逮捕」といいます。通常逮捕が認められるためには、次の2つの条件を満たさなければいけません。
- 「被疑者が罪を犯したことが疑うに足りる相当な理由」があること
- 「逮捕の必要性」があること
具体的には、証拠から煽り運転をしたことが明らかで、逮捕しなければ、逃亡したり証拠隠滅をすることが疑われる場合です。
通常逮捕は「強制捜査」と言って、これを拒否することは原則できません。
逮捕されると、48時間以内に警察から検察に事件が送られ、24時間以内に検察が勾留するかどうかを検討し、裁判官も同意すると勾留決定されます。
この逮捕から最長72時間の期間は、家族であっても面会することができず、会えるのは弁護士だけです。勾留が決定すると、それから10日間は留置場生活が続くことになります。
早期の釈放を目指すには、できるだけ早く弁護士に相談して活動をしてもらうことが重要になります。
警察からの電話で事情聴取される場合
警察から電話がきたり、直接家に来るなどして、事情聴取・取り調べを求められる場合があります。
これは通常「任意捜査」といって、あくまで警察が一般人の協力を求める態様になります。
だからといって、無下に協力を断ったり、連絡を無視するべきではありません。
警察も、被害者の通報を受けて、ある程度捜査をしたうえで連絡してきているので、いつまでも無視を続けていると、逃亡が疑われて逮捕状が発布される事態にもなりかねません。
警察から呼び出しを受けた日の都合が悪い場合は、日程の調整を依頼するなどして、早急に対応するように心がけることをお勧めします。
そして、取り調べまでに、できる限り弁護士に相談し、取り調べや今後の対応方法についてアドバイスを受けておくことが重要です。
弁護士に煽り運転を相談すべきタイミング
煽り運転は、重大な結果を招きうる危険な行為ではありますが、不慣れな運転や、ちょっとしたイライラ等で荒い運転をしてしまったことが、煽り運転と誤解されて通報される恐れもあります。
煽り運転で通報された場合、または通報されるかもしれないと思った場合は、できるだけ早く弁護士に相談することが大切です。
このような類型の場合、相談が早ければ早いほど、できる対応の選択肢が多いからです。
逮捕される前であれば逮捕を防ぐ弁護活動、逮捕された場合は早期釈放を目指す弁護活動、また相手方と示談をしたり、日頃はまじめな社会人であることなどを伝えるなどして、できる限り有利な状況を集め、前科がつくことを防いだり、罪を軽くする活動をすることができます。
相手方との示談交渉や、検察官、裁判官との交渉は、弁護士しかすることができません。煽り運転で通報されたら、1日も早く弁護士に相談することをお勧めします。
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