犯罪別

冤罪で私人逮捕された!誤認逮捕の被害者になった場合の対応方法

2024年1月22日

冤罪での私人逮捕イメージ

YouTubeSNSで、私人逮捕の動画が頻繁にアップされています。

2023年には、私人逮捕系YouTuberを名乗る男性が、10代の女性に「パパ活をしているだろう」などと声をかけながら撮影し、事実無根であるにも関わらずチケットの転売ヤーだと動画中で表現しました。
本件のYouTuberは名誉棄損罪で逮捕され、動画も削除されましたが、一旦アップされた動画は拡散され、全てを消すことは難しいと言わざるを得ません。

皆さんの中にも、冤罪で私人逮捕されたり、誤認逮捕される様子が投稿されるリスクが心配な方もいるのではないでしょうか。

一旦毀損された名誉や社会的信用を完全に回復させるのは大変ですが、泣き寝入りをする必要はありません。
万が一冤罪で私人逮捕された場合に備えて、対処方法を知っておくと安心に繋がります。

そこで今回は、冤罪で誤認逮捕されたり、私人逮捕の様子を投稿された場合にどのような対応ができるのか、わかりやすく解説します。

冤罪で私人逮捕された場合にできること

冤罪イメージ

私人逮捕は、本来刑法上の逮捕罪に当たりますが、現行犯逮捕の要件を満たすことで、正当な行為(刑法35条)として違法ではないと評価されるものです。

私人逮捕が成立する要件に関して、詳細をこちらの記事で解説しています。

私人逮捕イメージ
私人逮捕が認められる要件は?合法か違法かを分ける要件を解説

2023年、YouTuberが私人逮捕の様子をネットにアップして話題になりました。 皆さんの中にも、電車で痴漢をした人が被害者と思しき人に捕まえられたり、コンビニ等で万引きをした人が店員に捕まえられる ...

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冤罪で私人逮捕された場合、逮捕の態様によっては、逮捕者に対して、刑事上・民事上の責任を問える可能性があります。

違法な私人逮捕で刑事責任を問える場合

刑事責任を問う場合、違法な私人逮捕をされたとして、警察に被害の申告をします。
被害の申告は、警察に被害届を出すか、告訴をして行います。

被害届は犯罪の事実を申告するもの、告訴は犯罪の事実の申告に加え、加害者を処罰してほしいという意思を示すものです。

具体的には、次のようなケースが考えられます。

暴行・傷害に当たる場合

冤罪かどうかに関わらず、私人逮捕された際に、逮捕者が必要かつ相当な程度を越えて殴る蹴るなど実力行使をした場合暴行罪に、それによってケガをした場合傷害罪にあたる可能性があります。

これらに該当する場合は、暴行または傷害の被害を受けたとして、警察に被害届を提出するか告訴することが可能です。

逮捕監禁に当たる場合

明らかに無実と分かっているのに動画投稿のために私人逮捕されたようなケースや、理由がある私人逮捕でも警察に引き渡されず拘束されたようなケースでは、逮捕監禁罪に当たる場合があります。
このような場合は迷わず警察に相談しましょう。

一方、冤罪で逮捕された場合に、必ず逮捕監禁罪に当たるとは限りません。
たとえば、女性の勘違いで痴漢に間違われ、腕をつかまれて私人逮捕されたような場合は、逮捕監禁罪は成立しません。
同罪は過失(勘違い)を処罰しないので、女性が勘違いで私人逮捕した場合は、犯罪に当たらないためです。

名誉棄損された場合

駅のホームなど不特定多数の人がいる場所で「痴漢の犯人だ」などと叫ばれて私人逮捕された場合、「公然と事実を摘示して人の名誉を棄損した」として、名誉棄損を問える場合があります。

違法な私人逮捕で民事責任を問える場合

私人逮捕されたものの後日犯人ではないと明らかになり、誤認逮捕が判明することがあります。

誤認逮捕された人は、身に覚えのない罪で逮捕されて公衆の目にさらされ身体拘束などの不利益を受け、場合によっては失職するなど社会的制裁を受ける可能性もあります。
このような場合、逮捕した人に民事上の責任を問える場合があります。
民事上の責任は、損害賠償請求によって追求するのが一般的です。

私人逮捕で損害賠償請求できる理由

民法という法律で、「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」(709条)と定められています。
これは、故意(わざと)または過失(うっかり)で他人の権利や利益を侵害したら、損害賠償金を支払って償うというものです。

損害賠償請求は、上記のように、逮捕者に逮捕罪や暴行・傷害罪等が成立する場合だけでなく、私人逮捕で損害が生じれば、犯罪に該当しない場合でも請求できる可能性があります。

損害賠償請求できる金額

「損害」の中でも、精神的苦痛という損害を賠償するお金のことを特に慰謝料と言います。

損害の中には、冤罪で私人逮捕されてショックを受けたなどの精神的苦痛にとどまらず、違法な私人逮捕でケガをした場合の治療費や、職を失うことになった場合の逸失利益なども含まれることになります。

民事責任の追及が難しい私人逮捕のケース

私人逮捕が後に誤認逮捕だったと判明した場合でも、逮捕の現場で逮捕者が、現行犯逮捕の要件を満たしていると信じる相当な理由があれば、刑事上はもちろん、民事上の責任も問えない可能性があります。

たとえば、ATMに置き忘れてあった他人の財布を自分のカバンに入れた瞬間に、気付いて戻ってきた財布の持ち主に現行犯逮捕されるようなケースです。
本人は後で警察に届けるつもりだったとしても、持ち主から見れば現行犯だと勘違いしても無理はないでしょう。
このような場合は、逮捕者に刑事上も民事上も責任を問うことは難しいと言わざるを得ません。

私人逮捕の様子がネットに投稿された場合の対処法

私人逮捕がネットで拡散されたイメージ

私人逮捕の様子を撮影され、ネットに投稿された場合、被害の範囲は拡大します。
逮捕の現場で大変な思いをするだけでなく、ネットに投稿された映像や画像は拡散され、いわゆるデジタルタトゥーとして残ってしまうこともあるからです。

もしご自身やご家族が私人逮捕され、その様子が投稿されるなどした場合は、次のような対応をご参考ください。

逮捕者や投稿者に損害賠償を請求する

上記のように私人逮捕に故意過失があり、それによって損害を被った場合は、逮捕者に損害賠償を請求することが考えられます。
逮捕の様子を撮影し、投稿した人に対しても同様です。
この場合の損害の範囲は、精神的苦痛に加え、日常生活に支障が生じた場合はその損害も含みます。

損害の金額を算定するのは難しい場合が多いので、もし私人逮捕の様子を撮影・投稿されたような場合は、できるだけ早く弁護士に相談されることをお勧めします。

投稿の削除を依頼する

投稿された動画の削除は、被害者個人でも依頼することができます。具体的には、サイトの削除フォームに記入したり、プロバイダ責任制限法に基づいて、サイトの管理者に削除を請求する方法があります。

どのような方法で削除できるかは、こちらの記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。

ただし、投稿をした本人に削除の依頼を請求する場合は注意が必要です。
違法な私人逮捕の動画が投稿され名誉を棄損されている場合でも、削除を依頼する態度があまりに攻撃的だと、私人逮捕の問題とは別に、脅迫・強要などの犯罪が成立する可能性があるからです。

また当事者同士のやり取りは、とにかくヒートアップしがちです。
先方に非がある場合でも、不要な発言をすると言質を取られて新たなトラブルになる恐れもあります。
このような場合は弁護士に依頼し、代わりに交渉をしてもらうとよいでしょう。

誹謗中傷で名誉棄損した人への対応

ネットに私人逮捕の様子が投稿されると、それが冤罪であっても、無関係な人までが誹謗中傷してくることは少なくありません。
個人を特定され、個人情報を拡散されたり、家族にまで言及するような悪質な書き込みがされることもあります。

誹謗中傷に対しては名誉棄損罪侮辱罪脅された場合脅迫罪などが成立し得ます。
X(旧Twitter)では、侮辱的表現をリツイートしただけでも侮辱罪が成立するとされた裁判例もあります。

誹謗中傷の被害に遭った場合は、警察に被害を申告し、併せて弁護士にもご相談ください。

インターネットでの誹謗中傷への対応について、こちらの記事で詳しく解説していますのでご参考ください。

冤罪に巻き込まれやすい私人逮捕の事例

冤罪になりやすい私人逮捕イメージ私人逮捕が認められるのは現行犯(準現行犯)の場合のみで、軽微な犯罪の場合はさらに住所不定や逃亡の恐れと言った要件が加わります。

私人逮捕が成立する要件について、詳細はこちらの記事をご覧ください。

私人逮捕イメージ
私人逮捕が認められる要件は?合法か違法かを分ける要件を解説

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しかし、私人逮捕系YouTuberが増えたこともあってか、要件を把握せず私人逮捕しようとする人もいます。
ここでは、冤罪に巻き込まれやすい類型をご紹介します。

指名手配犯と間違われ誤認逮捕される場合

交番や駅構内などで、指名手配犯のポスターを見かけた方は多いのではないでしょうか。
指名手配犯は現行犯逮捕ではないので、例え指名手配されている本人であっても私人逮捕することはできません
逮捕できるのは、検察官や警察官のみです。

指名手配犯に似ているからと言って私人逮捕することはもちろん違法です。
不特定の人の前で逮捕されたり、その様子を動画撮影されたような場合は、逮捕罪名誉棄損罪などに該当しうるので、警察に相談してください。

軽微な交通違反で私人逮捕される場合

飲酒運転やひき逃げ等の重大な交通事故を起こした場合、被害者や現場を目撃した一般人が現行犯逮捕をすることは認められます。

他方、道路交通法違反の中でも、信号無視一時不停止といった30万円以下の罰金または科料しか規定されていない違反をした場合は、それだけでは私人逮捕をすることはできません
現行犯であることに加えて、住所不定または逃亡するおそれがなければ現行犯逮捕できない規定になっているからです。

冤罪で私人逮捕された場合は弁護士に相談を

冤罪で私人逮捕されたり、私人逮捕された様子を撮影・投稿された場合は、弁護士に相談することをお勧めしました。

私人逮捕された様子が撮影され投稿された場合、ご自分でも削除依頼をかけることはできます。
しかし不特定の人に拡散されるなどした場合は、相手を特定して削除依頼をかけるなど非常に負担が大きくなります。

また損害賠償を請求するなどしても本人と交渉する際の精神的負担は、相当大きいものがあるかと思います。
そのような場合、弁護士に依頼すれば、全て代理人として交渉してもらうことができます。

被害届を出したり告訴をする場合に、個人で警察に出向いても受け付けてもらえなかったケースもあるようです。
その点弁護士が一緒であれば、受けた被害や損害を明確に伝えることができるので、警察に動いてもらいやすくなります。

冤罪で私人逮捕された場合、受ける精神的苦痛は甚大です。
ショックを受けて対応が遅くなると、不本意な動画が拡散してしまう恐れもあります。

被害を最小限に食い止め、できるだけ早く名誉を回復し、損害を補填するためにも、ご自身やご家族が冤罪の私人逮捕でお悩みの場合は、早急に弁護士にご相談されることをお勧めします。

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