学校の部活で教師が体罰を加えた、大学でアカハラを受けたなど、教師のパワハラのニュースは後を絶ちません。
しかし、その際によく聞くのが、「指導の一環だった」「ハラスメントのつもりはなかった」という教師からの言葉です。
実際に、学生の方や、お子様をお持ちの方の中には、学校で辛い思いをしているけれど、どこからが教師のパワハラに当たるのか分からず、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
また、パワハラではないかと思っても、相談先が分からず我慢している方もいるかもしれません。
学校という集団の場で生活をする以上、皆が安心して学び過ごすための教師の指導は必要です。しかし、ハラスメントは許される行為ではありません。
そこで今回は、教師によるパワハラの定義とは何か、そして、パワハラにあった場合の相談先を解説します。
教師の指導はどこからパワハラ?パワハラの定義を解説
パワハラ、すなわちパワーハラスメントとは、一般的に、社会的に強い立場にある人が、自分の権力や優位な立場を利用して行う、嫌がらせやいじめのことをいいます。
学校では、生徒を指導する教師の方が圧倒的に立場が強く、生徒は体力面、精神的成熟度の面でも教師にかないません。
そのため、強い立場を利用した教師の言動はパワハラに当たるケースがあります。
懲戒権とパワハラの関係
教師には、「懲戒権」が認められています。
法律でも「校長及び教員は、教育上必要があると認めるときは(中略)、学生、生徒及び児童に懲戒を加えることができる。但し、体罰を加えることができない」と定められています(学校教育法11条)。
この懲戒権の解釈を誤り、体罰を加えても懲戒だと考える教師も少なくありません。
また、同条項では教師の体罰にしか記載がないため、教師の言葉がパワハラに当たるかの判断は難しいのが実情です。
しかし、暴言に当たるような場合は、教師のパワハラとして、後述するように教師等の責任を問える場合があります。
教師の言葉や態度がパワハラにあたる6つの要素
具体的には、以下のようなケースでは、教師のパワハラに当たると考えられます。
- 学校での教師と生徒の力関係を利用する場合
- 生徒等の人格や尊厳を傷つける言動をする場合
- 生徒等が肉体的・精神的な苦痛を感じる場合
- 教育や指導に必要な範囲を超える場合
- 継続的に行われる場合
- 学校の環境を悪化させる場合
これらの行動の中には、後述する体罰はもちろん、侮蔑的な言動、性暴力等も含まれます。
性暴力については、触る、盗撮するといった行為だけでなく、尊敬の念を利用したり内申点を上げるためとして、肉体関係に至るケースも少なくありません。
実際、2018年に全国の公立学校を対象に行われた調査では、わいせつ行為で処分された教師282人中、被害者は自校生徒が124人と最多で、行為の内容は多い順に、体を触る、盗撮・覗き、性交となっています。
文部科学省による教師のパワハラ・体罰の具体例
教師のパワハラの中でも体罰に関して、文部科学省(文科省)では次のような例を示しています。
”学校教育法第11条に規定する児童生徒の懲戒・体罰等に関する参考事例”(文部科学省 平成25年3月)
体罰に当たると考えられる教師の行為の例
文科省では、パワハラの中でも教師の体罰に当たる行為の例として次のようなものをあげています。
生徒の身体を傷つけるもの
- 体育の授業中、危険な行為をした児童の背中を足で踏みつける
- 足をぶらぶらさせて座り、前の席の児童に足を当てた児童を突き飛ばして転倒させる
- 授業態度について指導したが、反抗的な言動をした複数の生徒らの頬を平手打ちする
- 立ち歩きの多い生徒を叱ったが聞かず席につかないため、頬をつねって席につかせる
- 生徒指導に応じず、下校しようとした生徒の腕を引いたところ振り払われ、頭を平手で叩く
- 給食中にふざけていた生徒を注意したが聞かないため、ボールペンを投げつけて当てる
- 部活動顧問の指示に従わず、片づけが不十分だった生徒の頬を殴る
生徒に肉体的苦痛を与えるようなもの
- 放課後に児童を教室に残らせ、児童がトイレに行きたいと訴えても外に出ることを許さない
- 別室指導のため、給食の時間を含めて生徒を長く別室に留め、外に出ることを許さない
- 宿題を忘れた児童に、教室の後方で正座で授業を受けさせ、苦痛を訴えても正座させる
懲戒に当たりパワハラではないと考えられる例
一方で、教師の次のような行為は、パワハラや体罰ではなく、教師の懲戒の範囲内とされています。
- 放課後等に教室に残らせる
- 授業中、教室内に起立させる
- 学習課題や清掃活動を課したり、学校当番を多く割り当てる
- 立ち歩きの多い児童・生徒を叱って席につかせる
- 練習に遅刻した生徒を試合に出さずに見学させる
教師の正当防衛等とされる行為
以下のような行為は、教師が自身や生徒を守るためにした、正当な行為とされています。
- 生徒が教師等に暴力をふるったため、防衛のためにやむを得ずした行為
- 児童が教師の指導に反抗して足を蹴ってきたため、児童の背後から体をきつく押さえる
- 他の生徒に暴力を振るう生徒を、制止して目の前の危険を防ぐためにやむを得ずした行為
- 休み時間に、他の児童を押さえつけて殴っている児童の両肩をつかんで引き離す
- 全校集会中に騒ぐ生徒に別の場所に移るよう言っても聞かず、腕を引いて移動させる
- 指導時に、つばを吐き逃げようとする生徒の肩を両手でつかみ、数分間壁に押しつける
- 試合中のトラブルで、相手チームに殴りかかろうとする生徒を押さえつけ制止させる
学校でのパワハラの事例
実際に、教師のパワハラとして問題になったケースとして、以下のような事例があります。
教師のパワハラで生徒が自主退学に追い込まれた例
千葉県の木更津看護学校で、2021年度の1年生38人中15人と、2年生2人という多数の生徒が、教員のパワハラが原因で自主退学を余儀なくされたケースです。
第三者委員会の調査によって、教員による、指導時に怒鳴るなどの威圧的態度、生徒の出身校をばかにしたり、容姿をからかう、辞めた方がいいなどの人格否定といったハラスメントがあったことが明らかになりました。
学校は当初パワハラを否定していましたが、上記調査を受けて事実を認め、記者会見を開いて謝罪をするに至っています。
木更津看護学院、一転パワハラ認める 学校長辞職、教員2人退職へ (千葉日報 2022年12月28日)
生徒の自殺は教師のパワハラが原因として損害賠償請求した例
沖縄県コザ高校で、高校2年生の男子生徒が2021年に自殺したのは、部活の顧問のパワハラが原因だとして、遺族が県に損害賠償請求を請求したケースです。
遺族によると、顧問の教師は生徒に対し、2年近くにわたり暴言性や不必要な叱責を繰り返し、キャプテンをやめろ、もう見たくない、キモイ等の暴言を浴びせ、丸刈りの強要や部活時間以外にもLINEで緊急性のない指示をしたとされています。
その後、第三者委員会の調査でも、自殺の要因が顧問との関係を中心にしたストレスにあったとする報告書が提出されました。
高2男子生徒自殺、要因は「部活顧問のパワハラ」遺族が沖縄県提訴(朝日新聞社 2023年2月10日)
教師が生徒の頭髪を無理やり丸刈りにした例
山口県の県立下松工業高校で、2018年秋に、教師が男子生徒の頭髪をバリカンで無理やり丸刈りにし、さらに、病気だから精神科へいけ、授業より治療を受けろなどの暴言を吐いたケースです。
この教師は、他の生徒にもバカ、アホなどの暴言を普段から吐いていました。
学校は事態を知りながら教育委員会に報告していませんでしたが、クラスの全生徒40人と保護者39人が、県の教育委員会に本教師を懲戒免職するよう嘆願書を提出したことで、事件が表面化しました。
教諭が生徒の髪を丸刈り 保護者らが懲戒免職を嘆願(日刊スポーツ 2019年3月25日)
教師からパワハラを受けた場合の相談窓口
教師からパワハラを受けた場合、所属する学校のタイプ等に応じて、次のような相談窓口が利用できます。
都道府県の教育委員会や私学課
在学する学校が国公立の場合は、各都道府県の教育委員会に相談しましょう。私立学校の場合は、各都道府県の私学課が相談窓口になります。
文部科学省のホームページに、各都道府県の窓口が記されていますので、お住まいの地域で検索してみて下さい。
警察
パワハラの内容が、殴る蹴るなどの暴力行為、性暴力であった場合は、刑事事件に該当する場合があります。生徒がケガをした、緊急性が高いといった場合は、警察に相談し、被害届の提出や告訴を検討することも考えられます。
法務省
法務省では、「子どもの人権110番」など、人権に関する相談窓口を設けています。教師による暴言や体罰といったパワハラは、生徒の人権を侵害するケースに当たる場合もあります。
電話や手紙、LINEなど、相談の窓口も多様です。思いつめる前に、まずはご相談下さい。
スクールカウンセラー
スクールカウンセラーとは、学校以外の外部の専門家が、生徒に対する助言や相談に対応するため、文科省が各学校に配置しているプロフェッショナルのことです。
弁護士、臨床心理士など、専門家としての職業は様々です。その学校に所属しているわけではないので、教師のパワハラについても、気兼ねなく相談することができます。
弁護士
教師によるパワハラ問題を弁護士に相談することで、悩みに応じた対応方法のアドバイスを受けることができます。
刑事事件化して罪を償わせるか、民事上の問題として損害賠償を請求するかなど、パワハラの内容に応じて、最適な対応方法を検討できます。
相談先に迷ったら、まずは弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。
教師のパワハラを訴える3つの方法
教師のパワハラを訴えるには、次の3つの方法があります。
刑事上の責任を追及してパワハラを訴える
教師のパワハラが、殴る、蹴る、髪を切るといった行為の場合、刑事事件として訴えることが考えられます。
上記のような行為は「不法な有形力の行使」にあたるため、暴行罪(刑法208条)に該当する可能性があります。また、これらの行為によってけがをした場合は傷害罪(同204条)にあたり、刑罰が重くなります。
また、他の生徒の前で、病気だ、頭が悪いなどと暴言を吐く行為は、名誉棄損罪(230条)に当たる場合があります。さらに、わいせつ行為をする、肉体関係を持つといった性暴力の場合は、強制わいせつ(同176条)、強制性交等罪(同177条)、児童福祉法違反などの重い罪に該当しえます。
刑事事件として訴える場合は、警察に被害届を出す、告訴するなどの方法がありますが、一般人が警察に出向いても、要件が整っていないなどとして受理されないケースも少なくありません。被害者として訴える場合でも、事前に弁護士に相談しておくと安心につながります。
トラウマなどの精神的苦痛を受けたら民事上の責任で訴える
教師から暴言を受けてトラウマになった、転校を余儀なくされたといった場合は、精神的苦痛を被ったとして、損害賠償を請求することを検討しましょう。なお、よく慰謝料という言葉を聞くかと思いますが、慰謝料とは精神的苦痛に対する損害賠償のことです。
このとき、誰に損害賠償を請求して民事上の訴えを起こすかは、学校のタイプによっても異なります。教師そのものを訴えるのか、公立学校の場合は母体である都道府県を訴えるのかなど、十分に検討して訴える必要があります。
誰にどのような請求をするかといった法律構成や損害の立証は、難しいことも多いです。民事上の訴えを起こしたい場合も、まずは弁護士に相談し、ベストな方法を検討しましょう。
子どもが教師のパワハラに遭ったら弁護士に相談を
残念ながら、教師による生徒へのパワハラの事件は後を絶ちません。
学校という場で、生徒が学び、成長するために、教師の指導力が求められるのは当然ですが、行き過ぎたハラスメントは許されませんし、それによって若い学生が命を絶つようなことは、決してあってはいけません。
一方で、学校は閉鎖的な場所で、教師の立場が絶対的なこともあるだけに、生徒はパワハラにあってもそれがパワハラかわからない、どこに相談したらいいか分からないというケースも少なくありません。
もし、ご自身やお子様が教師のパワハラで悩んでいる場合は、まずは弁護士に相談することをお勧めします。弁護士であれば、さまざまなパワハラのケースに精通しているため、ご本人に最適な解決方法のアドバイスを受けることができます。
また、弁護士には守秘義務があるため、本人や家族の希望がないのに、学校や教師に相談内容が漏れることは絶対にありません。
教師のパワハラでお悩みの場合は、どうぞお気軽に弁護士にご相談ください。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシーと利用規約が適用されます。