自分が亡くなった後のこととはいえ、遺産の相続をめぐって家族が争うのは避けたいところです。
このような相続トラブルを防止するために最も有効なのが遺言書を残しておくことです。
遺言書には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。
これらの中で自筆証書遺言は最も手軽に作成できて費用もかからないため、利用しやすいものです。
しかし、自筆証書遺言の書き方には一定のルールがあり、不備があると無効になってしまうというデメリットもあります。
また、記載した内容が曖昧であったり不公平であったりすると、無用の相続トラブルを招いてしまうおそれもあります。
そこでこの記事では、自筆証書遺言の書き方や注意すべき点をご説明し、自筆証書遺言の作成を弁護士に依頼する方法もご紹介します。
法改正による自筆証書遺言のルールの変更を確認しておこう
近年の法改正によって自筆証書遺言に関するルールが変更されているので、最初に確認しておきましょう。
変更点は、次の2点です。
遺言書の一部をパソコンで作成可能とする改正
遺言書のうち、財産目録については手書きでなく、パソコンやワープロで作成することも認められるようになりました。
この変更は、改正民法の施行により2019年1月13日から実施されています。
法務局での遺言書保管制度の新設
自筆証書遺言を法務局で保管してもらえる制度が新設されました。
この制度は、2020年7月10日から実施されています。
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自筆証書遺言を無効にしないために注意すべき書き方のルール
自筆証書遺言の書き方には、民法で定められたルールがあります。
せっかく被相続人が自筆証書遺言を残していても、ルールを完全に守れていないために遺言書が無効になるケースが多々あります。
被相続人の意思を相続にしっかりと反映させるためには、以下のルールを守って遺言書を無効にしないことが必要です。
本文はすべて自筆する
自筆証書遺言の本文は、すべて本人が手書きで記載しなければなりません。
パソコンやワープロで本文を作成することはできませんし、家族であっても別の人が代筆することもできません。
一部でもパソコンやワープロを用いたり代筆した部分があれば、遺言書全体が無効になります。
ただし、遺言書の本文と財産目録を分けて作成する場合、財産目録についてはパソコンやワープロで作成することが認められています。
その場合も、財産目録に署名・押印することは必要です。
日付は明確に記載する
文書を書くときに日付の記載を忘れる方は多いですが、自筆証書遺言では日付の記載も必須となっています。
日付も本文の一部なので、ゴム印などを使用せず自筆する必要があることにご注意ください。
また、日付は「令和2年7月1日」のように年月日を明確に特定できる書き方をしなければなりません。
「令和2年7月吉日」といった表現では日付を特定できないため、遺言書が無効になります。
署名・押印を忘れずに
自筆証書遺言では、遺言者を特定するために署名・押印も必須とされています。
署名はフルネームで自書してください。
遺言者が特定できるのであれば通名やペンネームでも有効な遺言書として認められることもあります。
しかし、無用のトラブルを避けるために戸籍に登録されているとおりの姓名を自書した方がよいでしょう。
印鑑は認印でもかまいません。ただ、重要な書類なので実印を使う方が望ましいといえます。
訂正・加筆の作法を守る
いったん自筆証書遺言を作成した後に、誤記や記載漏れに気づいて訂正や加筆をすることもあると思います。
しかし、訂正・加筆をする方法についても細かな作法が定められています。
訂正する場合は、まず訂正箇所に二重線を引いて訂正印を押します。
二重線と訂正印は、原文の記載内容が分かる形で行う必要があります。
正しい文言をその近くの余白に記載した上で、「5字削除、10字加入」という形式で訂正内容も記載します。
さらにその近くに署名をしなければなりません。
加筆する場合は、加筆箇所に吹き出しで加入する文言を記載し、訂正印を押します。
この場合も余白に「20文字加入」というように加筆内容を記載して署名します。
以上の作法を守れていない場合、遺言書全体が無効になるわけではありませんが、訂正・加筆がないものとして取り扱われます。
訂正・加筆の量が多い場合は、もう一度遺言書を書き直した方が不備のリスクを避けることができますし、見やすい遺言書を作成することができます。
財産は具体的に特定できるように書く
遺言書に記載する財産は、具体的に特定できるように書く必要があります。
相続人に意味が伝わればよいというものではなく、名称や所在地、金額、量などを正確に書かなければなりません。
なぜなら、土地や建物などの不動産や預貯金口座などは名義変更や解約の手続きの際に遺言書が必要となるからです。
不動産については登記簿謄本に記載されているとおりに書きましょう。
預貯金口座についても、金融機関名・支店名・口座の種類・口座番号に至るまで通帳に記載されているとおりに書くことです。
実際に自筆証書遺言を書くときの流れ
それでは、実際に自筆証書遺言を書くときにどのような流れで進めればよいのかについてご説明します。
遺産の内容を改めて確認する
自筆証書遺言を書き始める前に、まずは自分の所有財産を改めて確認しましょう。
記載漏れがあったり、実際には遺産ではないものを遺産として記載しても、遺言書が無効になるわけではありません。
しかし、このような記載があると相続人が困りますし、相続トラブルを招く元にもなります。
必ず、自分が所有しているすべての財産をピックアップするようにしましょう。
誰にどの遺産を譲るかを決める
遺産の確認ができたら、誰にどの遺産を譲るのかを決めましょう。
つまり、遺産分割方法を指定することになります。
遺言書に遺産分割方法を記載するときは「誰に」「どの遺産」を譲るのかを明確に特定できるように書かなければならないことにもご注意ください。
「長男には多めに遺産を相続させる」
「長男の妻にも少しですが遺産をお譲りします」
このような記載ではどの遺産を譲るのかが明確に特定できないため、法的効力は認められません。
先ほど「財産は具体的に特定できるように書く」でご説明したように財産の名称や所在地、金額、量などを正確に書供養にしましょう。
用紙と筆記具を用意する
自筆証書遺言の作成に使用する用紙や筆記具には、特に決まりはありません。
用紙はレポート用紙やチラシの裏、メモ用紙など、どのような用紙でも有効です。
ただ、自筆証書遺言は相続人にとって重要な書類です。
専用の遺言書用紙を購入する必要は必ずしもありませんが、便せんや無地のコピー用紙などのきれいな用紙を使った方がよいでしょう。
筆記具についても、ボールペンや万年筆、毛筆、鉛筆など何を使ってもかまいません。
ただし、長期間の保存や改ざん防止のために消えないボールペンやペンを使うべきです。
遺言書の下書きをする
自筆証書遺言は一度できれいに書くことは難しいので、下書きをすることをおすすめします。
下書きはパソコンやワープロで作成してプリントアウトしても問題ありません。
パソコン・ワープロを使い慣れている方ならそうした方が清書する際に使いやすいでしょう。
清書して封筒に入れ、封印する
下書きができたら、いよいよ清書をします。下書きを見ながら正確に記載し、署名・押印します。
自筆証書遺言が完成したら、封筒に入れて封をし、封印をします。
この作業をしなくても遺言書が無効になることはありませんが、改ざん防止のためには実行しておいた方がよいでしょう。
封筒の表面には「遺言書」と記載し、裏面には作成日を記載して署名・押印をします。
封印と封筒裏面の押印には、遺言書に押印したのと同じ印鑑を使うことが必要です。
遺言書の文例
自筆証書遺言の書き方をより具体的にイメージしていただくために、文例を掲げておきます。
記載する内容はケースごとに異なりますので、このフォーマットはひとつの例として参考になさってください。
遺言書
遺言者〇〇〇〇は、以下のとおり遺言する。
1.〇〇銀行〇〇支店に有する定期預金(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)を妻〇〇〇〇(昭和〇〇年○月〇日生)に相続させる。
2.長男〇〇〇〇(昭和〇〇年○月〇日生)に次の財産を相続させる。
(1)土地
所 在 〇〇県〇〇市〇〇町○丁目
地 番 〇〇番○
地 目 宅地
地 積 〇〇〇.〇〇平方メートル
(2)建物
所 在 〇〇県〇〇市〇〇町○丁目
家屋番号 〇〇番○
種 類 居宅
構 造 鉄骨コンクリート造2階建
床面積 1階 〇〇.〇〇平方メートル
2階 〇〇.〇〇平方メートル
3.〇〇銀行〇〇支店に有する普通預金(口座番号〇〇〇〇〇〇〇)を長女〇〇〇〇(昭和〇〇年○月〇日生)に相続させる。
4.この遺言の執行者として下記の者を指定する。
〇〇県〇〇市〇〇町○丁目○番〇号
弁護士〇〇〇〇
令和〇年○月〇日
〇〇県〇〇市〇〇町○丁目〇〇番○
遺言者 〇〇 〇〇 ㊞
遺言書キットを利用するのもよい
ここまで自筆証書遺言の書き方のルールや作成する流れをご説明してきましたが、自分で一から遺言書を作成するのは意外に難しい場合もあると思います。
そんなときは、「遺言書キット」を利用するのもよいでしょう。
遺言書キットとは、遺言書用紙と遺言書の例文、説明書きなどがセットになっているものです。
さまざまなメーカーから数多くのキットが発売されています。
ただし、遺言書キットを使ってもこれまでにご説明してきたルールを守らなければ遺言書が無効になってしまうことにはご注意ください。
作成した自筆証書遺言を保管するときに注意すべきこと
自筆証書遺言を作成した後は、自分が亡くなるまで保管しておかなければなりません。
作成した自筆証書遺言を保管するときには、以下の点にご注意ください。
保管する場所には工夫が必要
公正証書遺言であれば公証役場で遺言書を保管してもらえますが、自筆証書遺言の場合は自分で保管する方法を考えなければなりません。
実際には書斎の引き出しや自宅内の金庫などで保管している方が多く、なかには銀行の貸金庫で保管している方もいます。
これらの方法でも問題はありません。
ただ、家族に簡単に見つかってしまうと破棄や改ざんをされるおそれがあります。
かといって見つけにくいところに隠しておいたのでは自分が亡くなった後に家族に見つけてもらえないかもしれません。
保管場所や保管方法が不安な方は、弁護士の事務所で預かってもらうのもひとつの方法です。
法務局で自筆証書遺言を保管してもらうこともできる
2020年7月10日から、法務局で自筆証書遺言を保管してもらえる制度が始まります。
この制度を利用すれば、遺言書を破棄・改ざんされるおそれがないので安心です。
また、次にご説明する検認の手続きが不要になるというメリットもあります。
今後に自筆証書遺言を作成する方は、法務局の保管制度を積極的に活用するとよいでしょう。
作成者の死後は自筆証書遺言の検認が必要
これは遺言者が亡くなってからの手続きですが、自筆証書遺言を見つけた家族は開封せずに家庭裁判所に提出し、検認という手続きを受ける必要があることにご注意ください。
検認とは、家庭裁判所が遺言書を開封して内容を確認することによって、被相続人による遺言書の存在を確認するための手続きです。
不動産や預貯金口座の名義変更をする際には検認を受けた遺言書が必要なので、必ず検認を受けるようにしましょう。
なお、検認を受ける前に誰かが開封しても遺言書が無効になることはありません。
ただし、その場合は開封した人に5万円以下の罰金が科されることがあります。
自筆証書遺言の作成を弁護士に依頼する方法
自筆証書遺言のメリットは費用をかけずに自分で作成できることですが、実際に書こうとすると難しいと感じる方も多いことでしょう。
また、様式の不備がなくても遺言の内容が適切でなければ相続トラブルを防止できないおそれもあります。
そのため、不安な方には自筆証書遺言の作成を弁護士に依頼することをおすすめします。
ここでは、弁護士に依頼する方法をご説明します。
相続問題に強い弁護士を探す
弁護士にもそれぞれ得意分野と苦手分野があります。相続問題をあまり取り扱っていない弁護士の場合、自筆証書遺言の作成には慣れていない可能性が高いです。
間違いのない遺言書を作成するためには、相続問題に強い弁護士を選ぶことが大切です。
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遺言内容を考えておく
自筆証書遺言の作成について弁護士に相談する前に、自分が所有する財産を改めて確認した上で遺言内容を考えておきましょう。
漠然とした考えしか持たずに弁護士に相談・依頼しても効率よく自筆証書遺言を作成することはできません。
自分が希望する遺言内容をあらかじめ考えておくことが大切です。
ただし、実際の遺言内容は弁護士のアドバイスにしたがって希望する内容から変更した方がよい場合もあります。
なぜなら、遺言の内容によっては相続トラブルを招くおそれがあるからです。
例えば、相続人が何人かいる場合に、すべての遺産を誰か一人に相続させるというような不公平な内容の遺言書を作成したとしましょう。
この場合、被相続人の死後に遺産がもらえないことが分かった相続人が、遺産をもらった相続人に対して遺留分を請求することによってトラブルが発生する可能性が高いです。
相続トラブルを防止するためには、遺留分の問題などにも注意して公平または合理的な内容の遺言書を作成することが重要です。
遺留分についてはこちらの記事で詳しく解説していますので、参考になさってください。
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弁護士費用を用意する
弁護士に依頼するためには費用がかかります。
費用を用意できない場合は自分で自筆証書遺言を作成した上で弁護士の無料相談を活用するという方法もあります。
無料相談では時間の制限がある場合も多いですが、様式の不備の確認や内容の妥当性についてアドバイスを受けることもできます。
弁護士費用が気になる方は、こちらの記事を参考になさってください。
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自筆証書遺言は誰でも簡単に作成できると思われがちですが、少しでも様式の不備があれば遺言書が無効になってしまいます。
また、自分では相続人のためを思って自筆証書遺言を作成したつもりでも、記載内容によってはかえって相続トラブルを招くことにもなりかねません。
遺産相続を円滑にできるような正しい自筆証書遺言を作成するためには、弁護士に相談されるのが得策です。
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