不動産を保有する人が亡くなった場合、相続した人は「相続登記」の手続きをしなければいけません。
相続登記は、費用や手間がかかり、手続きをしなくても罰則などがなかったため放置する人が多かったのですが、所有者が特定できないために有効な土地活用が進まないことが問題視されてきました。
国土計画協会による調査では、所有者不明の土地は年々増加し、2040年には北海道の面積の90%に相当する720万ヘクタールに至り、経済損失も6兆円に上ると予測されています。
このような状況を受け、2024年4月1日から、相続登記が義務化されることになりました。
とはいえ、高齢のお身内がいて先々の相続登記が心配な方や、そもそも相続登記とは何なのか、いつまでに何をすればいいのかなど、お悩みの方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、相続登記とは何なのか、いつまでに何をすればいいのか、相続登記をしなかった場合のペナルティについてわかりやすく解説します。
相続登記=不動産の名義変更手続きのこと
「相続登記」とは、亡くなった人(被相続人)から相続した土地や建物などの不動産の名義を、被相続人から相続人に変更する手続きのことをいいます。親などから相続した財産に不動産が含まれている場合は、相続登記をしなければいけません。
相続登記の目的は、不動産の所有者を明らかにしてトラブルを防ぐことにあります。
不動産の所有者は登記簿に記載されるため、相続登記の手続きは、登記簿を管理する法務局で行います。
登記簿に記載された情報は、不動産を売却したり、担保に入れたりする際に不可欠です。相続の際に相続登記をきちんと行わないと、第三者に土地・建物の所有権を主張することができません。
2024年に相続登記が義務化!注意すべき3つの点
上記のように、不動産を利活用するために重要な相続登記ですが、従来は登記しない人が多いのが実情でした。しかし、土地の有効利用ができないことが問題化し、2024年4月1日から、相続登記が義務化されることになりました。
義務化では、相続登記の時期、相続のタイミング、罰則の3つに特に注意が必要です。
相続登記する時期はいつまで?
不動産登記法の改正により、相続登記の義務化は、2024年4月1日から開始されることになっています。これにより、相続の開始および所有権を取得したと知った日から3年以内に相続登記をする必要があります。
この「3年」のカウントが始まる時期(起算日)を分かりやすく言うと
- 自分が相続の対象者である
- 相続した財産の中に不動産の所有権が含まれる
以上の2点を知った日を指します。相続開始日ではないので注意しましょう。
つまり、被相続人が不動産を所有していたことを知らなかった期間は3年に含まれません。また、自分が相続人だと知っていても、相続した財産の中に不動産があると知らない場合は、相続登記の義務は生じません。
兄弟など複数人で相続した場合は、一番最後に相続の発生を知った相続人が、上記の”相続の開始および所有権を取得したと知った日”からカウントします。
反対に、相続人が全員集まり、遺産分割協議を行って不動産の所有権を取得したケースでは、遺産分割した日から3年のカウントが始まります。
義務化される前の相続にも適用される
2024年4月1日に始まる相続登記の義務化ですが、それ以前の相続登記をしていない不動産にも適用されるので注意が必要です。
この場合、
- 改正法が施行される2024年4月1日
- 相続で不動産の所有権を取得したことを知った日
以上のどちらか遅い日から3年以内に相続登記をする必要があります。
たとえば、親が2024年2月1日に亡くなり、2024年3月1日に、親が自宅以外に地元に山林を所有していたことを知った場合は、2024年4月1日から3年以内に相続登記をしなければいけません。
上記の場合で、親の不動産所有を2024年5月1日に知った場合は、その日から3年のカウントが開始することになります。
相続登記をしない場合の罰則
相続により取得した不動産を、正当な理由がないのに3年以内に登記しなかった場合は、10万円以下の過料が科される可能性があります。
また、今回の法改正では、相続登記の義務化と一緒に住所変更登記の義務化も実施されます。不動産の所有者に住所や氏名の変更があった場合、2年以内に変更手続きをしなければ、5万円以下の過料となる可能性もあるので注意してください。
なお、相続することができ不動産登記される権利としては、土地や建物の所有権以外にも、
- 地上権
→竹木を所有するために他人の土地を使う権利 - 賃借権
→借りる権利 - 抵当権
→不動産を担保にして優先的に弁済を受ける権利
など、様々な権利があります。
ただし、今回の改正で義務の対象になるのは不動産の「所有権」のみです。
名義変更をしない場合に相続人が負うリスク
相続登記をせずに放置すると、上記のように過料の罰則を受ける以外にも、次のようなリスクを負う可能性があります。
権利関係が複雑になる
遺産を相続する場合、相続人全員で「遺産分割協議」を開き、遺産の分け方を話し合い、その内容を「遺産分割協議書」にまとめて相続人全員が捺印する必要があります。
相続登記を放置している間に相続人が認知症になるなどすると、遺産分割協議が困難になります。
その場合は認知症の相続人に成年後見人を立てて遺産分割協議を行いますが、成年後見人は身内ではないので、話し合いが難航しがちです。
また、相続登記が進まないうちに、相続人が亡くなって更に相続が発生したり、誰が相続人か分からなくなるケースも少なくありません。
相続登記を放置する期間が長くなるほど、権利関係は複雑化します。
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借り入れなどで不動産を担保にできない
家を建てるために銀行などで借入れをする場合、家の建設予定地を担保として銀行に提供するのが通常です。
その場合、銀行側は必ず登記簿で土地の所有者を確認します。
相続登記がされず、不動産名義が亡くなった被相続人のまま残っていたり、所有者不明となっていると、不動産を担保に入れることはできないので、お金を借りるのは実質的に不可能です。
また、不動産を売却して有効利用したい場合でも、相続登記は必要です。
兄弟など複数人で相続した場合、遺産分割協議が成立しないと不動産の名義変更はできません。
相続登記が完了するまで、不動産は全法定相続人で共有する状態となり、個人で勝手に売却することはできない決まりになっています。
不動産を差し押さえられる可能性がある
相続人の中に借金がある人がいる場合、債権者に不動産を差し押さえられる可能性があります。
上記のように、遺産分割協議が成立しないと、不動産は相続人で共有している状態になりますが、債権者は、お金を返さない相続人の法定相続分を差し押さえて相続登記をすることができます(債権者による代位登記)。
差し押さえられるのは、その相続人の法定相続分のみとはいえ、不動産の一部分を差し押さえられると、手続きは格段に煩雑になり、有効利用は難しくなります。
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不動産を相続したときの名義変更方法3つ
相続登記をしないでいると、上記のようなリスクを被ります。それだけに、できるだけ早く相続登記を進めることが重要です。
その際、相続手続きを行うには、以下の3つの方法があります。
自分で手続する
相続登記をするのに、資格は不要です。自分で相続登記をすれば、登記費用を抑えることが可能です。
ただし、相続登記は必要な書類だけでも多岐にわたり、資料の収集にも労力を要します。
また、必要な登記事項に漏れがあると、何度も手続きをしなければいけなかったり、いざという時に不動産を有効活用することができない恐れがあります。
司法書士に依頼する
司法書士は、法律関係の書類の専門家です。登記を良く扱う資格職であること、戸籍収集や遺産分割協議書の作成であれば、5万円〜15万円程度と、比較的安価に依頼することができるメリットがあります。
ただし、司法書士は、法律相談をしたり、紛争の解決をすることはできません。
相続人の一人が土地の分け方に反対するなど遺産分割協議でもめているような場合は、別途弁護士を頼んで法律相談に乗ってもらったり、対応してもらう必要があるので、相続人の状況によってはかえって時間やお金がかかる場合もあります。
弁護士に依頼する
弁護士は、法律に関するすべての問題を扱うことができる専門家です。
戸籍収集や遺産分割協議書の作成はもちろん、遺産分割協議が難航している場合は間に入って調整することもできますし、すでに話し合いが紛糾していて裁判所の調停などを利用する場合は、代理人として書類の準備や話し合いまで全て任せることができます。
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不動産の名義変更で困った場合は弁護士に相談を
不動産の名義変更は、簡単には進まないのが実情です。
相続人の一部が所在不明で相続手続きが難航する場合、相続人ではない人が被相続人の生前に看病などで貢献したと主張する場合、遺言書が出てきた場合など、想像していなかったトラブルが発生しがちです。
そのような場合でも、弁護士であれば、遺産相続に関するすべての問題について相談し、対応してもらうことが可能です。
実際に依頼する場合の費用は、依頼する内容により異なりますが、10万円~50万円が相場です。
正式に依頼する前に、法律相談ができる法律事務所(弁護士事務所)が多いので、まずは相談し、費用が心配な場合はあらかじめ見積りを出してもらうことも可能です。
実際に相続登記でお悩みの方はもちろん、今後不動産を相続する予定があり、遺産分割や相続登記が心配な方は、あらかじめ弁護士からアドバイスを受けておくことも可能です。
相続登記を放置していると、思わぬリスクを負い、子孫の代までトラブルの種を残す恐れもあります。
相続登記が心配な場合は、できるだけ早く弁護士にご相談されることをお勧めします。
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