2021年2月から65歳以上高齢者と医療従事者等で、新型コロナウイルスのワクチン接種が始まりました。
このワクチン、感染拡大防止のためにはどうしても必要なものですが、一方で不安に思う人もいるでしょう。
新型コロナワクチンの接種は拒否できるのでしょうか?
新型コロナワクチンの接種は拒否できる
結論は、「拒否できる」です。
予防接種法の第9条にもとづき、新型コロナウイルスのワクチン(以下ワクチンまたはコロナワクチンといいます)を接種するかどうかは自己判断に任されています。
つまり、接種したくない人は拒否してよいのです。
ただし、ワクチン接種の目的は一人々々の感染を予防するだけではなく、ウイルスが社会全体に蔓延するのを防ぐためでもあります。
ワクチンの有効性と副反応のリスクをきちんと考えて、ワクチン接種を受けるかどうか判断しなくてはなりません。
ワクチン接種を拒否したら解雇される?
日本弁護士連合会がワクチン接種についての「人権・差別問題ホットライン」を設けたところ、5月14,15日の2日間で208件もの相談があったそうです。
高齢者・医療従事者等からの相談
相談者は学生も含めた医療関係者、介護施設関係者、施設を利用している高齢者などです。
主な相談内容は以下のとおりです。
- ワクチン接種を拒否するなら実習は受けられないよと言われた(学生)
- 職場でワクチン接種を強要された
- ワクチン接種を拒否するなら退職してもらうと言われた
- 職場でワクチンを拒める雰囲気がない
- ワクチンを受けたかチェックリストが貼りだされた
- ワクチン接種を受けないと、この施設には居られなくなると言われた(高齢者)
このように、企業や施設によるワクチン接種の強要、または過度な勧奨が問題となっています。
会社や施設にはワクチン接種を強制する権利はない
先にも述べたように、ワクチン接種は義務ではないので、企業や施設にはワクチン接種を強制する権利はありません。
とはいえ、接種を勧めるのは問題ありませんし、勤務時間中にワクチン接種に行ってもよい、副反応が出た場合は当日や翌日を特別休暇とするなどを決めている企業もあります。
むしろ、そのような対処は積極的に行った方が企業にも従業員にも良い結果となるのではないでしょうか。
企業の義務、パワハラ防止措置
「接種の有無で不利益な取扱いを受けることは適切でない」という加藤勝信内閣官房長官の発言にもあるように、企業は従業員に対して接種を強要したり、接種しないといづらくなるような状況を作ってはいけません。
企業には従業員が安心して働けるような環境を作る義務(安全配慮義務)、上司や同僚から嫌がらせを受けないように環境を整える義務(パワハラ防止措置)があります。
安全配慮義務
企業として従業員が安全に働けるようにワクチン接種を勧奨するのは問題ありませんが、ワクチン接種ができない人や注意が必要な人に対して、ワクチン接種をすすめると安全配慮義務違反になるおそれがあります。
ワクチン接種ができない人とは、以下に該当する人です。
・明らかに発熱している方(37.5℃以上)
・重い急性疾患にかかっている方
・ワクチンの成分に対し、アナフィラキシーなど重度の過敏症の既往歴のある方
・上記以外で、予防接種を受けることが不適当な状態にある方
ワクチン接種に注意が必要な人とは、以下に該当する人です。
・過去に免疫不全の診断を受けた人、近親者に先天性免疫不全症の方がいる方
・心臓、腎臓、肝臓、血液疾患や発育障害などの基礎疾患のある方
・過去に予防接種を受けて、接種後2日以内に発熱や全身性の発疹などのアレルギーが疑われる症状がでた方
・過去にけいれんを起こしたことがある方
・ワクチンの成分に対して、アレルギーが起こるおそれがある方
・抗凝固療法を受けている人、血小板減少症または凝固障害のある方
パワハラ防止措置
ワクチン接種を過度にすすめたり、ワクチン接種しないと居づらい雰囲気になるように仕向けたりはパワハラにあたる可能性があります。
大企業では2020年6月から、中小企業では2022年4月から、パワハラ防止法により企業は職場でのパワハラ防止措置をしなくてはならなくなりました。
厚生労働省があげるパワハラとは以下の6つになります。
- 身体的・精神的な攻撃
- 人間関係からの切り離し
- 過大な要求
- 過少な要求
- 個の侵害
退職勧告は権利の濫用につながる
ワクチン接種を拒否したからといって解雇や懲戒処分にするのは、企業の権利の濫用で無効となる可能性が高いといえます。
労働契約法では「社会通念上相当と認められない場合」は解雇や懲戒処分を無効としています。
ワクチン接種は義務ではないのですから、それを強要されるのは「社会通念上相当と認められない場合」にあたると考えられます。
ワクチン拒否も含めた社会のありようを!
ワクチン接種を受けるかどうかは一人々々が判断することです。
体質・体調によってはワクチン接種を受けられない人もいるし、新種のワクチンであるため、将来的な健康被害についてはわからない状態です。
ワクチンを拒否したからといって差別したり、嫌がらせをすると法律違反となる可能性があります。
もしトラブルに巻き込まれてしまった場合は、上述の人権・差別問題ホットラインや、弁護士事務所の無料相談などを活用してください。
※本内容は、令和3年6月時点での情報です。