その他トラブル 日常生活のトラブル

賃貸住宅の退去時に多いトラブルは「退去費用」問題!

退去時の部屋と鍵

退去時のトラブル、実は非常に多いのです。
ある賃貸会社の調査ではその数4割ともいわれ、さらに、費用を請求された人のうち約3割が敷金ではカバーできなかったとしています。

身に覚えのない壁の傷の修繕代を要求されたり、滞納や修繕費用が発生していないのに敷金が返還されなかったり、といったトラブルも頻発しています。

賃貸住宅退去時におこるトラブルは主に以下の2点です。

  • 敷金が返還されない
  • 修繕費やクリーニング費を請求された

退去時には引越や移転先での費用もかさむので、明け渡し時のトラブルは避けたいものです。

この記事では退去時にトラブルが起こる理由を解説したあと、事例をあげて説明していきます。

退去時の費用トラブルの原因は

基本的には、以下の二つの義務を怠ったときに費用がかかります。

  • 借りた物は用途にしたがって使用し、掃除や手入れをしなくてはならない(=善管注意義務)
  • 借りた物を返すときは、元の状態に戻して返さなくてはならない(=原状回復義務)

これらの義務について、詳しく説明していきましょう。

善管注意義務

善管注意義務とは、善良な管理者として注意すべき義務という意味です。

賃貸住宅に住むには、日常的な掃除や手入れを行うことと、用途に合った使い方をしなければなりません。他人の物を借りて住むのですから、善良な管理者としての注意義務をはたさなくてはならないのです。

用途に合った使い方とは、例えば、トイレはトイレとして、キッチンはキッチンとして使うということです。

原状回復義務

賃貸住宅を入居したときの状態に戻す義務です。
言い換えれば、自由に使ってもいいけれど返すときには元に戻しておきましょうということです。

といっても、経年変化(日差しで色褪せる、建物自体の経年劣化など)は元に戻す必要はありません。

また、通常の生活をしているとできてしまう損傷(冷蔵庫の背面の黒ずみなど)や、借主の故意・過失によらない損傷も含まれません。

賃貸借契約に特約が付帯しているケース

賃貸借契約時、例えば以下のような特約が付いていたとします。

経年変化の修繕費についても借主の負担とする

この場合、故意や過失がなくても修繕費を払わなくてはいけないのでしょうか。

通常、経年変化(日差しによる色褪せなど)による修繕は貸主が負担するのですが、特約で借主が負担するとしている場合は、借主が負担します。

契約自由の原則といって、当事者双方が合意したのなら契約は成立するからです。

ただ、法律が禁止している内容を盛り込むことはできません。賃貸借契約の修繕費については、法律は以下の要件を満たすことを要求しています。

  • 特約が必要であること、暴利的でないこと
  • 賃借人が通常の義務を超えた修繕費を負担することを、賃借人が認識していること
  • 賃借人が義務負担の意思表示をしていること

賃貸住宅の退去時のトラブル事例

壁の落書きでは、退去時に起こりえるトラブルについて、具体的な事例をみていきましょう。

クロス貼替費用の妥当な範囲は

不注意で壁に傷をつけてしまいました。家具を移動した際のひっかき傷です。
クロスの貼替が必要なのはわかりますが、部屋全体の費用を請求されました。これは拒否できないでしょうか?

不注意で壁に傷をつけてしまったのですから、その損害については借主が損害賠償する責任があります。

しかし、部屋全体のクロス貼替費用を払う必要はないでしょう。経過年数を考慮の上、部屋の壁の一面分までは妥当と考えられます。

壁の途中でクロスの継ぎ目がわかってしまうのは修繕されたとはいえないからです。

大家さんが代わったら敷金はどうなる

アパートの大家さんが代わりました。敷金を返してもらえるのでしょうか?

これは少し複雑になります。アパートが売却されて大家さんが代わったのなら、敷金は新しい大家さんから返してもらいます。

しかし、抵当権の実行によって競売にかけられたのなら、抵当権設定時期によって変わってきます。

入居時期よりも抵当権設定が古い場合は敷金は前の大家さんから返してもらい、入居時期よりも後で抵当権が設定されたのなら、新しい大家さんから敷金を返してもらいます。

敷金を半額だけ返す特約は有効か

退去時に返却される敷金をあてにしていたのですが「契約で50%を返却するとなっています。さらに原状回復のためのクロス貼替代を差し引くとお返しできる分はありません」とのことでした。
これは違法ではないのでしょうか。

敷金の返却を半分とする取り決めは違法ではありません。また、借主には原状回復義務といって入居したときの状態に戻す義務があります。

ただし、普通に暮らしていて経年変化する分は含まれません。当該クロスの損傷が借主の故意・過失によるものかを確かめた方がよいでしょう。

もし、経年変化にあたる程度の汚れなら、借主がクロス貼替代を支払う必要はありません。

退去時の立ち合いで損傷を確認して書類にサインした

退去時に立ち合いを求められ、損傷について確認しサインしました。後日、高額の原状回復費用を請求されて驚きました。
自分が故意・過失によって損傷したもの以外は費用負担する必要はないと思うのですが、一度サインした以上支払わなくてはなりませんか?

たとえサインしてしまったとしても、故意・過失による損傷でないものは負担する必要はありません。

ただし、原状回復義務について契約書に特約がある場合はその特約に従うことになります。その場合、退去時の立ち合いは原状回復費用の負担割合を決める重要なものなので、慎重に行う必要があります。

クリーニング費用の特約は有効か

「退去時にクリーニング費用を支払う」という特約が契約書にあったのですが、これは有効でしょうか?

クリーニング費用の特約が有効かどうかは次の要素で決まります。

  • 賃借人が負担すべき内容・範囲が記載されていること
  • 本来賃借人負担とならない通常損耗について負担させる場合は、具体的範囲が明記されているまたは口頭で説明があったこと
  • 費用が妥当であること

東京地裁平成21年の判決によると、

契約終了時に、本件貸室の汚損の有無及び程度を問わず専門業者による清掃を実施し、その費用として2万5000円を負担する

という特約を、以下のように認めています。

  • 借主にとっては退去時の清掃を免れる
  • 金額も月額賃料の半額以下で清掃費用として相応
  • この特約は原状回復義務の範囲であり、通常損耗についてまで賃借人に負担させる特約ではない

賃貸住宅の退去時トラブルへの対応策

トラブルを防止するための対応策について、具体的に紹介していきましょう。

契約書をよく読む

契約書をよく読むのは、口頭で説明があっても忘れてしまうことも多いからです。借主に不利な特約が記載されていないかよくチェックしましょう。

また、契約書には専門用語も多いので、わからないことは質問して解決しておきましょう。

入居時に物件の写真を撮っておく

入居時に物件の写真を撮っておくのは、退去時に修繕費を請求されたら写真を示して元からあった傷であることを証明できるからです。

あとは、善良な管理者の注意義務を果たして、用途にあった使用法をまもることです。

勝手に修繕しない

ここで、注意しなくてはならないのは、うっかり傷つけてしまったからと言って、勝手に修繕してはいけないということです。

必ず、管理会社または大家さんに相談して、許可を得てから修繕しましょう。賃貸住宅は所有者である大家さんが一貫して管理しているので、勝手な修繕を加えてはいけないのです。

解約されるおそれもありますので、勝手な修繕はやめましょう。

トラブルが複雑化するようなら弁護士に相談を

退去時に法外な費用を請求されたとか、こちらの主張を聴いてもらえないような場合は弁護士に相談するのもよい方法です。

ただ、賃貸の損害金額は多くても数十万円なので、弁護士に相談するのは難しいかもしれません。そのようなときは、公共や民営の相談窓口がありますので、連絡してみてください。

相談窓口については以下の記事に詳しく説明がありますので、ご覧ください。

賃貸契約のトラブル
賃貸住宅でありがちなトラブルとオススメの相談先

アパート・マンションまたは一戸建ての賃貸物件では、思わぬトラブルに巻き込まれてしまったことはありませんか。 できればそのようなトラブルは避けたいところですが、もし起こってしまったなら、なるべくスムーズ ...

続きを見る

賃貸住宅の退去時のトラブルーまとめー

賃貸住宅を退去するときにトラブルになりがちなのは、退去費用です。

一つは敷金が返却されないこと、もう一つは原状回復費用を請求されることです。
どちらも、合法・非合法の判断は個別の案件によって異なります。

原状回復費用は入居時の原状がどうだったかによって変わりますので、入居時に写真を撮っておけば、証拠として役に立ちます。

また、通常以上の原状回復義務を負わされるような特約がないかしっかり契約書をチェックすることです。口頭で説明があっても忘れてしまうことも多いので、契約書を読みましょう。

門倉弁護士バナー

-その他トラブル, 日常生活のトラブル