配偶者に不貞をされた方には、離婚するか、夫婦関係を続けるか、悩んでいる方もいるのではないでしょうか。
離婚をしないと慰謝料は請求できないと思っている方もいるかもしれませんが、それは間違いです。
離婚してもしなくても、不貞の慰謝料は請求できます。
ただ、離婚するかどうかによって、慰謝料の額は変わるのが通常です。
また、離婚せずに慰謝料請求をする場合は、家族の財布の状況も考慮して慰謝料額を決める必要があります。
そこで今回は、そもそも不貞で慰謝料が請求できるケースと、慰謝料額について、離婚の有無など事例をご紹介しながらご説明します。
慰謝料を請求する前に要確認!不貞で慰謝料請求ができる5つの条件
不貞の慰謝料請求をするには、次の条件を満たす必要があります。
慰謝料請求を検討する場合、まずは次の5つの条件を満たしているか確認してみてください。
夫婦が法律的に結婚していること
不貞で慰謝料を請求できるのは、夫婦間に貞操義務があるからです。
不貞慰謝料は、この貞操義務に違反して配偶者に与えた精神的苦痛という損害を賠償するお金のことです。
不貞の事実があれば、離婚するかしないかに関わらず、不貞の慰謝料は発生します。
そこで、不貞慰謝料を請求するには、貞操義務がある夫婦であること、つまり婚姻届を出した法律婚の夫婦であることが必要です。
恋人同士では認められませんが、夫婦同然に生活している内縁関係では、準婚関係として貞操義務が認められます。
夫婦関係が破綻していないこと
上記のように、法律上の夫婦だとしても、夫婦関係が破綻していると、不貞をしても慰謝料は請求できません。
不貞慰謝料は、不貞行為という貞操義務違反行為によって夫婦関係が破壊され精神的苦痛を受けたことが損害になります。
そこで、既に夫婦関係が破綻していた場合は損害が発生していないと考えられ、慰謝料請求が認められないのです。
例えば、夫婦が別居していたり、離婚手続きを進めているような場合は、まだ法的に夫婦だったとしても、不貞の慰謝料の請求はできないのが原則です。
不貞行為について故意・過失があること
配偶者が不貞をした場合、配偶者には貞操義務違反を理由として慰謝料を請求できます。
しかし、不貞相手にも慰謝料を請求するためには、自分の配偶者が既婚者であることを知っていた(故意)か、不注意で気付かなかった(過失)ことが必要です。
配偶者が独身とウソをつき、不貞相手がそれを信じても仕方がない状況だった場合は、故意過失が認められず、慰謝料請求が認められない可能性もあります。
性交渉があったこと
「浮気」や「不貞」は一般的な概念です。
デートしたら不貞、キスしたら慰謝料など、夫婦間で決めるのは自由です。
一方「不貞」は法律的な概念です。
不貞とは、配偶者以外の異性と性交渉(セックス)をしたことを言います。
そのため、夫が妻以外の女性とキスをしたり、妻が夫以外の男性とデートしても不貞に当たらないため、原則として慰謝料を請求できません。
例外的に、不貞行為がなくても、異性の友人と旅行に行く、四六時中一緒にいるなど、夫婦の平穏な生活を害するほど親密な交際をした場合は、慰謝料請求が認められる可能性もあります。
実際、異性の友人と旅行等をしたが肉体関係はなかったケースで、慰謝料請求が認められた裁判がありました。
肉体関係がなくても、親密な友人関係によって夫婦関係が壊されたことを理由としたものですが、例外的なケースとして専門家の評価も分かれています。
不貞関係が自由意思に基づいていたこと
不貞、つまり肉体関係は、双方の自由意思に基づくことが必要です。
夫が女性を強姦したような場合は自由意思に基づくとは言えません。
慰謝料請求ができないのはもちろん、強制性交等罪として犯罪に該当します。
不貞慰謝料と離婚慰謝料の違い!離婚しない場合の慰謝料請求先に注意
不貞慰謝料は離婚しなくても請求することができます。
不貞慰謝料と離婚慰謝料の違いは次のような点にあります。
特に離婚しない場合は、請求する相手にも注意が必要です。
不貞慰謝料とは
上記の通り、不貞慰謝料は、結婚している夫婦には貞操義務があるのに、片方がその義務に違反して不貞行為をしたために受けた精神的苦痛を、お金で賠償してもらうものです。
そのため、離婚するかどうかに関係なく、不貞された妻・夫は、慰謝料の請求ができます。
離婚慰謝料とは
離婚慰謝料は、離婚すること自体によって精神的苦痛が生じた場合に、この損害を賠償するための金銭のことを言います。
そのため、離婚慰謝料が発生するケースは不貞に限られません。
モラハラ、DV、生活費を家に入れない(悪意の遺棄)など、配偶者の一方に非があって離婚する場合に請求できます。
他方で、性格の不一致など、どちらかが悪いと言えない理由で離婚する場合は、原則として離婚慰謝料は請求できません。
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不貞慰謝料を請求できる相手と離婚しない場合の注意点
不貞された場合、配偶者と不貞相手に対して慰謝料請求をすることができます。
貞操義務に違反したのは配偶者ですが、不貞は1人ではできません。
そのため、「共同不法行為」として、配偶者と不貞相手の両方に慰謝料を請求できるのです。
両方に請求しても構いませんし、不貞相手にだけ請求しても構いません。
具体的には、不貞による精神的苦痛が200万円相当だった場合、配偶者と不貞相手に100万円ずつ請求してもいいですし、不貞相手にだけ200万円請求してもいいのです(ただし、配偶者が不貞相手から後日100万円請求される可能性はあります)。
なお、配偶者と不貞相手に200万円ずつ請求して倍もらうことはできません。
特に不貞されても離婚しない場合、配偶者に慰謝料を請求する際は注意が必要です。
夫婦の財布が一つの場合、慰謝料請求をしても結局家計を圧迫することにもなりうるからです。
ポイント
配偶者に慰謝料請求する場合は、慰謝料の支払いを、夫婦の個別の財産から払ってもらうよう取り決めをしておくことをおすすめします。
離婚する場合と離婚しない場合の慰謝料の相場
慰謝料額は、当事者で話し合い、合意すれば何円でもよく、法律で決められた額はありません。
とはいえ、一般家庭で何億という慰謝料を請求するのは現実的ではなく、裁判で認められる額はこのくらいという実務上の目安はあります。
不貞されても離婚や別居をしないケースの慰謝料の目安
- おおむね50万~200万程度
離婚しない場合は、不貞慰謝料のみの慰謝料額になります。
不貞が原因で離婚や別居をするケースの慰謝料の目安
- おおむね100万~300万円程度
離婚する場合は、不貞慰謝料と離婚慰謝料を一緒に請求するのが通常です。
それぞれ何円と分けるのではなく、「不貞が原因で平和な夫婦生活が害され離婚するに至った精神的苦痛」と考えて請求します。
そのため離婚しない場合より、慰謝料額は高額になります。
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不貞の程度や家庭環境も影響!慰謝料額を増減させる事情
上記の慰謝料額はあくまで目安で、不貞相手との関係や家庭の事情、不貞の悪質性などが考慮され、慰謝料の額が調整されます。
これは、離婚する場合、しない場合でも変わりません。
慰謝料を増額させる事情の例
次のような事情があると、慰謝料額の増額が認められやすいです。
- 不貞期間が長い
- 不貞相手に社会的地位がある
- 不貞相手が高齢で配偶者より指導的立場にある
- 一度別れたのに復縁した、不貞相手が家庭崩壊させようとしたなど、不貞の悪質性が高い
- 夫婦に幼い子どもがいる
慰謝料を減額させる事情の例
他方で、次のような事情があると、裁判になった場合に慰謝料は減額されがちです。
- 不貞相手の立場が弱い
- 不貞行為の回数が少ない
- 結婚期間が短い
- 夫婦関係が破綻するには至らないが不仲な状況にある
不貞慰謝料の判決例から見るケース別の慰謝料額
不貞の慰謝料請求で、裁判になるケースも少なくありません。
ここでは、実際の裁判で争われ、特にさまざまな事情が考慮された慰謝料請求のケースをご紹介します。
上司の夫が部下の女性と不貞したケース
夫が、勤務先の女性を、上司という立場を利用して不貞関係に持込み、約8か月間不貞関係が続いたけれど、妻が夫を許し離婚しなかったケースです。
妻が不貞相手の女性に対して500万円の慰謝料を請求しましたが、夫の方が主導的立場にあったこと、不貞相手は不貞を理由に退職するなど社会的制裁を受けているとして、50万円の慰謝料のみ認められました(東京地判H4.12.10)。
別れるつもりがないのにウソをついて不貞関係を続けていたケース
社内不貞で、不貞相手の女性が別れるつもりがないのに謝罪の手紙を送るなどして妻を騙し、2年間にわたり不貞関係にあったケースです。
夫婦は離婚しませんでしたが、不貞の悪質性が認められ、1240万円の請求に対して440万円の慰謝料が認められました(東京地判H15.2.14)。
離婚はしないが妻の精神的苦痛が大きく高額な慰謝料が認められたケース
婚姻期間3年、不貞期間が2年半に及び、不貞をされた妻が鬱状態、自律神経失調症を患うまで追い込まれ、不貞相手の女性に対して慰謝料請求したケースです。
夫婦は離婚しませんでしたが、結果の重大性が考慮され、600万円の請求に対して400万円の慰謝料が認められました(東京地判H16.4.23)。
離婚しない夫婦の夫の高収入が考慮されたケース
会社社長を務める夫と不貞した芸妓に、妻が3000万円の慰謝料を請求したケースです。
夫婦は離婚しないことになったこと、夫が高額な収入を得ていることが考慮され、100万円の慰謝料請求のみ認められました(東京地判H24.2.9)。
偶然知り合った相手との不貞で大幅に減額されたケース
妻がマラソン大会で知り合った外国人男性と不貞関係になり、9か月不貞を続け、夫婦は離婚に至ったケースです。
夫は相手男性に1億2000万円の慰謝料請求をしましたが、260万円のみ認められました(東京地判H24.3.21)。
不貞慰謝料の相場で迷った場合は弁護士に相談を
不貞慰謝料を請求しようと考えていた方の中には、結局誰にいくら請求しようか悩まれた方、裁判で認められる慰謝料額が予想より減額されて驚いた方もいるのではないでしょうか。
不貞慰謝料のケースは、夫婦や不貞の状況によりさまざまです。
できるだけ確実に慰謝料を請求し、もし裁判になった場合に希望に近い金額を認めてもらうには、まずは不貞の証拠を明らかにし、請求する慰謝料額の根拠を明確に示せるように準備することが大切です。
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そうした内容をすべて検討するのは、個人ではなかなか大変です。
まして、離婚をどうするかも検討している時点で一人で抱えていると、知らず知らずのうちに自分を追い込んでしまいがちです。
しかし、弁護士であれば、過去の事例をもとに、夫婦や不貞の状況などから、ベストな慰謝料額を算定し、請求が認められやすいように方針を組み立てることができます。
また、相手との交渉や、裁判になった場合の主張も、全て任せることができます。
配偶者に不貞され、慰謝料請求でお悩みの方は、まずはお気軽に弁護士にご相談ください。
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