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従業員が会社の商品を盗んだら?被害届や懲戒処分など取るべき対応を解説

社員を取り調べる女性

従業員が会社の商品を盗むケースは、残念ながら少なくありません。

実際、2020年、ネット通販大手の倉庫で従業員が商品であるパソコンの部品を盗んで逮捕されたケースがありました。

従業員の盗みが発覚すると、会社も評判の低下取引先への説明などの影響を受けることは避けられません。

また、盗みをした従業員をそのままにしていては、社内で他の従業員にも不安や不満を与えます。

そこで今回は、従業員が会社の商品を盗んだ場合に成立する犯罪や、会社が取るべき対応について解説します。

従業員が会社の商品を盗む具体例

男性の不審な手

従業員が会社の商品を盗む事例は少なくありません。

社内で解決することも多いですが、犯罪として逮捕されニュースになったケースや、会社側の対応が違法だとして争われ、裁判になったケースもあります。

会社の倉庫から商品を盗んだケース

従業員が会社の商品を盗んでも、被害が小さいと会社が気付かなかったり、盗みが発覚しても社内の処分で終了することもあります

冒頭でご紹介した通販会社の事例では、盗んだ件数や被害額も大きかったため、従業員が逮捕され報道もされました。

この事件では、ネット通販会社に勤務する従業員が、自社の倉庫から盗んだ商品を売って借金返済やギャンブルに充てており、被害が計40件超、約1000万円にのぼり話題になりました

会社の商品を持ち帰ったケース

2019年、スーパーの食肉担当として勤務する従業員が、精肉商品3000円分を会計せずに持ち帰ったため、会社は窃盗として被害届を出し、従業員を懲戒解雇して、その旨を全店に掲示しました。

当従業員は、会社の対応は不当解雇で名誉棄損に当たるとして訴えを起こし、裁判では従業員の言い分が認められ、解雇無効と会社に損害賠償の支払いが命じられました(横浜地判R元.10.10)。

本件では、従業員が商品について同僚に説明しながら堂々と加工・梱包を持ち帰ったことから、盗む意図はなかったと判断されています。

このように、勝手に商品を持ち帰るという、客観的には盗んだように見える行為があっても、従業員の態様によっては犯罪行為と評価されず、会社側の処分が重すぎると判断される場合もあるので注意が必要です。

従業員が商品を盗んだ場合に成立する犯罪と会社の対応

資料を眺める社員たちの人形

従業員が会社の商品を盗んだ場合、窃盗罪という犯罪が成立します。

窃盗罪で逮捕され有罪になると、10年以下の懲役または50万円以下の罰金が課される可能性があります。

窃盗罪が成立する条件

他人の財物を盗むと、窃盗罪が成立します(刑法第235条)。

「盗む」行為には、持ち主(所有者)の許しがないのに自分が持ち主のように使ったり、所有者の許可なく保管場所を変える行為なども含まれます。

窃盗罪が成立するためには、他人のものを盗むと認識していること(故意)持ち主を排除して自分が持ち主のように利用しようとする意思(不法領得の意思)が必要です。

会社の商品を盗む場合、商品の所有者は会社なので、従業員が商品を勝手に処分したり、持ち出したりすると窃盗罪が成立します。

また、従業員が店舗や会社の倉庫などに忍び込んで商品を盗むような場合は、住居侵入・建造物侵入罪も成立する可能性があります。

通常の業務では、会社や店舗、倉庫に立ち入ったからといって犯罪になることはありません。

しかし、盗みを働く違法な目的で終業時間外に会社や店舗に入り込み、商品等を持ち出せば、従業員であっても空き巣や店舗荒らしのような「侵入盗」として、住居侵入と窃盗が成立する可能性があるのです。

会社は示談に応じるべき?刑罰に与える影響とは

従業員の窃盗が発覚すると、従業員本人や、その弁護士から、示談の申し入れがある場合があります。

示談とは…

当事者間の一切の合意をいい、窃盗の示談では、謝罪や被害弁償、慰謝料の支払いなども行われることが多いです。

示談をすると、当事者間で今回の事件に関する謝罪や合意ができているとして、警察・検察が関与する刑事事件に発展したとしても、罪を軽くしてもらえる可能性が高まります。

会社としては、示談の相手が自社の従業員なだけに、対応に悩むのではないでしょうか。

今回盗みを犯した従業員が初犯で、反省もしており、被害額も大きくないようなケースでは、会社が示談に応じることもあります。

この場合、示談の内容に「宥恕(ゆうじょ)」の内容を加えると、示談の効果はさらに高くなります。

宥恕とは、「今回の事件を許す」ことを言います。

会社が従業員と示談し、更に宥恕もすると、検察官に「被害者が許しているなら厳しく罰する必要はないだろう」と判断してもらいやすくなるため、不起訴処分(裁判が開かれずに事件が終了すること)や、罰金刑で済む可能性が高くなります。

とはいえ、従業員が会社の商品を盗む行為は、犯行の性質としては悪質です。

それだけに、被害額が大きい場合や侵入して盗むなど手口が悪質な場合は、示談しても懲役刑になる場合もあります。

会社として示談に応じるか悩んだ場合は、弁護士に相談することをお勧めします。

従業員の盗みが発覚した場合に取るべき対応

POINTと書かれた付箋

従業員が会社の商品を盗む行為は、不正行為にあたります。

従業員の窃盗に際して、会社が取るべき対応は、以下の3つの段階に分けて考えることができます。

事実関係や不正の状況を把握する

従業員が窃盗した場合、まずは状況を把握します。

これは、会社に生じた被害額を明らかにするためにも必要です。

具体的には、「いつ、どこで、何を、どのように盗んだのか」を、調査して把握します。

従業員本人も盗んだ事実を認めている場合は、動機についても確認しておきましょう。

また、商品を転売しているような場合悪質性が高いと言えるので、あわせて確認してください。

否認している場合は、他の従業員による犯行かもしれませんし、誤って懲戒処分を下すと違法な処分として後々損害賠償を請求される恐れもあるので、慎重に調査を進めてください。

被害者・関係先への対応

従業員が取引先の商品を盗んだような場合は、被害者への謝罪、被害弁償の支払などの対応が必要です。

この場合、会社も従業員の使用者責任を問われる可能性もあります。

加害者の処分

腕を組んで考える男性

従業員が窃盗をしたことが明らかになったら、当該従業員の処分を検討します。

窃盗の態様や被害の程度、過去同様のケースがあった場合にはその際の対応と比較しながら、戒告、減給、降格、解雇など、どのような処分が妥当かを十分に検討すべきです

ポイント

通常、窃盗という犯罪を行ったことは重大な不正に当たるとして、懲戒処分の中でも重い類型の解雇処分、さらにその中でも最も重い懲戒解雇処分の対象になると考えられています。

とはいえ、解雇は妥当性や手続きの適法性をめぐってトラブルになりやすい類型です。

特に懲戒解雇は従業員に与える影響も大きいため、窃盗の度合いによっては、処分が重すぎるとして不当解雇が争われるケースもあります。

後から不当解雇で訴えられる可能性があるような場合は、リスクを避けるために、懲戒解雇より軽い論旨解雇従業員自らが非を認めて納得した上で解雇する方法)、退職勧奨会社が従業員に対して自主的に退職するよう促す方法)などを先に行うのも有効です。

再発防止策の策定

従業員が会社の商品を盗んだ場合は、会社としては再発防止策を策定して、会社の内外に通知することをお勧めします。

具体的には、倉庫に監視カメラを常設する、社内や店舗に立ち入る際のセキュリティを強化する等の対応が考えられます。

しかし、売り場に監視カメラを増やすと顧客が不安に感じたり、会社の休憩室などにカメラを設置すると従業員のプライバシーを侵害する可能性もあるので、対応には注意が必要です。

商品を盗んだ従業員を会社が訴える2つの方法

2つの資料を見比べる女性

会社は、商品を盗んだ従業員を訴えるなどして、責任を追及することができます。

具体的には、次の2つの方法があります。

刑事上の責任を追及する方法

上記のように、従業員が会社の商品を盗む行為は窃盗罪(刑法235条)に該当します。

そこで、会社としては警察に被害届を提出したり、告訴状を出して従業員を窃盗罪で告訴することができます。

なお、被害届は被害に遭った事実を警察に申告するもので、告訴は加害者である窃盗犯人を処罰してほしいという意思を示すものです。

民事上の責任を追及する方法

従業員が盗みを働いたことで会社に損害が生じた場合、会社は従業員に対して、民事上の損害賠償責任を追求することができます。

民法では、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」と定められています(不法行為・民法709条)。

窃盗は、従業員が故意に商品を盗んで会社に損害を与えているので、不法行為が成立します。

そこで、従業員の窃盗で損害を被った会社は、従業員に対して損害賠償責任を追及し、盗まれた商品の代金等の損害を請求することができるのです。

従業員と示談して、従業員が自主的に損害賠償の支払いに応じればいいのですが、支払わない場合は裁判を起こすことを検討します。

裁判で勝訴すれば、従業員が支払いを拒否した場合でも、住宅や預貯金などを差押える強制執行によって、回収できる可能性が高まります。

従業員が商品を盗んだ場合は弁護士に相談を

従業員が自社の商品を盗むなどした場合、会社としては、商品自体の損害と、不祥事が明らかになることで評判や株価が下がるという、二重の損害を負う可能性があります。

他の従業員にも動揺が広がり、そのような中で対策を講じるのは容易ではありません。

従業員の盗みによって

  • どの程度の損害が生じたのか
  • 世間に公表すべきかどうか
  • 警察の対応はどうしたらいいか
  • 従業員の処分はどのように進めたらいいか

など、悩む経営者の方も多いのではないでしょうか。

そのような場合は、まずは弁護士にご相談ください。

弁護士は、過去の窃盗の事例や裁判例、警察対応の経験を踏まえ、ご相談者様の会社の事例にあった対応策を示し、アドバイスをすることができます。

また弁護士に依頼すれば、会社の代理人として窃盗をした従業員と交渉したり、場合によっては損害額の請求、相手が払わない場合の裁判や差押えの対応まで任せることも可能です。

従業員の盗みでお困りの方は、どうぞお気軽に弁護士にご相談ください

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