2020年初頭から新型コロナウィルスの影響で家にこもる生活が続いたこともあり、ネット上の誹謗中傷事件が相次ぎました。
また、感染者の職場や名前をネット上にさらしたり、トイレットペーパーやティッシュがなくなるというデマが拡散されたこともありました。
大もとの書き込みはもちろん、リツイートなどで拡散する行為は犯罪にならないのでしょうか。
デマと知らずにリツイートしてしまったというのはよくあることです。
ここでは、「デマ拡散してしまった」ときの対処と「デマ拡散で被害を受けている」ときの対処を説明します。
デマ拡散は犯罪・逮捕されることも
デマを流すことは犯罪になりえます。
デマを流す行為そのものを規制する法律はありません。
つまり「ネット上で嘘をついた」からといって罰せられることはありません。
しかし、名誉や信用が傷つけられるなどの被害が発生している場合は、刑法などに定められる犯罪に該当することがあります。
リツイートも犯罪になる
さらに、デマを流す行為だけではなく、デマを拡散するリツイートなども犯罪になります。
東京地方裁判所2014年に出た判決では「リツイートも、ツイートをそのまま自身のツイッターに掲載する点で、自身の発言と同様に扱われる」というきびしい見解を示しています。
また、翌年にも東京地方裁判所で同種の判決があり「リツイートは既存の文章を引用形式により発信する主体的な表現行為としての性質を有するといえる」とされています。
リツイートにも責任がともないます。リツイートする前に「デマかもしれない」という疑いの目でみることが大切です。
しかし、内容が真実であっても名誉毀損罪などに該当することがあります。
デマ拡散により犯してしまうおそれのある罪は以下です。
名誉毀損(きそん)罪
事実を摘示し、公然と、人の社会的評価を低下させる行為は名誉毀損罪にあたります。情報が嘘か真実かは関係ありません。
「事実を摘示する」とは、たとえば「●●さんは職場の部下と不倫している」、「〇〇さんは前科がある」などを人に知らせることです。
ふせ字やイニシャルで表記していても、第三者が見て簡単に誰のことか分かる場合は名誉毀損罪が成立します。
名誉棄損罪は親告罪といって、被害者が告訴しなければ起訴されることはありません。
ことが公になることで、かえって被害が大きくなる場合があるからです。
しかし、流した情報が真実であっても被害が出ていれば成立します。
刑法 第230条1項
公然と事実を適示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁固、または50万円以下の罰金に処する。
信用毀損(きそん)罪
嘘の情報を流したり、だましたりして、経済的な信用や社会的評価を落とす行為は信用毀損罪にあたります。
名誉毀損罪と異なるのは、経済的な側面を保護していること、また、情報が真実なら該当しないことです。
非親告罪なので被害者が告訴しなくても起訴される可能性があります。
刑法 第233条
虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者は3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。
偽計(ぎけい)業務妨害罪・威力業務妨害罪
業務妨害罪とは、嘘や脅しなどで業務を妨害する犯罪です。
簡単に言うと、「嘘」が偽計業務妨害罪、「脅し」が威力業務妨害罪です。
東日本大震災の後に「農産物が汚染されている」などの風評が流れて大きな被害がありましたが、これは偽計業務妨害罪にあたります。
ただし、情報が真実である場合は偽計業務妨害罪は成立しません。
刑法 第233条
虚偽の風説を流布し、または偽計を用いて、人の信用を毀損し、またはその業務を妨害した者は3年以下の懲役または50万円以下の罰金に処する。
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損害賠償を請求されたデマ拡散事件
デマ拡散で刑事罰以外に、民事の損害賠償を請求されることもあります。
元大阪府知事・橋下徹氏がジャーナリストによるリツイートで名誉を傷つけられたとして、慰謝料を請求した訴訟で大阪地裁の判決がでました。
大阪地裁はリツイートによる名誉毀損を認め、33万円の支払いを命じました。
橋下氏の訴訟では33万円でしたが、一般的にはリツイートの損害賠償額としては10~20万円が多いようです。
民法 第709条
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
デマ拡散の被害を受けている
では、デマ拡散の被害者だったらどうしたらよいでしょう。
このような場合は以下のようにできることから進めていきましょう。
ツイッターなどの書き込みを削除する
書き込みを削除するように、SNSなどの運営側に要求します。
SNSによって削除依頼の手続は決まっている場合が多いので、その手順に従います。
たとえば、ツイッター社では違反コンテンツのルールを設けていて、その中には「誹謗中傷」「個人情報」という項目があります。
違反している投稿は削除・投稿者のアカウント凍結という処分をしています。
削除してほしい投稿のURLやスクリーンショットを保存してから、ツイッター社に削除依頼を出します。
ダイレクトメールで投稿者本人に削除を依頼することもできますが、かえって問題を悪化させるおそれがありますので、ツイッター社に依頼するのがよいでしょう。
投稿者を特定する
SNSなどのサイト運営者に対し投稿者の情報開示請求を行います。
しかし素直に要求に応じてくれることは少ないので、裁判所に仮処分を申し立てたり訴訟を行うことになります。
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警察に告訴状を出し捜査してもらう
名誉毀損罪や業務妨害罪などの犯罪に該当すると考えられる場合は、警察に告訴します。
被害届だけだと捜査不要と判断されることもありますが、告訴を受けると警察は捜査する義務が発生します。
損害賠償請求の訴訟を起こす
削除依頼を出しても削除してもらえない、情報開示請求も通らない、そのようなときは裁判所の判断を仰ぐという選択肢があります。
ただ、先にも述べたようにリツイートの損害賠償額は10~20万円程度なので、訴訟費用・弁護士費用を考えるとかえって損になることもあります。
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デマ拡散に悩んでいるなら弁護士に依頼する
次のような状況では、弁護士に依頼するメリットが大きいでしょう。
デマ拡散をしてしまった
- 逮捕されるかもしれない/逮捕された
- 被害者にお詫びしたい(示談交渉)
- 自分の投稿が違法かどうか知りたい
逮捕されるかもしれないと不安に思っている場合は専門家に相談するのがよいでしょう。
もし逮捕されてしまったら、逮捕後はスピード勝負になるので専門家の助けが必須です。
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デマ拡散で被害を受けている
- 削除依頼をしたが削除してもらえない
- 情報開示請求をしたが対応してもらえない
- 権利侵害などの事実関係立証が難しい
- 訴訟を起こす必要がある
デマを拡散されてしまったときの対応策として、「騒がない」というのは大事な姿勢です。
火に油をそそぐ結果、炎上してしまうからです。
しかし、静観していたけれど収束しない、権利侵害の損害賠償を請求したいなどの場合は弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士が介入することによって、警察やサイト運営者にも本気度が伝わりやすくなります。
また、弁護士なら被害者と話し合うこともできるので、示談交渉がすすめやすくなります。
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「デマ拡散をしてしまった」、「デマ拡散で被害を受けている」どちらの状況でも、一度、弁護士に相談してみることをお勧めします。
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