日常生活のトラブル

毒親の扶養義務を拒否できる場合・放棄しても罰則を受けないケースを解説

2022年10月21日

遠くを見ている女性

暴力、暴言、過度な干渉、過保護、または放置、ネグレクトなど、子どもにとって毒ともいえる対応をとる親のことを「毒親」といいます。

子どものころに、毒親に辛い目にあわされてきた方、大人になってもお金の無心や過干渉などで毒親との関係が続いている方の中には、「親の扶養義務を拒否したい」「毒親の介護はしたくない」という方は少なくありません。

また、毒親からやっと離れたものの、日々の生活で手いっぱいで、親の面倒をみる余裕はないという方もいます。

一方で、日本の法律では、家族間で経済的に相互に援助しあうべきという「扶養義務」が定められています。

扶養義務があると聞くと、毒親に苦しめられ、今の生活も大変なのに、毒親の扶養義務を負うのか毒親の扶養義務を拒否できる方法はあるのかお金がない場合はどう対処したらいいのかなど、不安に思う方もいると思います。

そこで今回は、毒親の扶養義務について、扶養義務の内容や、拒否する方法を解説します。

介護や同居は必要か?親子の扶養義務の内容とは

家系図と人形

毒親の中には、同居を求めてくる、将来の介護を当然のように要求してくる人もいるのではないでしょうか。

日本では、民法877条1項で、「直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養する義務がある。」と扶養義務について定められています。

「直系血族」とは、父母祖父母、子ども孫ひ孫など、自分を中心にした家系図をイメージしたときに、上下に伸びる関係にある身内のことをいいます。

「扶養する義務」は、次の2つの意味を含みます。

  • 面倒を見る扶養義務(同居して扶養する、扶養が必要な人が生活できるように諸手続きなどをサポートする義務)
  • 経済的な支援をする扶養義務(金銭面でサポートする義務)

扶養義務は、原則として、②経済的な支援をする義務を指すとされており、①面倒を見る義務は、これまでの関係性や経済状態などを踏まえて、希望するか承諾した場合のみ負うということができます。

つまり、親子は直系血族に当たるので子は親に対して扶養義務を負い、扶養義務の内容は経済的な支援をすることが原則、ということになります。

具体的には、同居や介護などは拒否できる一方で、ホームヘルパーを依頼する、老人ホームに入居させるなどの援助を行うことが考えられます。

親子の扶養義務はいつまで続く?縁切りした場合の扶養義務とは

時計上記のような親子間の扶養義務は消滅することはなく、生きている限り続きます。

毒親に苦しめられてきたり、ネグレクトで親が子どもの扶養義務を果たしていなかったとしても、子どもの親に対する扶養義務は消滅することはありません。

日本では、法的に親子の縁を切ることはできません。

この「法的な親子の縁」とは、具体的には相続扶養義務を指します。

親子は互いに相続するので、親が先に亡くなれば親の財産を子が相続し、子どもが先に亡くなれば親が子の財産を相続する関係にあります。

また、扶養義務については、子どもが未成年の間は親に子を養育・監護する義務があり、子が成人すれば、親子は互いに生活に困ったら助け合うという義務を負う関係にあります。

親子の縁を事実上切っていた場合も、残念ながら扶養義務が消えることはありません。

戸籍の分籍をしていた場合の扶養義務

親子の縁を事実上切る方法として、戸籍の分籍があります。

戸籍の分籍とは、戸籍の筆頭者(毒親など)とその配偶者以外で、成人になっている人が、その戸籍から抜けて単独の戸籍を作ることをいいます。

戸籍を抜けることで、親と違う苗字を名乗れるなどのメリットはありますが、親族関係が解消されるわけではありません。

したがって、戸籍を分籍しても、毒親の扶養義務は残ります。

養子縁組した場合の扶養義務

他人と養子縁組をして、その人の子どもになっていた場合でも、毒親である実親との関係は消滅しません。

そのため、扶養義務は残ったままとなります。

なお、実親との縁が切れる養子縁組は、「特別養子縁組」といい、養子となる子どもが15歳未満であることが原則です。

毒親が逮捕された場合

毒親の行為が犯罪に当たり、毒親が逮捕される場合もあります。

毒親がご自身に対して犯罪をした場合でも、親子の縁が切れるわけではなく、扶養義務は残ります。

関連記事
部屋で落ち込む女性
毒親に悩んでいる方へ、警察・弁護士など法的措置の取り方を解説

「毒親」という言葉を耳にした方は多いのではないでしょうか。 自分自身が、「毒親で悩んでいる」「毒親を訴えたい」といった悩みを持っている方もいるかもしれません。 「毒親」とは、アメリカの精神医学者である ...

続きを見る

戸籍や住民票の閲覧制限をしていた場合の扶養義務

毒親から離れ、別の場所で生活している場合、住民票や戸籍の付票の閲覧制限をすることで、親に今の居場所を知られないことができます。

親子の縁が切れるわけではないため扶養義務が消えるわけではありませんが、毒親と物理的な距離を置き、毒親が金の無心などをしようにも連絡先が分からないという状況になるため、連絡を遮断することには効果があると言えるでしょう。

毒親の扶養義務を拒否できる場合

財布と小銭上記のように、法的な親子の縁は切れないこと、そして扶養義務は消えないのが原則です。

ただし、毒親の扶養義務を負わない場合があります。

毒親の扶養義務を拒否できる場合とその基準とは

毒親の扶養義務を負わない場合、それは、自分の生活でギリギリで、親を扶養する余裕がないという場合です。

確かに、民法877条1項では、親兄弟に対する扶養義務が定められていますが、子から親に対する扶養義務は絶対ではありません。

収入や社会的地位など、子どもの「経済的余裕がある範囲で行えばよい」ものとされており、生活水準を下げてお金を捻出するなど、自分や家族の生活を犠牲にしてまで面倒を見る必要はありません。

経済的余裕があるかどうかの目安は、資産の程度、扶養義務者(子ども)の家族構成、社会的地位等を総合的に考慮して、家庭裁判所が決定します。

具体的な金額の基準としては「生活保護基準額」を一つの目安として、収入額が生活保護基準額より少なければ、経済的余裕はないとして扶養義務が免れることが多いようです。

兄弟姉妹が毒親の扶養義務を拒絶したら

ご自身に兄弟姉妹がいるなど、親の扶養義務者が複数いる場合は、まずは話し合いで、誰がどの程度お金を出すかを決めるのが原則です。

誰がどの程度扶養するかは、長男長女など生まれた順番は関係ありません。

当事者間の話し合いで決まらない場合は、家庭裁判所が上記のような事情を踏まえて決定します。

扶養義務を負う兄弟姉妹が扶養義務を尽くさずお金を払わない場合は、扶養料の支払いを求める「扶養請求調停」を家庭裁判所に申し立てることができます。

毒親に生活保護を受けさせることができるか

ご自身も兄弟姉妹も余裕がないけれど、全く何もしないこともできない場合、親が生活保護を受けることが考えられます。

親には、子どもという扶養義務者がいますが、扶養義務者がいるからと言って、生活保護を受けられない訳ではありません。

また、扶養義務者が義務を尽くしたうえで初めて生活保護を受けられるという関係にもありません。

毒親に苦しめられた方は、どこかで自分を責めてしまう方もいますが、親の扶養義務はあくまで余力で尽くすもので、自分の生活を犠牲にして行うものではありません。

生活保護や、安価な介護サービスなどの情報など、行政に相談してみることをお勧めします。

毒親の扶養義務を拒否した場合の罰則とは

手錠子の親に対する扶養義務は絶対ではありません。

しかし、扶養できるのに扶養しなかった場合は、罪に問われる可能性があります。

扶養義務者である子どもが、正当な理由なく親を扶養しない場合は「保護責任者等遺棄罪」が、それが原因で親が負傷・病気・死亡するなどした場合「保護責任者等遺棄致死傷罪」(刑法218条、219条)が成立する可能性があります。

保護責任者等遺棄致死傷罪は、老人、病人など扶助が必要な人を置き去りにする犯罪で、何もしなかったことが罪になります。

扶養義務は民法の問題、保護責任者等遺棄致死傷罪は刑法の問題なので、義務の範囲が完全に同じというわけではありません。

しかし、実際に、50代の息子が80代の母親に食事を与えず衰弱死させた事件で、息子には母親を介護する義務があったのにしなかったとして保護責任者遺棄致死罪に問われたケースがあります。

保護責任者遺棄罪(放置したこと)で有罪になれば3か月以上5年以下の懲役、遺棄によって相手がケガをしたり亡くなったりした場合は更に罪が重くなる可能性があります。

安易に放棄せず、悩む場合はまずは弁護士に相談してください。

毒親の扶養義務で悩んだら弁護士に相談を

この記事を読まれた方の中には、毒親に苦しんできた方もいるのではないでしょうか。

毒親の扶養義務が続くことにショックを受けた方、介護や同居は断れることに安心した方、様々かもしれません。

親への扶養義務は、余力のある範囲での金銭的援助でよい一方、その余裕がない方や、金銭面でも関わりたくない方もいると思います。

しかし、親の扶助をせず放置していると、上記のように保護責任者等遺棄致死傷罪という重い罪を負う可能性も否定できません。

そこで、毒親の扶養義務で悩まれる方は、弁護士に相談することをお勧めします。

弁護士であれば、できるだけ負担の少ない扶養義務を尽くす方法のアドバイスができますし、毒親が親の権利を盾にお金の無心をして来たり、介護や同居を要求してきた時の対処方法や、そもそも連絡を防ぐための対応を行うことができます。

毒親のためにご自身がこれ以上苦しまないよう、そして罰則を受けたり兄弟間でもトラブルになることを避けるためにも、親の扶養義務でご心配な方は、まずはお気軽に弁護士にご相談ください。

川越市・埼玉西部地域で弁護士をお探しの方へ

    現在のご状況

    このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシー利用規約が適用されます。

    -日常生活のトラブル