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副業をしている社員をクビにできる?退職金は?

2021年10月12日

会社で働く人々

厚生労働省が打ち出している「働き方改革」に触発され、働き方の多様性が重視されるようになってきました。

スキルアップや副収入のために副業を行う人が増え、今や副収入があるのは当たり前になりつつあります。

しかし、副業をすることによって会社に損害を与えるとしたらどうでしょう。疲れて本業に支障がある、企業秘密が漏れているなどです。

「働き方改革」に沿う経営をしたいとは考えていても、直接的な損害があれば副業禁止とせざるを得ません。

厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」によれば、会社に損害を与えるなどの要件を満たすときには、会社は副業・兼業を禁止できるとしています。

さらに、禁止しても隠れて副業を行う従業員にはどのように対処したらいいのでしょうか。

この記事では、以下の2点について解説します。

  • 副業をしている従業員を解雇できるか?
  • 懲戒解雇でも退職金を支払う必要があるか?

「副業をしている」というだけではクビにできない

副業がみつかったからといって即解雇できるわけではありません。

少なくとも以下の2点に注意しなくてはなりません。

  • 就業規則に明記する
    就業規則で副業・兼業が禁止であることを明記しなくてはなりません。さらに、違反したときにどのような罰則があるかも明記しなくてはなりません。
  • いきなり解雇すると不当解雇と判断されることも
    しかし、注意・警告をしても反省する様子がなく副業を続けているとすれば、解雇するのもやむをえないでしょう。

就業規則・労働契約で副業を禁止するのは違法?

就業規則や労働契約で副業を禁止するためには、理由が必要です。

理由もなく副業を禁止している就業規則や労働契約はそれ自体が違法とされる可能性があります。

平成24年の「マンナ運輸事件」判決では、副業・兼業によって本業の労務提供ができなかったり不完全になったり、企業秘密がもれて会社の秩序が乱れるようなときにのみ、就業規則で副業・兼業を禁止できるという見解が出ています。

マンナ運輸事件とは

運送会社でトラック運転手をしていた従業員が、計4回アルバイトの許可を申請したが許可されなかったという事件です。

不許可には合理的理由がなく不法行為であるとし、会社に対して慰謝料30万円の支払いを命じました。

平成30年に出た厚生労働省の「副業・兼業の促進に関するガイドライン」では次のようにまとめられています。

副業・兼業の促進に関するガイドライン
1 副業・兼業の現状
(中略)
(2) 副業・兼業に関する裁判例では、労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、基本的には労働者の自由であり、各企業においてそれを制限することが許されるのは、例えば、
① 労務提供上の支障がある場合
② 業務上の秘密が漏洩する場合
③ 競業により自社の利益が害される場合
④ 自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合
に該当する場合と解されている。

具体的には次のような状況では、副業・兼業を制限することが許されると考えられます。

  • 副業のせいで遅刻・欠勤が多い
  • 競合他社でのアルバイトで会社の利益が損なわれる
  • 会社固有の技術・ノウハウが漏洩されている
  • 副業で会社の名前や名詞を使用している
  • 副業の内容が違法で、会社の品位を落とすおそれがある

いきなりクビにはできない

就業規則で定めていても、副業をしていることを理由にいきなり懲戒解雇にすると解雇権の濫用とされる場合があります。

事前に注意をしても聞かないようなら、減給・出勤停止など懲戒処分を通告し、さらに期限を決めて副業を辞めるように警告する。

それでも無視して副業を続けるなら、懲戒解雇にすることも可能です。

就業時間以外は個人の自由というのが法的には基本の考え方です。

憲法でも職業選択の自由を掲げています。時間外に他社で働くのは個人の自由なのです。

それらに反して副業を制限しているわけなので、解雇という重い処分には適さないというのが裁判所の判断です。

クビにせざるを得ないときは弁護士に相談を

副業を理由に懲戒解雇にした退職者から訴えられ、数千万円の支払いと退職者の復職を命じられた判例もあります。

勤務時間中にどの程度副業を行っていたか、本業への支障がどの程度なのか、証明するのは難しい問題だからです。

訴えられた上に数千万円の支払いを命じられたとなると、会社が被る実損や信用・評判への傷もおおごとになってしまいます。

解雇する必要がある場合には、事前に弁護士に相談することをおすすめします。

副業でクビにする際に、退職金は不要?

退職金はそれまでの労働に対して支払われるもので、原則支払わなくてはなりません。

退職金を減額・不支給にできるのは以下の条件を両方満たす場合のみです。

  • 就業規則・退職金規定で減額・不支給の理由を明記している
  • 対象者に著しい背信行為がある

就業規則に「懲戒解雇の場合は退職金を支払わない」などの記載があっても、「著しい背信行為」にあたる状況がないときは、退職金を支払うのが妥当であるとされています。

判例が退職金の不支給を認めたケース

  • 会社財産の横領・着服
  • 会社内で違法行為に及んだ
    (酩酊したパート社員との性行為、職場での賭博行為、係争中の他社に対する自社の機密漏洩など)
  • 競合他社への転職の際に、従業員や顧客を引き抜き、秘密情報を持ち出した

このように著しい背信行為があったときにのみ、退職金の不支給を認めています。

副業行為が著しい背信行為といえるかどうかが問題となります。

副業が著しい背信行為になるケース

副業による疲労で本業に支障が生じる程度では、著しい背信行為とはいえません。

しかし、競業他社で役職に就き、秘密を漏洩し、従業員を他社へ引き抜いたような極端な場合は、副業が原因で会社に対して著しい背信行為があったといえるでしょう。

しかし、立証できるかどうかは別問題です。

本業への支障や秘密漏洩が立証できなくて、懲戒解雇が無効になった判例もあります。

数千万円の支払いと復職が命ぜられました。(東京高等裁判所平成31年3月28日判決)

副業が原因で著しい背信行為がなされたかどうかは、高度な法律的判断です。

専門の弁護士に相談するのがベストです。事前に専門家に相談していれば、数千万円の支払いは生じなかったかもしれません。

副業の裁判で傷つくのは会社の信用

退職者から訴えられたときの最も大きな損害は金銭や人事問題ではなく、会社の信用です。

体外的にはブラック企業のイメージが定着し、取引先からは軽視され、リクルートでも不利になります。

内部的にも、自由度の低い企業で働くことへの意欲が低下し、従業員から信頼を得られなくなります。

処分を決定する前に弁護士に相談

不当解雇と判断されてしまうと、会社の損害は大きくなるので、できれば処分を決定する前に弁護士に相談して、事前にできる対策はやっておきましょう。

解雇する前に証拠を集める

業務に支障を来している・会社の秘密を漏洩しているなど、副業の証拠です。

訴えられるかもしれないと想定して準備しておくにこしたことはありません。

それだけではなく、証拠を確認することによって、本当に副業が会社に害を及ぼしていたのかを再確認できることになります。

退職金を不支給とできるかどうかの判断

裁判で退職金の支払い命令がでてしまうと、金銭以上に会社の信用が傷つきます。

退職者一人一人について弁護士の法律的な見解が参考になります。

また、就業規則自体が法に抵触しないか、時代にあったものに変更していくべきかなどを相談してみるのもおすすめです。

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