「インスタに写真を投稿したら、知らない人から肖像権の侵害だとDMが来た」「他人のYouTubeに自分の姿が映り込んでいるので削除してほしい」など、SNSの投稿をめぐって肖像権が問題になるケースは少なくありません。
ご自身が肖像権を侵害したかもしれない、侵害されたかもしれないと思うと、損害賠償を請求されるのではないか、画像や動画が悪用されるのではないかといった不安に感じる方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、肖像権侵害が問題になるのはどのようなケースか、また、肖像権を侵害した場合、された場合の対処法について、事例をもとに解説します。
肖像権侵害になるのはこんな場合
インスタなどのSNSや動画に、姿が少し映り込んだだけで、肖像権侵害になるわけではありません。
そこでまず、肖像権侵害に当たる場合、当たらない場合についてご説明します。
肖像権侵害になる5つの基準
肖像権は、法律に定められた権利ではなく、法律の解釈や裁判で認められてきた権利です。
そのため、「これをすれば肖像権侵害になる」という明確な定めがあるわけではありません。
しかし、撮影された被写体の受忍限度の点から次の3つの基準をもとに、肖像権侵害に当たるかどうかが判断されます。
- 個人が特定できるかどうか
- 人物をメインで撮影しているか(撮影場所の公共性や風景写真の映り込みかなど)
- 公開された場合拡散性があるか
上記からすると、顔がはっきり写った写真をSNSにアップした、自宅等プライベートな空間にいる様子を勝手に撮影して公開した、通りすがりの綺麗な人を無断で隠し撮りした、撮影の同意は得たが公開の同意は得ていない動画をYouTube等のSNSに無断でアップした等の場合は、肖像権の侵害になる可能性が高いです。
肖像権侵害になりにくい場合
他方で、上記の基準を満たさない場合は、個人が映り込んでも肖像権の侵害にはなりにくいです。
具体的には、
- 被写体が誰か特定できない写真や動画
- 本人の承諾を得ている場合
- 非公開のDM等のやり取り上でアップされた写真や動画
- 公道やイベントなどで撮影された写真や動画
- 風景写真に偶然映り込んでいる場合
などです。
たとえば、街のイベントステージでアイドルが公演している場合、それを撮影しても肖像権の問題にはなりにくいです。
ただし、利用方法によっては、パブリシティ権の問題になる可能性があるので注意してください。
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肖像権侵害が問題になった実際の事例
古くは小説内にプライバシー権を侵害する記載があったことが問題になって以来、雑誌の撮影、SNSの投稿と、時代により肖像権侵害の問題も変化してきました。肖像権の侵害が裁判で争われた例として、以下のようなものがあります。
和歌山毒入りカレー事件の無断撮影(最判H17.11.10)
ある週刊誌が、和歌山毒入りカレー事件の裁判時、法廷で手錠をされた被告人の写真やイラストを公開したことが、肖像権の侵害として争われた事件です。
最高裁は、本件で、人はみだりに自分の容貌等を撮影されず、公開されない権利を有するとして肖像権を認めました。
そして、肖像権侵害に当たるかどうかについて「受忍限度論」をもとに判断し、本件は被写体は撮影されることを予想できない場所で隠し撮りされ、公開の必要性もなかったことなどから、受忍限度を超えた肖像権侵害にあたると認められました。
入院風景を勝手に撮影した事件(東京地判H2.5.22)
ある週刊誌が、大手企業の会長が入院中に病院内を車椅子で移動中の姿を撮影し、雑誌に掲載したことから、肖像権およびプライバシー権の侵害にあたるとされた事件です。
裁判では、病院内は、完全な私生活が保障される私宅と同様の場所であること、週刊誌側は、丹念に調べれば被写体の健康状態について報道できたので、あえて写真を撮影・公開する必要はなかったとして肖像権およびプライバシー権の侵害が認められました。
昔の水着写真を掲載した事件(東京地判H6.1.31)
夫の殺害容疑で逮捕された妻が、事件報道に際して、コンテスト参加のため30年前に雑誌に掲載された水着写真が利用されたされたことが、肖像権の侵害に当たるとされた事件です。
裁判では、夫の殺害容疑で逮捕されたことが公共の利害に関する事実で写真掲載が許されるとしても、30年前の水着写真まで掲載する必要性・相当性はないとして肖像権侵害が認められました。
インスタストーリーの動画を無断で転用した事件(東京地判R2.9.24)
夫が飲食店で撮影した妻の動画をインスタのストーリーにアップしたところ、第三者がその動画の一部を画像として保存し、夫婦に無断でホストクラブのサイトに投稿した事件です。妻が肖像権侵害を理由にプロバイダに発信者情報開示請求をしました。
裁判所は、ストーリー動画の公開は24時間で長期公開を想定していないこと、妻は第三者に自身の画像の利用を許可していないこと、一般人である夫婦の私生活の一部を撮影した動画の一部であることをもとに、本件投稿の方法や手段は相当ではなく、画像利用の目的の正当性や必要性もないとして、受忍限度を超える違法なものとして肖像権侵害が認められました。
肖像権侵害は犯罪になる?
上記のように、肖像権は様々な場面で問題になります。
肖像権侵害があると認められた場合、法律上で問うことが出来る責任は以下の通りです。
刑事上の責任は問えない
肖像権を侵害されても、犯罪として逮捕したり、刑事罰を加えるなど、刑事上の責任を問うことはできません。
これは前述のように、肖像権は法解釈や裁判で認められてきた権利で、明文化されていないことが理由です。
民事上の責任を追及して損害賠償が請求できる
肖像権も権利なので、侵害された場合は民事上の責任を問うことができます。
具体的には、民法709条の不法行為責任(わざと、または不注意で他人の権利を侵害した場合、侵害した人はその損害を賠償しなければならないという原則)に基づいて、相手に対して損害賠償を請求することになります。
ただし、損害賠償請求は、相手方が誰か分からないとすることができません。
SNSに自分の顔写真を投稿したのが氏名不詳の第三者である場合などは、損害賠償請求に先だって、プロバイダなどに発信者情報開示請求をすることになります。
肖像権を侵害された場合の対処法
肖像権を侵害された場合、上記のように民事上の責任を追及できます。
しかし、そうしている場合にも写真や動画が拡散されるのではないかと心配な方も多いと思います。
肖像権を侵害されたら、次のような対応を取りましょう。
SNSやサイトの運営会社に削除を依頼する
自分の画像が無断で掲載・使用されている場合、まずはこれ以上の拡散を防ぐことが大切です。
そこで、早急にSNSやサイトの運営会社に削除依頼をしてください。
これらの会社は、多くの場合、肖像権を侵害する投稿を禁止する規約を設けています。
そのため、肖像権が侵害されているとわかり、規約違反と認められれば削除されやすいです。
運営会社によっては、削除申請用のフォームを設けているところもありますが、ない場合は以下の情報をお問い合わせフォームや問合せ先のメールアドレスに送りましょう。
- 請求者の住所、氏名
- 電話番号、メールアドレスなどの連絡先
- 自分の容姿が写った動画・画像が無断で投稿・公開されているので削除してほしい等の申請内容
- 肖像権を侵害していると認められる具体的な箇所
損害賠償請求を行う
先ほども触れた通り、肖像権を侵害された場合、民法709条の不法行為責任に基づいて、損害賠償請求をすることが考えられます。
投稿者が誰か分かっている場合は本人に請求すればよいのですが、相手が不明な場合は、以下の手続きによって相手を特定する必要があります。
- サイト運営者に対して、投稿者IPアドレス開示請求を行う
- プロバイダに対して、発信者情報開示請求を行う
上記が判明したら、実際にどの程度の損害が発生したかを算定し、相手方に請求します。
損害が精神的苦痛のみの場合、通常の一般人の場合は10~50万円程度が相場です。
ただし、裸の画像を撮影・流出されたなど特別の事情がある場合は、数百万円にのぼることもあります。
さらに、そうした行為により引越しを余儀なくされたなどの事情が加わると、引っ越し費用として数十万~100万円程度が上乗せされるケースもあります。
請求する際は、まずは内容証明郵便(郵便局が、誰が誰にどのような内容の文書を発送したかを証明する郵便)で請求し、それでも相手が応じない場合は裁判に至ることになります。
手続きが複雑になる上、相手方に自分のより詳しい個人情報が知られたくないという方もいると思います。
そのような場合は、弁護士であれば代理人としてすべて代わって行うことが可能です。
肖像権を侵害した!?心配な場合の対処法
ご自分の投稿が他人の肖像権を侵害したかもしれないと不安な場合は、どのように対処したら良いのでしょうか。
ここでは、弁護士に相談する場合を前提に解説していきましょう。
本当に肖像権を侵害しているか弁護士が確認
相手方が肖像権を侵害していると主張しても、本当に侵害しているとは限りません。
風景写真に写りこんだだけのもの、ピンボケで本人にしか自分と分からないものなど、実際は肖像権を侵害していないケースも考えられます。
明らかに無断で人の顔や容姿が明確に分かる写真や動画を撮影・投稿したわけではなく、自分でも思い至らないような場合は、弁護士に相談してみましょう。
示談交渉を弁護士に相談
実際に他人の肖像権を侵害していた場合、まずは投稿を削除するのに加え、相手が損害賠償を請求している場合はこれに応じなければいけません。
無視していると、裁判になり、強制執行をかけられる恐れもあるので、決して放置しないようにしましょう。
しかし、相手方の請求が時に過大な場合もあります。
たとえば、顔写真が写ったことで精神的苦痛を受けたとして数百万円を超える慰謝料請求をしてくる等の場合です。
また、悪質な相手の場合、一度損害賠償を支払っても、後から不足分があったとして追加請求してくる場合もあります。
弁護士に間に入ってもらい、「示談」という形で1回で交渉を終わらせ、適切な額の損害賠償額で解決するよう相談することをお勧めします。
肖像権を侵害しない・されないための注意点
肖像権を侵害したり、されないようにするためには、撮影する側、される側も、次のような点に注意してください。
撮影する側が肖像権侵害を避けるための注意点
まずは、個人が特定される写真を無断で撮影・投稿しないことが重要です。
友達の集まりで撮った写真でも、撮影は許可したけれど公開は許可していないというケースもあります。
撮影、公開共に本人の許諾を得ることが重要ですが、オープンな場で撮影する場合などは、次のような点に注意して撮影・公開するようにしましょう。
- 被写体が個人として特定できるか撮影した画像に注意する
- 一般的に公開を望まない水着や下着姿などでないか
- 公開されている場所で撮影したか
- 撮影方法は隠し撮りなどではなく正当なものか
- 撮影や公開の目的は正当なものか
撮影される側が肖像権侵害を避けるための注意点
撮影される側としては、自分の姿が知らないところで拡散されることほど怖いものはありません。
特に、交際相手と親密な写真を撮ったような場合、撮影当時は良くても後に関係がこじれるなどした際に、当時の写真を無断でネットにアップされるケースは少なくありません。
このような写真は削除できたとしても、デジタルタトゥーとして残り、将来に影響する恐れも否定できません。
そのような事態を避けるために、知人同士であっても、次のような点に注意しましょう。
- 無断で写真を撮らせない
- 自宅で動画や写真撮影をする人は友人であっても注意する
- 写真や動画を撮影された場合、公開の有無や公開の場所を確認する
- 撮影は許しても公開は欲しない場合、明確に公開を拒否する
自分の事例が肖像権侵害にあたるか心配な場合は弁護士に相談を
スマホで気軽に写真・動画を投稿し、SNS等にアップできる昨今、誰もが肖像権を侵害する側、侵害される側の双方になる可能性があります。
自分では肖像権を侵害していないと思ってもしている場合、気付かないところで侵害されている場合もあり得ます。
どちらの立場になったとしても、まずは弁護士に相談してください。
SNSのプロバイダは外国企業のことも多いため、侵害された立場の場合、ご自分で発信者情報開示請求を行うなどの手続きを行うのが難しい場合もありますし、損害賠償額の確定や、個人での請求には煩雑な手続きが必要になります。
また、侵害した側になったとしても、早期に解決するためには、弁護士に相談して適切な方法での対処、相手方への謝罪、損害賠償額の支払といった手続きが必要になるからです。
肖像権侵害をしたかもしれない、されているかもしれないなど、肖像権に関してお悩み事がある方は、弁護士にまずはお気軽にご相談ください。
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