「毒親」という言葉を耳にした方は多いのではないでしょうか。
自分自身が、「毒親で悩んでいる」「毒親を訴えたい」といった悩みを持っている方もいるかもしれません。
「毒親」とは、アメリカの精神医学者であるスーザン・フォワード氏が提唱した概念です。
明確な定義があるわけではありませんが、一般的に、暴言・暴力・過干渉などで子どもを支配しようとしたり、反対に、自分のことを優先して保護が必要な子どもを放置するなど、子どもにとって毒になるような悪影響を及ぼす親のことを指します。
毒親は、子どもが小さいときだけでなく、成人してからも関わってくることがあります。
そのような毒親の元で育った子どもの中には、暴力・暴言を振るわれたことがPTSDなど心の傷になっていたり、自己肯定感が低く必要以上に自分を責めるなどして、社会に出てからも苦しさを抱えたり、人間関係の構築に苦労する方も少なくありません。
毒親の中には、「しつけ」を理由にする人もいますが、しつけを理由に子どもを虐待することは許されませんし、行為によっては、違法と評価され、法的措置をとれる場合もあります。
そこで今回は、毒親でお悩みの方に向けて、毒親の行為に対して法的措置がとれるケースや、警察や弁護士ができることをご紹介します。
未成年の子どもへのしつけを超えた毒親の行為とは
よく、幼い子どもに暴力をふるって逮捕された親が、「しつけの一環だった」と言い訳をしているニュースを耳にします。
たしかに、未成年の子どもを育てる親には「親権」があります。
親権とは、未成年の子どもを監護・養育し、財産を管理し、子どもの代理人として契約などの法律行為をする権利や義務を言います。
両親が結婚している場合は父親と母親が共同して親権を持ち、離婚する場合は、必ずどちらか一方を親権者に決めなければいけない決まりになっています(民法818条3項、819条1項・2項)。
親権は、大きく分けると、次の2つに分類されます。
- 財産管理権
子どもの財産を管理したり、財産に関する法律行為を代理する権利・義務 - 身上監護権
子どもを監護・教育する権利・義務
そして、この身上監護権が、さらに次の3つを含んでいます。
- 居所指定権
子どもが住む場所を指定する権利・義務 - 懲戒権
子どもの懲戒・しつけをする権利・義務 - 職業許可権
子どもが職業を営む際に許可する権利・義務
子どもに暴力をふるって逮捕される親が「しつけ」を言い訳にするのは、未成年の子どもを育てる親には、この懲戒権があるからです。
しかし、いくら懲戒権があるからと言って、行き過ぎたしつけが許されるわけではありません。
また、親権は未成年の子供に対してしか及びませんが、毒親は「親の権利」等を理由に、子どもが成人した後も関与してくることは往々にしてあります。
警察に訴えることができる、違法になりうる毒親の行為
親が、しつけや親の権利だとして行っている行為でも、次のような場合は警察に被害を訴えられる可能性があります。
暴力を振るわれた場合
親に殴る、蹴るなどされた、髪を引っ張られた、冷水やお湯をかけられたなどの場合は「暴行罪」(刑法208条)として警察に被害を訴えることができる場合があります。
暴行によってケガをした場合は「傷害罪」(同204条)として、より重い罪になります。
脅された場合
毒親の中には、「親の頼みを聞いてくれないなら死んでやる」「会社に秘密をばらしてやる」などと脅して、子どもを意のままに動かそうとする人がいます。
本人や親族の生命や身体、自由、名誉、財産に害を加えることを告げて脅す行為は「脅迫罪」(同222条)に当たる場合があります。
お金や財産を脅し取られた場合
上記の脅迫罪のように、毒親が脅したり暴力を振るうなどしてお金を出すよう迫り、子どもが恐怖を感じてお金などを出した場合、「恐喝罪」(同249条)が成立する場合があります。
お金や財産を盗まれた場合
子どもの財布から毒親がお金を抜き取る、口座から勝手に預金を下ろす、宝石や車などを勝手に処分してお金を着服するなどの行為があった場合、「窃盗罪」(同235条)や「横領罪」(同252条)に当たる可能性があります。
嘘の事実を言いふらされた場合
「ウチの子どもは不倫女だ」など、子どもに関するうその事実などを言いふらし、子どもの名誉を毀損する場合は、かりにその内容が事実であったとしても「名誉毀損罪」(同230条)が成立する可能性があります。
つきまとわれたり監視される場合
いくら子どもとはいえ、親が24時間監視したり、つきまとったり、電話の内容を盗聴するなどの行為をするのはやり過ぎとして、各都道府県が定める「迷惑行為防止条例」に違反する場合があります。
身体を触られるなどの場合
毒親の中には、子どもを自分の性のはけ口にする輩もいます。
親子関係であっても、反抗できない状況で身体を触ったりキスをするなどすれば「強制わいせつ罪」(同176条)、無理やり性交渉をすれば「強制性交等罪」(同177条)、子どもが18歳未満で、子どもを監督する親が影響力を利用してこれらの行為をすると「監護者わいせつ罪・監護者性交等罪」(同179条1項、2項)が成立する可能性があります。
知っておきたい「親族間の犯罪に関する特例」
このように、毒親の行為が違法な犯罪行為になるケースは少なくありません。
ただし、恐喝罪、窃盗罪、横領罪等の財産系の犯罪は、「親族間の犯罪に関する特例」(同244条)が適用され、刑が免除される場合があります。
特例に該当するのは、上記のような財産系の犯罪で、犯人と被害者が、直系血族、同居の親族に当たる場合です。
この場合は、刑が免除されるため、不起訴(裁判を起こさず事件が終了すること)になるなど、実際に罰を与えることができません。
また、犯人と被害者との関係が上記に当たらない遠い親族の場合は、「親告罪」と言って、被害者が告訴しなければ起訴(裁判を起こすこと)ができない決まりになっています。
とはいえ、これらの行為に泣き寝入りする必要はありません。
警察に訴えられるか不明な場合は、弁護士に相談してください。
毒親に精神的苦痛を受けた場合
上記では、実際に犯罪になりうる毒親の行為を説明しましたが、毒親のタイプは様々なので、違法行為によらず、子どもに精神的苦痛を与えてくる人もいます。
精神的虐待のタイプ
子どもに精神的苦痛を与えてくる毒親の行動としては、
- 「あなたのためだ」として過干渉してくる執着タイプ
- 「お前など価値がない、親がいなければ生きていけない」など支配しようとする支配タイプ
- 「親の生活が苦しいのは子どもを大学に行かせてやったからだ」など罪悪感を与える恩着せタイプ
…等が典型です。
これらは、直ちに違法と評価することは難しいのが実情です。
こうした精神的虐待によって、うつ病になった、パニック障害を発症したという場合等は、損害賠償を請求できる場合があります。
ただし、因果関係の証明や、実際に生じた損害を金銭化して損害賠償を請求する等はなかなか複雑です。
このような場合も、お気軽に弁護士にご相談ください。
毒親に対してとれる3つの法的措置
毒親の行為に対してとれる法的措置を3つご紹介します。
毒親に対して弁護士から内容証明を送る
上記のように、執着・支配・罪悪感を与えてくる毒親の中には、子離れできず、お金の無心をして来たり、会社にまで連絡をしてくるような親もいます。
そこで、こうした親からの連絡を止めるためには、弁護士から「内容証明郵便」を送ることが効果的です。
内容証明郵便とは、郵便局が、いつ、誰が、誰に対して、どのような内容の文書を送ったかを証明してくれるものです。
内容証明郵便には、事情に応じて、これ以上行為を続けると法的措置をとる、接近禁止命令を出してもらうといった内容を記載することが多いですが、記載すべき事柄は、毒親の行為や、親子関係によっても変わります。
弁護士名で内容証明郵便が届くことで、子どもの本気度が伝わり、親の態度が変わることもあります。
内容証明郵便は、自分でも出すことが可能です。
しかし、内容や出すタイミングなどによっては、親に火をつけて関係をこじらせるリスクもあるので、弁護士に相談の上、対策を取ったうえでことを進めるのがベストです。
なお、子どもの財産を使い込んでいたような場合は、民事上の請求を起こして取り返すことも考えられます。
大人であれば単独でもできますが、子どもが未成年の場合は1人では訴訟などができないため、親を訴えようと思ったら、後見人や特別代理人をたてる必要があります。
裁判所に接近禁止命令を出してもらう
接近禁止命令は、よく、ストーカー規制法に基づくケースで問題になります。
残念ながら親子関係で接近禁止命令を出してもらうことは非常に困難です。
ただし、子どもに大きな損害や緊急の危険があり、これらを避ける必要がある場合は、裁判所に保護命令を申し立てて「接近禁止仮処分命令」を出してもらえる場合があります。
この場合、損害や緊急の危険があることを示す証拠が必要です。
日頃から証拠を集めたり、弁護士に相談して申立てを検討してみてください。
裁判所に親族関係調整調停を依頼する
親族関係調整調停は、住所地を管轄する裁判所に、親子など親族間で感情的・財産的な対立や争いが生じたときに、話し合いによって円満な関係を取り戻すようにする手続をいいます。
調停がまとまると、「調停調書」が作成されます。
これには、親の同意があることが前提にはなりますが、毒親が今までしてきた行為を謝る、今後は子どもに迷惑をかけたり関与したりしないといった文言を入れてもらえる場合もあります。
毒親が自分の非を認めるのは難しいことが多いですが、子どもの気持ちにとってプラスは大きいと言えます。
毒親に法的措置を取りたい場合の3つの相談・連絡先
上記のように、毒親の行為に対して取りうる法的措置をご紹介してきました。
毒親の行動に悩み、誰かに相談したい場合、法的措置を取りたい場合、次の3つをご検討ください。
毒親の違法行為を警察に通報
毒親の行為が上記のような犯罪に当たる場合、警察に通報することができます。
まさに今、暴力を振るわれているといった場合は、110番通報して構いません。
その場で通報することが難しい場合は、録画・録音する、行為の状況を詳細にメモしておくことなどが有効です。
毒親の行為を犯罪として訴える場合は、「いつ」「誰が」「何を・どのようにして」「何の被害を被ったか」を明らかにすることが重要なので、詳細を記録に取っておくことをお勧めします。
18歳未満なら、毒親の虐待を児童相談所に相談
子どもが18歳未満の場合、児童福祉法という法律で保護されます。
毒親に虐待されていると思ったら、児童相談所に相談してみましょう。
全国共通の電話番号「189」だけで、近くの児童相談所に無料でつながります。
また、児童相談所に被害を相談しておくと、後々親との縁を切りたいと思った場合に、親に戸籍や住民票を見られて居場所を知られないための対策が取りやすくなります。
毒親への法的措置を弁護士に相談
弁護士は、法律の専門家です。
毒親に対して、どのような法的措置がとれるのか知りたい、毒親の行動を止めたい、と言った場合は、まずは弁護士に相談してみましょう。
前述のように、弁護士名で内容証明郵便を送ることで毒親の行動を抑制することもできますし、訴えたいけれど直接顔をあわせるのが怖いという場合は、代理人として代わりに交渉をしてもらえます。
弁護士に毒親に対する法的措置を相談するメリット
毒親に対して法的措置を取りたい場合、弁護士に相談するメリットは3つあります。
第一に、どのような法的措置が一番有効かというアドバイスを受けられることです。
親子関係や子どもの生活状況などによっては、子どもの安全と生活の場所を確保してから法的措置をとった方がいい場合もあります。
弁護士なら、過去の事例をもとに、適切な方法を選択することが可能です。
第二に、法的措置以外の対応も任せられることです。
人によっては、法的措置をとるだけでなく、今後親子の縁を切りたい、居場所を知られたくないという方もいるのではないでしょうか。
弁護士ならば、法的措置以外の、そうした今後の生活に関わる対応もすることができます。
また、子どもが未成年の場合は一人で親を訴えるなどの法律行為をすることができませんが、弁護士に相談すれば、特別代理人の選任など、幅広い対応のアドバイスを受けることが可能です。
第三に、弁護士であれば、代理人としてご自身に変わって毒親と交渉してもらえることです。
弁護士に委任することで、法的措置の対応、今後の交渉などを全て代わりにやってもらうことができます。
毒親に苦しめられた方の中には、親と会うだけで辛い、体調が悪くなるという方もいます。
そのような方は、ご自身で親と会ったり、話す必要もないので、安心して日々を過ごすことが可能です。
毒親のタイプや行動は様々です。
毒親の行為でお悩みの方は、適切な法的措置をとって、ご自身の生活を取り戻すためにも、まずはお気軽に弁護士にご相談ください。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleのプライバシーポリシーと利用規約が適用されます。